わから - みる会図書館


検索対象: 限りなく透明に近いブルー
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1. 限りなく透明に近いブルー

ンアイズのことを思い出した。君は黒い鳥を見たかい ? 君は黒 だめだわ、と呟く。僕はグリ ーンアイズはそう言った。この部屋の外で、あの窓の向こうで、黒い巨大 い鳥を見れるよ、グリ な鳥が飛んでいるのかも知れない。黒い夜そのもののような巨大な鳥、いつも見る灰色で。ハン屑 を啄む鳥と同じように空を舞っている黒い鳥、ただあまり巨大なため、嘴にあいた穴が洞窟のよ うに窓の向こう側で見えるだけで、その全体を見ることはできないのだろう。僕に殺された蛾は 僕の全体に気付くことなく死んでいったに違いない 緑色の体液を含んだ柔かい腹を押し潰した巨大な何かが、この僕の一部であることを知らすに 死んだのだ。今僕はあの蛾と全く同じようにして、黒い鳥から押し潰されようとしている。グ ーンアイズはこのことを教えにやって来たのだろう、僕に教えようとして。 プ ーは気が付いてるのか ? 鳥が見えるかい ? 今外を鳥が飛んでるんだろう ? 近俺は知ってるよ、蛾は俺に気が付かなかった、俺は気が付いたよ。鳥さ、大きな黒い鳥だよ、 ーも知ってるんだろう ? ) ュウ、あなた狂ってるわ、しつかりしてよ。わからないの ? 狂ってるわ。 ごまかすなよ、俺は気が付いたんだ。もうだまされないぞ、俺は知ったんだ、ここは 限 どこだかわかったよ。鳥に一番近いとこなんだ、ここから鳥がきっと見えるはずだよ。 俺は知ってたんだ、本当はすっと昔から知ってたんだ、やっとわかったよ、鳥だったんだ。こ

2. 限りなく透明に近いブルー

ーから呑み込まれるような気がする。軍医は女のロを開 ーの目の奧に吸い込まれる、 けて見せ、歯を溶かしてしまったよ、と日本語で言って笑った。リリーはプランデーを取り出す、 あなた正常じゃないわよ、病院連れてってやろうか ? 女ははつかりとあいた穴のような口で何 かわめいていた。リリ ー今ちょっとわけがわからないんだ、ヒロポンあったら打ってくれないか 落ちつきたいんだ。 丿丿ーはプランデーを無理に飲ませようとする。僕はグラスの縁を強く噛んだ、濡れたがラス を透かして天井の灯りが見える、斑点の上にさらに斑点が重なり眩暈はひどくなって吐気がして くる。今なにもないのよ、あの後あのメスカリンの後みんな打ったから、あたしもひどく不安に 一なったからみんな打ったの。 カ痩せた女の尻の間に軍医はいろいろな物を突っ込んで僕に見せた。女はシーツに口紅を擦りつ 近けて呻き僕を睨んでウイスキーを片手に笑い転げる軍医に向かって、ギミーシガーと大声をあげ 本当に何もやってないんだ、あの時とは違うよ、 は僕をソフアに座らせる。 透 ジェット機の時とは全然違うよ。 な あの時はさ、からだの中にいつばい重油が入ってしまったけど、あの時も恐かったけど今は違 限 頁は熱くてたまんないし、寒気がするんだ、どうやって うんだ、からつはなんだよ、何もない豆 も寒気が引かないんだよ。うまく思うように動けないんだ、こうやってしゃべってても変なん

3. 限りなく透明に近いブルー

限リなく透明に近いプルー か、リャカーにみかんをいつばい積んだおばさんとかさあ、花畑や港や火力発電所がね、目に 入ってすぐにまた見えなくなるから頭の中で則に隸い浮かべていたこととしっちゃうんだよ、 わかるか ? カメラのフィルターのことと花畑や発電所が一緒になるんだ。それで俺は自分の好 きなようにその見る物と考えていたことをゆっくり 頭の中で混ぜ合わせて、夢とか読んだ本とか 記慮を捜して長いことかかって、何て言うか一つの写真、記念写真みたいな情景を作り上げるん 新しく目にとび込んでくる景色をどんどんその写真の中に加えていって、最後にはその写真の 中の人間達がしゃべったり歌ったり動くようにするわけさ、動くようにね。すると心すね、必す ものすごくでつかい宮殿みたいなものになるんだ、いろんな人間が集まっていろんな事をやって る宮殿みたいなものが頭の中ででき上がるんだよ。 そしてその宮殿を完成させて中を見ると面白いんだぞ、まるでこの地球を雲の上から見てるよ うなものさ、何でもあるんだから世界中の全てのものがあるんだ。どんな人でもいるし話す言葉 も違うし、宮殿の柱はいろんな様式で建てられていて、全ゆる国の料理が並んでる。 映画のセットなんかよりはるかに巨大でもっと精密なものなんだ。いろんな人がいるよ、本当 にいろんな人が。盲人や乞食や不具者や道化や小人、金モールで飾りたてた将軍や血れの兵士 や女装した黒人やらプリマドンナや闘牛士とかボディビルの選手とか、砂漠で祈る遊牧民とか

4. 限りなく透明に近いブルー

レフト・アローンの最後の曲が終わった。布を裂くような音でレコードはまだ回っている。 「いや、ケイがな、一緒に連れてけってな、富山に行くって一一一一口うわけよ、一人でアパ のいやや言うて。まあそういう気持ちわかるじゃない ? 旅館に泊めたんやけど素泊まりで一一千 円もしたよ、高いなあ」 ステレオのスイッチを消した。レイ子の足は毛布からはみ出て足の裏が黒く汚れている。 「それで葬式の日にさあ、ケイが電話してきて寂しいからちょっと来てくれ一一一一口うんや。行けるわ けないって言うと、しゃあ自殺するからねって驚かすからなあ、行ったよ。汚ない六畳の部屋で 床の間に置いてある古そうなラジオ聞いてたよ。ここら辺はが入らないのねって、富山で 米軍放送が聞けるわけないやないかなあ。おふくろの事をそいでいろいろ聞くわけよ、全くアホ みたいなことをさ。変に作り笑いしてさ気色悪かったよ、ホントに。死んだ時、おふくろが死ん プ だ時どないな顔してたかとか、棺桶に入れる時はやつばり化粧するもんか、とかね。ああ化粧し 近 用たよって言うと、どこのメーカーでやったの ? マックス ? レプロン ? カネボウ ? そんな 透 こと俺知るわけないやろ ? シクシク泣き出しやがって、寂しかったの、なんて泣き出しやがっ てさあ」 限 「でもなあ、俺はケイの気持ちも解るような気がするよ、そういう日に旅館で待つっていうのは なあ、寂しいっていうのが解るよ」

5. 限りなく透明に近いブルー

146 れに気付くためにこれまで生きてきたのさ。 見えるかい ? 鳥だよ、 止めてよ ! 止めてよ、 リュウ、止めてよー ーここはどこだかわかるか ? 俺はどうやってここに来たんだろう。鳥はちゃんと飛んで るよ、ほらあの窓の向こう側を飛んでるよ、俺の都市を破壊した鳥さ。 リリーは泣きながら僕の頬を打つ。 ) ュウ、あなたは狂ってるのよ、それがわからないの ? ーには鳥が見えないのだろうか ーは窓を開ける。泣きなから思いきり窓を開ける、 夜の町が横たわっている。 どこを鳥が飛んでいるって一一一口うのよ、よく見なさいよ、どこにも島なんかいないのよ。 僕はプランデーのグラスを床に叩きつける。 ) 丿ーが悲鳴をあげた、がラスは散らばり床で破 片がキラキラと光る。 あれが鳥さ、よく見ろよ、あの町が鳥なんだ、あれは町なんかじゃないぞ、あの町に は人なんか住んでいないよ、あれは島さ、わからないのか ? 本当にわからないのか ? 砂漠で ミサイルに爆発しろって叫んだ男は、鳥を殺そうとしたんだ。鳥は殺さなきやだめなんだ、鳥を 殺さなきや俺は俺のことがわからなくなるんだ、鳥は邪してるよ、俺が見ようとする物を俺か

6. 限りなく透明に近いブルー

その黒い壁の部分で、細い雨は、はっきりと降っているのがわかる。その屋根の上に灰色の絵 具を何度も重ね塗リしたような重そうな雲に被われた空がある。あの限られた長方形の視界の中 で、その空の部分が最も明るい。 厚い雲は熱を孕んでいる。空気を湿らせ、僕とリ ーに汗を掻かせる。そのためにべとっく皺 の寄ったシーツ。 狭い空を黒くて細い線が斜めに走っている。 恐らく電線か木の枝だろうと思ったが雨が強くなってすぐに見えなくなった。道を歩いていた 人達が荒てて傘をさし走り始める。泥濘るんでいた道には見る間に水溜まりができ、波紋を次々 くりと進んでい に乍りながら広がってい 。白い大きな車が雨を弾きながら道路すれすれにゆっ る。中には外人の女が二人、一人はルームミラーで髪に被せたネットの位置を直し、運転する女 プ れはフロントがラスに鼻をくつつけるようにして前方を注音 ~ していた。 一一人共粉をふく程乾いた肌にべっとリと化粧をしていた。 透 女の子がアイスクリームを舐めながら通り過ぎまた戻って来て中を覗き込んだ。金色の柔かそ ーのバスタオルを取って体を拭き うな髪が頭にびったり貼り付いて、台所の椅子にかかったリリ 限 始める。アイスクリームのついた指を舐めていてくしやみをした。そして顔を上げた時、彼女は イに気付いた。毛布を拾ってからだにかけ、僕は手を振った。女の子は微笑み外を指差す。僕は

7. 限りなく透明に近いブルー

112 るよ、なあケイ、楽しくやれるよ。 おふくろが死んだ時さあ、あれ冷たくしたわけやないんやで、わかってくれよケイおふくろの 方が大事やったわけちゃうんや、とにかくもうおふくろはおらんし、もうケイしかおらんし、 な ? 帰って一一人でまたやり直しゃ。 わかってくれたやろケイ、わかったやろ ? 」 ヨシャマはケイの頬に触ろうとした。ケイはその手を邪険に払い、下を向いて笑う。 「よくあんたそんなこと真面目な顔して言うわね、恥すかしくないの ? みんな聞いてるのよ、 あんたのおふくろどうしたって ? 関係ないわよ、あんたのおふくろなんて知らないもん、関係 ないわよ、あたしはあんたといるともう自分がいやなのよ、わかる ? 自分がたまんなくなるの よ、みじめな気分になるのよ、あんたといると、自分がみじめになってそれが我慢できないの カズオは笑いをこらえている。ヨシャマが話している時口を押さえて必死で笑いをこらえてい た。業と目がムロいケイがまた文句を一一一口、つのを聞いて、こらえきれずに笑いだした。ベルシャ猫 だってさ、何だよ、笑っちゃうよ。 しい ? 一一一一口いたいことあったらねえ、 「ヨシャマ、 いっか質屋に入れたあたしのネックレス出し てから言ってよ。 ノハがくれた金のネックレス出してから言ってよ。それからにしてよ。

8. 限りなく透明に近いブルー

の中に入り込み、全身で暴れて女を歓ばせる小人になったみたいだ。黒人女の肩を擱もうとする。 女は尻を回す速度を緩めすに身を屈め、僕の乳首を血が出るまで噛んだ。 ジャクソンが歌いながら僕の顔に跨がる、ヘイベイビイと平手で頬を軽く叩きながら。ジャク めく ソンの肛門は巨大で捲れ上がりまるで苺のようだと思う。ジャクソンの厚い胸から落ちる汗が顔 にかかりその匂いは黒人女の尻からの刺激をより強める。おい リュウ、お前は全く人形だな、 俺達の黄色い人形さ、ネジを止めて殺してやってもいいんだせ。 歌うようにそうジャクソンが一言うと、耳を塞ぎたくなるような大声で黒人女が笑う。壊れたラ ジオのような大声で笑う。尻を回すのを止めすに笑い続け、唾液がポトボト僕の腹に落ちる。 ジャクソンと女は舌を吸い合う。女の中で死にかけた魚のようにペニスが跳ね回る。からだは女 からの熱で粉をふく程乾燥していく。乾ききったロの中にジャクソンが熱いペニスを差し込んで 斤一 きた。焼けた石のように舌をただれさせる。舌に擦りつけて回しながら、女と一緒に呪文のよう 堋な一言葉をしゃべりだす。英語ではなく意味はわからない。 まるでコンがが打ち出すリズムのよう くな読経だ。黒人女は僕のペニスが痙攣し射精しそうになると尻を浮かせ、僕の尻の下に手を差し 入れて肛門をつねり指を強く押し込んできた。僕が涙を韶めているのに気付くと、さらに深く入 限 れて指を回した。女の両股に白い刺青がある。笑いかけているキリストの像が下手くそに彫られ てある。 いちご ふさ

9. 限りなく透明に近いブルー

なそんな感じだ。 ここでは非現実感そのものが対象化されている。しかも、興味深いのは対象化されたこの非現 実感が逆に現実感を帯びてくることである。現実と非現実のこの転倒が決定的となる段階がその ままこの小説のクライマックスであるといえるだろう。非現実そのものともいうべき幻視と幻聴 に襲われて主人公は絶叫する。 あれが鳥さ、よく見ろよ、あの町が鳥なんだ、あれは町なんかしゃないぞ、あの町 には人なんか住んでいないよ、あれは鳥さ、わからないのか ? 本当にわからないのか ? 漠でミサイルに爆発しろって叫んだ男は、鳥を殺そうとしたんだ。鳥は殺さなきやだめなん だ、鳥を殺さなきや俺は俺のことがわからなくなるんだ、鳥は邪魔してるよ、俺が見ようとす 、鳥を殺さなきや俺が殺されるよ。 る物を俺から隠してるんだ。俺は鳥を殺すよ、 何も見えな 何も見えないよリ どこにいるんだ、一緒に島を殺してくれ、 いんだ。 解「鳥」は異様な現実感をもって主人公に迫ってくる。現実の描写における非現実感とは正反対に なまなましい現実感をもってまばろしの「鳥」が迫ってくる。主人公だけにではない。読者に直 接的に迫ってくるのである。おそらく、ここだけが全篇を通じて唯一現実感を漂わせる箇所であ

10. 限りなく透明に近いブルー

116 「何でインド行かなきゃいけないんだ、そうじゃないよ、ここで十分さ。ここで見るんだ、イン ドなんか行く必要ないよ」 「じゃあで ? いろいろ実験したりするのか ? どうするんだか全然わからんな」 「うん奄にもよくわかってないんだ、自分でもどうしたらいいのかよくわからないからなあ。た だインドなんかには行かないよ、行きたいところなんてないなあ。最近さあ、窓から一人で景色 を見るんだよ。よく見るなあ、雨とか鳥とかね、ただ道路を歩く人間とかね。すうっと見てても 面白いんだ、物事を見ておくって言ったのはこういう意味だよ、最近どういうわけか景色がすご く新鮮に見えるんだ」 「そんな年寄り臭いこと言うなよ、リュウ、景色が新鮮に見えるなんてそれ老化現象だぞ」 「バカ違うよ、俺の言ってるのは違うよ」 「違わないよ、お前は俺よりすっと若いから知らないだけさ、お前な、フルートやれよ、お前フ ルートやるべきだよ、ヨシャマみたいなアホとっき合わないでちゃんとやって見ろよ、はらいっ か俺の誕生日に吹いてくれただろ。 レイ子の店でさあ、あの時うれしかったよ。あの時何かこう胸がムズムズしてきてさ、何とも 言えない気分になったんだ、すごく優しい気分にな。うまく言えないけど喧嘩した奴とまた仲直 りしたみたいなそんな気分さ。あの時俺思ったんだ何てお前は幸せな奴なんだって思ったよ、お