参考文献 『のつべい汁』 ( 荻原井泉水・池田書店 ) 『日曜日の遊び方豆腐・納豆あれもこれも』 ( 平野雅章、永山久夫・雄鶏社 ) 『旬の豆腐づくし』 ( 豆腐料理「三鈴」編・ソニー出版 ) 『健康食とうふ』 ( 津村喬、鶴田静、井上豆彦・農山漁村文化協会 ) 『カラー図説日本大歳時記』 ( 水原秋櫻子、加藤楸邨、山本健吉監修・講談社 ) 『新版俳句歳時記』 ( 角川書店編・角川書店 ) 『良寛』 ( 唐木順三・筑摩書房 ) 『斎藤茂吉と良寛』 ( 伊藤宏見・新人物往来社 ) 『思想読本良寛』 ( 法蔵館 ) 『蓮の露』 ( 意訳 / 倉賀野恵徳・山喜房仏書林 ) 『かわかない心』 ( 松原哲明・佼成出版社 ) なお、本文で使用した「豆腐」 ( 荻原井泉水著 ) の一部は、著作権継承者である荻原海一氏の許 可を得た上、随筆「豆腐哲學」より引用したものです。
128 一つの顔だけでは満足できないという点に関しては、わが家は昔から徹底してい る。斎藤家の誰を見ても、「二兎を追う者は一兎をも得す、とか「虻蜂とらす、と いう諺はまるで知らないかのように、平気で二足の草鞋を履いているのだ。 ます、祖父の斎藤紀一である。青山脳病院をつくり、わが一族に精神科医の伝統 を創始した人物だが、その後どうしたわけか、政治家になるという青雲の志を抱い ~ 元こ出騎し、と た。大正五年には、周囲の反対を押しきって原敬の政友会から衆議ド ( にかく一回はみごとに代議士に当選した。しかしこの二足の草鞋は、成功だったと は言いがたい。それにくらべると、父は歌人と医師という二つを、かなり巧みに履 きこなしたのではないだろうか。私の弟も精神科医・斎藤宗吉と、小説家・北杜夫 という二つの顔を持ちながら、うまく両方をあやつっている。 ところで、私は今しがた、少し前のところで〃一生懸命みという四字熟語を使っ た。しかし正しくは二所懸命みと書くらしい。もともとは封建時代に領主から授 かった一カ所の土地を、命がけで守ることを意味していたようだ。 一つのことに命をかける一所懸命は、尊い生き方である。とくに芸能や芸術の分 野では、そういう頑固一徹な職業意識が芸や技を支えてきた。
さ 9 7 8 4 4 8 0 0 5 4 2 2 9 腐 の 1 9 2 01 9 5 0 0 6 0 0 9 く 斎 定価 ( 本体価格 600 円十税 ) 茂 俳人・荻原井泉水の随筆「豆 あらゆる場面で「豆腐の如く」 太 腐」は、豆腐を擬人化し、そ は生きてくる。これは豆腐に の「人格」を讃えている。 借りた人生論か、また、人生 れに強い共感を覚えた著者は、 になぞらえた豆腐論か、よく 生来の豆腐好きも手伝って「豆 解らないところがまことに面 腐の如く生きよ」と、熱心に 白い。上質のユーモアにみち 説く。その柔軟さ、協調性、 た工ッセーである。 意外な芯の強さなど、人生の 解説森毅 I S B N 4 - 4 8 0 - 0 3 4 2 2 ー 6 C 01 9 5 \ 6 0 0 E ちくま文庫から こころ医者の手帳 なだいなだ 信じることと、疑うことと なだいなだ 人間、この非人間的なもの なだいなだ くるいきちがい考 なだいなだ 心の底をのぞいたら なだいなだ 親子って何だろう なだいなだ あたまの童話体操 なだいなだ 片目の哲学 なだいなだ 気まぐれのすすめ 森 毅 ものぐさのすすめ 森 毅 豆腐の如く 斎藤茂太 リカちゃんのサイコのお部屋 香山リカ ココロのクスリ 香山リカ 自転車旅行主義 香山リカ こころの医者の 中沢正夫 フィールド・ノート 他人の中のわたし 中沢正夫 「死」の育て方 中沢正夫 凹の時代 中沢正夫 ビジネスマンの精神病棟 浅 野誠 ナチュラルハイ 上野圭一 1 斎藤茂太 豆腐の如く 融通無我のすすめ 斎藤茂太 ( さいとう・しげた ) 1916 年東京生まれ。医学博士。 明治大学文学部、昭和医科大 学医学部卒。慶応義塾大学医 学部にて精神医学専攻。現在、 精神神経科斎藤病院名誉院長 のはか、アルコール健康医学 協会会長などの要職にあり、 また文筆家として、日本旅行 作家協会会長、日本ペンクラ プ理事をつとめる。著書に「少 欲知足のすすめ」「信頼関係の すすめ』 ( 佼成出版社 ) 、「五十 歳から愉しく生きる「悟り方」』 ( 講談社 ) 、『回想の父茂吉母 輝子』 ( 中央公論社 ) など多数。 0 ちくま文庫 o 税 カバーデサイン南伸坊 ちくま文庫
ちくま文庫 豆腐の如く 融通無我のすすめ 斎藤茂太 筑摩書房
ちくま文庫 豆腐の如く 融通無我のすすめ 斎藤茂太 筑摩書房
ばくは、筋金入りの軟弱派である。戦争を生きにくかったのはもちろんのことだが、 戦後のがんばり気分も性に合わなし : ばくの辞書に「がんばる」の言葉はない。 それがこのごろ、時代が少し変わってきた。斎藤さんは、「思えは、苦節八十年 ! 私のような軟弱人間が活躍する時代がようやく到来した、と書いているが、 ばく 9 先 日、「時代がばくに追いついた」と見得を切ったところ。 しかしながら、これは困ったことだ。軟弱派が軟弱派の解説を書いたのでは締まら ない。豆腐の湯葉捲きでは、料理の体をなさぬ。 説 なんとか、違いをきわだたせねばならぬ。斎藤家の大家族の反対に、ばくの家は核 解家族だった。それに、ばくはひとりつ子。ついでに娘もひとりつ子で、孫もひとりつ 子。核家族少子化の見本。 子どものころは、大家族の友人を羨んだものだが、こうしたものはどうにもならぬ。 解説豆腐科理もいろいろ 森毅
126 一所懸命い多所懸命 肩書き依存症や、慢性名刺交換中毒症に苦言を呈したそのすぐ後に書くのは少々 惞られるけれど、私も肩書き入りの名刺を持ち歩いている。そこに印刷してあるす べての肩書きを包み隠さすに言うと、日本精神病院協会名誉会長、精神神経科斎藤 病院名誉院長、アルコール健康医学協会会長、日本旅行作家協会会長、日本ペンク ラブ理事。恥すかしながら五つも麗々しく並んでいる。 ーズの〃七つの顔〃ではないが、複 片岡千恵蔵が主演した映画、多羅尾伴内シリ 雑な社会で生きる私たちは多くの顔を持っている。 私の場合なら、名刺にあるだけでも五つ。しかしそれが、私の顔の全部ではない。 飛行機マニアや映画ファンとしての自分も、大切な顔である。斎藤家の長男とし て、茂吉の著作や資科を管理し、筆跡や絵を鑑定し、父の仕事を正しく後世に残す 役も、おろそかにできない顔の一つだ。 さらに家庭人としての顔もあり、夫として、父親としての顔を、私がとりわけ大
ゆらり、心地よく常識を揺すぶられる極上のエッセ イ。子どもの犯罪に向けられる大人の幼児性、何げ こころ医者の手帳なだいなだ ない言葉にひそむ裏の意味などを解きあかす。 こころの病に倒れた人と一緒に悲しみ、怒り、闘う こころの医者の 中沢正夫医師がいる。病ではなく " 人。のぬくもりをしみじ フィ 1 ルド・ノート みと描く感銘深い作品。 ( 沢野ひとし ) すでにして夫婦関係は崩壊しているにもかかわらす、 郁《家庭》に留まる夫と妻たち。現代社会に進行する 家庭内離婚林 家庭内離婚の実態を追う。 ( 斎藤茂男 ) 働く母親を支えたのは、子供の健気な姿だった。子 ワ】キングマザ 1 と 久田恵供たちの寂しさ、悲しさ、喜びなど心の内面を共感 こめて描く。 ( 杉山由美子 ) 子どもたち 藤村美津子どもは母親が育てるべきに旧来の育児のあり方、 女の暮らしのあり方に疑問を呈し、親も子も、人と 育児カ 伊藤雅子のかかわりの中で育っことの大事さを説く。 ()* ・べィネケ連続強姦犯をはじめ、妻や恋人をレイプされた男、 レイプ・男からの発言鈴木品訳レイプ裁判に携わる検事・弁護士・警官、精神分析医・ 幾島幸子訳救急医など、男たちへのロングインタビュー 「ニコニコ離婚講座」に来る主婦の症状。夫妻中毒症、 子潜在的離婚願望症、嫉妬妄想症 : : : 。豊富な事例を 主婦症候群円より 分析し、女の生き方を考える。 ( 沖藤典子 ) 一人の人間として生きたい " ・ 今、多くの″妻″た 妻たちの静かな反乱円より子ちが新たな自分の人生を模索し始めた。揺れ動く現 代の夫婦像を描き切ったカ作。 ( 田嶋陽子 ) 「結婚ゲームに疲れましたので、本日サッソーと離 結婚って何ですか ? 円より子婚しました」人生年時代、改めて結婚と離婚 を考えるための処方箋。 ( 福島瑞穂 ) 激増しつづける離婚家庭 ! 両親の離婚にまきこま ママの離婚円より子れ傷つく子どもたちのつぶやきを通して、現代の家 族のあり方を考える。 ( 小宮山洋子 )
茂吉の敬慕した良寛 私の父、斎藤茂吉は、良 ~ 見に魅かれていた。むろんそれは父が歌人であり、良寛 の歌にひとかたならぬ魅力を感じていたからであろう。良寛研究、評論に類する文 天章もかなり残している。 々 むらぎもの心楽しも春の日に鳥のむらがり遊ぶを見れは ロ これは良寛の歌である。 工 この歌について茂吉は『良寛和尚の歌』という文章の中で、「なほしづかに吟味 するに、この歌は仏典或は和讃などに通する韻律と哀調とを感することが出来る」 この文章を書いた翌年、 と述べ、
豆腐の味は七変化 私の母は亡くなる前に、昔なしみの団子を食べたがった。そのことを書いたとき ろに一緒に書くべきだったかもしれないが、昭和三十三年に亡くなった母方の叔父、 て斎藤西洋 ( 精神科医 ) が最後に食べたいと言ったのが、じつは豆腐だった。 娵そのときは東京根岸の「笹乃雪」の豆腐を、私の家内が取り寄せて病院に運んだ。 「笹乃雪」というのは、元禄からつづく豆腐料理の老舗である。しゃれた名前は、 章その昔、名物のあんかけ豆腐を宮様が食べられて、「笹の上に積もりし雪の如き美 第しさよ」と言った故事にちなんでいると、何かの本にあった。現在、〃絹ごし〃と 呼はれている木目の細かな豆腐は、この店の考案という。 豆腐料理といえは、豆腐はど多種多様な食べ方、料理法が可能な食品も、そうざ