宿のおかみさんがやってきて「あんた、なん て穴なんて掘ってるのよ」とたずねた 「ゴミを捨てる穴を掘ってるんてす」と羊男は 答えた。「そういうのがあると便利なんじゃないカ と田 5 って・ : : ・」 「ふん、どうだか変なこと始めたら警察に電話 するからね」とおかみさんは贈々しげに言って、 向 , フに行ってしまった 羊男は巻き尺てきちんと寸法を測りながら直径 二メートル、深さ二メートル三センチの穴を掘り あナご。 「うん、これ。てよし」と羊男は言って穴に木のふ たをかぶせた
しいや。そう書いてあるんだもの、その 「まあ、 とおりにすればいいんだ」と羊男は田 5 った。 せま クリスマス・イプはあと三日後に迫っている 三日のうちにトネリコの柄のシャベルを作って、 直径二メートル、深さ二メートル三センチの穴を 掘らなくてはならない。やれやれ、まったく変な ことにまきこまれちゃったなあ、と羊男はため息 をついオ トネリコの木は森の中てみつかった。羊男はの こぎりてトネリコの枝を切り、一日かけてそれを けす 、ナご。フてして ナイフて削ってシャベルの柄にしあ : 次の日、家の裏の空地に穴を掘りはじめた
「てもてすね、深さ二百三メートルの穴なんて しちそんな穴 とても僕一人じゃ掘れないし、ごい、 に落っこちたら呪いがとける一則に死んじゃ - フじゃ ありませんか」 「待て待て、まだ先がある。『呪いをときたいと しようリやく 思うものは穴の深さを百分の一に省略してもかま わない』っまり二メートルと三センチてもよいと し , フこし J にわなるわな」 「ああ、よかった。それなら大丈夫、掘れます」 と羊男はほっとして一一一口った。 羊男は羊博士から本を借りて家に帰った。その 本によれば呪いをとくための穴には実にたくさん のきまりがあったのて、羊男はそれをひとつひと
3 を
っ安い御用よ」と 208 が言った。 「ついてらっしゃいな」と 2 0 9 が言っご。 双子と羊男は三人て森の中の道を歩いた。双子 は歩きながら唄を唄つご。 もしも風が双子てあったなら、 東と西に吹けるのに。 もしも風が双子てあったなら、 右と左に吹けるのに。 十分か十五分歩くと森は終り、その向うには見 渡すかぎり海が広がっていご。 「あそこの岩の上に小さな小屋が見えるてしよ。
っノートに書きだしてみた 穴はトネリコの柄のシャベルて掘らなくては ならない。 ( 聖羊上人がトネリコの杖をついておら れたからだ ) 図穴に落ちるのはクリスマス・イブの午前一時 十六分。てなくてはならない。 ( 聖羊上人がその時刻 に穴に落ちたから ) 3 穴に落ちるときは穴の開いていない食物をお 弁当として持っていかなくてはならない はと幻はともカくとして、たかが二メートルの 深さの穴に落ちるのにどうしてお弁当が必要なの か、羊男にはよくわからなかった
りやまずいね」と奥さんは言った。「あんた違 , フ出口に出ちゃったんた」 「じゃあもう一度もとに戻らなくっちゃ」 「そりや駄目さ。一度来ちゃうともとには戻れな い」と奥さんはくちばしを左右に振って言った。 「ごだしあたしがあんたを背中にのせて呪いをと くことのてきる場所につれてはいける」「そうして もらえると嬉〔しいてすけど」と千男は一一一口った。 「。てもあんた重そうだね」と海ガラスの奥さんは 用、い深げに一一一口った。 「重くないてす。四十一一キロしかないんてす」と 羊男は三キロごまかして言った。
の番号をべつにすれば、一一人の女の子は何か ら何まてそっくりたった。 「やあ、君たち」と羊男は言った。「ここに来て 一緒にドーナツを食べないかい ? 」 「わあ、すてき」と 208 の方の女の子が言った。 「すごくおいしそう」と 209 の方の女の子が言 「おいしいよ。だって僕が作ったんだもの」と羊 男が一一一口つご。 オ三人は地面に並んて座って、もぐも ぐとドーナツを食べ、 「ごちそ - フさま」と 209 が一一一口つご。 「こんなおいしいドーナッ食べたのはじめて」と 208 か一一一口った。
「誰かが昼間のうちにふたをとっちゃったんだ な」と穴を落ちながら羊男は田 5 った。「どうせ下宿 のおかみさんがやったんだろう。まったくあの人 は僕の嫌がることばかりするんだから」 ようす しかし羊男はそう隸ったあとて、どうも様子が 、、」。業よまだずっと落ちっ お力しいことに気っ ( オ づけている。僕の掘った穴は深さ二メートル三セ ンチしかないのだから、底につくのにこんなに長 ( 広Ⅲカカカるわけないのた ドスンと音がして、羊男は穴の底にぶつ 突然、 かった。おそろしく深い穴だったのに、不思議に 痛くはなかった 4 ・
ひつじおとこ 羊男のクリスマス むらかみはるきささき 村上春樹一佐々木マキ ⑥ Haruki Murakamil N'laki Sasaki 1989 I S B N 4 ー 0 6 ー 1 8 4 5 7 6 ー 4 デザイン一一菊地信義 円 89 年Ⅱ月巧日第一刷発行 円 98 年 3 月田日第幻刷発行 発行者一一野間佐和子 発行所ーー株式会社講談社 東京都文京区音羽 2 ー 12 ー 21 〒 112 電話出版部 ( 03 ) 5395 ー 3510 販売部 ( 03 ) 5395-3626 製作部 ( 03 ) 5395 ー 3615 Printed in Japan 落丁本・乱丁本は小社書籍製作部あてにお送りください。 ー 8001 容についてのお問い合わせは文庫出版部あてにお願いい 送料は小社負担にてお取替えします。なお、この本の内 製版 印刷 製本 講談社立庫 定価はカバーに 表示してあります 凸版印刷株式会社 凸版印刷株式会社 株式会社国宝社 たします。 ( 庫 ) 本書の無断複写 ( コビー ) は著作権法上での例外を除き、禁しられています。