部屋 - みる会図書館


検索対象: 限りなく透明に近いブルー
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1. 限りなく透明に近いブルー

以来からだおかしくて店にも出てないのよ。車の修理もしなきやだし、あれひどく引っ掻いたも のねえ、衝突のところはヘっこんでなかったけど、今塗装高いから本当に困るわ。でももう一度 やってみたいね、リュウ」 ) ) ーが一一一一口う。その声が曇っている。古い映画を見ているような、遠 ソフアから立ち上がってー ーが長い筒でも使って声を送ってきているような感じだ。今ここにいるのは、ロだ の人形で、すっと以前に録音されたテープが回っているようなそんな感 けを動かす精巧なリリー し・ 0 僕の部屋でからだを被った寒気は、どうやっても消えなかった。セーターを出して着ても、べ ランダの戸を閉めカーテンを引いても、汗は出てきたが寒気はすっと残ったままだった。 閉めきった部屋では風の音が小さくなり、耳鳴りだけが聞こえるようになった。外が見えなく なると閉じ込められている感しになった。 外など気にかけていなかったけれど、まるですっと見ていたかのように道路を横切る酔っ払い や、走っていく髪の赤い女や、走る車から投げられる空罐や、黒々とのびるポプラや、夜の病院 の影と星が不思議にありありと目に浮かんできた。同時に外界と遮断され自分が切り捨てられた ような気になった。部屋にいつもとは違う気体が充ちて、息苦しさを感じた。煙草の煙が上がり どこからかハターの隹 ~ げる . 匂いかした。

2. 限りなく透明に近いブルー

限りなく透明に近いプルー 何も答えず突っ立っている僂を押しのけて、先頭の二 -< が部屋に入って来る。ケイやレイ子が 寝ているのを構わずに、べランダの戸の前に腕を組んで立ち、乱暴にカーテンをあけた。 ケイがその音と差してきた強い光に跳ね起きる。逆光の警寂呂はとても大きく見えた。 一人玄関先に残った年配の太った男は、散らばっている靴を足先でどけてゆっ くりと上がって いや令状ないけどね、別にどうってことないだろ ? 君の部屋なのか ? そうだな ? 僕の腕を擱んで注射の跡を調べる。 君学生か ? 太っている男の手は指が短く爪が汚れている。それ程強く掴んでいないのに僕は 振り解くことができなかった。 朝日を浴びて無造作に僕を捕えた男の手を、僕は生まれて初めて手というものを見るように眺 めた。 部屋でははとんど裸に近い格好をしていたみんなが、急いで服を着ているところだ。若い二人 は顔を寄せてひそひそ話している。豚小屋とかマリファナとかいう一一一口葉がここまで聞こえる。 早く服着なさい、はら、君ズボンはいて。 ケイは。ハンティ一枚のままでロを尖らせ、太った警察官を睨みつけている。ヨシャマとカズオ 一」わば は硬張った顔付きで窓際に立ち、目を擦りながら警官に注意されて、鳴っていたラジオを止めた。

3. 限りなく透明に近いブルー

そ、つ一一口った。 カズオはそれに答えす、ストロポがどっかいっちゃったんだよ、誰か隠したりしてない ? と 眠そ、つな声で言った。 ジャクソンはまたいっかのように僕に化粧するよう言った。あの時俺はフェイ・ダナウェイが 遊びに来たのかって田 5 ったぞ、リュウ。 サプローがプロのストリツ。、 ノーからもらったという銀色のネグリジェを着る。 オスカーの部屋に集まる前に、全然知らない黒人がやって来て何かわからないカプセルを百錠 近く置いていった。ジャクソンにか厚生省のメンしゃないかなと聞いたが、首を振って笑 いなから、そりや、グリ ーンアイズだ、と答えた。 緑色の目してただろう ? 誰も本当の名前は知らないんだ、昔高校の先生やってたって聞いた けど本当かどうかそれもわからん。グリ ーンアイズは狂ってるんだ、どこに住んでるのか家族も いるのかどうか、ただあいつは年よりすっと古いな、すっと前から日本にいるらしいな。チャ リ・ミンカスに以てただろう ? 丿ュウの噂を聞いて来たんだろうよ、何かお前に言ったのか ? その黒人はとても法えた顔をしていた。これだけやるよあんたに、そう言って部屋をキョロ

4. 限りなく透明に近いブルー

大のように絨毯を這い転がって一人一人くわえて回る。 サプローと呼ばれる日本人との混血児のが最大とわかって、ベルモット スを記念に尿道に刺し込む。 リュウ、あんたの二倍はあったわよ。 サプローは上を向いてインディアンのように叫び、ケイは刺したコスモスをまた歯に挾んで抜 き取り、スペインのダンサーみたいにテープルに上がって尻を振る。青のストロポが天井で点滅 し回転している。音楽はルイス・ポンフアのゆったりとしたサンバ、ケイは濡れたコスモスに欲 情して激しく体を震わせる。 誰かあたいをやってよ、早くやってよ。そう英語で叫んだケイに、黒い腕が何本も伸びてソ フアに引き倒しスリップを破り、小さくなった黒い半透明の布はクルクル舞って落ちてくる。ね え蝶々みたいねえ。その一枚を取って、レイ子はそう言い、ダーハムのペニスにバターを塗り付 けている。ポプがケイの股に叫び声をあげて手を突っ込んでから、部屋は悲鳴とかん高い笑い声 に包まれた。 ミントワインを 部屋のあちこちでからだをくねらせる三人の日本人の女を見ながら、僕はペバ 飲み、蜂蜜を塗ったクラッカーを食べる。 黒人達のペニスは長く、そのために細く見える。最大限に勃起した時でもレイ子が曲げるとか の空瓶にあったコスモ

5. 限りなく透明に近いブルー

オスカーの部屋では中央に拳程もあるハシシが香炉で焚かれ、立ち込める煙は呼吸のたびに否 応なく胸に入ってくる。三十秒もたたないうちに完全に酩酊する。からだ中の毛穴から内臓がド ロドロと這い出し、他人の汗やら吐く息が入り込んでくるような錯覚に陥いる。 ただ 特に下半身は重い沼につかったように爛れ、ロは誰かの器官をくわえたくて、体液を飲み込み たくてムズムズしている。皿に盛られた果物を食べワインを飲むうちに、部屋全体が熱に冒され 始めて、自分の皮膚を引き剥がして欲しいと思う。ツルツルした油にまみれている黒人達の肉体 プ を体内に入れて揺すりたいと感じている。チェリーの載ったチーズ。ハイ、黒い手の平を転がる葡 近 萄、でられて湯気をたてピクンと跳ねる蟹の足、薄紫色に澄みき「たアメリカ製の甘いワイン、 疣が全体を被った死人の指に見えるピクルス、女の唇と舌のように重なり合っているパンとべー りコン、サラダに垂らされるピンク色のマヨネーズソース。 限 ポプの巨大なペニスをケイは喉の奧までくわえ込んだ。 誰のが一番でかいか比べるわ、 レイ子は真剣な表情で眉を描きながら、切符に鋏を入れる駅員に答えた。 「今からわ。ハーティーなのよ、

6. 限りなく透明に近いブルー

142 フラワーが吊るされたところどころに染みのあるクリーム色の天井、直線になって降りている電 線をくるんだ布製のコード、 その捩れたコードの下で揺れている閃めく光の球、球の中には水品 のような塔がある。塔はものすごい速さで運動している、目が焼けるように痛くて閉じると笑っ ている何十人という人間の顔が見えて息が詰まる。一体どうしたって言うのよ、おどおどして、 気でも狂ったの ? ) 丿ーの顔に赤い電球の残像が重なる。残像は熔けていくがラスのように拡 が赤い斑 がったり捩曲がったりして砕け、斑点になって視界の端から端へと散ってい 点のある顔で近づき僕の頬に触れる。 ね、何で震えてるの ? 何か言ってよ。 ある男の顔を思い出す、あの男の顔にも斑点があった。昔、田舎で叔母さんの家を借りていた アメリカ人の軍医の顔。リュウ、鳥肌たてて本当にどうしたの ? 何か言ってよ恐いわ。 軍医は叔母さんの使いで家賃を取りに行く僕に、猿みたいに痩せて毛の濃い日本人の女の股を いつも見せてくれた。大丈夫だよリリー 大丈夫さ、何でもないんだ、ただちょっと落ちつかな くてさ、 ーティーが終わるといつもこうなるんだ。 軍医の部屋、先端に毒が塗られたニューギニアの槍が飾ってある部屋で、厚化粧の日本人の女 は足をバタバタさせて股を見せた。 ラリっているのね ? そ、つでしよう ?

7. 限りなく透明に近いブルー

レイ子は壁の前でハントノ ・ヾッグを掻き回し、ヘアプラシを捜し出して髪を直す。眼鏡をかけた警 穴飛呂がハントノ ・ヾッグを取り上げて中身をテープルにばら撒く。 ああ何すんのよ、やめてよ。 レイ子が小さい声で抗議すると、フンと鼻を鳴らしただけで無視した。 モコはぐったりとべッドで裸のまま起きようとしない。汗で濡れた尻を光にさらしている。若 い警官はモコの尻からはみ出た黒い毛をじっと見ている。僕はモコに近寄り、起きろ、と肩を揺 すって毛布をかけてやった。 君、ズボンはきなさい、何だその目は、え ? ケイは何か低く言って横を向いたが、カズオが ジ ー。ハンを投げて渡すと、舌打ちして足を通した。ケイは喉をプルプル震わせている。 三人は腰に手をやって部屋を見回し、灰皿の中を簡単に調べる。モコがやっと目を覚まし、 や、何よ、この人達どうしたの ? と縺れた舌で言い、警官がクスクス笑う。 お前らな、あまりかってやるなよ、困るんだよ、みんなが昼間つから裸でウロウロしやがって、 ーしし力も知れんが、恥すかしい人間もいるんだからな、お前らと違ってよう。 しぶき 年配の警官がべランダの窓を開ける。シャワーの飛沫そっくりの埃が流れ出てい 朝の町は眩しくて濁って見える。通りを走る車のバンパーが光り僕は吐気を感じた。 警官達はこの部屋の中で僕達より一回り大きく感じる。 もっ

8. 限りなく透明に近いブルー

プ 近柱に蛾が止まっている。 明 最初染みかと思ったが、しっと見ていると、かすかに位置をすらした。灰色の羽に薄すらと産 毛が生えている。 みんな帰っていった後の部屋はいつもより暗く感じる。光が弱くなったのではなくて、光源か 限 ら僕が遠去かったようだ。 が買ってき 床にいろいろ落ちている。絡まって丸くなった髪の毛、きっとモコの髪だ。リリー 旅費なんかやらないよ。もうへロインないんだから苦しみ抜いてレイ子に泣いて頼みなよ。また 泣いて頼みなよ、金貸してくれって、千円でいいからって頼んでみなよ、一円だってやらないよ もう。あんたこそ冲に帰りなよ」 オキナワはまた横になって、かってにしろと呟き、おいリュウ、フルート吹けよ、そ、つ僕に一言 「フルート吹く気分しゃないって言ったろ ? 」 ヨシャマはもう何も言わすにテレビを見ている。ケイはまだ少し痛むらしくニプロールを噛 む。テレビでピストルの音がしてゴッホが首を折り、ああやりやがった、とヨシャマが呟いた。 うぶ

9. 限りなく透明に近いブルー

限りなく透明に近いプルー 「何やってるの ? 」太股の血を爪で剥がしながらリ丿ー 「ねえ、こっちおいでよ」 とても甘い声だ。 ゴキプリの腹からは黄色い体液が出た。調理台の縁に潰れてこびりつき、触角はまだかすかに 市一いている。 丿丿ーはバンティを足から抜いてもう一度僕を呼んだ。絨毯の上に「。ハルムの僧院」が投げ捨 ててある。 イの部屋は酸つばい匂いで充ちている。テープルの上にいっ切ったのか思い出せないパイナッ プルがあって、匂いはそこから出ていた。 切り口が黒すんで完全に腐れ、皿にはドロドロした汁が溜まっている。 ヘロインを打っ準備をしているオキナワは、鼻の頭にびっしりと汗を掻いている。それを見 て、 ーが言った通り本当に蒸し暑い夜だと思った。湿った・ツ・ へトの上で重くなっているはす リリーはそ、つ一一一一口い続ナた。 の体を揺すりながら、ねえ暑くない ? きようとても暑いわ、 「ねえリュウ、このヘロインい くらした ? 」 か断く

10. 限りなく透明に近いブルー

102 ここからは鳥の目が見えない。僕は円い縁どりだけの鳥の目が好きだ。頭に冠のような赤い羽 をもっ灰色の鳥。 僕はまだ捨てていないハイナップルを島にやろうと考えた。 雲が東の方で切れて光が差してくる。空気は光に触れると白く濁る。一階のべランダの戸がが ラがラと開くと、鳥はすぐに飛び立った。 部屋に戻りパイナップルを持ってくる。 「あの、これ島にやろうと思うんだけど」 顔を出した優しそうな夫人にそう言うと、ポプラの根元を指差し、あそこに置いとくとよく突 つくわよ、と教えてくれた。 放り投げた。ハイナップルは地面に落ちて潰れ形がくすれたが、それでもゆっ くりと転がってポ プラの脇に止まった。ヾ ノイナップルが地面に落ちた音は、きのうのトイレでの私刑を思い出させ る。 アメリカ人の夫人はプードルを連れて散歩に出ようとしている。パイナップルを見て眩しいの か手を目の上にかざして僕を見上げ、鳥が喜ぶと思うわ、とうなすいて笑った。