し かし九月が過ぎ、十月が過ぎ、十一月が終っ ても、羊男は羊男協会から頼まれた音楽の作 曲になかなかとりかカることかてきなかった 羊男は昼間は近所のドーナツ・ショップ。て働い ていたのて、作曲のてきる時間はほんの少ししか なかった。それなのに羊男がおんばろビアノを弾 やぬし きはじめると必ず一階に住ん。ている家主の奥さん がやってきて、どんどんどんと扉を叩くのだ。
「なるほどなるほど」と羊男は耳をかきながら言 った。クリスマスにはまだ四カ月半もある。それ だけの日にちがあれば、僕にも立派な羊男音楽を ・乍・曲てきるさと羊男は田 5 った。 「大丈夫。てす。僕にまかせて下さい」と羊男は胸 をはって言った。「きっとすばらしい音楽をし てみせますから」
「私ども羊男協会ては」と相手の男は胸のファス ナーを少しゆるめて、扇風機の風を中に入れなが ら言った。「毎年音楽的オ能に恵まれた羊男さんを せいひっししようにん 一人選をて、聖羊上人様をお慰めするための音楽 を曲していたたき、それをクリスマスの日に演 奏して、ごご しオオくことになっているのてすが、今年 はめてたくあなたが選ばれたのてす」 「それはそれは」と羊男は言った。 「とくに今年は上人様が亡くなられて一一千五百年 めにあたる記念すべき年てありまして、ここはひ とっそれにふさわしい立派な羊男音楽をして したたきたいと田 5 っておりますわけてす」と男は
それは とてもうまく描けているよ - フな」がした こうして私の気持は ネジの方から絵の方へ傾いていった 「何てもいいからまず絵を苗いてくたさい」 と村上春樹さんは言った 「その絵を見て話を考えます」 そこて私は 灯台の近くて眠っているクジラの絵と 等身大のテディ・べアが女の子とたわむれている絵を描いて送った 一年ほどして村上さんから文章が送られてきた それが この本のお話てす クジラもテディ・べアも出てこないけれど もっし早敵な 変てこなものが次々と出てきます 私はとてもしみながらこのお話に絵をつけた 皆さんもこの本をしんてください 佐々木マキ
ポスターはどんどん色あせて 最後には絵も ~ 子もほとんど半てきないくらいになり 和局は引越しのときに捨ててしま - フことになったが それてもそのポスターの絵は 今ても僕の〈羊男世界〉の中に しつかりと自づいている そして 羊男も双子も羊博士もねじけもなんてもなしも みんな僕と同じようにマキさんの絵を気に入っている たから今回このような形てマキさんと一緒に絵本を作れたことは 羊男世界にとってはひとつの大き暑びなのてある そして読者のみなさん一人一人の部屋の壁に その羊男世界の喜びが淡い影のように浸みこんてし : オ それは僕 , こしてもとても亠暑し、 ょにはともあれ 羊男世界がいつまても平和て幸福てありますように 1985 ・ 10 ・ 5 ギリシャ・エルミオーニにて 村上春樹
佐々木マキという名則を聞くと 僕はいつも反射的にあのビートルズ・フェスティバルの 黄色い巨大なポスターを思いだしてしま - フ 大学に入ってすぐの頃だったと思うけれど 僕は 佐々木マキさんがデサインしたそのポスターがどうしようもなく好きて 夜ふけの街角から それをこっそりとはがして持ち帰った 早くいえば盗んだーーのだ 大学時代をとおして そのポスターは 僕の狭いア。ハートの部屋の辟亠に貼ってあった なにしろ畳一畳分はあるかという巨大な代物だから 事あるごとにそれが目にとびこんてくる 朝目をさましては佐々木マキを眺め 学校から帰ってきては佐々木マキを眺め ごはん亭査べては佐々木マキを眺めるという毎日がつづい だから今てもマキさんの絵が 僕の日常に浸みこんてしまっているような気がするくらいてある それは家賃のわりに 日あたりだけがひどくしつかりとしたアハートだったのて
羊男のクリスマス 杜 E 春樹佐々木マキ
社 一三ロ 羊男のクリスマス 村上春樹一佐々木マキ 講談社