一三ロ Ⅱソクラテス「プラトンはウソをついている」 。フラトン「ソクラテスは本当のことをいっている」 ソクラテス「。フラトンはウソをついている」 Ⅲ 。フラトン「アリストテレスはウソをついている アリストテレス「ソクラテスはウソをついている これらの文がウソかホントかを問いつめてゆくと、もとの方程式—が不定であり、紐と齟が不 能であることが、決定的に作用していることがわかる。実際にとは自己矛盾を含んでいるし、 は「矛盾はないが、ウソともホントとも決定できない」例になっている。たとえば服で、ソク ラテスがいっていることを X であらわし、。フラトンとアリストテレスがいっていることをと N であらわしてみよう。そして、、の論理値を、、 2 とおくと、ソクラテスは要するに はウソである。 びといっているので そ あ Ⅱ 1 ー の 理が成り立つ。 2 についても、齟と同じ式が成り立つ。 さて、ソクラテスのいったことが正しいと仮定しよう。すると、 アリストテレスはウソをついている。 171
前提で包まれていない概念を、結論で包んではいけない。 悪い例を挙げると、 ある人間は哲学者である。 ソクラテスの妻は人間である。 ゆえに、ソクラテスの妻は哲学者である。 ある男は子持ちである。 ソクラテスの妻は男でない。 ゆえに、ソクラテスの妻は子持ちでない。 つまり規則①に反し 例均では、媒概念「人間」が、どちらの前提においても包まれていない。 ているので、こういう前提からは、どんな結論を導いても ( 形式的には ) 無意味である。この種 の詭弁を「媒概念を包まない虚偽ーという。 例昀では、媒概念「男」はふたつめの前提で包まれている。しかし「子持ちーのほうは、前提 では包まれていないのに、結論では包まれている。これは規則②に違反するので、「不当に包む 虚偽ーと呼ばれる。 次に、あやしげな三段論法をいくつかお目にかけよう。興味をもたれた方は、 三段論法の。ハズル 考え方 ( 推論 ) として正しいかどうか、お考えいただきたい。
Ⅲ詭弁術 【例 1 】ある男は子持ちである。 ソクラテスの妻は男でない。 ゆえに、ソクラテスの妻は子持ちである。 【例 2 】ある詩人は金持でない。 すべての詩人は芸術家である。 ゆえに、ある芸術家は金持でない。 【例 3 】「動詞」は名詞である。 「歩く」は動詞である。 ゆえに、「歩くは名詞である。 【例 4 】吸血鬼は十字架やニンニクが嫌いである。 ドラキュラは十字架やニンニクが嫌いである。 ゆえに、ドラキュラは吸血鬼である。 【例 5 】すべての夫は男である。 すべての男は女でない。 ゆえに、すべての女は夫でない。 【例 6 】一人でやる仕事を六十人でやれば、六十倍の早さでできる。 9
このような事態をさけるために、自分自身に言及する文はすべて「無意味である」としてしり ぞける立場もある。しかしあとの節で示すような「間接的言及」もあり、解決は容易ではない。 以上のカラクリは、ウソかホントかを数の間の方程式に翻訳すると、もっとはっ 論理方程式 きりするかもしれない。ある主張の ( 内容は問わず ) ウソかホントかだけを問題 にするとき、ウソを 0 、ホントを 1 であらわして、その数値の論理値 ( 真理値ともいう ) と呼ぶこ とがある。たとえば ソクラテスは猫である。 の論理値は 0 であり、 ソクラテスは猫でない。 の論理値は 1 である。また主張の論理値をカとすると、 でない。 (A-«はウソである ) という主張 ( の否定 ) の論理値は ( 1 ート ) になる。 さて、の論理値をとし、 cn はウソである。 の論理値をとしよう。すると、は ( の否定の論理値であるから ) 168
Ⅳ論理のあそび ということである。たとえば ソクラテスは猫である。 一たす一は三である。 などは誤りであるし、 パンをナイフで割った答は。ハタつき。ハンである。 犬から骨を引くと大の分別が残る。 などに至っては、正誤以前に「意味をなさない」というべきであろう。また、 Ⅱ十 1 Ⅱ十 1 のように、解をもたない方程式も、「意味をなさないーといってさしつかえない。 おもしろいことに、文法的に正しい文が「意味をなすーかどうかの判定は、必ずしも容易でな 。特に自己矛盾を含む文については、一見何の疑問もなく、さらりと読めることがあるので、 ハラドックスを作るのに利用できる。簡単な例を示そう。 すべての整数の中で、最大のものをとおく。 一般に、 M 十 1 Ⅳ M は最大の整数だから、 M2M 十 1
という。フラトンの言葉がウソなのだから、アリストテレスのいうことは正しい。ではアリスト テレスは何といっこ、。 ソクラテスはウソをついている。 これは矛盾であるー この推論過程は、もとの方程式の第一式に x=l を代入すると、 はウソ ) となり、さらに第二式、第三式から (N はホント ) (X はウソ ) が得られる過程とびったり対応している。がウソである (x=0) と仮定しても、やはり矛盾が 発生することは、もはや明らかであろう。 次に、「自己矛盾ーに時間の要素をからめた、おもしろい。ハラドッ 人食いワニのバラドックス クスを紹介しよう。 人食いワニに子供を奪われた母親が、「どうそ私の子供を食べないでください」と懇願した。 するとそれほど腹の空いていなかったワニは、気まぐれにこういっこ。 「そうだな。今日おれがどんなことをするか当てられたら、子供を食わずに返してやろう。その 172
詭弁術の誕生 強弁と同じように、詭弁の誕生もまた、歴史の彼方にかすんでいて、「いつ、誰 科学と詭弁 が創始したーというようなことを、確定できるわけではない。しかし詭弁を飛躍 的に発達させた時期として、まずギリシャ時代を挙げるのはさしつかえないであろう。ターレス、 ソクラテス、アリストテレスなど、言葉を武器として真理を追求する哲学者たちが誕生したのは この時代であるし、その流れの中に、弁論に長けた「ソフィスト」 ( 知者、教師、詭弁家 ) が輩出 したのもこの時代であった。 実際、言葉による真理の追求と詭弁術とは、紙一重である。ターレスは「万物は水であるーと いったけれども、これもただそれだけをきくと、詭弁か強弁かぐらいにしか思えないにちがいな ターレスのために弁護しておくと、彼は「万物は水である」という教説を広めようとしたの ではなくて、「万物は何でできているか」という問題をとりあげたのであった。ただ、実験設備 が何もない時代のことであるから、彼は言葉だけを武器として、いわば素手で問題にとりくむほ 、なかった。そこでかりに「万物は水である」として考えてみよう、それでうまく説明できない
【例 1 】誤り。男でないソクラテスの妻に、男についての主張 ( 大前提 ) をあてはめられるわけがない。形 の上では「不当肯定の虚偽」を犯している ( しかし結論自体は正しい ) 。 【例 2 】正しい。 金持でない詩人クライツは、金持でない芸術家でもある。これは第三格の 0 ス 0 型の三段 論法である。 【例 3 】誤り。動詞という字が、二重の意味で使われている ( 最初の前提の「動詞」は「動詞という言葉」 をさしているし、あとの前提の動詞は、歩くや走るなどを意味する、ふつうの意味の動詞である ) 。媒概念 曖昧の虚偽あるいは四個概念の虚偽とみられる ( 「」を省いて書くと、さらにもっともらしくなる ) 。 この種の混同は、昔から話の種にされている。 "What is the last letter of the alphabet ~ : 先生 ( イギリスの小学校 ) が期待した答は ( <no : : : の最後の文字 ) であ 0 たが、生徒 ( ある日本人 ) は「アルフア・ヘット」の綴りの最後の字と混同したのであった。 【例 4 】誤り。十字架や = ン = クが嫌いな人間も、いないとはいえない ( キリシタンを弾圧した人たちはど うだったろうか ? ) 。形の上では「媒概念を包まない虚偽」に陥っている。しかし結論は正しい ( とされて 解答 ( 問題は四ーペ 206