んです」 ーーーー牛は、その、乳を搾られることをどういう風に感じているんでしようね ? 菊池「やつばし人間がね、必要に応じて乳をはらせているんであって、牛としては子供育 てるわけじゃないから、苦痛であるわけですよ、はっている状態は。だから搾られると楽に なるわけですよね。そういう意味では早く搾ってほしい、 と。ここの土ーロはこ , つい , っ風に半・ をみんなつないでますけど、放牧しているシステムなんかだと、搾る時間になると牛はもう 自分から寄ってきますね。搾ってほしいということで」 工 牝牛にも良い顔、悪い顔つてあるんでしようか ? の 国菊池「ありますねえ。牛らしい顔立ちってのがあるわけですよ、やはり。たとえばこれな 出んか ( と近くにいる研ナオコ風の顔立ちの牝牛を指さす ) 、あんまり良くない、顔から見て あいきよう もね。愛嬌はあるけれども、ちょっとね。あと、尻なんかもこう丸っこくなっていると : 肉牛ならいいんですけれどね。乳牛の場合はむしろ鋭角的な、そういう方がね : : : 」 搾乳牛舎における牛たちは徹底した管理体制のもとに置かれている。牛たちはスタンチョ ンという上下に細長い首輪につながれている。その上には〈カウ・トレーナー〉と呼ばれる ギザギザ型の金属がぶら下がっているが、この金属には一〇〇ポルトの電流がとおっていて、 牛が背中を丸めるとびっと電流が牛の体に流れるようになっている。なぜそういうことをす るかというと、牛というのは生まれつき糞・小便をするときに背中を丸めるクセがあって、 138 ふん
まえが 島、行くそ」 おれ 「ケイコさん、俺やるよ」「ちゃんと働くからね、ケイコさん」と宮田くん、中島くんも 口々に一一一一口う。そして機械は再びゴトゴトと勢いよく動きはじめる : ・・ : というのが僕のイメー ジする性欲工場なのだけれど、こういうイメージには個人差がけっこうあるから、正確かと 訊かれるとなんとも一一一口えないですね。ただこういう風にいろんなことを考える習慣がある とい、つことです。 。カナ たとえば小説を作りだす工場はどんな工場だろう、哀しみを作りだす工場はどんな工場だ ろう ( 詩的な言いまわしですね ) 、大型間接税や実存主義やことなかれ主義や青山学院大学 の学長を作りだすのはどんな工場だろう、そしてそこではどんな人々がどんな風に働いてい るのだろうと僕はついつい考えてしまうし、ときにはわりに細かくそれを検証してみたりす る。 そういう意味では、この本でとりあげた一連の工場の選択は全て好奇心によってなされた といっても、 しいだろう。僕が「 xx はいったいどういう工場でどんな風に作られているんだ ろう ? 」とふと思ったものを順番に訪ねていったら、結局このようなライン・アップになっ てしまったわけだ。 ①人体標本工場 ⑦結婚式場 ( 本当は結婚式場のキッチンを取材するつもりだったのだが、いざ現場に行っ すべ
える。耳をつけたら、これはもう「カステラ一番、電話は二番」の人形である。無塵服は一 せんたく 度着ると特別なクリーニング店に送られ、そこでホコリがっかないように特殊な洗濯をされ、 もど ビニール・パックされて戻ってくる。 ) はっと 本当は女性のお化粧も粉が飛ぶから御法度なのだが、「それくらいやったら、まあいいで しょ , つ」とい , っことで、みどりき、んはバスする 工場の人の話だと「この前みえたさん ( を紹介してくれたオーディオ評論家 ) はこの 無塵服がお気に召したらしくて、一式持って帰らはりました」ということだけれど、世の中 ズ オにはまあいろんな人がいる。いったいこんなもの何に使うつもりなんだろう、と思うのだけ ウ れど、たしかに一度この。フルーのナイロンのスーツに身を包んでしまうと、けっこう気持が ク テよくなっちゃうから不思議である。こういうの着て六本木のディスコに行ったら意外に世紀 末的に受けたりしてね。 無塵服に身を包んでしまうと次はエア・シャワー室に入る。ェア・シャワー室というのは ドアとドアにはさまれた狭い空間で、我々は工場に入る前にいわば通過儀礼として一人すっ ここに立ち、風を浴びてホコリを吹きとはすことになる。念には念を入れるわけだ。入口の ドアを閉めて部屋の中央部に立っとまわりから風が吹き出してくるので、両手を上にあげて や くるりとまわり、最後に体をバタバタとはたく。約一〇秒で風が止むので、出口のドアを開 けて外に出る。外に出ると、そこはもう OQ 工場である。
しかしこうしてひとつひとつみると頭の形ってデコボコなんですねえ。 工場の須貝さん「ええ、全然左右対称じゃないんです。ひどい人はペッチャンコで、それ でゆがんでいたりして」 髪があるうちはわからないけど、なくなっちゃうと人の頭というのはすごくあやうい ものなんだなという気がしますね。ところでこの人工皮膚は風を通すんですか ? 須貝「風は通しませんが、透湿性があります。むれないわけですね。それでこの裏側に品 番と受注年月日と支店番号とお客様のイニシャルを印刷します。お客様を間違えてお渡しす 工ると困りますから」 国 そりや困りますよね。ところでここに緑色の人工皮膚がありますけど、これは何です 出か ? 半魚人か何かそういう : しらが 日須貝「いえ、これは白髪を植えるとき見にくいので、とりあえず緑色にしてあるわけです ね。それから緑色の方がやりやすいという人には緑色でやってもらうようにしています」 ここまでのエ まあ、あたりまえのことで、半魚人がアデランスを作りにくるわけはない。 程は全部この中条工場で行なわれるわけだが、そのあとの植毛は手仕事になって日本だけで はとてもおいっかないので、韓国、中国の工場にも送られる。比率は日本、韓国、中国 ( 青 島 ) 、それそれ三分の一ずっというところである。 この工場には研究室もあって、ここで様々な製品を開発したりテストしたりしている。た 224 かん - く
101 りゅうちしゅう ここはひとっこう、丸く収めてくれんかね ? え、どうかね ? 」と笠智衆風に丸く収めちゃ うわけである。若い気の立った消しゴムも「おじさんにそう言われちゃしょーがねえな」と 収まっちゃうから、このあたりは人徳である。 〈マアマアおじさん機〉はひどく単純な機械で、要するに消しゴムを中に放りこんでグルグ ル回転させるだけの話だ。グルグル回っているうちに消しゴムがまわりの壁にゴンゴンとぶ つかって、自然にカドが取れちゃうわけだ。なるほどね。 春「よくできてますね」 密 秘 の ラ「はい、河原の石ころが下流に行くと丸くなるというのと同じ原理です」 工春「何分くらい回すんですか ? 」 ゴ ラ「ものによっては五時間くらい回すのもあります。この機械はまわりがこういう風に金 網ですね。向うの方はまわりが木になってますね。それそれ、かかり方が違うわけです。イ ンク消しみたいなものは、金網の硬いものでやらないとゴムが硬いですからね。鉛筆用の軟 かいのは木でやるとか」 たぶん僕なんかはまわりが金網の方に放りこまれちゃうんじゃないかなという気がする。 五時間くらい回されて出てきたらすっかりカドがとれていて、『笑っていいとも』に出て 「ワッ」なんてやってたりしてね。どうでもいいようなことですけど。 というようなわけで、〈マアマアおじさん機〉から出ていちおうの完成品となった消しゴ
ラ「ゴムというのはこういうことなんですよ。繊維状になっておりまして、それを物理的 に切ってやるわけです、繊維を。そしてその繊維を硫黄でこうつないでやるわけです。こち らともこういう風につないで、こういう風なことでつないでやりますと、もとのかたちは、 たとえば温度を一〇〇度くらいかけますと、これがグニャッと軟かくなって、もとのかたち に復さないかたちになるわけですけれども、硫黄で簡単につなげるわけです」 ラ「いちばん最初は硫黄だけでゴムの分子をつないでいたわけです。ところがその場合で 一〇くらい入れても、二時間くらいかけてやり 工すと、硫黄を生ゴム一〇〇に対してだいたい 国ませんと硬くならなかったんです。それで促進剤、つまりこのつなぐ作用を速くする薬を入 る れるわけです。これが一バ ーセントくらいの割合で入っておりますね。それから、その他に 出 炭酸カルシウムというのがあります。それは簡単に言えば石粉なんです。それから、その黄 色いのは硫黄です。その他に亜鉛華とか石灰とかいうのが入っておりますけれど、これはさ かりゅう つきの促進する作用の、そのまた助剤なんです。ですから、この三つが入りませんと、加硫 が効かないんです。二〇分、三〇分という短時間で加硫が効かないというわけですね」 春「なるほど」 と言ったところで、そんな説明が十全に理解できるわけない。自慢するわけじゃないけど、 高校の化学の時間には僕はすっと河出書房・世界文学全集の読破に励んでいたのだ。まさか
一声叫ぶまで格闘やります。牛が叫ぶとね、格闘は終りなんです。参ったということなんで じゃあ無言の闘いがつづくわけですね ? 凄みがあるなあ。 田沼「もうガタガタ、ガタガタやってますね。角で相手のわき腹とか睾丸とか、柔らかい めす トコをやるんです。これが集団でいた場合には牝をいかに自分のものにするかというライバ おす ルになるからね。強いものがリーダーになる。だから牡は小さいときからでも常に格闘の訓 練しているわけですよ」 場 工 田沼さんにかかってくるときはどういう風にやるんですか ? 国田沼「その場合はね、鼻で一回ポンと突くんです。で、人間が倒れるでしよ、そうすると る 出前脚を折 0 てやかわけですよ。それが奴らの格闘術なんです。倒れた相手を角で持 0 て歩く 一く のね。私の場合は持って歩かれて、柵の陰に行ったから奇跡的に助かったわけです。私、も ろっこっ う二十年くらいやってるんですが、二回やられてますね。肋骨も四本くらいやられてます。 三回めかね。やつばり、そういう経験もなきや、こういうことってできないです。こういう 仕事してる人って、まず大抵やられますね。私はこういう風に管理をして面倒を見ているわ とにかくいっかは人間に勝つんだという執念を持 けだけれど、因 5 を仇で返すというか : っているんですよ、奴らは」 どうして角を取っちやわないんですか ? 角があると危険なんじゃないんですか ? あだ
ど、実際にこんな凄いのを眼前にすると、こういうのと日常的に闘っているエスカミリオ氏 を思わず尊敬してしまいそうになる。 あのお、こうして見ていると、牡牛たちって、人間に対して反感を抱いているように 見えるんですが : 田沼「そりゃあるね。必ずある。扱っていてもね、すきがあったら必ず来ます。いっかは こうポーンとやったら人間に勝つんじゃねえかという、そういう執念みたいなのを持ってる。 場だからすきがあると : : : 目と目が合ってないと、必ずバアッと来るんですよ。目と目が合っ 工てりや来ないです。鼻環をこれ ( ロープ ) につないであるわけだね。鼻ってのは牛の弱点で、 国来るなっていうときにロープをこうバシッとやると、体が痺れてかかってこれない。そうい る うのを牛の方もよく知ってるから、目と目が合っているときは絶対かかってきません。そう 出 いう風に調教しているんですね」 それはかなり神経使いますね、ちょっと目を放すと来るっていうのはね。 田沼「そうそう。白い目が充血すると、もう怒った証拠なんですよ。興奮すると白い目が きげん 充血するんだけど、それが機嫌の悪い証拠だね。これがこういう風に澄んでるときはいいん です。今みたいにね。でもポンとはたくとすぐカッとする。短気というか、怒りつばいね。 でもそれくらいの根性ないと、おとなしい牛じゃ種とってもあまり良くないですね。このく らい根性のある牛の方が良いんです。で、他の牛と一緒にした場合、最後まで、どっちかが すご はなわ
がんぐ したう 他にもいくつか玩具メーカーの下請け風に製造している会社はあるが、いわゆる「メーカ ー」ものはこの四社に限られている。と言われてもこの四社という数が多いのか少ないのか よくわからないでしよう ? 僕にもよくわからない。一億一千万の日本国民がいったい年間 どれくらいの量の消しゴムを消費し、どれくらいの消しゴムが供給されているかなんて見当 もっかないし、考えるだけで頭が痛くなってくる。だから消しゴム大手四社が併立してそれ それに操業し、それぞれに収益を上げているとしたら、「それはそういうものなのだ、ハイ ホー」と思ってあきらめるしかなさそうである。この〈ラビット〉の工場では一日にだいた 密 秘 い三五万から四〇万個の消しゴムを作っているそうだから、あとはみなさんで適当に計算し 工て想像してみて下さい ゴ 消【消しゴムエ場の秘密】 消しゴムエ場に秘密はあるか ? というと、もちろん秘密はある。原料の混合の割合も重 要機密だし、技術革新はそれそれの会社の死活にかかわってくる。だから我々が取材してい ても、「この製品名は書かんといて下さいね」とか、「これはちょっと社外秘でして」という ようなことはちよくちよくある。〈消しゴムエ場〉というと、我々はゴムを適当にコロコロ 切りとって「一丁あがり」というようなすごくシンプルで戦後民主主義風に楽天的な工場を 思い浮かべがちだけれど、物事はそれほど簡単ではない。世の中はすごくややっこしくなっ
ばれて、職人さんの手でひとつひとっ彩色される。学校の職員室みたいなところに作業机が 並び、職人さんが並んで臓器のひとつひとつに筆で色を塗っている。ここもやはり黙々とい う感じでコトが運んでいる。もなければ、おしゃべりの声もない。 スチールの棚からは未彩色の手や脚や胴体がひょいひょいととび出し、「青森りんご」と か「淡路白菜」とか印刷された段ボール箱には頭蓋骨やら心臓やらがつめこまれ、じっと辛 抱づよく彩色されるのを待っている。彩色しているおじさんの方もとくに急ぐ風でもなく 〈ここの小腸のひだの陰影は淡いこの色でやらなあかんさかい、筆を変えてちょいちょい 工 : 〉という風に、なんとなく伝統工芸的にユーユーとやっている感じである。でも見てい の 国ると、これは大変な仕事だなあと思う。なにしろ手間がかかるし、工程も細かい。色も複雑 出だし、凝りだすとキリがなさそうである。こういうのを機械でかたづけるというのはます不 可能事であろう。 横山「そうですね。単にね、平面的なものにバッと色を塗るというんであれば、これは機 械でもできるんです。しかしね、色わけを細かくしたりとか、質感を出すために独特の彩色 たたきと我々は一 = ロうとるんですけどーーーをするとなると、これは機械では無理です。熟 練した人が手でこなしていくしかないわけです、今のところ」 てな ートの奥さんとかの姿はなく、手馴れた というわけで、この作業場にはアルバイトとかハ おじさん・おばさんが腰を据えてしつかりと仕事をしておられます。横山さんの話によると、 たな