友人 - みる会図書館


検索対象: 転落・追放と王国
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1. 転落・追放と王国

落 け。そこでどいつもこいつも金持になろうとする。なせでしよう ? それを考えたことがあり ますか ? 権力を得るためですよ、もちろん。しかしなかでもです、富があれば非難を直接受け メトロ ないですむ。それは地下鉄の群衆からあなたを引離して、ニッケル張りの自動車に閉じこめてく こうそう れ、守衛付の宏壮な庭園や寝台車や特等船室のなかに、あなたひとりをそっと置いてくれる。富 はですね、無罪釈放とまではいかないが、執行猶予ですよ。こいつは利用したほうがいいに決っ てますからね : あなたの友人たちがほんとうのことを言ってくれと求めても、うかうかその手に乗ってはだめ ですよ。彼らはただ、彼らが自分に対していだいている身勝手な評価を、あなたも保証してくれ と望んでいるだけです。あなたが率直に言うと誓いさえすれば、彼らはそこから自分自身の評価 の補足的な保証を汲みとるわけです。誠実は友情の条件でしようか ? 是が非でも真実を求める 転癖は、何物をも容赦せす、また何物もこいつには耐えられない一種の執念と言えます。それは悪 徳でもあるし、気晴らしにもなることもあるが、エゴイスムの一種です。てすからあなたがこん な事態にぶつかった場合は、あっさりこうしたらいいのです。ほんとうのことを言うと誓ってお いて、できるだけ嘘を並べたてるのです。あなたは彼らの心底からの欲望に応え、同時にまたあ なたの友情を、二重に証明することにもなります。 ほんとうにそうですよ。だからわれわれが自分より優れた人々に心を打明けるようなことはめ つぎあい ったにないし、むしろそんな人々との交際は避けるでしよう。反対に、自分にそっくりな人、自

2. 転落・追放と王国

落 こうは思わないでくださいよ、友人ってやつは、毎晩都合のいいときに電話をかけてくるもの だ、今夜、君は自殺しようとしてるんじゃないのかい》とか、単に《話し相手がほしくないか い〉とか、 ^ 外出する気はないかい〉とかね。そうじゃなくて、まあまあ、こっちがあいにくひ とりばっちじゃなくて、美しきかな人生なんて言ってる晩にかぎって、やつらは電話をくれるも んですよ。自殺といえば、こいつはむしろ友人のほうから仕向けてくる。《君は責任感が強いから かぶ ね、心配だよ〉とかなんとか言ってね。神様、友人連中の買い被りからわれらをまもりたまえで しんせき すな ! 愛するのが役目である連中、つまり親戚とか係累 ( たいした表現ですよ ! ) について は、別ですよ。彼らは言うべき言葉を知っている、ところがこの言葉ときたらむしろ人殺しの弾 たいした裏切り者 丸ですね。彼らの電話は騎銃をぶっ放すようなものて、しかも狙いが正確だ ですよ ! 転え ? 夜って、どの夜です ? ああ、じきその話になります。急がないでください。それに、 この友人と係累の話は、ある意味で物語の眼目なんですから。さて、以前、ある男の話を聞かさ れたんですが、そいつの友人が投獄されたので、親友の味わえないような安楽は自分も享受すま いとして、毎晩部屋の床の上に寝ていたというんです。ねえ、いったい誰がわれわれのために、 、ですか、わた 床の上に寝てくれるでしようか ? はたしてわたし自身にもできますかね ? いし しはそうなりたいと思っている、だからやがてはでぎますよ。そう、われわれはすべていっかは できるようになる、こいつが救いです。でも難かしいかな、なせなら友情ってやつはほんくらだ わら

3. 転落・追放と王国

せんでしたか ? オランダの空は何百万という鳩だらけで、見えないほどの上空にいて羽搏きを し、一挙に上昇したり下降したりして、空中を風のまにまに舞う灰色がかった無数の羽でいつば いにしてしまう。鳩たちはあの高みで待っている、一年じゅう待っているんですよ。陸の上を舞 っては下を眺め、できれば降りたいと思っている。だのに、海と、運河と、看板だらけの屋根の ほかはなにひとつない、翼を休める人の頭もないのです。 わたしの言いたいことがおわかりになりませんか ? 正直いって疲れてるのです。自分でもな 落にを話しているのかわからない。わたしにはもう、友人たちがしきりにほめそやしてくれた頭の するどさというものがなくなってしまいましたよ。今友人たちと言いましたけど、これは慣例に 従っただけで、わたしにはもう友人なんそいません。わたしには共犯者がいるだけです。そのか わり人数は増えました、入類全体がそうなんですからね。人類全体のなかでも、まずあなたが第 転一。そばにいる者がいつだって第一ですよ。友達がないことがどうしてわかるかですって ? 至 極簡単ですよ、そんなこと。わたしがそれを悟ったのはあるとき、友人たちに一杯食わせてやれ、 まあ言ってみればやつらを懲らしめてやれと思って、自殺を考えたときなんですがね。だが待て よ、どいつを懲らしめるんだ ? ひっくりするやつはいても、懲らしめられるやつなんそひとり もいまい。というわけで、わたしには友達なんそないとわかったんです。もっとも友達があった にしたって、どうということもありませんがね。わたしが自殺したあとでやつらの顔を拝めると でもいうのなら、そりやむろん骨折り甲斐もありますが。なにしろ地面の下は真っ暗闇。ねえ、お

4. 転落・追放と王国

231 大概 喜んでいた。しかし、昼間の仕事の時間をとられぬように、夜の外出のほうを好んでいた。 の場合、不幸にして、友人は昼飯しか申出ない。親愛なるヨナ君のために特にその昼飯をあけて おいたと友人は固執して譲らない。親愛なるヨナ君は承知してしまう。「お好きなように」受話 やっ 器をかける。「彼はいい奴だ」そして子供をルイズに返す。それから、また自分の仕事にとりかか るが、まもなく昼飯か晩飯で中断される。カンヴァスをどけて便利机をひろけ、子供たちといっ しょに腰をおろさねばならない。食事中もョナはやりかけの画から片目をはなさない。少なくと も最初のうちは、子供たちの噛み方呑みこみ方がのろのろしすぎると思ったことがある。そのた め食事はばかばかしく長くかかったのだ。ところが、彼は新聞でよく消化するにはゆっくり食事 王 をせねばならぬという記事を読んだ。以来食事のたびにゆっくりと楽しむのが正しいと思った。 と たず 放またあるとき、新しい友人たちが訪ねてきた。ラトーだけは、晩飯のあとでしかこなかった。 追日中は自分の事務所にいたし、それに画家というものは昼の光で仕事をすることを、知っていた からである。しかるに、ヨナの新しい友人たちは、ほとんどす・ヘて芸術家ないし批評家の種族に 属していた。ある者は画を描いたことがあったし、他の者はこれから描こうとしていた。さらに 最後の者は、描かれたものあるいは描かれるであろうものを研究していた。誰も彼もたしかに芸 術的制作を尊重し、いわゆる仕事の追求や、芸術家に不可欠な沈思黙考をかくも困難にしている 、 , 彼らは午後のあいだじゅう引きつづいて嘆いていた、ヨナに向っ 現代社会の仕組を嘆いてした。 , ては、仕事をつづけるように、自分たちがここにいないかのようにやってもらいたい、自分たち

5. 転落・追放と王国

肥は俗人ではないし、芸術家の時間というものがいかに尊いかを心得ているのだから、自由勝手に : ョナは、その面前でも仕事するのを許してくれる友達を持っこ 振舞うようにと懇願しながら : とに満足して、自分の画に戻ったが、一方、たすねられた質問に答えたり、話してくれる逸話に 高笑いすることはやめなかった。 じようぎげん こうした気どりのなさから、友人たちはますますくつろいできた。その上機嫌は全く本物にな 。子供たちは駆け って、食事の時間を忘れるほどだった。ところが子供たちのほうは記憶がいい ひざ 寄ってきて、仲間に入りこみ、大声をあけ、お客に抱きとめられては、膝から膝へ跳ねまわる。 国 王 太陽は中庭に浮き出る空の四角の上にようやく衰えて、ヨナは筆を擱く。ありあわせのもので友 と しゃべ よふ 追人たちに食事をすすめ、さらに夜更けまでお喋りをつづげるほかはない。もちろん、芸術につい ぎゅうきゅう ひょうせつや 落て。また特に、剽窃屋であれ、私利に汲々たる奴であれ、その場にいない、無能な画家たちにつ いて。ョナは早起きが好きだった。朝の早い時間の光線を用いるためである。それは困難だろう、 朝飯の用意が間に合わないし、自分もまた疲れているだろう。しかし、一夜にして、これだけ多 くを学んたことを喜んでもいた。それは目には見えぬが、彼の芸術に役立つにちがいない。「芸 術においては、自然におけると同じく、失われるものは、何一つない」と彼は言 0 た、「これは 星のちからだ」 友達に加えて、時には弟子どもが集まった。ョナは今や一派をなしていたのである。彼は最初 そのことに驚いた。すべてこれから発見せねばならないのだから、自分からひとが学べるような

6. 転落・追放と王国

し、少なくとも無力だから。友情は、したいと思うことができない。ひょっとすると、つまり、 友情ってやつは、こうしたいと思う気持が足りないんじゃないのかな ? ひょっとすると、われ われは、人生の愛しかたが足りないんじゃないのかな ? われわれの感情を呼び醒ますものは、 死だけなんだと気づいたことがありますか ? 死に別れたばかりの友入を、われわれはどんなに 愛することか、ね、違いますか ? 口に泥をつめこまれて、もうしやべれなくなった先生たち さんじ を、われわれはどんなに尊敬することか ! そのときになって讃辞が、その先生たちがおそらく 一生期待していた讃辞が、きわめて自然に口をついて出てくる。でもね、なせわれわれがいつも 国 と死者に対して正当であり、寛大であるのか、おわかりですか ? 理由は簡単 ! 死者に対して 追 は、義務がないからですよ。死者はわれわれを解放してくれる、こちらは勝手気ままに時間を使 めかけ 落 一杯飲んだり、可愛らしい妾と会ったりする合間に、つまりひまなときに、讃辞を片づけて しまう。死者がなんらかの義務を負わせるとしたら、記憶に対してだけど、われわれの記憶力は しいや、友人のなかでわれわれが愛するのは、死んで間もない死者、停ましい死者のことで あり、自分の感動であり、つまりは自分自身なんですよー わたしの友人で、こちらからはしよっちゅう避けていた男がいました。いささか退屈で、教訓 じみたやつだったからです。しかし、心配ご無用、臨終のときは会いに行ってやりました。つまり 一日を無駄にしなかったわけです。友人はわたしの両手を握り、わたしに満足して死にました。 いつもわたしにうるさくつきまとっていながら、どうにもならなかった女が、うまく若死にしま

7. 転落・追放と王国

新潮文庫最新刊 だまされていることを知りつつ、恋人のため 。大人と子供の 赤川次郎著女ナ生に家の金を持ち出す少女 : ・ 狭間で揺れ動く女学生たちを描くサスペンス。 船につばめが巣を作った。雛がかえるのを心 とんばかえりで 待ちにするゆきばうと老夫婦との交流を描、 日がくれて た表題作等、選りすぐりの灰谷童話 9 編。 1979 年の夏、著者にとって人間的文学的 佐多稲子著夏の栞ー中野重治をおくるー 情熱を共にした友人日中野重治は逝った。そ 毎日芸術賞・朝日賞受賞の五十余年間の交遊を通して描く鎮魂の書。 夜の川面に提灯をかざし、蟹の捕り方を教え 水上勉著母一 ~ てくれた母。自分だけの母の像を詩情溢れる イメージで描く表題作等、川編収録の短編集。 リの古き良き居酒屋〔・ 0 ・〕の老主人ジ ャンとの心のかよい合いを描いた短編「ドン 池波正太郎著ドンレミイの雨 レミイの雨」に、三つの海外紀行を収録する。 著者が畏敬し、こよなく愛する、日本人の心 平岩弓枝著わたしの万木集のふるさと、万葉集。古典の中に息づく女の ドラマを情熱こめて語る、平岩弓枝万葉講座。 仄谷健次郎著

8. 転落・追放と王国

と恐怖の邦に捕えられて、恐るべぎ試煉を受ける。僧は舌を切られ、物神に仕えさせられ、つい には、この悪意の神をこの世の真の救い主として信じ、悪の支配に協力することを誓い、進んで 新しく来る宣教師を射ち殺そうとする。夢魔に憑かれたような残忍怪異な描写は、ボッシュやゴ ヤのあるものを想い出させる。 『唖者』は小企業に働く労働者を扱う。ストライキは失敗し、要求ははねつけられる。労働者た ちは再び仕事に就くが、面白くない。使用者側に対しては一切口を利かない。しかし、主人の子 かす 説供が急病になると、労働者たちの心は動く。目に立たぬほど徴かだが、動く。この人間の不幸に 対する憐みの心、この率直な善意が、彼らのこわばった気持を優しくときほぐず。 うし ひっち かいぎやく 『ョナ』はむしろ軽い諧謔的な筆致で書かれてはいるが、その主題は重く、諷刺は苦い。ョナは 才能ある画家で、友人があり弟子があり、取巻きに囲まれている。彼は妻を愛し子供たちを愛し 解ている。しかし、彼の成功が逆に彼を苦しめる。彼の成功、彼の友達、彼の家族は、皆一致協力し て彼の仕事を妨げる。仕事ができなくなって彼が倒れる。見いだされたカンヴァスには、画は何も なくて、小さな文字が残されている。それは solitaire ( 孤独 ) と読むのか、 solidaire ( 連帯 ) と読むのかわからない。 『生い出ずる石』だけはプラジル森林地帯に背景をとる。ヨーロツ。ハ人の一技師は、原住民の男 にな たす の信仰を扶け、 ( 自分は信仰を持たない ) その男に代って大ぎな石を荷って搬ぶが、教会には行か ず、逆に河岸の原住民部落へ搬んでやる。原住民は自分たちの身うちとして技師を迎える。技師 しれん ものがみ

9. 転落・追放と王国

レートのかけらをかじるという、昔からの習慣を失った。ひとりきりでいたら、何はともあれ、 こっそりこの悪習に負けただろう。しかし、絶えす弟子と友人がかたわらにいることによって、 彼はこの道徳的進歩を扶けられたのだ。そういう人たちの前で、チョコレートをかじるのは少々 具合が悪かったし、そのうえ、こんなつまらぬ悪癖のために、おもしろい会話を中断することは でぎなかったからである。 おまけに、弟子たちはヨナが自分の美学に忠実であることを要求した。ョナは、そのとき現実 つかませんこう が新しい光のなかに現われ出るかに見える、束の間の閃光を、間を置いて、受取るのに、長いこ 国 王 と苦労していたのだが、自分の美学については曖昧な観念しか持っていなかった。弟子たちは、 と 追これに反して、相矛盾しながらしかも絶対的な、幾つもの観念を持っていた。この点に関しては 落ふざけたりしなかった。ョナは、時には、あの芸術家のつつましい友人、〈気まぐれ〉の加護を まゆ 祈りたかったであろう。しかし、自分たちの観念から隔たる画布を前にして、弟子たちが眉をひ そめるのを見ると、彼はもう少し自分の芸術について反省せざるを得なかった。これは彼のため になることだった。 終りに、弟子たちはヨナに自分たちの制作に意見を加えさせることによって、別な仕方でヨナ あらが を扶けた。実際、粗描きされたばかりの画布が彼のところに持ちこまれない日はなかった。その 制作者は、いちばんいい光によ 0 て素描がよく見えるように、ヨナと進行中の画とのあいだに、 このときまで、ヨナはいつも、 その素描を置いたものである。意見を出さぬわけにはゆかない。 あいまし

10. 転落・追放と王国

輛は同時に自分が会 0 ていない人たちを裏切 0 ていることを痛感した。彼はそれを寂しく思 0 た。 自分で会いたいと思う友達でも、よくそういうことがあ 0 た。とにかく時間が足りない、すべて こうむ を受入れるわけにはゆかないのだ。それゆえ、彼の評判もその影響を蒙った。「名前が出てから、 あの男は傲慢になった」とひとが言う。「もう誰にも逢おうともしない , あるいは「あの男は誰も 愛さない、自分ひとりを除いては」いや、彼は自分の画を愛していた。ルイズ、子供たち、ラト 、さらに若干の人たちを愛していた。そしてみんなに対してある共感の気持を持 0 ていた。し かし、人生は短く、時は過ぎやすく、彼自身の精力にも限度があ 0 たのだ。世界と人間たちとを 描ぎ、同時に人間たちとともに生活することは困難であ 0 た。他面、彼は自分のさしつかえを訴 追え、これを説明することができなか 0 た。というのは、そんなとき、ひとは彼の肩を叩いて、 落こう言 0 たからである。「幸福な奴め、それが光栄の報いというものさ , かくて、郵便はうずたかく溜り、弟子たちは全然骨休めを許さす、上流の入たちは今や、彼らが 皆と同じように、イキリスの王家に熱をあけたり、飲み食いの学に息を入れたりするときにも、ヨ うわさ 実際のところ、それは上流の婦入に多 ナは休ます絵画にうちこんでいるらしい、と噂していた。 くて、全然勿体ぶ 0 た様子のない人たちだ 0 た。婦人たちは自分では画を買わない。見込みのあ る芸術家のところへ、自分の友人を連れてくるだけだ 0 た。その見込みはしばしば裏切られたが、 友人たちは婦人に代 0 て画を買うのである。その代り、婦人たちは、特にお客に茶を用意したり ちやわん することで、ルイズを手伝ってくれた。茶碗は手から手へと渡り、台所から広い部屋まで廊下を