「ジャクソンとはあまり親しくするなって何度も言ってるしゃないの、あの人から睨まれて るのよ、いっか捕まるわ」 若い男かうたっていたテレビを消してー ) ) ーが一言った。 もう終わりにしようぜ、そう言ったオスカーがべランダを開けて傷口に染みるように入ってき た分たい風、僕はあの心臓が凍りつくような新鮮な風を田 5 い出している。 ポプの恋人でタミという女が、みんなまだ裸でぐったりしてる時に入ってきて、ポプに殴りか かり止めようとしたケイと大喧嘩になってしまった。タミのおにいさんは有名なやくざで、タミ はその事務所へ駆け込もうとしたので、仕方なく友達だと聞いたリリー に見得してもら、っためこ こに連れて来た。ついさっきまでタミがそこのソフアに座って殺してやる、とわめいていた。ケ イの爪で脇腹を引っ掻かれて。 モコを後ろから突き上げる。尻を浮かせて蟹を持ったまま顔を歪め、ワインを飲もうとして体を 揺すられ鼻に入れてしまった涙を出してむせ。それを見たケイが大笑いする。ジェイムズ・プ ラウンが歌いだした。レイ子が這ってテープルにたどり着き、ペ。 ハミントワインを一息に飲み干 して、おいしい、と大声をあげた。
108 止めよ、フってことよ、な ? ・ 疲れさせることばっかりやってるやろ ? な ? もう止めよ、つやわ かるやろ ? 聞いてるのか ? ケイ」 「聞いてるわよ、早くしてよ、早く済ませて」 「俺はケイと別れる気はないよ、俺働くし港で沖仲仕やるしさ、横浜やと一日六千円やからなす ごいやろ ? ちゃんとやっていけるよケイにはもう迷惑かけへんよ、俺はケイが他の男とやって もいいんや、クロンボとやっても文句なんか言わんかったやろ ? とにかく相手を疲れさすのだ けは止めよ、こんなこと一言い合っててもしようがないやないか、俺あしたからでも働くよ、俺ち からつよいんやで」 ケイはカズオの肩に回した手をどけようとしない。カズオはヨシャマの目の前でニプロールを 噛んで呑み二人の言い合いをニャニヤして見ている。 オキナワは。ハンツ一枚の姿で体から湯気を出し台所の床に座り込んでヘロインを打った。 レイ子は顔を歪めて手の甲に針を入れ、おいレイ子お前そんなとこに打つのいっ憶えたんだ ? とオキナワに言われ、荒てて僕を見て、リュウによ決まってるしゃないと片目をつぶった。オキ ナワがレイ子に一一一口、つ。 「何かレイ子のは拡がってたぞ」 「変なこと言わないでよレイ子セックス嫌いだもん、オキナワ信じてくれないの ? オキナワと
黒人女は僕の上に座り込んだ。同時にものすごい速さで尻を回し始める。顔を真上に向けて ターザンそっくり の声をだし、オリンピックの映画で見た黒人のヤリ投げ選手みたいに荒い息を して、灰色の足の裏でマットレスに反動をつけ、僕の尻の下に長い手を差し入れ、きつく抱きか かえながら。引きちぎられるような痛みを感して僕は叫び声を上げる。体を離そうとするが黒人 女のからだはグリスを塗った鋼鉄のようにヌルヌルして硬い。痛みにかぶさるように体の中心を きり揉みされるような夬感が下半身に起こる。渦を巻いて頭まで昇り詰める。足の指が焼ける程 熱い。肩がプルプル震え始め、大声を出しそうになる。ジャマイカの原住民が好む血と油で煮っ めたスープのようなものが喉の奥に詰まっていて、それを吐き出したいと思う。黒人女は大きく 息をついてペニスに触れ深く達しているのを確かめて笑い、とても長くて黒い煙草を一服吸う。 その香水を染ませた黒い煙草を僕にくわえさせて、意味のわからない早ロで何か聞き、うなす くと顔を寄せて唾液を吸い、また尻を回し始める。女の股からヌルヌルした液体が出てきて僕の く。しつか 太股と腹が濡れる。回転のスピードがだんだん速くなる。声をだして調子をあげてい りと目を閉し頭を空にして足先に力を入れると、巡る血液と一緒に鋭い央感が全身を駆け、顳頷 に溜まってい 一度からだに起こりこびりついた央感はどこにも出ていかない。火花に触れて 火傷する皮膚と同じに顳類の裏側の頭蓋に貼りつく薄い肉の層が音をたててただれる。そのただ れに気付き感覚をそこに集中すると、体中が全て巨大なペニスになったような錯覚に陥いる。女
あんたが入れたのよ、 ハイミナール買うからって、酔っ払ってあんたが」 ケイは泣きだした。顔がプルプル震えている。カズオはそれを見てやっと笑うのを止めた。 イミナール飲みたい しいって言ったんやないか。ノ 「あ、何言ってるんや、ケイが質入れても ) わって、ケイが先に言ったんやで、ケイの方から質入れようって言ったんやで」 ケイは涙を拭う。 「もう止めてよ、あんたはそういう人よ、もういいわよ。知らなかったでしよう、あたしあの後 泣いたのよ、帰り道で泣いたの知らなかったでしよう。あんた歌うたってたわね」 「何言ってるんや、泣くなよケイ、すぐ出すよ、すぐ出せるよ。沖仲仕やるからすぐ出すよ、ま 一だ流れてへんよ、泣くなよケイ」 カ鼻をかみ涙を拭くと、ヨシャマが何を言ってもケイは返事をしなくなった。カズオにちょっと 近外に出ようと一言う。カズオは足を指差して疲れてるからと断わっていたが、無理に立たせられて、 明まだ涙の溜まっているケイの目を見るとしぶしぶ承知した。 ュウ屋上にいるからあとでフルートでも吹きにきてよ。 ドアが閉まるとヨシャマはケイと大声で呼んだが、外からは何も返事がなかった。 限 オキナワが青い顔をしてプルプル震えながら、コーヒーを三杯入れて持ってきた。揺らして少 し絨毯にこばす。
112 るよ、なあケイ、楽しくやれるよ。 おふくろが死んだ時さあ、あれ冷たくしたわけやないんやで、わかってくれよケイおふくろの 方が大事やったわけちゃうんや、とにかくもうおふくろはおらんし、もうケイしかおらんし、 な ? 帰って一一人でまたやり直しゃ。 わかってくれたやろケイ、わかったやろ ? 」 ヨシャマはケイの頬に触ろうとした。ケイはその手を邪険に払い、下を向いて笑う。 「よくあんたそんなこと真面目な顔して言うわね、恥すかしくないの ? みんな聞いてるのよ、 あんたのおふくろどうしたって ? 関係ないわよ、あんたのおふくろなんて知らないもん、関係 ないわよ、あたしはあんたといるともう自分がいやなのよ、わかる ? 自分がたまんなくなるの よ、みじめな気分になるのよ、あんたといると、自分がみじめになってそれが我慢できないの カズオは笑いをこらえている。ヨシャマが話している時口を押さえて必死で笑いをこらえてい た。業と目がムロいケイがまた文句を一一一口、つのを聞いて、こらえきれずに笑いだした。ベルシャ猫 だってさ、何だよ、笑っちゃうよ。 しい ? 一一一一口いたいことあったらねえ、 「ヨシャマ、 いっか質屋に入れたあたしのネックレス出し てから言ってよ。 ノハがくれた金のネックレス出してから言ってよ。それからにしてよ。
「あなたあの時枕から羽が出てるのを見てたわ、終わってからそれを引っ張り出して、羽って柔 かいんだなって、あたしの耳の後ろや胸を撫でて床に捨てたのよ、意えてる ? ーはメスカリンを持って来た。何してたの一人で ? と抱き寄せ、べランダで雨を見てい たよ、と答えるとそういう話を始めた。 僕の耳を軽く噛んでバッグからアルミ箔に包まれた青いカプセルを出しテープルに置く。 雷が鳴り雨が降り込んでくるのでべランダの戸を閉めるように僕に言う。 ちょっと外を見ていたいんだ。 ( 」さい頃雨見なかった ? 外で遊べなくてさ、窓からよく雨を 見たよ、 しいもんだよ。 「リュウ、あなた変な人よ、可哀想な人だわ、目を閉じても浮かんでくるいろんな事を見ようつ プ てしてるんじゃないの ? うまく言えないけど本当に心からさ楽しんでたら、その最中に何かを 叟したり考えたりしないはすよ、 ( う ? あなた何かを見よう見ようってしてるのよ、まるで記録しておいて後でその研究する学者みた いにさあ。小さな子供みたいに。実際子供なんだわ、子供の時は何でも見ようってするでしょ ? 限 赤ちゃんは知らない人の目を」しっと見て泣き出したり笑ったりするけど、今他人の目なんかしつ と見たりしてごらんなさいよ、あっという間に気が狂うわ。やって見なよ、通り歩いてる人の目
たケーキの包み紙、パン屑、赤や黒や透明の爪、花びら、汚れているちり紙、女の下着、ヨシャ マの乾いた血、靴下、折れた煙草、グラス、アルミ箔の切れ端、マヨネーズの瓶。 レコードジャケット、フィルム、星形の菓子、注射器のケース、本、本はカズオが忘れていっ たマラルメの詩集だ。僕はマラルメの背表紙で、黒と白の縞模様がある蛾の腹を押し潰した。蛾 は脹らんだ腹から体液が漏れる音とは別の小さな鳴き声をだした。 「リュウ、あなた疲れてるのよ、変な目をしてるし、帰って寝た方がいいんじゃない ? 蛾を殺した後、妙に空腹を感して冷蔵庫にあった食べ残しの冷たいローストチキンを齧った。 それが完全に腐っていて、舌を刺す酸味が頭の中にまで拡がった。喉の奥に詰まったねばっく塊 を指で出そうとした時、寒気が全身を包んだ。殴られたような激しい寒気だった。鳥肌がどんな に擦っても首筋にすっと残り、何度うがいをしてもロの中が酸つばく、歯茎がヌルヌルした。歯 の隙間に引っ掛かった鳥の皮がいつまでも舌を痺れさせた。吐き出したチキンは唾液に塗れ、 ロドロになって流しに浮いた。流しの排水孔には角切りの小さなしやがいもが詰まって、表面に 油が渦を巻く汚ない水が溜まっていた。そのヌルヌルして糸を引くじゃがいもを爪で挾んで取り 出すと、水がようやく減り始め、鳥肉の屑は円を描いて穴に吸い込まれていった。
ら甘えてるわ。 カズオがニコマー トにストロポをつけてケイを写す。ストロボの閃きに床にグッタリと横に なっていたモコが顔をあげた。あら、カズオあんた止してよ、断わりなしに写真撮らないでよ。 これでもあたいギャラ取ってるプロなのよ、何 ? そのピカッて光るやっ、白けるわねえ、あた い写真なんて大嫌い、そのピカピカ光るやつやめてよ、だからあんたもてないのよ。 レイ子が苦しそうに呻いて体を半転させロの端からドロリとした固まりを吐く。ケイが慌てて さす 駆け寄り、新聞紙を敷き口をタオルで拭って背中を擦ってやった。汚物には米粒がたくさん混 じって、夕方一緒に食べた焼飯だと思う。新聞紙に溜まった薄茶色の表面に天井の赤いライトが 反射している。レイ子は目を閉してブップッ何か言っている。帰りたいなレイ子、帰りたい、帰 ボタン りたいなあ。ヨシャマが倒れていたモコを起こしてワンピースの胸の釦を外しながら、そうなん やこれからの沖縄は最高やからなあ、とレイ子の一人言に相槌を打つ。モコは乳房を擱もうとし たヨシャマの手を払い、カズオに抱きついて、ねえ写真撮ってよ、と例の甘い声を出す。あたし リュウ、あなた見たで アンアンに出てるのよ、今度のやつのモデルでさあ、カラーよ、ねえ、 しょ ? ・ ケイはレイ子の唾液で汚れた指をデニムのズボンでこすって拭き、新しいレコードに針を落と す。ィッツ・ア・ビューティフル・ディ。レイ子ったら甘えてるんだわ。カズオは足を大きく拡
リーはモデルをやっていたそうだ。 毛皮のコートを着た写真が額に入れて壁にある。何百万もするチンチラだと教えてくれた。い つか寒い頃にヒロポンを打ちすぎて死人のような青白い顔で僕の部屋に来たことがある。ロのま わりに吹出物を作って、がタがタ震え、ドアを開けるなり倒れ込んできた。 ねえ、マニキュア落としてよ、べタベタして気持ち悪いの、抱き起こすと確かそういう事を言 った。背中の大きくあいたドレスを着ていて、真珠のネックレスがヌルヌルする程全身に汗を掻 いていた。除光液なんかなかったのでシンナーで手と足の爪を拭き取ってやると、ごめんね、店 でちょっとイヤな事があったのよ、と小さな声で言った。足首を握って爪をこすっている間、 リーは肩で息をしながらすっと窓からの景色を見ていた。僕はドレスの裾から手を入れキスしな ンティを足先にひっかけ、椅 がら太股の内側の冷たい汗に触れ、。ハンティを降ろそうとした。パ プ 子の上で大きく足を開げたリリーは、あの時テレビが見たいと言いだした。マーロン・プランド 斤一 用の古いやつやってるはすよ、エリア・カザンのやつ。手の平についた花の匂いのする汗は、長い こと乾かなかった。 「リュウ、あなたジャクソンのハウスでモルヒネ打ったでしよう ? おとといよ」 限 リリーは冷蔵庫から桃を出してきて皮を剥きながら僕に言う。足を組んでソフアに身を沈めて いる。僕は桃を断わった。
87 限りなく透明に近いプルー 「あの、煙草喫ってもいいですか ? 」 カズオがそう聞いたが、眼鏡の奴がまあ止めとけ、と抜いて指に挾んでいた一本を取り上げて に戻した。レイ子がモコに下着をつけてやる。モコは真青になって震えながらプラジャーの ホックをとめる。 込み上げてくる吐気を我慢して僕は聞いた。 「何かあったんですか ? 」 三人は顔を見合わせ声を出して笑った。 いいか ? 人前でなあ、尻なんか出すとだめなんだよ、わ 何かあったって、お則よく言うよ、 かんないかも知れないけどなあ、大とは違うんだ。 お前らも家族いるんだろ ? そんな格好して何も言わないのか ? 平気なんだろ、え ? 知っ てるぞお前ら平気で相手を取り換えてやるんだってな。おいお前、お前なんか自分のオヤジとで もやるんしゃねえのか ? お前だよ。 大声でケイに向かって言う。ケイは目に涙を溜めている。ケッ ハカ野郎、くやしいのか。 モコはずっと震えが止まらないらしくて、シャツの釦をレイ子が瞋めてやった。 台所 ! こ行こうとしたケイを、太った警官が腕を擱んで制した。