く、ついには現われるにちがいない。「光れ、光れ」と彼は言った。「お前の光を己からとりあけ るな」星はふたたび輝こうとしていた、一。 彼まそれを確信していた。しかし、要するに自分の身寄 りから別れることなしに孤りでいるように、彼は定められていたのだから、彼はもう少しよく考 えなければならなかった。彼が前からよく知ってはいるが、そして知っているかのように前から 描いてはいるが、彼がまだはっきりと理解していないものを見いだす必要があった。単なる芸術 上のものではない、ある秘密を掴まなければならない。彼はそれを知っていた。それゆえ彼はラ ンプをつけなかったのだ。 国 王 こうなると、毎日ョナは屋根裏部屋にのほった。訪問客もますます減った。ルイズは仕事に夢 と 追中で、あまり話に加わらない。ョナは食事に降りてきては、またねぐらにのはった。一日じゅう 落闇のなかでじっとしていた。夜になると、もう眠りこんでいる妻のところに来た。数日たっと、 彼はルイズに昼飯を渡してくれるように頼んだ。ルイズは心をこめて一、れを作ったので、ヨナは わずら 感動した。他のときにも彼女を煩わさないように、屋根裏部屋に入れておける食料品を造るよう に頼んだ。だんだん日中に降りてくることも少なくなった。しかし、食料にはほとんど手がつい ていなかった。 ある晩、彼はルイズを呼んで、毛布を数枚くれと言った、「あそこで夜も過すから」ルイズは、 頭をのけそらせて夫を眺めた。彼女はロを開き、それから黙った。彼女はただ不安な悲しげな表 情でヨナの様子をうかがっていた。彼は突然、どれほどまで彼女が老いこみ、生活の疲労が彼女 ひと
さった。つつましさの点にかけちゃ、まったく、誰にもひけはとらなかったのに。 これは謙虚に認めなくちゃなりませんが、わたしという男は虚栄心のかたまりだった。わた し、わたし、わたし、この言葉は大切な人生のルフランで、わたしのロにする言葉にこいつが出 やか てこないことはない。おしゃべりには必す自慢が伴ったし、宣ましい遠慮が加わるときはなおさ らそうだった。こうした遠慮がどこからくるのか、自分ではその秘密がわかっていた。わたしは わずら たしかに、し 、つも自由に力強く生きてきた。誰にも煩わされないで自由たと単純に思いこんでい たのも、自分と並ぶ者がいないという結構な理由があったからだ。自分は誰よりも頭が良く、鋭 じようず 射撃は上手、運転は一流、恋人としても最上といったぐあいに。 王敏で器用だと始終思 0 ていた、 トナーにすぎなかったテニス 追入よりもたしかに劣っているなと思われる領分、たとえばよきパ 落でも、練習時間さえあれば一流になれるさ、とすぐ思ってしまう。自分の優越性しか認めない、 なぞ わたしの好意と落着きの謎はこれですよ。他人の面倒をみるときには、純粋な親切心が目由には たらくので、手柄はそっくりこちらに舞い戻ってくる、つまり自己愛が一段と高まるというわけ です。 こういった事実は、別な真相といっしょに、ゆうべ話した例の晩以後、徐々に発見された。い や直後ではないし、はっきりと掴んだわけでもないのですが、それには、ます記憶力を呼びさま さなければならなかった。次第に物事がはっきりと見えるようになり、以前に知っていたことも 少しは理解できるようになった。それまでは、忘却という驚くべき能力にいつも助けられてい
さることはない。連中はフランス語が話せないから」 ひる ダラストはソクラトを呼んで、お午に会おう、と言った。 「わかった」とソクラトが言った、「己は ^ 泉の園》へ出かける」 「 < 園》へ行くって ? 」 「そう、誰でも知ってるとこだ、心配するな、ダラストさん」 病院は、出がけにダラストは気がついたのだが、森のに建っていて、重なり合った葉むら が、屋根の上にのめりだしている。樹々の表には、今、薄い水のヴェールが垂れているが、巨大 かわらぶ 王なスポンジのように、深い森は音もなくこれを吸いこんでいる。街と一言えば、色あせた瓦葺きの百 いぶき と戸ばかりの家並が、森と河とのあいだにひろがっている。その遠い息吹は病院にまでとどいてく オが、じぎにかなり大きい長方形の広場に出た。その赤い 放る。車はます水びたしの通りに入っこ。 ひ・つめ 追粘土は、数多い水溜りのあいだに、タイヤや鉄の車輪や蹄のあとを残していた。そのまわりに、色 しつくい ( 。し力にも植民地ふうな、 さまざまな漆喰壁の低い家々が、広場を閉さしていた。広場の後ろこよ、、、 青と白との二つのまるい寺の塔がのそかれた。この裸の背景の上に、河口からくる潮の匂いが漂 っている。広場の真ん中に、ぐしょぬれの人影がうろうろしている。家並に沿うて、ガウチョー この暗鬱な組合 や、日本人や、混血インディアンやお上品な顔役連中から成る雑多な一群が - 」また せがここでは異国的に見えるのだがーー小股に、かっゆっくりとしたしぐさで、歩きまわってい 。車が広場の た。彼らは慎重にわきによけて車を通し、それから立ち止って、車を見送っていた
ダラストを見たときにも、それと見分けがついたとも見えす、ダラストのほうを向いてじっと動 あぶらあせ かすにいた。きたない脂汗が今は灰色になった顔を蔽い、ひけはよだれの筋でいつばいで、祝色 の乾いたあぶくがその唇を閉ざしていた。彼は微笑もうとした。しかし、重荷を負うて動かすに けいれん いても、彼は全身で慄えていた。ただその筋肉が一種の痙攣に陥って強直してしまった肩の部分 を除いては : : : 兄弟は、ダラストを認めて、「もうだめだ」とだけ言った。そして、どこからと もなく現われたソグラトが、耳もとでささやいた。「踊りすぎだ、ダラストさん、一晩じゅう・ 疲れてる」 コックはふたたびせわしない速足で歩きだしたが、それは前へ進む者のしぐさではなくて、自 分を押し潰す重荷から脱れるように、動くことによってその重荷が軽くなることを期待するよう と 放に思われた。ダラストは、どういうわけか知らないが、その右手にいた。彼は、コッグの背に片 住手をかけているが、それも軽くなった。せきこんで重苦しく、小刻みな足どりで、彼に寄り添う シャッス 群衆はおそらく今は広場に溢れてい て歩いた。通りの向うの端に、遺物櫃は姿を消していた。 て、もう進むとも見えない。数秒のあいだ、コックは、兄弟とダラストに挾まれて、前進した。 やがて、彼が通るのを見るために、町役場の前に集まった人群れから隔たることわすか二十メー オタラストの手は前より重たくなった。「さあ、 トルほどになった。ところがふたたび彼は止っこ。・ コッグ」と彼は言った、「もう少しだ」相手は慄えている。よだれがまたロから流れだす。一方 身体じゅうから、汗が文字どおり噴きでてくる。彼は深い呼吸をしようとして、息をつき、急に 297 つぶ ふる のが ほほえ はさ
209 が耕作のことを想い起させたりしたが、それは、建築用のある種の石材をとり出すために掘られ たものだった。ここでは石をとり入れするためにしか耕さないのだ。またあるときは、ひとは たま 新みに溜った土くすを掻きとっていた。それで、村の痩せたに肥料をやっていたのだ。こうし おお たあんばいだった。石だけでこの国の四分の三を蔽っていた。街々はそこに生れ、光り輝き、や のどぶえ がて消えていった。人間はそこを通り、愛し合いあるいは喉笛に食いっき合い、やがて死んで にもかかわらす、こ いった。この砂漠のなかでは、誰も、自分もまたこの客も何ものでもない。 ダリュはそれを知ってい 国の砂漠の外では、どちらも真の生を生きることはできなか 0 たろう と彼が起きあがったとき、教室からは何の音も聞えてこなかった。アラビア人は逃けたかもしれ 放ない。そうすればもう決心を要するようなことはなくなって、ふたたび一人に戻るのだーーーそう 、こ。しかし、囚人はそこにいた 追考えただけで隠しようのない喜びが湧いてきて、われながら驚しオ のだ。ストーヴと机とのあいだに彼は寝そべっていた。目を見ひらいて、天井を眺めていた。こ の位置では、とりわけて彼の厚い唇が目立った。それは彼にふてくされた様子を与えていた。 「こい」とダリュ が言った。アラビア人は立って、ついてきた。寝室に入ると、教師は、窓の下 机のわきの椅子をさした。アラビア人はダリュから目を放さすに腰をおろした。 「腹が減ったか」 「ああ」と囚人が言った。
た重苦しい踊りで、むしろただ足拍子を踏むのに近く、二つの輪にな 0 て腰が波打っことで辛う じてそれと知られた。 にもかかわらす、休みはだんだんと減り、停止と停止のあいだが開 暑さはひどくなっていた。 き、踊りは急調子にな 0 た。他の連中のリズムもゆるます、彼自身も踊りやめすに、黒人の大男 はふたたび人の輪を切 0 て祭壇のほうへ行 0 た。彼は水を一杯と火のついた鑞燭を一本持ち帰 0 オ。彼はその鹽燭を小屋の中央の地面に突き刺した。蝋燭のまわりに、二つの同心円を描いて、 ふたたび身を起して、狂おしい目を屋根へ向けた。身体全体をこわばらせ、じっと 水を注いだ。 王動かすに、彼は待 0 ている。「聖ジ「ルジ = が降りてくる、さあ、ごらん」こう耳うちするコック は、目がとびだしていた。 と 放事実、踊り手の何人かは今失神したように見える。失神したままその場に動かす、両手は腰 追に、足をびんとつつばり、目がすわ 0 て表情がない。他の踊り手たちはそのリズムを速めながら ひきつけを起し、わけのわからぬ叫び声を発しはじめた。叫ひ声がだんだん高まり、一つの集団 かしら 的な呻きに溶けこんだとき、頭は、相変らす目はあけたまま、自身もまた、息も絶え絶えに、ほ いくさにわ とんど言葉にならぬ長い叫びをあけた。そこには同じ単語が繰返されていた。「自分は神の戦の場 タラストはその声の変ったのに驚いて、コックを見 だと言っている」とコッグが耳うちした。・ た。コックは身を乗りだして、拳を握り、目を据えて、他の連中と同じ足拍子をその場に踏んで いた。そのとき彼は、自分自身もまたちょ 0 と前から、足を動かしこそしないが、全体重をかけ こぶし かろ
落 ふうさい らしばしば野性的だと言われた一、の顔などからみると、わたしの風采はむしろラグビー選手みた いでしよう ? しかし、会話から判断すると、わたしにも少しは洗練さがあることを認めざるを かいせんわずら 得ますまい。わたしの外套に毛皮を提供したらくだのやつは、たぶん疥癬を患っていたとみえ て、すりぎれていますが、その代り、指はきれいに手入れをしてあります。あなた同様、わたし には分別がある、だのに、あなたの外見だけに惹かれて、軽率に、こんな打明け話をしているあ りさまです。結局、どんなにいんぎんな物腰を見せ、上品な言葉づかいをしてみたところで、わ たしはゼージッグの船員バーのおとくいなんです。まあ、これ以上のせんさくはやめていただき ましようか。わたしの仕事は、人間同様、要するに二重なのです。さきほども言いましたが、わ たしは改悛した判事です。わたしの場合、ただひとつはっきりしてるのは、無一物だということ です。ええ、昔は金持でした。い や、貧乏人になにひとっ分けてやったことはありません。これ 転はなにを意味するでしよう ! わたしもまた、サドカイ教徒であったことになる : : : おや ! 聞 えますか、港のサイレンが ? 今夜はもやがかかりますよ、ズイデルゼーに。 もうお帰りですか ? お引留めしたようで、失礼しました。よろしければ、わたしに払わせて ください。「メキシコ・シティ ー」に来た以上、あなたはわたしのお客様ですし、ここでおもて なしができて、たいへんうれしいのです。いつものとおり、明晩も必すここにいますから、喜 みち 。さてと : んでお招きをお受けしましよう。あなたの帰り途ですか : こうすりやいちばん 簡単でしよう、港までわたしがお供してはいけませんか ? あそこからでしたら、ユダヤ人街を
250 彼はそれでも芸術家たちのよく通う場所や界隈は避けていた。自分の画について語りかける知 ぎよう - 」う 人に逢ったりすると、恐慌をきたした。彼は逃けようとする。それが目に立つ。それでも彼は 「彼は自分を 逃けだしてしまう。自分の背後でどんな言葉がつぶやかれるかを彼は知っていた、 レンプラントだと思ってるんだ」そして彼の不快の念は増した。もうどんな場合にも、笑わなか った。旧友たちはこ一、から奇妙な、しかし避けがたい結論をひきだした。「彼がもう笑わないの は、自分について大いに満足しているからだ」一、のことを知ると、彼はますます人を避けがちに キャフェ 国なり、ますます疑り深くなった。喫茶店に入って、その場に居あわせた一人のひとに自分だと知 られたという感じを持つだけで、彼の内部のいっさいが暗くなった。 一瞬、彼はその場につっ立 むさば とうとっ 追っていた、無力感と奇妙な苦痛に満たされて。自分の動揺と、また貪るような唐突な友情の欲求 落には、表情を閉じたまま : : : 彼はラトーの優しい目つきを考えていた。彼は突然に外へ出た。「お つら かしな面をしやがる」ある日、彼が姿を消そうとしたとき、すぐそばにいた男が、一、う言った。 彼はもう場末の区域にしか通わなかった。そこでは誰も彼を知らないからである。そこでは、 彼は話したり、微笑んだりした。愛想のよさを取戻した。ひとからは何も要求されなかった。気 むすかしくない数人の友もできた。彼はその一人といっしょにいるのが特に好きだった。男は、 彼のよく行く駅の食堂で、彼に給仕をしてくれた。一、の給仕は彼に「何をやっているのか」をた すねたことがある。「画かきさ」とヨナが答えた。「画家かね、それともペンキ屋かね」「画家だ」 相手は答えた、「そいつは、むすかしい」そして二人はそれ以上問題に取組もうとしなかった。 はほえ かい。 0 い
選り、それから戻って狭いアトリエに着陸する。そこでは、ヨナが、それだけで部屋がいつばい やがて彼 になってしまうひと握りほどの訪問客と友入たちに囲まれて、画を描きつづけていた。 が筆を擱いて、魅惑的な女人が特に彼のために満たした茶碗を、感謝しつつとりあけるまで : 彼は茶を飲み、弟子の一人が彼の画架に架けた素描を眺め、友人たちとともに笑い、途甲でや めて、前の晩書いた手紙の東を郵便で出してくれないか、と友人の一人に頼み、股のあいだに倒 れていた二番目の子を引起し、写真のためにポーズを構える。と、「ヨナ、電話 ! 」彼は茶碗を 振りまわし、言い訳しつつ、廊下にいつばいの人ごみを押し分ける。戻ってきて、画の隅に筆を 入れ、手をやめて魅惑的な女性に必す肖像を描きますと、返事をする。また画架に戻る。仕事を している。「ヨナ、署名を一つ」「何たい、郵便屋かい ? 」と彼が言う。「いや、カシミールの徒 と 放刑囚です」「今行くよ」そこで彼は戸口へ駆けつけて、入類の若き友とその抗議とを迎え入れる。 追政治と関係ありやを知ろうと気づかうが、芸術家の特権がまた彼に課する義務についての勧告を 受けると同時に、すっかり気持が折れて、署名をする。また紹介をうけるために、姿を現わす。 けんとう その名前を理解することもできない。最近、勝ちっ放しの拳闘選手だとか、外国の最大の劇作家 だとか言う。劇作家は五分間、彼と向き合っている。フランス語を知らぬのではっきり言えぬと ころを、感激の目つきに物言わせるわけである。この間ョナは心からの共感をもってうなずいて いる。幸いに、この出口のない状況は、偉大な画家に紹介されたがっている魔術の最後の布教師 の侵入によって、終りを告ける。ョナは、大喜ひで、非常にうれしいと言い、ポケットの中の手 241 また
なにか起らなくちゃいけない。だから葬式だってばんざいですよ ! だが、わたしには少なくともこんな言訳はない。君臨していたので退屈しなかったから。今か らお話する夜だって、いつもと同じで、退屈してなかった。それはほんとだし、なにか起るとい 。さて、それはとある秋の晩です。街はまだほっか いなとも思っていなかった。それだのに : 夜になって、西の空はまだ明るかったが、暗 りと暖かく、セーヌ川はもうしっとりとしていた。 左岸沿いに、ポン・デ・サールへ向ってさかのばっ くなりかけで、街燈が弱々しく輝いていた。 ていった。古本屋の閉じた箱のあいだから、きらきら川の輝きが見える。川沿いの道にはほとん おもかげ 、。。、リはもうタ食の時間だった。わたしはまだ夏の面影がある黄色い葉っぱやほこ 王ど人影もなしノ 自りを踏みつぶす。空はだんだん星に充たされ、街燈から街燈へ移るたびに、一瞬星がきらめく。 落戻ってきた静寂、優しい夜、うつろなパリを味わう。わたしは満足しきっている。なにしろこの 日は一日じゅう好い日で、盲人を助けてやり、期待どおりの減刑の宣告があり、依頼者から熱烈 な感謝の握手をされる、二、三施しもしてやったといったぐあいで、おまけに午後には、支配階 あざ 級の冷酷さと知識人の偽善とについて、数人の友を前に鮮やかな即席演説をやりました。 ゅうやみ この時刻には人気もないポン・デ・ザールに佇み、今はタ闇に包まれてほとんど見分けのつか なくなった水面を眺める。アンリ四世の銅像に面して、中の島を見おろす。力強い巨大な感情 と、どう言ったらいいか、ものを成し遂けたときのような感じがわきおこって、心が晴れ晴れと していた。わたしは身体を起して、煙草に、満足しきって煙草に火をつけようとする、そのとた たたず