終り - みる会図書館


検索対象: 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻
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1. 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻

妙なものだな。最後に何て一一一一口えばいいのかかわからない。 いつけないんだ」 僕はもう一度帽子を脱いで雪を払い、かぶりなおした。 「幸せになることを祈ってるよ」と影は言った。「君のことは好きだったよ。俺が君の影だ とい、つことを抜きにしてもね」 「ありがとう」と僕は言った。 たまりがすつほりと僕の影を呑みこんでしまったあとも、僕は長いあいだその水面を見つ 終 のめていた。水面には波紋ひとっ残らなかった。水は獣の目のように青く、そしてひっそりと 界 していた。影を失ってしまうと、自分が字宙の辺土に一人で残されたように感じられた。僕 世 はもうどこにも行けず、どこにも戻れなかった。そこは世界の終りで、世界の終りはどこに も通じてはいないのだ。そこで世界は終息し、静かにとどまっているのだ。 僕はたまりに背を向けて、雪の中を西の丘に向けて歩きはじめた。西の丘の向う側には街 があり、 川が流れ、図書館の中では彼女と手風琴が僕を待っているはずだった。 降りしきる雪の中を一羽の白い鳥が南に向けて飛んでいくのが見えた。鳥は壁を越え、雪 に包まれた南の空に呑みこまれていった。そのあとには僕が踏む雪の軋みだけが残った。 の きりの・艮いことばがど、つしても田

2. 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻

鳥が飛んでいるのが見えた。鳥は白く凍った西の丘の斜面すれすれに飛んで、僕の視界か ら消えていった。 終 の僕はストーヴの前で手と足をあたためながら、老人のいれてくれた熱い茶を飲んだ。 界 「今日も夢読みに行くのかね ? このぶんじや相当に積ることになるし、丘を上り下りする 世 ーしかないのかね ? と老人は言った。 のは危険だ。仕事を一日休むというわけによ、 「今日だけはどうしても休むわけによ ーいかないんです」と僕は言った。 ゆきぐっ 老人は首を振って出ていったが、やがてどこかから雪靴をみつけてきてくれた。 「これをはいていきなさい。これなら雪道でもすべらんですむ」 僕はそれを試してみたが、サイズはびったりとあっていた。良い兆候だ。 時間が来ると僕は首にマフラーを巻き、手袋をはめ、老人の帽子を借りてかぶった。そし てふうきん て手風琴を折り畳んでコートのポケットに入れた。僕はその手風琴が気に入っていて、一刻 たりともそれを身から離したくないような気になっていたのだ。 世界の終り 頭骨

3. 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド もの第一回路に戻った」 「それが違うです」と博士は言って、首のうしろをほりほりと掻いた。「そういけば事は簡 単ですが、そうはいかんのです。第三回路には自動閉鎖機能がないのです」 「じゃあ僕の第三回路は開きつばなしになっているのですか ? 「まあそういうことですな」 「でも、僕は今こうして第一回路に従って思考し、行動していますよ」 せん 「それは第二回路に栓をしてあるからです。図にするとこういう仕組になっておるです」と 博士は言って、ポケットからメモとポ 1 ルペンをとり出して図を書き、それを私に手わたした。 0 0 0 ー咋び T lMPuT 3 JMPvT 2 ぐル ( ロ 0 Ⅳ 6

4. 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻

ードボイルド・ワンダーランド ( 着衣、西瓜、混沌 ) 肥世界の終り ( 世界の終りの地図 ) ードボイルド・ワンダーランド ( フランクフルト、ドア、独立組織 ) 世界の終り ( 森 ) ードボイルド・ワンダーランド ( ウイスキー、拷問、ツルゲーネフ ) 世界の終り ( 冬の到来 ) ードボイルド・ワンダーランド ( 世界の終り、チャーリー 世界の終り ( 夢読み ) ードボイルド・ワンダーランド ( ハンバーガー、スカイライン、デッドライン ) 世界の終り ( 獣たちの死 ) ードボイルド・ワンダーランド ( プレスレット、 カット ーカー、時限爆弾 ) べン・ジョンソン、悪魔 )

5. 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻

ードボイルド・ワンダーランド ( ポップコーン、ロード・ジム、消滅 ) ・ 和世界の終り ( 鳥 ) ・ ( 上巻 ) ードボイルド・ワンダーランド ( エレベーター、無音、肥満 ) 世界の終り ( 金色の獣 ) ードボイルド・ワンダーランド ( 雨合羽、やみくろ、洗いだし ) 4 世界の終り ( 図書館 ) ードボイルド・ワンダーランド ( 計算、進化、性欲 ) 世界の終り ( 影 ) ードボイルド・ワンダーランド ( 頭骨、ローレン・ ハコール、図書館 ) 8 世界の終り ( 大佐 ) ードボイルド・ワンダーランド ( 食欲、失意、レニングラード ) 世界の終り ( 壁 )

6. 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻

世界の終り ( 灰色の煙 ) : っ 0 、 ードボイルド・ワンダーランド ( 穴、蛭、塔 ) : 幻世界の終り ( 影の広場 ) : ードボイルド・ワンダーランド ( 食事、象工場、罠 ) ・ 世界の終り ( 発電所 ) ・ ードボイルド・ワンダーランド ( 百科事典棒、不死、ペー 世界の終り ( 楽器 ) : ードボイルド・ワンダーランド ( 湖水、近藤正臣、パンティー 世界の終り ( 穴 ) ・ ・クリップ ) ・ ・ストッキング ) ・ : 一七九

7. 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻

ードボイルド・ワンダーランド ( 改札、ポリス、合成洗剤 ) ・ 世界の終り ( 死にゆく影 ) : ードボイルド・ワンダーランド ( 雨の日の洗濯、レンタ・カー、ポプ・デイラン ) : 世界の終り ( 頭骨 ) : 5 、 ードボイルド・ワンダーランド ( 爪切り、バター 6 っ 0 世界の終り ( 手風琴 ) ・ ードボイルド・ワンダーランド ( 光、内省、清潔 ) ・ 世界の終り ( 脱出 ) : ・ソース、鉄の花瓶 ) ・ : 三 0 七 : 一九 0

8. 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻

世界の終りと ハードホイルド・ ワンターランド 村上春樹 世界の終りと ードボイルド・ワンダーランド ( 下 ) 9 7 8 41 01 0 01 5 5 7 く私〉の意識の核に思考回路を組み込 んだ老博士と再会したく私〉は、回路 の秘密を聞いて愕然とする。私の知 らない内に世界は始まり、知らない 内に終わろうとしているのだ。残さ れた時間はわずか。く私〉の行く先は 永遠の生か、それとも死か ? そし て又、〔世界の終り〕の街からく僕〉は 脱出て、きるのか ? 同時進行する一 つの物語を結ぶ、思外な結末。村上 定価 : 本体 514 円 ( 税別 ) 春樹のメッセージが、君に届くか ! ? 新潮文庫 村上春樹の本 螢・納屋を焼く・その他の短編 世界の終りとハードボイルド・ ワンダーランド ( 上・一ド ) 雨天炎天 村上朝日堂はいほー ねじまき鳥クロニクル 第 1 部泥棒かささぎ編 ねじまき鳥クロニクル 第 2 部予言する鳥編 ねじまき鳥クロニクル 第 3 部鳥刺し男編 村上春樹 の本 安西水丸 象工場のハッヒ。ーエンド 村上朝日堂 村上朝日堂の逆襲 日出る国の工場 ランゲルハンス島の午後 1 9 2 01 9 5 0 0 5 1 41 ( 下 ) I S B N 4 ー 1 0 ー 1 0 0 1 ろ 5 ー 9 C 0 1 9 5 \ 5 1 4 E てい む 5 5 カ 新潮文庫 司 修 カバー印刷錦明印刷デザイン新潮社装幀室 \ 5 1 4

9. 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻

ることに対してね。おそらく私たちをつかまえたらひどい目にあわせることでしようね。だ から私から離れちゃ駄目よ。少しでも離れたら暗闇から腕がのびてきてあなたをどこかにひ きずりこんじゃうでしようからね」 我々はお互いを結びつけたロープをずっと短かくし、五十センチほどの距離を保てるよう ドにした。 ラ「注意して。こっちの壁が失くなってるわ。と娘が鋭い声で言って、ライトを左手に向けた。 / 彼女の言うように左側の壁はいつの間にか消え失せ、そのかわりに濃密な闇の空間がその姿 ワ を見せていた。光は矢のように一直線に闇を貫き、先の方でより深い闇にすつほりと呑みこ ・つ「一め ルまれていた。闇はまるで生きて呼吸をし、蠢いているように感じられた。・ セリ 1 のよ、つにど んよりとした不気味な闇だった。 「聞こえる ? と彼女が訊いた 「聞こえるよ」と私は言った。 のやみくろの声は今では私の耳にもはっきりと聴きとれるようになっていた。しかし正確に 世言えば、それは声というよりはむしろ耳鳴りに近かった。闇を切りすすみ、ドリルの刃のよ うに鋭く耳を突く、無数の羽虫のうなりだった。それはあたりの壁に激しく反響し、私の鼓 膜を妙な角度にねじ曲げていた。私はそのまま懐中電灯を放りだし、地面にしやがみこんで ぞうお 両手でしつかりと耳を塞いでしまいたかった。まるで体じゅうの神経という神経に憎悪のや すりをかけられているような気がしたのだ。 158 だめ ふさ

10. 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻

なく、何の余韻もなく、長いあいだ地を圧するかのごとく地の底から吹きあげていた耳ざわ りな空気音は一瞬のうちにかき消えてしまったのだ。それは音が消えるというよりは、その 音を含んでいた空間自体がすつほりと消滅してしまったような感じだった。その消え方があ まり唐突だったせいで、私は一瞬体のバランスを崩し、危く足をすべらせてしまうところだ おお 耳が痛くなってしまいそうなほどの静寂があたりを覆った。暗黒の中に突然出現した静寂 ン はどのような不央で不気味な音にもまして不吉だった。音に対しては、それがどのような音 ンであれ、我々は相対的な立場を保つことができる。しかし沈黙はゼロであり、無である。そ ワ れは我々をとりかこみながら、しかもそれは存在しないのだ。私の耳の中に空気の圧力が変 ばくぜん レ化するときのような漠然とした圧迫感が生じた。私の耳の筋肉が突然の状況の変化にうまく 対応できず、その能力のパワーを上げて、沈黙の中に何かしらの信号を読みとろうとしてい るのだ。 しかしその沈黙は完全だった。音は一度途切れたきり、二度とは浮かびあがってこなかっ た。私も彼女もそのままの姿勢で静止し、沈黙の中に耳を澄ませた。私は耳の圧迫感をとる つばの ためにロの中の唾を呑みこんでみたが、あまり効果はなく、プレイヤーの針をターンテープ ルのかどにぶつつけたときのような不自然に誇張された音が耳の中に響きわたっただけだっ 、」 0 「水は引いてしまったのかな ? 」と私は訊いてみた。