言葉 - みる会図書館


検索対象: 転落・追放と王国
51件見つかりました。

1. 転落・追放と王国

リで弁護士をやって Ⅷなたに妙に愛着を感じていたんですが、やはり意味があったわけですな。。ハ るとはねえ ! われわれが同じ種族だくらいは知っていましたがね。われわれはみな似ているの じゃないですか ? ひつぎりなしに、誰にともなくしゃべりまくり、答えはわかっているくせに、 年じゅう同じ質問の前に立たされてね ? さあさあ、話しなさい、セーヌの河岸で、あるタ暮、 あなたの身になにが降りかかったか、そしてどうやって、あなたの一生を危険にさらさすにすむ ようにやってのけたか。あなた自身の口から言ってしまいなさい、ほら、あの言葉、何年来わた しの夜な夜なに鳴り響きつづけた言葉を。ああ、ついにわたしはあなたのロを通して言うんだ、 〈おお、娘よ、もう一度水に身を投げてくれ ! そうすればわたしは今度こそ、わたしたち二人 と 追が救えるかもしれない ! 〉今度こそ、か。どうですね ? なんて軽はすみだ ! ね、先生、考え 落てもごらんなさいよ、これが言葉どおりに受取られたら ? 仕方がない、やらなくちゃなるま い、うわあーっ ! 水は冷たいそ ! しかし心配無用 ! 今じや手遅れだ。これから先だって、 ずっと手遅れですよ。ありがたいことにー

2. 転落・追放と王国

他人こそ嫌悪しましたがね。もちろん、弱気になったり、それを不甲斐ないと思ったこともあり ますよ。でもわたしは相当けなげな辛抱強さで、それを忘れようと努めた。逆に他人を告発する ことは、わたしの心のなかで間断なしに続けられた。厭な気がするでしようね、きっと ? そり や論理的でない、とお考えでしよう ? しかし論理的に正しいかどうか、そんな一、とは問題じゃ よい。問題は巧くすりぬけること、そうですよ、なにを措いてもます裁きを回避することが大切 だ。罰を避ける、とは申しません。なせって、裁きを経ない罰は大したことはないから。おまけ にわれわれが無実の罪を負っていると請け合ってくれる言葉さえある、不幸という言葉がそれで 王 す。大切なのは、ですから裁きを避けること、判決が絶対に言い渡されないように、裁かれる立 追場をいつも回避することです。 かんつう 落ところがこいつは、生易しいことじゃない。裁くことにかけたら、現代のわれわれは、姦通の 機会を窺ってるのと同じで、いつもこれを待ちかまえてる。姦通にはまだしもへこたれることも みじん あるが、裁きにはそんなことは微塵もない。嘘だと思うなら、八月に、慈悲深い同胞たちが退屈 しのぎにやってくる、田舎のホテルの食卓で交わされる言葉に耳をかしてごらんなさい。それで もまだ納得できないのなら、現代のお偉方の本を読むなり、ご自分の家族を観察したらいいでし よう。ははあんと思いますよ。ねえ、やつらにほんのこれつばちでも裁くきっかけを与えちゃい けませんよ ! さもないと、われわれはたちまちすたすたにされてしまう。われわれは猛獣使い かみそり おり なみの用心を強いられている。猛獣使いが檻に入る前に、剃刀傷をこしらえるようなへまをしょ なまやさ いや

3. 転落・追放と王国

落 いなか 動物を愛していました。選良の魂、ええ、たしかにそうです。さて、宗教戦争の末期、彼は田舎 に隠退し、家の戸口にこう書いたのです、 ^ なんびとも自由に入られよ。歓迎されん》とね。こ のりつはな招きに応じたのは、誰だったと思います ? 民兵どもです。連中はまるで自分の家の ようにはいってきて、主人のはらわたをえぐりとってしまいました。 どうも失礼、奥さん ! いや、フランス語は通じなかったんだっけ。こんな夜史け、しかも数 日来降りやまない雨なのに、この連中よくもうろうろしてると思いませんか ? ありがたいこと に、ジンというやつがある、暗黒の唯一の光明といったぐあいにね。ジンを飲むと、身内に金色 や、銅色の光を感じる気がしませんか ? わたしは好きですね、ジンにほてりながら、夜の街を そそろ歩きするのが。絶えす夢をみたり、自分に話しかけたりしながら、ひと晩じゅう歩きつづ ける。ええ、今夜のように。少しうるさくありませんか、わたしのおしやべりが ? そうでもな 転いですか、ありがとう、ご親切にそう言っていただいて。しかし、いつばいつまっているんです よ、ロを開くと、とたんに言葉が流れ出る始末ですからね。この国のせいですよ、そもそもは。 わたしはこのオランダの人々を愛しています、歩道でもみ合い、運河と家との狭いあいだで窮屈 そうにしている彼ら、霧、冷たい土、灰汁のような海に取巻かれている彼らを愛しています、な せならこの人々は二重だから。ここにいて、しかもよそにいるからです。 そうですとも ! 湿った石畳の上を歩く重々しい足音を聞いたり、金色のにしん、枯葉色の宝 石などがぎっしり詰った店々のあいだを、物憂さそうに通る姿を見たりすると、今夜、彼らはこ ものう

4. 転落・追放と王国

落 これがわたしの活動開始にあたっての原則です . わた なんびとにも絶対に弁解の余地がない、 そこな しは良き意図とか貴重な失敗とか、やり損いとか、情状酌量とかを認めない。わたしのところで ばくだい は、祝福もしないし、赦免も与えない。計算書だけ作って、〈このとおり、莫大な額です。あなた いんらん は背徳者だ、淫乱だ、虚言症だ、男色家だ、芸術家だ、等々》とこんなふうに、すげなくやるの です。つまりわたしは、哲学上でも政治上でも人間の無罪を拒む理論に賛成だし、人間を罪人と して扱う具体策に賛成する。ね、あなたの前にいるこのわたしは、見識ある奴隷制支持者ですよ。 実際、奴隷の服従がなかったらなにひとっ決定的な解決策はない。わたしはたちまちこのこと を悟った。以前わたしは、ロを開けば自由自由、朝食のジャムパンにもこれをぬりたくって、一日 じゅう物みつづけ、ひとなかへでても自由の香気がふんと匂うような息をしていたものです。異 論のあるやつにはこの全能の言葉を真っ向から浴ひせかけ、要するに自分の欲望と権力にこの言 転葉を奉仕させたのです。夜ともなればべッドのなかで、相手の女たちのうつらうつらな耳にこの ささや 言葉を囁く、すると女たちはおとなしくわたしの言いなりになる。そのうえこの言葉をそっと忍 ・いやはや、どうも興奮して言いすぎましたが、とにかくわたしだって、自由をもっと ばせて : 公平無私に扱ったことはあるし、それどころか、無邪気なもんですが、二、三度はこれを守るため に、なるほど命を捧けると一、ろまではゆかなかったにしろ、若干の危険を冒したこともある。こ ういう無鉄砲は容赦してほしいですな、われながらなにをやっているのか見当がっかなかったの ですから。自由というものは賞与とは違う、シャンパンを抜いて祝う勲章とも違う、ということ 117

5. 転落・追放と王国

落 は魂の一部でどれほど彼らを憎んでいるかを悟りました。また、身体障害者用の小さな車のタイ ヤに穴をあけることや、職人たちが働いている足場の下で ^ 貧乏たれ ! 〉とどなることや、地下 鉄のなかで赤ん坊をなぐることなどを想像してみた。こんなことをあれこれと夢想しながら、そ の実なにひとっ実行しなかった。なにかそれに近いことをやったとしても、全部忘れてしまっ た。ともかく正義という言葉そのものが、わたしを妙に憤激させるようになりました。弁論には、 のろ はらい やはりこの言葉をよぎなく使ったけれど、公然と人間精神を呪って、その腹癒せをし、ある宣言 を発表して、被圧迫者が名誉ある入士に加える圧迫を告発すると公表したりした。ある日レスト ラングスト こじぎ ランのテラスで伊勢えひを食べていると、ひとりの乞食がうるさく寄ってきました。こいつを追 あるじ い払うためにわたしは店の主を呼びつけ、彼の言葉に威勢よく拍手してやりました。 < 邪魔だせ、 と、この代官様は言ったのです , - ーー一、こにいらっしやるお客様方の身にもなってみろよ、ま 転ったく ! 〉そこで、わたしは聞えよがしに、かねて尊敬しているロシアの地主のように振舞えな いのは残念だ、と言いました。その地主というのは、あいさっする農夫も、あいさっしない農夫 むち も、刑罰として同時に鞭打たせたんてすよ。どっちも無礼千万だと判断したわけてす。 もっとひどいでたらめの思い出もありますよ。わたしは警察に捧ぐる小詩や人斬り庖丁讃歌を スト 創作したり、特にわが親愛なる職業的人間中心主義者が集まる特殊なカフェを、定期的に歴訪す る決心をしたんです。過去の行状がお目にかなったもので、わたしはもちろん歓迎されました。 ・メルン で、そこへ入ると、わたしはまったくさりけなく暴言を吐く。 ^ ありがたいー ( 訳雌 . 、 3 様 ュ う ) 〉とか、

6. 転落・追放と王国

「ばかげたことをする」と憲兵はしすかに言 0 た。「わしだって、こんなことは好きじゃない・ 人間をふんじばるなんて仕事は、年期を積んだところで、誰も慣れるもんじゃない。むしろ恥ず かしくなる。だが、奴らおっ放しとくわけにはいかん」 「己はこいつを引渡したりなどしない」とダリュが繰返した。 「繰返して言うが、これは命令だ」 己は引渡したりしない」 「そうか。己の言った言葉を彼らに言ってやれ、 バルデ = ッシは明らかに想い悩んでいた。彼はアラビア人を眺めダリ = を眺めた。ようよう決 国 王心がついた。 「いや、わしは仲間に何も言うまい。お前がわれわれを裏切りたいのなら、勝手にしろ。わしは と 放密告はせん。わしは囚人を引渡すように命令を受けた、だからわしはそのとおりやる。さあこの 追紙に署名してくれ」 「むだだ。あんたがこいつを置いてったことを、己は否定はしない」 「わしに対して意地悪くするな。お前の言葉が正しいことは、わかっている。お前は土地の者だ し、一人前の男だ。とにかく署名がいる。それは規則だ」 かくびん ダリュは引出しをあけて、紫インクの小さな角瓶と、赤い色の木のペン軸と、書き方の手本を 書くのに使っていた、セルジャン・マジオール印のペン先とを、とり出して、署名した。憲兵は かばん 注意深く紙を折畳んで、鞄に入れた。それから戸口へ向った。 207

7. 転落・追放と王国

落 のたまにはわたしが弁論することもあったし、ときには、自分の口からでる言葉なそもう自分で 信じてはいないことを忘れて、みごとなやりばえを見せたことさえあります。われとわが声に引 ひしよう きすられて、そのあとに従ったわけですな。以前のように高く飛翔するわけにはゆかなかったけ れども、ちょっとばかり地面より浮きあがり、低空飛行をやった、というわけ。商売外となる と、わたしはほとんど人と会わなくなり、一人、二人の女との腐れ縁を、しようことなしに続け ていたくらいのものです。こうした女との間柄は、純枠に友情だけで、欲情の混じらない夜のひ とときを過したこともありますが、ちょっと違うのは、退屈なのをあきらめて、相手の言葉など ろくに聞いてはいなかった、ということです。そうしたわたしは少々肥ってきて、やっとこれで 危機も去ったと思いました。あとはただ年を取りさえすればいいわけです。 ところがある日、さる女を誘って旅にでたわたしは、大西洋航路の船上にいました、むろん上 転甲板です。そして女には、この旅行がわたしの全快を祝うためだなどとは言ってありませんでし 。突然、鉄色をした大洋の沖合遥かにわたしは一つの黒点を認めた。すぐ目をそらしました が、心臓がどきどきしはじめました。それから勇気をふるってもう一度それを見ようとすると、 黒点は姿を消している。わたしは大声あけて、馬鹿みたいに助けを求めようとしました、すると また黒点が現われたんです。きっとこれは船が航海中に捨ててゆく廃品かなにかにちがいない。 ですがわたしは、それが見ていられなかった。とっさに投身自殺者だと考えたんです。そこでわ たしは、おとなしく納得しました。前々からほんとうだと思っていた考えを、ついに受入れると ふと

8. 転落・追放と王国

さった。つつましさの点にかけちゃ、まったく、誰にもひけはとらなかったのに。 これは謙虚に認めなくちゃなりませんが、わたしという男は虚栄心のかたまりだった。わた し、わたし、わたし、この言葉は大切な人生のルフランで、わたしのロにする言葉にこいつが出 やか てこないことはない。おしゃべりには必す自慢が伴ったし、宣ましい遠慮が加わるときはなおさ らそうだった。こうした遠慮がどこからくるのか、自分ではその秘密がわかっていた。わたしは わずら たしかに、し 、つも自由に力強く生きてきた。誰にも煩わされないで自由たと単純に思いこんでい たのも、自分と並ぶ者がいないという結構な理由があったからだ。自分は誰よりも頭が良く、鋭 じようず 射撃は上手、運転は一流、恋人としても最上といったぐあいに。 王敏で器用だと始終思 0 ていた、 トナーにすぎなかったテニス 追入よりもたしかに劣っているなと思われる領分、たとえばよきパ 落でも、練習時間さえあれば一流になれるさ、とすぐ思ってしまう。自分の優越性しか認めない、 なぞ わたしの好意と落着きの謎はこれですよ。他人の面倒をみるときには、純粋な親切心が目由には たらくので、手柄はそっくりこちらに舞い戻ってくる、つまり自己愛が一段と高まるというわけ です。 こういった事実は、別な真相といっしょに、ゆうべ話した例の晩以後、徐々に発見された。い や直後ではないし、はっきりと掴んだわけでもないのですが、それには、ます記憶力を呼びさま さなければならなかった。次第に物事がはっきりと見えるようになり、以前に知っていたことも 少しは理解できるようになった。それまでは、忘却という驚くべき能力にいつも助けられてい

9. 転落・追放と王国

落 こうは思わないでくださいよ、友人ってやつは、毎晩都合のいいときに電話をかけてくるもの だ、今夜、君は自殺しようとしてるんじゃないのかい》とか、単に《話し相手がほしくないか い〉とか、 ^ 外出する気はないかい〉とかね。そうじゃなくて、まあまあ、こっちがあいにくひ とりばっちじゃなくて、美しきかな人生なんて言ってる晩にかぎって、やつらは電話をくれるも んですよ。自殺といえば、こいつはむしろ友人のほうから仕向けてくる。《君は責任感が強いから かぶ ね、心配だよ〉とかなんとか言ってね。神様、友人連中の買い被りからわれらをまもりたまえで しんせき すな ! 愛するのが役目である連中、つまり親戚とか係累 ( たいした表現ですよ ! ) について は、別ですよ。彼らは言うべき言葉を知っている、ところがこの言葉ときたらむしろ人殺しの弾 たいした裏切り者 丸ですね。彼らの電話は騎銃をぶっ放すようなものて、しかも狙いが正確だ ですよ ! 転え ? 夜って、どの夜です ? ああ、じきその話になります。急がないでください。それに、 この友人と係累の話は、ある意味で物語の眼目なんですから。さて、以前、ある男の話を聞かさ れたんですが、そいつの友人が投獄されたので、親友の味わえないような安楽は自分も享受すま いとして、毎晩部屋の床の上に寝ていたというんです。ねえ、いったい誰がわれわれのために、 、ですか、わた 床の上に寝てくれるでしようか ? はたしてわたし自身にもできますかね ? いし しはそうなりたいと思っている、だからやがてはでぎますよ。そう、われわれはすべていっかは できるようになる、こいつが救いです。でも難かしいかな、なせなら友情ってやつはほんくらだ わら

10. 転落・追放と王国

わけだか「メキシコ・シティ ー」なんて名前をつけて、世界各国の船乗りを相手にするのが彼の 職業なんですからね。商売柄、ああ言葉ができなくてはさぞ不自由だろうとお思いになるでしょ バベルの塔にクロマニョン人が下宿したと想像してごらんなさい、少なくとも望郷の念に かられるでしように。ところがどうして、あいつは異郷にいるとは感じもしない、ひたすらわが 道を歩んで、平気なのです。彼の口から聞いた数少ない言葉のひとつに、採るか捨てるか、ど っちかだ〉というのがあります。いったいなにを採り、なにを捨てなきゃならなかったのか ? きっとあの男自身をですよ。白状しますと、わたしはこういう融通のきかない手合いにすっかり 懼れこんでしまうんです。商売柄、ないしは性分で、人間研究を大いにや 0 ていますとね、霊長 追類に郷愁を感することがありますよ。霊長類には底意ってやつがありませんからな。 落実をいうとここの主人には、目立たないけれど、いくらか底意があります。目の前で言われる ことがわからないもんだから、疑り深い性質になったのです。警戒するような、あの重々しい態 度は、それが原因なんですが、まるで人間同士のあいだには、なにか円滑にゆかないものがあ る、と疑っているみたいでしよう。こうした傾向のおかけで、自分の仕事に直接関係のない議論 になると、めんどうになります。たとえばですよ、主人の頭越しに、奥の壁を見てごらんなさ 、、ばっくり長方形に空いてるでしよう、むろん絵をはすしたあとです。事実、とてもおもしろ い真の傑作といってよい絵がかかっていたのです。ところで、主人がその絵を買ったときも、売 り飛ばしたときも、わたしは立ち会っていました。どちらの場合も、おんなじ用心深さでして