子猫 - みる会図書館


検索対象: 空飛び猫
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1. 空飛び猫

子猫たちはみんなごみ捨て場にやってきました。ハリエ ットはまだぶるぶると震えています。他の子猫たちはみん なでごろごろと喉を鳴らして、ハリエットが落ち着くまで 慰めてやりました。それからジェーン・タビーお母さんが 口を開きました。「子供たち、お母さんはお前たちが生まれ る前にひとつの夢をみました。そしてそれがどういうこと ' こは子供たち だったのか、今ようやくわかったのです。 が成長するのにふさわしい場所ではありません。そしてお 前たちはここから飛んで出ていくためにその翼を授かった のです。お前たちにここから出ていってほしいとお母さん は思います。お前たちが飛ぶ練習をしていることをお母さ んは知っています。ゆうべはジェームズが路地を飛び越え

2. 空飛び猫

ジェーン・タビーお母さんはじっと子猫たちの姿を見守 っていました。心配と誇らしさとで胸がいつばいになりま 0 「素晴らしい子供たちじゃないか、ジェーン」とトム・ジ ョーンズさんは柔らかな、深い声で言いました。 「私たちのあいだに生まれる子猫だって、きっと素晴らし いわよ、トム」とジェーン・タビーは言いました。 劇 22

3. 空飛び猫

子猫たちは風に乗る方法を覚えました。ばたばたと無闇 に翼を動かすのではなく、からだをうまく風に乗せればい いのです。でもハリエットにはなかなかうまくコツを呑み 込むことができません。すぐにはたはたと空中でよろめい てしまいます。 一時間かそこら飛んでから、子猫たちは大きな工場の屋 根に降りたちました。あたりの空気はひどい臭いがしまし たが、それでも子猫たちはもうくたくただったから、しば らくのあいだ、みんなで折り重なるようにしてぐっすりと 眠りました。夕暮れどきになって、とてもお腹がすいてき 28 のです一一子猫たちは目を覚まし、また空に飛び立ちまし なにしろ空を飛ぶくらいお腹のすくことはない たので

4. 空飛び猫

夕食のあとで、子猫たちは茂みの中に入って、またひと つに折り重なるようにして、眠りに落ちました。でも最初 にセルマが、それからロジャー ジェームズ、そしてちび っこのハリエットが順番に目を覚まして、ふっと顔を上に あげました。そしてしつかりと耳を澄まし、あたりの本兼子 をうかがいました。自分たちが街の路地裏にくらべたらず っと安全なところに来たのだということは、子猫たちにも わかっていました。でも、世界じゅうどこにいったってや はり危険はあるのだということも、子猫たちにはちゃんと わかっていたのです。あなたが魚であれ、猫であれ、ある いはたとえ翼を持った猫であれ、危険のない場所なんてど こにもないのです。

5. 空飛び猫

子猫たちはみんなしくしく泣きました。でもみんなには わかっていました。猫の親子にとってはそれが当たり前な のだということが。子猫たちはまた誇らしくも思いました。 これなら大丈夫、もうちゃんと独り立ちできるとお母さん が認めてくれたわけですから。そしてみんなは犬がひっく りかえしていったごみの缶から食べ物を集めて、おいしい タ御反をたつぶりと食べました。それからセルマとジェー ムズとロジャーとハリエットは、喉を鳴らしながら大好き なお母さんに別れの挨拶をしました。そして一匹また一匹 と順番に、子猫たちはその翼を広げ、空に飛び立っていき ました。路地を越え、屋根を越え、遥か彼方へと。 劇 2 。協

6. 空飛び猫

ようじゃないか」とジェームズが言って、みんなはもう一 度飛び立ちました。子猫たちは鳩のように、疲れも知らず に楽々と飛んでいくというわけにはいきませんでした。タ ビーお母さんが子猫たちに食べ物の不自由だけはさせるま いと心がけていたせいで、みんなは丸々と太っていて、そ れだけの体重を空に浮かせるためにはずいぶん一生懸命翼 を羽ばたかせなくてはならなかったからです。 劇 2 フ

7. 空飛び猫

セルマとロジャーとジェームズとハリエットは空を飛び つづけましたが、目に映るものといえば、行けども行けど も都会の屋根、都会の通り、それだけです。 一羽の鳩がひゅうっとやってきて、子猫たちの横に並び ました。その鳩は、小さなまるっこい赤い目で、不安そう に子猫たちのことをじっと見ていました。「ところで君た ち、なんていう不の鳥なのかな」と鳩は考えあぐねた末 に尋ねました。 「旅行バトだよ」とジェームズは即座に答えました。 * ハリエットはみやおうと笑いました。

8. 空飛び猫

子猫たちはみんな揃って美しく、すくすくと育っていき ました。でも口にこそ出さなかったけれど、タビーお母さ んは子猫たちのことが心配でなりませんでした。というの は近所の環境があまり良くなかったし、日を追うごとにそ れはますますひどくなっていたからです。朝から晩まで行 き来する自動車やトラック・一一そこらじゅうに散らばった ごみーーお腹をすかせた犬たち一一どっちを向いても人の 足また足、いろんな靴を履いた足が、歩いたり、走ったり、 足踏みしたり、蹴飛ばしたりするのです。ほっとひと息つ ける場所なんてどこにもありません。そして食べ物だって 手に入れるのがどんどん難しくなっています。 は けと

9. 空飛び猫

「これで私たちにも小鳥たちの気持がわかったわね」とセ ルマが暗い声で言いました。 「ジェームズはこの先どうなるのかしら」とハリエットが 言いました。「またいつか空を飛べるようになるかしら ? 」 「いっそ飛べなくなった方がいいんだよ」、ドアのすぐ外 で、大きくて柔らかな声が聞こえました。フクロウのお母 さんがそこに月卦けていたのです。 兄弟たちは思わず顔を見合わせました。朝がやってくる まで、子猫たちはひとことも口をききませんでした。朝に なると、セルマはおそるおそる外をのぞいてみました。そ こにはもうフクロウはいませんでした。「まあなんとか日が 暮れるまではね」とセルマは言いました。 それからというもの、子猫たちは昼のあいだに餌を取っ 46 協

10. 空飛び猫

もう日は沈んで、見下ろす丘には街の光の列が長く長 く連なり、それがずっと向こうの方で暗闇の中に吸い込ま れていました。その暗闇の方に向けて子猫たちは飛んでい きました。そしてついには、どこを向いても真っ暗で、何 も見えないというところまでやって来ました。目に映るも のといえば、丘の上にまたたいている小さな明かりだけで す。子猫たちはゆっくりと地面に舞いおりました。 柔らかな地面ーー - なんてへんて「な地面でしよう ! 子 猫たちがそれまで知っていた地面といえば、コンクリート やらアスファルトやらセメントやら、そういうかちかちの 地面だけだったのです。こんな地面は見たことも触ったこ ともありません。土、砂、落ち葉、草、 / 」皸、きのこ、虫。 どれもこれもわくわくするような素敵な匂いがしました。