答え - みる会図書館


検索対象: 転落・追放と王国
35件見つかりました。

1. 転落・追放と王国

落 加する。奴隷制度、そいつはいかん、われわれは反対である ! 家庭や工場に奴隷制を布かざる を得ない、結構、それだけならまだしも筋が通っている、しかしそいつを自慢するとなると、こ いつは行きすぎだ。 だけども人間は、支配するか、奉仕されるか、どちらかでなければ気がすまない。誰でもきれ いな空気のように奴隷を欲しがる。命令することは呼吸することと同じです。いかがでしよう、 この意見は。賛成ですか ? どんな馬鹿でも呼吸はできる。社会の最低線の人だ 0 て配偶者や子 供があるし、独身者なら、犬がいる。つまり肝心なことは、他人はロ答えする権利がないのに、 自分はどなりつけてもいいということだ。〈父親にロ答えするものではない》ごそんじですか、こ の極り文句を ? ある意味で、一、の文句は奇妙だ、愛する者に向 0 て口答えしないとすれば、こ こ対して口答えしますか ? 別な意味で、この文句はな 0 とくがいく。誰かが の世でいったい誰 転鶴の一声を言わなければならない。でないと、あらゆる理屈に別な理屈が対立して、いつまでた ってもきりがないから。と一、ろが反対に、権力というやつはい 0 さいをすばりと解決する。すい 、 0 こけれども、ようやくわれわれはそのことを理解した。たとえば、あなたもき ぶん時間がかカオ なっ 0 と気がついてら 0 しやるでしようが、われらの懐かしいヨーロッパはや 0 とまともな哲学をも つようにな 0 た。かっての素朴な時代のように、〈わたしはそう考える、あなたの一」意見は ? 〉 そうめい などと、今のわれわれはもう言わない。聡明にな 0 たから、対話の代りに一片の告示を出すよう にな 0 た。〈以上が真相である。諸君、論議はご随意だが、吾人は関知しない。だが、当方の正

2. 転落・追放と王国

きようせい 分と同じ欠点を持った人々に向って告白する。つまり自分を矯正したくもないし、はたから直し てもらいたいとも思わない。もしほんとうにその気なら、ますはじめに、われわれは欠席裁判を される必要がある。われわれは単に、わが行く道の方向で同情されたり、励ましてもらったりし - 」うむ たいのです。これ以上罪を蒙るのもいやなら、同時に、清廉潔白になる努力もご免たというわ け。十分なシニスムも持ち合せないし、十分な勇気もない。悪のエネルキーも善のエネルギーも 欠けているのですよ。ダンテをそんじですか ? へえ、驚いたな。じゃあダンテが神と悪魔の ランプ 争闘に中立的な天使の存在を認めているのをごそんじでしよう。ダンテはその天使たちを冥界に 国 と置いていますが、これは彼の地獄のいわば玄関でしてね。われわれも玄関にいる、という一、とで 追すよ。 落忍耐 ? そのとおりですよ、たぶん。われわれには最後の審判を待つだけの忍耐強さが必要な んでしようがね。どっこいわれわれは忙しい。あまり忙しいものだから、わたしなんそはよぎな かいしゅん く改悛した判事になってしまった。もっともその前にわたしは、自分の発見をなんとか始末し て、人間どもの笑い声についてきまりをつけなくてはならなかった。で、わたしが呼び止められ た例の夕暮以来ーーー実際わたしは呼ひ止められたんですからーー返事を強いられていたし、少な くとも答えを探さねばならなかった。こりや容易なことじゃない。わたしは永いこと迷いました よ。初めにますあのいつまても消えない笑いと、笑い手とは、わたしの内部を前よりはっきりと 見るように教えてくれました、つまり、わたしが単純ではないということを悟らせてくれまし

3. 転落・追放と王国

リで弁護士をやって Ⅷなたに妙に愛着を感じていたんですが、やはり意味があったわけですな。。ハ るとはねえ ! われわれが同じ種族だくらいは知っていましたがね。われわれはみな似ているの じゃないですか ? ひつぎりなしに、誰にともなくしゃべりまくり、答えはわかっているくせに、 年じゅう同じ質問の前に立たされてね ? さあさあ、話しなさい、セーヌの河岸で、あるタ暮、 あなたの身になにが降りかかったか、そしてどうやって、あなたの一生を危険にさらさすにすむ ようにやってのけたか。あなた自身の口から言ってしまいなさい、ほら、あの言葉、何年来わた しの夜な夜なに鳴り響きつづけた言葉を。ああ、ついにわたしはあなたのロを通して言うんだ、 〈おお、娘よ、もう一度水に身を投げてくれ ! そうすればわたしは今度こそ、わたしたち二人 と 追が救えるかもしれない ! 〉今度こそ、か。どうですね ? なんて軽はすみだ ! ね、先生、考え 落てもごらんなさいよ、これが言葉どおりに受取られたら ? 仕方がない、やらなくちゃなるま い、うわあーっ ! 水は冷たいそ ! しかし心配無用 ! 今じや手遅れだ。これから先だって、 ずっと手遅れですよ。ありがたいことにー

4. 転落・追放と王国

いて、見たことのない一種の渇望のようなものしか映っていない。無愛想に、まるで見知らぬ男 ー言しかけるように、「もう遅い、船長」と彼は言った、「連中は一晩じゅう踊る。ただあんたが たいに戸口へ出 ここに残ってるのを好まないのだ」頭が重いが、ダラストは立ちあがった。壁づ ' 次いでダラス るコックのあとにつづいた。戸口から、コッグは消えたが、竹の扉を押えていた。 彼ま振向いて、動こうともしないコッグを見た。「こい。これから石をはこばな トも外へ出た。 / 冫 けりやいけない」 「あとに残る」コッグは断乎として言った。 国 王「あんたの約東はどうなる ? 」 と コックは答えすにダラストが片手で押えている扉をだんだん押してきた。二人はしばらくこう あぎら 放してした。ダラストは肩をすくめて、諦めた。彼は遠ざかった。 さわ もや 追夜は爽やかなよい匂いに満ちていた。森の上には南の空のまばらな星々が、抗しがたい靄には かされて、かすかに光っている。湿った空気は重苦しい。それでも、小屋を出て見ると実に快く 爽やかに思われた。ダラストは滑る坂道をさかのはり、最初の小屋の家並に達し、穴だらけの道 に酔っぱらいみたいによろめいた。森は、ついそばで、かすかにとどろいている。河音が大きく なる。大陸の全体が夜の中に浮びでる。ダラストの胸はむかむかしてきた。この大いなる空間の せぎりよっ 寂寥、森の青緑の光、荒涼たる大河の夜のざわめき、この国の全体を彼が吐きだしたかったよう に思われた。この大地はあまりにも大きい。血と季節とはそこに一つに混じり合い、時は溶けて

5. 転落・追放と王国

ことに気づかれたことはありませんか ? プラジルの川にいる例のちつばけな魚の話、むろんお 聞きになったことがあるでしよう ? むちゃな人間が泳いだりすると、これに群れをなして襲い がいこっ かかって、ちくちくと小きざみに突っついて、たちまち真っ白な骸骨だけにしてしまうやつ。え えそう、まさにそれですよ、連中の組織は。 ^ きちんとした暮しをしたいのかね ? みんなみた いに ? 〉むろん、ええと答えますよ、いやだとは言えませんものね。〈よかろう。ではさっそく 君をきれいに片づけてあけよう、はら、仕事だ、家族だ、娯楽だ〉といったわけで、小さな歯が 落肉に、果ては骨にまでしゃぶりつく。だけどそう言 0 ては不公平ですね。これが彼らの組織だと 言ってしまってはいけないな。彼らの組織といっても、結局は、われわれの組織と同じですから ね、われがちに他人を片づけようとする点では。 やっと来ましたよ、ジンが。では、あなたのご繁栄のために。ええ、ゴリラのやっ、ロをきき 転ましたね。わたしを先生と呼んだでしよう。この国では誰でも先生か、または教授なんです。善 良で、控えめなので、人を尊敬するのが好きなんです。ここでは、少なくとも、悪意が国家的機 関とまでなっていません。だがとにかく、わたしは医者ではありません。お知りになりたければ かいしゅん 申しますが、ここに来るまでは弁護士をやっていました。今は、改悛した判事といったところで す。 ジャンⅡバティスト・クラマンスです、どうそよろしく。お近づ 自己紹介をお許しください。 きになれて仕合せです。あなたはたぶん実業家でいらっしやる ? え、ほとんど似たようなもの

6. 転落・追放と王国

は答えなかった。「あなたもお描きですか」と相手はつづけた。「私も描ぎます。ねえ、お聞ぎな さい。彼は下り坂ですよ」「もうですか ? 」とラトーが言った。「そうです。彼は成功した。ひと は成功に抵抗することはできない。彼はおしまいです」「彼は下り坂なんですか、おしまいです か ? 」「下り坂の芸術家というものはおしまいです。ねえ、彼はもう描くものがない。彼自身が 画に描かれる、そして壁に架けておかれるでしよう」 あと もっと後で、真夜中の夫婦の部屋に、ルイズとラトーとヨナは黙りこくっていた。ョナは立っ 子供たちは眠っている。犬どもは田舎にやってあ 国たまま、他の二人は寝台の端に腰かけていた。 ーがそれを拭いた。疲労は快かった。「女中を雇 王る。ルイズは数多い食器類を洗い、ヨナとラト とえよ」と皿の山を前にしてラトーが言った。しかし、ルイズが寂しく答えた、「でもどこに置け 放ばいいの ? 」三人はまた黙った。「君は満足してるか ? 」突然ラトーがたすねた。ョナは微笑し たが、疲れた様子だった。「うん、誰も彼も己には親切だ」「いいや違う」とラトーが言った。「用 心しろ。みんな親切というわけではない」「誰が ? 」「君の画家の友達さ、たとえば」「わかって 「だが、 る」とヨナが言った。 多くの芸術家はそういうふうなんだ。どんな偉大な人物でも、自 分の存在に自信がない。だから、彼らは証拠を求め、裁き、刑を宣告する。このことが彼らを鍛 える。これがすなわち存在の始めというわけだ。彼らは孤独なのだ」ラトーは頭を振った。 じてくれ」とヨナが言った。「己は彼らを知っている。彼らを愛さなければいけない」「そういう 君は」とラトーが言った。 「いったい存在しているのか。君は誰についても悪口を言ったことが 243

7. 転落・追放と王国

落 いなか 動物を愛していました。選良の魂、ええ、たしかにそうです。さて、宗教戦争の末期、彼は田舎 に隠退し、家の戸口にこう書いたのです、 ^ なんびとも自由に入られよ。歓迎されん》とね。こ のりつはな招きに応じたのは、誰だったと思います ? 民兵どもです。連中はまるで自分の家の ようにはいってきて、主人のはらわたをえぐりとってしまいました。 どうも失礼、奥さん ! いや、フランス語は通じなかったんだっけ。こんな夜史け、しかも数 日来降りやまない雨なのに、この連中よくもうろうろしてると思いませんか ? ありがたいこと に、ジンというやつがある、暗黒の唯一の光明といったぐあいにね。ジンを飲むと、身内に金色 や、銅色の光を感じる気がしませんか ? わたしは好きですね、ジンにほてりながら、夜の街を そそろ歩きするのが。絶えす夢をみたり、自分に話しかけたりしながら、ひと晩じゅう歩きつづ ける。ええ、今夜のように。少しうるさくありませんか、わたしのおしやべりが ? そうでもな 転いですか、ありがとう、ご親切にそう言っていただいて。しかし、いつばいつまっているんです よ、ロを開くと、とたんに言葉が流れ出る始末ですからね。この国のせいですよ、そもそもは。 わたしはこのオランダの人々を愛しています、歩道でもみ合い、運河と家との狭いあいだで窮屈 そうにしている彼ら、霧、冷たい土、灰汁のような海に取巻かれている彼らを愛しています、な せならこの人々は二重だから。ここにいて、しかもよそにいるからです。 そうですとも ! 湿った石畳の上を歩く重々しい足音を聞いたり、金色のにしん、枯葉色の宝 石などがぎっしり詰った店々のあいだを、物憂さそうに通る姿を見たりすると、今夜、彼らはこ ものう

8. 転落・追放と王国

ば、青春の日々は幸福たり得るのである。しかし、彼はスポーツを大して好まなかったので、間 うみべ 型車は、もう日曜の散歩以外には、街を出 もなく妻を海辺に連れてゆくのをやめてしまった。小 ることはなくなった。時間の余裕があっても、彼は、半ば土地風、半ばヨーロッパ風のこの街のア ふはく ーケイドの陰にある、自分の色さまざまな布帛の店のほうを好んだ。店の建物の上の、アラビア こ市られた三部屋で暮した。二人に子 ヾレベス製の家具 (k むきの家具の意。食 の掛布やギャルリイ・ノノ うすやみ よ・ついど はなかった。鎧戸をなかば閉じて、二人のまもる薄暗のなかで、数年が過きた。夏も、海辺も、 国散歩も、空さえも、遠かった。商取引を除いて、マルセルの興味をひくものは何一つないように 王見えた。彼女は夫のほんとうの情熱を見つけたように思った。金銭がそれである。そして、なせ とかよくわからないが、彼女はそのことが厭だった。が、ともかく、それを彼女は利用した。夫は おれ おうよう 放けちではなかった。反対に、特に妻に対しては、鷹揚であった。「己の身に何か起 0 ても、君は大 丈夫だよ」と彼は言った。実際、不如意に対しては備えがなければならない。しかし、進んで、 ばくぜん そんなに単純な要求でない場合、いったいどういう備えをしたらいいのか。時折、漠然とながら 彼女の感じていたのは、このことだった。さしあたり、彼女はマルセルの帳面づけを手伝ったり、 けんたい ときには店で夫の代りを勤めたりした。酷熱が倦怠の快い感じまでも押し殺してしまう夏、いち ばんつらいものは夏だった。 突然、ちょうど夏の真っ盛りに、戦争がきた。マルセルは動員され、また復員した。繊維の欠 乏。取引は停止し、街には人気が絶えてただ暑かった。何かが起れば、彼女にもう隠れ家はな 137

9. 転落・追放と王国

不 はえ や 痩せた蠅が一匹、バスの引上げられた窓ガラスのところを、ひとしきり、飛ひまわっていた。 妙に、疲れきった飛び方で、音もなく、行ったり来たりする。ジャニーヌはその姿を見失った。 が、まもなく、夫の動かぬ手の上にとまるのを見た。寒かった。砂まじりの風が吹きつけてき ぎし ふる て窓ガラスに軋るたびに、蠅は慄えていた。冬の朝の薄い光のなかで、鉄板と車軸を軋ませなが と ジャニーヌは夫を眺めた。狭い額まで降りて 放ら、車は横に揺れ縦に揺れ、思うように進まない。 ふう ぶっちょう・つら おお 追きている半白の髪を立てて、鼻が巨きく、ロもとの整わぬマルセルは、仏頂面の牧神みたいな風 からだ 態である。車道の窪みをわたるたびに、より添った夫の身体がはねあがるのを感じた。が、すぐ にまた、その重い胴体は開いた腿の上に納まってしまう。見据えた目は、ふたたび生気なく、う つけたままである。ただ、シャツの袖より長くて手首まである灰色のフラノの服のせいで、よけ ひざ い短く見える、毛の生えてない大きな手だけが、生き生きしている。その手は、膝の間に置かれ ぬのかばん た小さな布鞄をあまり強く握りしめているので、ためらいがちな蠅の動きを感じていないようで ある。 133 貞

10. 転落・追放と王国

落 121 服従は集団的です。他の連中もまたわれわれと同時にひとロ加わる。一、れが大切なんですよ。こ ひぎまず れでやっと万人が集まることになる。だが跪き、頭を垂れてね。 だからその社会をそっくりまねて生きるのが上策ではないだろうか。そのためには社会がわた ひせき しに似る必要がないだろうか。脅迫とか不名誉とか警察とかは、こうした類似を固める秘蹟です けいべっ よ。軽蔑され、追われ、強制されてこそ初めて、わたしは自分の力を存分に発揮し、あるがまま の自分を楽しみ、要するに自然であり得る。ね、あなた、こういうわけで、おごそかに自由を崇 拝していたわたしが、この自由をすぐさま誰かに委ねてしまう必要があるとひそかに決めたんで ー」の教会て説教し、善良な大衆諸君に服 す。そして機会さえあれば、わが「メキシコ・シティ 従せよと勧め、服従の楽しみを謙虚に熱望せよとすすめているのです、服従こそ真の自由である とやればすむことですがね。 なにもわたしは気が狂ったわけではありませんよ、奴隷制が今日明日にできあがるものじゃな いことぐらい承知のうえです。それは未来のもたらす恩恵のひとつだ、というだけのこと。それ まで、わたしは現在となんとか巧くやらねばならない。暫定的にせよなんらかの解決案を探さね ばならない。そこでわたしは、自分の肩にかかる裁きの重みを軽くするために、裁きを万人に押 しひろける手段を別に求めねばならなかった。そしてその手段を見いだしたのです。少し窓をあ けてくれませんか、ひどい暑さだ。あまりあけすぎないでください。寒気もするんでね。その考 えというのは、簡単で、しかも豊かなものです。自分が日光に浴する権利を得るために、万人を