知ら - みる会図書館


検索対象: 転落・追放と王国
300件見つかりました。

1. 転落・追放と王国

く、ついには現われるにちがいない。「光れ、光れ」と彼は言った。「お前の光を己からとりあけ るな」星はふたたび輝こうとしていた、一。 彼まそれを確信していた。しかし、要するに自分の身寄 りから別れることなしに孤りでいるように、彼は定められていたのだから、彼はもう少しよく考 えなければならなかった。彼が前からよく知ってはいるが、そして知っているかのように前から 描いてはいるが、彼がまだはっきりと理解していないものを見いだす必要があった。単なる芸術 上のものではない、ある秘密を掴まなければならない。彼はそれを知っていた。それゆえ彼はラ ンプをつけなかったのだ。 国 王 こうなると、毎日ョナは屋根裏部屋にのほった。訪問客もますます減った。ルイズは仕事に夢 と 追中で、あまり話に加わらない。ョナは食事に降りてきては、またねぐらにのはった。一日じゅう 落闇のなかでじっとしていた。夜になると、もう眠りこんでいる妻のところに来た。数日たっと、 彼はルイズに昼飯を渡してくれるように頼んだ。ルイズは心をこめて一、れを作ったので、ヨナは わずら 感動した。他のときにも彼女を煩わさないように、屋根裏部屋に入れておける食料品を造るよう に頼んだ。だんだん日中に降りてくることも少なくなった。しかし、食料にはほとんど手がつい ていなかった。 ある晩、彼はルイズを呼んで、毛布を数枚くれと言った、「あそこで夜も過すから」ルイズは、 頭をのけそらせて夫を眺めた。彼女はロを開き、それから黙った。彼女はただ不安な悲しげな表 情でヨナの様子をうかがっていた。彼は突然、どれほどまで彼女が老いこみ、生活の疲労が彼女 ひと

2. 転落・追放と王国

さった。つつましさの点にかけちゃ、まったく、誰にもひけはとらなかったのに。 これは謙虚に認めなくちゃなりませんが、わたしという男は虚栄心のかたまりだった。わた し、わたし、わたし、この言葉は大切な人生のルフランで、わたしのロにする言葉にこいつが出 やか てこないことはない。おしゃべりには必す自慢が伴ったし、宣ましい遠慮が加わるときはなおさ らそうだった。こうした遠慮がどこからくるのか、自分ではその秘密がわかっていた。わたしは わずら たしかに、し 、つも自由に力強く生きてきた。誰にも煩わされないで自由たと単純に思いこんでい たのも、自分と並ぶ者がいないという結構な理由があったからだ。自分は誰よりも頭が良く、鋭 じようず 射撃は上手、運転は一流、恋人としても最上といったぐあいに。 王敏で器用だと始終思 0 ていた、 トナーにすぎなかったテニス 追入よりもたしかに劣っているなと思われる領分、たとえばよきパ 落でも、練習時間さえあれば一流になれるさ、とすぐ思ってしまう。自分の優越性しか認めない、 なぞ わたしの好意と落着きの謎はこれですよ。他人の面倒をみるときには、純粋な親切心が目由には たらくので、手柄はそっくりこちらに舞い戻ってくる、つまり自己愛が一段と高まるというわけ です。 こういった事実は、別な真相といっしょに、ゆうべ話した例の晩以後、徐々に発見された。い や直後ではないし、はっきりと掴んだわけでもないのですが、それには、ます記憶力を呼びさま さなければならなかった。次第に物事がはっきりと見えるようになり、以前に知っていたことも 少しは理解できるようになった。それまでは、忘却という驚くべき能力にいつも助けられてい

3. 転落・追放と王国

さることはない。連中はフランス語が話せないから」 ひる ダラストはソクラトを呼んで、お午に会おう、と言った。 「わかった」とソクラトが言った、「己は ^ 泉の園》へ出かける」 「 < 園》へ行くって ? 」 「そう、誰でも知ってるとこだ、心配するな、ダラストさん」 病院は、出がけにダラストは気がついたのだが、森のに建っていて、重なり合った葉むら が、屋根の上にのめりだしている。樹々の表には、今、薄い水のヴェールが垂れているが、巨大 かわらぶ 王なスポンジのように、深い森は音もなくこれを吸いこんでいる。街と一言えば、色あせた瓦葺きの百 いぶき と戸ばかりの家並が、森と河とのあいだにひろがっている。その遠い息吹は病院にまでとどいてく オが、じぎにかなり大きい長方形の広場に出た。その赤い 放る。車はます水びたしの通りに入っこ。 ひ・つめ 追粘土は、数多い水溜りのあいだに、タイヤや鉄の車輪や蹄のあとを残していた。そのまわりに、色 しつくい ( 。し力にも植民地ふうな、 さまざまな漆喰壁の低い家々が、広場を閉さしていた。広場の後ろこよ、、、 青と白との二つのまるい寺の塔がのそかれた。この裸の背景の上に、河口からくる潮の匂いが漂 っている。広場の真ん中に、ぐしょぬれの人影がうろうろしている。家並に沿うて、ガウチョー この暗鬱な組合 や、日本人や、混血インディアンやお上品な顔役連中から成る雑多な一群が - 」また せがここでは異国的に見えるのだがーー小股に、かっゆっくりとしたしぐさで、歩きまわってい 。車が広場の た。彼らは慎重にわきによけて車を通し、それから立ち止って、車を見送っていた

4. 転落・追放と王国

ダラストを見たときにも、それと見分けがついたとも見えす、ダラストのほうを向いてじっと動 あぶらあせ かすにいた。きたない脂汗が今は灰色になった顔を蔽い、ひけはよだれの筋でいつばいで、祝色 の乾いたあぶくがその唇を閉ざしていた。彼は微笑もうとした。しかし、重荷を負うて動かすに けいれん いても、彼は全身で慄えていた。ただその筋肉が一種の痙攣に陥って強直してしまった肩の部分 を除いては : : : 兄弟は、ダラストを認めて、「もうだめだ」とだけ言った。そして、どこからと もなく現われたソグラトが、耳もとでささやいた。「踊りすぎだ、ダラストさん、一晩じゅう・ 疲れてる」 コックはふたたびせわしない速足で歩きだしたが、それは前へ進む者のしぐさではなくて、自 分を押し潰す重荷から脱れるように、動くことによってその重荷が軽くなることを期待するよう と 放に思われた。ダラストは、どういうわけか知らないが、その右手にいた。彼は、コッグの背に片 住手をかけているが、それも軽くなった。せきこんで重苦しく、小刻みな足どりで、彼に寄り添う シャッス 群衆はおそらく今は広場に溢れてい て歩いた。通りの向うの端に、遺物櫃は姿を消していた。 て、もう進むとも見えない。数秒のあいだ、コックは、兄弟とダラストに挾まれて、前進した。 やがて、彼が通るのを見るために、町役場の前に集まった人群れから隔たることわすか二十メー オタラストの手は前より重たくなった。「さあ、 トルほどになった。ところがふたたび彼は止っこ。・ コッグ」と彼は言った、「もう少しだ」相手は慄えている。よだれがまたロから流れだす。一方 身体じゅうから、汗が文字どおり噴きでてくる。彼は深い呼吸をしようとして、息をつき、急に 297 つぶ ふる のが ほほえ はさ

5. 転落・追放と王国

209 が耕作のことを想い起させたりしたが、それは、建築用のある種の石材をとり出すために掘られ たものだった。ここでは石をとり入れするためにしか耕さないのだ。またあるときは、ひとは たま 新みに溜った土くすを掻きとっていた。それで、村の痩せたに肥料をやっていたのだ。こうし おお たあんばいだった。石だけでこの国の四分の三を蔽っていた。街々はそこに生れ、光り輝き、や のどぶえ がて消えていった。人間はそこを通り、愛し合いあるいは喉笛に食いっき合い、やがて死んで にもかかわらす、こ いった。この砂漠のなかでは、誰も、自分もまたこの客も何ものでもない。 ダリュはそれを知ってい 国の砂漠の外では、どちらも真の生を生きることはできなか 0 たろう と彼が起きあがったとき、教室からは何の音も聞えてこなかった。アラビア人は逃けたかもしれ 放ない。そうすればもう決心を要するようなことはなくなって、ふたたび一人に戻るのだーーーそう 、こ。しかし、囚人はそこにいた 追考えただけで隠しようのない喜びが湧いてきて、われながら驚しオ のだ。ストーヴと机とのあいだに彼は寝そべっていた。目を見ひらいて、天井を眺めていた。こ の位置では、とりわけて彼の厚い唇が目立った。それは彼にふてくされた様子を与えていた。 「こい」とダリュ が言った。アラビア人は立って、ついてきた。寝室に入ると、教師は、窓の下 机のわきの椅子をさした。アラビア人はダリュから目を放さすに腰をおろした。 「腹が減ったか」 「ああ」と囚人が言った。

6. 転落・追放と王国

た重苦しい踊りで、むしろただ足拍子を踏むのに近く、二つの輪にな 0 て腰が波打っことで辛う じてそれと知られた。 にもかかわらす、休みはだんだんと減り、停止と停止のあいだが開 暑さはひどくなっていた。 き、踊りは急調子にな 0 た。他の連中のリズムもゆるます、彼自身も踊りやめすに、黒人の大男 はふたたび人の輪を切 0 て祭壇のほうへ行 0 た。彼は水を一杯と火のついた鑞燭を一本持ち帰 0 オ。彼はその鹽燭を小屋の中央の地面に突き刺した。蝋燭のまわりに、二つの同心円を描いて、 ふたたび身を起して、狂おしい目を屋根へ向けた。身体全体をこわばらせ、じっと 水を注いだ。 王動かすに、彼は待 0 ている。「聖ジ「ルジ = が降りてくる、さあ、ごらん」こう耳うちするコック は、目がとびだしていた。 と 放事実、踊り手の何人かは今失神したように見える。失神したままその場に動かす、両手は腰 追に、足をびんとつつばり、目がすわ 0 て表情がない。他の踊り手たちはそのリズムを速めながら ひきつけを起し、わけのわからぬ叫び声を発しはじめた。叫ひ声がだんだん高まり、一つの集団 かしら 的な呻きに溶けこんだとき、頭は、相変らす目はあけたまま、自身もまた、息も絶え絶えに、ほ いくさにわ とんど言葉にならぬ長い叫びをあけた。そこには同じ単語が繰返されていた。「自分は神の戦の場 タラストはその声の変ったのに驚いて、コックを見 だと言っている」とコッグが耳うちした。・ た。コックは身を乗りだして、拳を握り、目を据えて、他の連中と同じ足拍子をその場に踏んで いた。そのとき彼は、自分自身もまたちょ 0 と前から、足を動かしこそしないが、全体重をかけ こぶし かろ

7. 転落・追放と王国

落 ふうさい らしばしば野性的だと言われた一、の顔などからみると、わたしの風采はむしろラグビー選手みた いでしよう ? しかし、会話から判断すると、わたしにも少しは洗練さがあることを認めざるを かいせんわずら 得ますまい。わたしの外套に毛皮を提供したらくだのやつは、たぶん疥癬を患っていたとみえ て、すりぎれていますが、その代り、指はきれいに手入れをしてあります。あなた同様、わたし には分別がある、だのに、あなたの外見だけに惹かれて、軽率に、こんな打明け話をしているあ りさまです。結局、どんなにいんぎんな物腰を見せ、上品な言葉づかいをしてみたところで、わ たしはゼージッグの船員バーのおとくいなんです。まあ、これ以上のせんさくはやめていただき ましようか。わたしの仕事は、人間同様、要するに二重なのです。さきほども言いましたが、わ たしは改悛した判事です。わたしの場合、ただひとつはっきりしてるのは、無一物だということ です。ええ、昔は金持でした。い や、貧乏人になにひとっ分けてやったことはありません。これ 転はなにを意味するでしよう ! わたしもまた、サドカイ教徒であったことになる : : : おや ! 聞 えますか、港のサイレンが ? 今夜はもやがかかりますよ、ズイデルゼーに。 もうお帰りですか ? お引留めしたようで、失礼しました。よろしければ、わたしに払わせて ください。「メキシコ・シティ ー」に来た以上、あなたはわたしのお客様ですし、ここでおもて なしができて、たいへんうれしいのです。いつものとおり、明晩も必すここにいますから、喜 みち 。さてと : んでお招きをお受けしましよう。あなたの帰り途ですか : こうすりやいちばん 簡単でしよう、港までわたしがお供してはいけませんか ? あそこからでしたら、ユダヤ人街を

8. 転落・追放と王国

250 彼はそれでも芸術家たちのよく通う場所や界隈は避けていた。自分の画について語りかける知 ぎよう - 」う 人に逢ったりすると、恐慌をきたした。彼は逃けようとする。それが目に立つ。それでも彼は 「彼は自分を 逃けだしてしまう。自分の背後でどんな言葉がつぶやかれるかを彼は知っていた、 レンプラントだと思ってるんだ」そして彼の不快の念は増した。もうどんな場合にも、笑わなか った。旧友たちはこ一、から奇妙な、しかし避けがたい結論をひきだした。「彼がもう笑わないの は、自分について大いに満足しているからだ」一、のことを知ると、彼はますます人を避けがちに キャフェ 国なり、ますます疑り深くなった。喫茶店に入って、その場に居あわせた一人のひとに自分だと知 られたという感じを持つだけで、彼の内部のいっさいが暗くなった。 一瞬、彼はその場につっ立 むさば とうとっ 追っていた、無力感と奇妙な苦痛に満たされて。自分の動揺と、また貪るような唐突な友情の欲求 落には、表情を閉じたまま : : : 彼はラトーの優しい目つきを考えていた。彼は突然に外へ出た。「お つら かしな面をしやがる」ある日、彼が姿を消そうとしたとき、すぐそばにいた男が、一、う言った。 彼はもう場末の区域にしか通わなかった。そこでは誰も彼を知らないからである。そこでは、 彼は話したり、微笑んだりした。愛想のよさを取戻した。ひとからは何も要求されなかった。気 むすかしくない数人の友もできた。彼はその一人といっしょにいるのが特に好きだった。男は、 彼のよく行く駅の食堂で、彼に給仕をしてくれた。一、の給仕は彼に「何をやっているのか」をた すねたことがある。「画かきさ」とヨナが答えた。「画家かね、それともペンキ屋かね」「画家だ」 相手は答えた、「そいつは、むすかしい」そして二人はそれ以上問題に取組もうとしなかった。 はほえ かい。 0 い

9. 転落・追放と王国

選り、それから戻って狭いアトリエに着陸する。そこでは、ヨナが、それだけで部屋がいつばい やがて彼 になってしまうひと握りほどの訪問客と友入たちに囲まれて、画を描きつづけていた。 が筆を擱いて、魅惑的な女人が特に彼のために満たした茶碗を、感謝しつつとりあけるまで : 彼は茶を飲み、弟子の一人が彼の画架に架けた素描を眺め、友人たちとともに笑い、途甲でや めて、前の晩書いた手紙の東を郵便で出してくれないか、と友人の一人に頼み、股のあいだに倒 れていた二番目の子を引起し、写真のためにポーズを構える。と、「ヨナ、電話 ! 」彼は茶碗を 振りまわし、言い訳しつつ、廊下にいつばいの人ごみを押し分ける。戻ってきて、画の隅に筆を 入れ、手をやめて魅惑的な女性に必す肖像を描きますと、返事をする。また画架に戻る。仕事を している。「ヨナ、署名を一つ」「何たい、郵便屋かい ? 」と彼が言う。「いや、カシミールの徒 と 放刑囚です」「今行くよ」そこで彼は戸口へ駆けつけて、入類の若き友とその抗議とを迎え入れる。 追政治と関係ありやを知ろうと気づかうが、芸術家の特権がまた彼に課する義務についての勧告を 受けると同時に、すっかり気持が折れて、署名をする。また紹介をうけるために、姿を現わす。 けんとう その名前を理解することもできない。最近、勝ちっ放しの拳闘選手だとか、外国の最大の劇作家 だとか言う。劇作家は五分間、彼と向き合っている。フランス語を知らぬのではっきり言えぬと ころを、感激の目つきに物言わせるわけである。この間ョナは心からの共感をもってうなずいて いる。幸いに、この出口のない状況は、偉大な画家に紹介されたがっている魔術の最後の布教師 の侵入によって、終りを告ける。ョナは、大喜ひで、非常にうれしいと言い、ポケットの中の手 241 また

10. 転落・追放と王国

なにか起らなくちゃいけない。だから葬式だってばんざいですよ ! だが、わたしには少なくともこんな言訳はない。君臨していたので退屈しなかったから。今か らお話する夜だって、いつもと同じで、退屈してなかった。それはほんとだし、なにか起るとい 。さて、それはとある秋の晩です。街はまだほっか いなとも思っていなかった。それだのに : 夜になって、西の空はまだ明るかったが、暗 りと暖かく、セーヌ川はもうしっとりとしていた。 左岸沿いに、ポン・デ・サールへ向ってさかのばっ くなりかけで、街燈が弱々しく輝いていた。 ていった。古本屋の閉じた箱のあいだから、きらきら川の輝きが見える。川沿いの道にはほとん おもかげ 、。。、リはもうタ食の時間だった。わたしはまだ夏の面影がある黄色い葉っぱやほこ 王ど人影もなしノ 自りを踏みつぶす。空はだんだん星に充たされ、街燈から街燈へ移るたびに、一瞬星がきらめく。 落戻ってきた静寂、優しい夜、うつろなパリを味わう。わたしは満足しきっている。なにしろこの 日は一日じゅう好い日で、盲人を助けてやり、期待どおりの減刑の宣告があり、依頼者から熱烈 な感謝の握手をされる、二、三施しもしてやったといったぐあいで、おまけに午後には、支配階 あざ 級の冷酷さと知識人の偽善とについて、数人の友を前に鮮やかな即席演説をやりました。 ゅうやみ この時刻には人気もないポン・デ・ザールに佇み、今はタ闇に包まれてほとんど見分けのつか なくなった水面を眺める。アンリ四世の銅像に面して、中の島を見おろす。力強い巨大な感情 と、どう言ったらいいか、ものを成し遂けたときのような感じがわきおこって、心が晴れ晴れと していた。わたしは身体を起して、煙草に、満足しきって煙草に火をつけようとする、そのとた たたず