男がまわりを見まわすと、草原のまん中に大 きな木が一本立っているのが見えた。木の幹 なわ には縄ばしごカかかっていた。他には何も見あオ らなかったのて、羊男はとりあえすそのはしごを 上にのばってみることにした。 縄ばしごはゆらゆらと揺れて、のばりにくかっ 」。羊男が汗をかきながら、ずっと上の方まて、三 十段か四十段のばったところて枝のあいだから、 ? とい , フ明るい亠円 . が聞こえ 「やあ君、何か用かい」
「なんだ、なんだ、ちくしよう」という声か暗 やみ 闇の中て聞こえた。「まだ一時十四分じゃないか。 一一分早すぎるよ、ちくしよう。もう一度上にのば ってはじめからやりなおせよ」 「すみません。暗くてよくわからなくて、間違え て落っこちちゃったんてす」と羊男は言った。「そ れにこんなに深い穴をもう一度上にのばるなんて とても無理てすよ」 した 「しかたないなあ、ちくしようもう少して下 しき 敷になっちゃうところだったじゃないカこっち は一時十六分に落ちてくるものと思ってるんだか ・らわな、り / \ ーしょ - フ」 それからマッチをする音がして、ロウソクの火
ロ羊祭日にドーナツを食べた呪いの為 クリスマスソングが作曲できない羊 男は、穴のあいてないねじりドーナツを 手に秘密の穴の底におりていきました。 暗い穴を友けるとそこには なっか しい羊博士や双子の女の子、ねじけやな んでもなしも登場して、あなたを素敵な クリスマスハーティにご招時します。 す れ さ 算 費 キ マ木 9 体 ク樹本 の春・ 男上価 羊村定 蚶上春樹① 6 羊男のクリスマス 9 7 8 4 0 61 8 4 5 7 6 5 1 9 2 01 9 5 0 0 41 9 9 I S B N 4 ー 0 6 -1 8 4 5 7 6 - 4 C 0 1 9 5 \ 41 9 E ( 2 ) 羊男の クリスマス 村上春樹。佐々木マキ 風の歌を聴け ノルウェイの森上下 1 9 7 3 年のビンポール ダンス・ダンス・ダンス上下 作羊をめぐる冒険出下 遠い太鼓 社 夢で会いましよう ( 糸井重里と共著 ) 国境の南、太陽の西 空飛び猫 ( 訳 ) 上カンガルー日和 村回転木馬のデッド・ヒート 帰ってきた空飛び猫 ( 訳 ) 羊男のクリスマス やがて哀しき外国語 6 8 ログ カ 装イ 佐丹 々羽 本朋 マ子 キ 学講談社立庫 社立庫 火火 = = ロ Y419 む 6 ー 8
「いいんてすよ、ドーナツならいつばいあるもの、 恥かしいのなら向うを向いてますから、そのあい たにここに来て食べちゃったら ? 「すみませんねえ」となんてもなしは言った。 「いちばん小さいのの、その半分ていいてすから」 羊男は草の上にドーナツをひとっ置いて、向う を向いた やがてこそこそという音がして誰かか やってきて、もそもそとドーナツを食べた おいしいなあ、ほんとにおいしいなあ」とその なんてもなしは言った。「振り向いちゃいや。てす 9.
「まったくなんて嫌なところなんだ、ここは」と 羊男は言った。「右ねじけも左ねじけも同じくら いねじけてるし、海ガラスの奥さんは身勝手だし」 羊男はもうなんだっていいやと思って、目につ た道をどんどん歩いていった。しばらく歩くと きれいな泉があったのて、羊男はそこて水を飲み、 た。ドーナツを食べて ドーナツをまたひとっ食べ しまうと眠くなったのて、羊男は草の上に横にな って、一眠りすることにした。
っ安い御用よ」と 208 が言った。 「ついてらっしゃいな」と 2 0 9 が言っご。 双子と羊男は三人て森の中の道を歩いた。双子 は歩きながら唄を唄つご。 もしも風が双子てあったなら、 東と西に吹けるのに。 もしも風が双子てあったなら、 右と左に吹けるのに。 十分か十五分歩くと森は終り、その向うには見 渡すかぎり海が広がっていご。 「あそこの岩の上に小さな小屋が見えるてしよ。
, ねじけし」 ~ , ねじけがムロ唱し、 208 し」 209 が踊り、海ガラスの奥さんは「カオウカオウ」と 鳴きながら部屋をとびまわり、聖羊上人と羊博士 は一一人。てビールの飲み比べをしていたなんてもな うれ しまて嬉しそうに床の上をころころと転げていた そしてクリスマス・ケーキがみんなに配られた。 「おいしいなあ、もぐもぐ」と一言いなカら、なん てもなしは三つもケーキを食べた 「羊男世界がいつまても平和て幸せてありますよ うに」と聖羊上人がお祈りをささげた。 106
「そんなの、あんた、毎日見てりや飽きちまうよ」 と海ガラスの奥さんはつまらなそ - フに答えた。 つばさ 海ガラスの奥さんは翼の調子をためすように、 羊男を乗せて家の上をぐるぐると何度かまわって から、百メートルも離れていない草原にとんと降 ぐあい 「どうしたんてす、奥さん、具合。ても悪いんてす か ? 」と羊男は心配してたずねた 「具合なんて悪かないよ、あんた」と海ガラス の奥さんは首をくくと 左右に振りながら言っ た。「なんて具合の悪いわけがあるもんかね。あた しは一兀気そのものっていうんてこのあたりじや有 名なんだよ」
午前一時になるとまわりの家々の灯も誚えて、 空地は真暗になった。月もなく、星も見えない 自分の手さえ見えない 「こんなに暗くっちゃ聖羊上人様だってそりや穴 に落っこちちゃうよな」と羊男はつぶやきながら 懐中電灯て穴を探した。しかし暗すぎて、穴はな かなかみつからなかった。 「弱ったなあ、もうそろそろ一時十六分になっ ちゃうよ。もし穴がみつからなかったら来年のク リスマス・イブまて待たなくちゃいけない。そん なことになったらとてもじゃないけど : ったところて、突然羊男の足もとの地面がすつぼ りと消えた。羊男は穴に落ちたのた。
「その方法とは君自身も穴に落ちることだ」 「穴 ? 」と羊男は言った。「穴に落ちるって、どん な穴てすか ? 穴なら何だっていいんてすか ? 」 しいなん 「馬鹿言っちゃいかん。どんな穴。ても、 てことがあるものか呪いをとくための穴という のは大きさも深さもちゃんと決まっておる。ちょ っと待ちなさい。今調べてみるからして」 せいひっししようにんでん 羊博士は『聖羊上人伝』というばろばろの本を とりだして、また。へら。へらとべージをめくった。 「えーと、うん、ここだ。聖羊上人は直径二メ ートル、深さ二百三メートルの穴に落ちて亡くな られた、とあるだからそれと同じ穴に落ちれば よいわけだな」