なくとも一人は悪者である」と解釈できる。 そこで ( もしの従者が白なら ) 三十九日めに、三十九人の従者の首が飛ぶ ( 帰納法の仮定 ) はずであ この。 ( ズルは、「賢いサルタンと四十人の不貞な女房」という形で流布されている。また「煤 で汚れた三人の顔」とか、賢者たちに赤か白かの帽子をかぶせて、あてさせる ( ほかの人の帽子 は見えるが、自分の帽子の色はわからない。全員に赤い帽子をかぶせて「少なくとも一人は、赤 しろいろな変形がある。 い帽子だ」と教える ) など、、 ところで、さっきの説明に、納得できない方もおられるにちがいない。私の友達 = = - - カ始まる の中にも、首をかしげる人がいた。 「悪者がわんさといることはどの貴族も知っていたし、また『他の貴族もそれくらいわかってい る』ということは、お互いにわかっているわけだね。すると、第一日めに首切りが起らないこと は、お互いにわかっているわけだ。ということは、二日めの新聞を受けとっても、何の知識もふ えないわけだ。つまり、第一日めも第二日めも、全員同じ状態にあるわけだね。そうだとすると、 ヘンじゃないかな ? 二日めからかそえて三十九日めに首が斬れるんなら、一日めからかそえて 三十九日めに首が斬れるはずじゃないか」 こんなふうに、ひとつのことが気にかかると、「わかったような気がしない」というのは誰に
そこで ( 休刊では困るので ) 貴族たちは、毎朝チラリと新聞に眼をやるのである。 「ウム、これで推理の材料がふえた。奴らの推理 ( おれのもだが ) が予定どおり働くことがわか ったぞ」 一日が経過することの意味はやはり、新聞が刊行されて、推理の材料が保証されることであっ た。だから新聞が休刊になっては、それこそ「第一日めも第二日めも、全員同じ状態にあるーこ とになる。早トチリ氏がいうように「まさに、一日がすぎた」というだけでは、何のたしにもな らないのである。 朝刊のほかにタ刊もあるなら、一日の意味は当然変ってくる。推理がス。ヒードアップされて、 第二十日めの夕刊が配られた直後に、四十人の従者の首が飛ぶことになるであろう ( 王様の話の 後で、最初に見るのは第一日めの夕刊であるとする ) 。 ところで、この原稿を読んだ数学者の某氏は次のような苦情を持ちだした。 最後のツメ 「これまでの議論には、大切な点がぬけているね。王様が、自分の従者が悪者と わかったら『即刻』その首をはねよといったのはなぜか。『即刻』ということの意味が、全然考 慮されていない。 この言葉がなかったら、自分の従者の首を、自信をもってはねることができる 貴族は、だれもいなくなっちゃうんだからね」 これはもっともな指摘なので、私も気がっかないわけではなかったのだが、こういう小さな論 152
うことにかかっている。そこで二日めの新聞が必要になるのである。「一日が経過した」ことに よって、翌日の新聞が手に入る、そして第一日めにおける、の行動がわかる。これが「一日が 経過した」ことの意味である。 貴族が、、 O の三人である場合には、 < はこう考える。 「おれは三日めの新聞にしか興味はないぞ。どうせ最初の日には、何も起らないにきまっている。 しかし、もしおれの従者が白だったら、他の奴らは二日めの新聞を待ちこがれるだろうなあー こんなふうに、」 前の日の新聞も「意味をもっかもしれない」のである。 「おれの推理は、他の奴らが正しい推理をしてくれることを前提としている。ところが、二日め の新聞も、奴らの推理にとっては必要かもしれないんだ。もし休刊だったりすると、奴らは推理 の材料を失って、結論をのばさざるをえないだろう。『中央新聞』が休刊かどうかは、毎日確か めなくちゃならない」 び貴族が四十人いても同様である。 あ「おれは四十日めの新聞にしか興味はないぞ。しかしおれの従者が白だとすると、他の奴らは三 理十九日めの新聞を待ちこがれるだろうなあ。そしてどいつも、『自分の従者も白だったら、ほか の奴らは三十八日めの新聞を待ちこがれるだろうなあ』と考えるにちがいない」 こうして推理の中の人物が行なう推理中の推理では、毎日の新聞が逆順に意味をもちはじめる。 151
でもあることと思うが、ここでは一点コダワリ型と呼んでおこう。コダワリ氏の疑問に対して、早 トチリ氏が早速口をはさむ。 「そんなことはないさ。一日が経過した、という知識がふえたのさ」 「え ? それで何がわかるんだい ? 」 「まさに、一日がすぎた、ということがわかったのさ コダワリ氏がこだわっているのは、「一日が過ぎたーということの意 これでは話にならない。 味ーー何の知識もふえないのではないか、ということなのだから、その考えのどこが誤っている かを指摘できなければ、この議論は結論を繰り返しあうだけの水掛け論になる。ここで新しい人 物に登場していただこう。 「こういう場合はね、数学的帰納法できちんと証明すればいいんですよ」 「でも、『わかったような気がしない』という人がいるんだけどなあ」 び「いや、帰納法で証明すればいいんですよ , そ コダワリ氏がこんなふうにいっていたが、と取り次いでみても、 あ 理「しかし、帰納法で証明すれば、それでいいんですよー 論 これは馬耳東風型、強弁術の原則第一を心得ているツワモノであるから、やはり議論にならな 。根負けした頃、助けにきたのが、また難物であった。
哀れな若者は、とうとう首をチョン斬られてしまった。 私は前から、このパラドックスには言葉の問題と自己矛盾の問題がからんでいるよ 私の解答 うに感じていた。若者が、今日殺されると「わかるーというとき、その「わかる」 というのはどういう意味であろうか ? 「前もって予言できるーという意味ではなく、「その日の朝、いえればよい」ことは、王様の言 葉から、はっきりしている。しかし、 ①自信をもって断言できる。 「その日が処刑日に選ばれていた」という事実をいいあてることができる。 推理によって「その日に処刑される」ことが結論できる。 のどの意味であるかは、あまりはっきりしていない。しかしパラドックスをおもしろくするため には、解釈①は除外したほうがよい。また解釈③では、天文学博士の議論が反駁できなくなるで あろう。そこで、解釈②の上に立ってみると、早トチリ氏の健全な常識「アミダで選んだ日を、 2 と・・とよ、・ あてられるはずがないーが疑問の余地なく成立する。では、 C とこがどうして違うの ・こつ、つ、刀 ? ・ 問題の核心は、解釈③に従うと、王様の命令が「論理的に自己矛盾を含むことになる」という 点にある。天文学博士の結論「若者を死刑にすることはできない」は、王様の命令から ( 解釈③
こそ悪いことをやっていた。どの貴族も、他の貴族の従者どもが悪者であることは知っていたが、 お互いに仲が悪いので、それを教えてやろうとはしなかった。ところが、自分の従者が悪事を働 いているかどうかは、誰も知らなかったーー従者たちはずる賢くて、自分の主人にだけは・ハレな いように、工夫していたのである。 この様子を見かねた王様は、ある日、この貴族たちを全員呼びあつめてこういった。 一「諸君は、他人の従者のことはよく知っているのに、自分の従者のことを少しもわかっておらぬ な。よいか、諸君の従者のうち、少なくともひとりは悪者じゃ。主人たるものは、自分の従者が 悪者とわかったら、即刻その首をはねよ。この始末を誤ったものは、自分の首を失うことになろ うぞよ 貴族たちは青くなって、王様に猶予を乞うた。そしてこの日を第一日として、第四十日めまで 考えることを許された。 さて、それぞれの家に帰った貴族たちは、次のように考えた。 「王様は嘘をつかない。実際、よその従者は性悪ばかりなのに、肝心のおれの従者が悪者かどう かは、おれにはさつばりわからんからなあ。王様の話だと、他の奴らもおれと同様らしい。とい うことは、他の奴らにきけば、おれの従者のことはわかるはずだが、といって、きくくらいなら 死んだほうがましだ。さて、どうしたものかなあ」 144
は知っていたのだから、「三十九人は白だ」などと考えるはずがない。また三十九人が白だとし たら、どうして四十人の首が飛んだのであろうかー 問題を解く鍵は、貴族たちの推理力にある。簡単のために、貴族が ( 四十人では 貴族の推理 なくて ) 一人だったとしよう。すると「悪者が少なくともひとりいる」といった その日 ( 第一日 ) のうちに、従者の首が飛ぶはずである。 では貴族が二人 ( かりに、とする ) だったらどうなるだろうか ? 貴族はこう考える。 「おれの従者が白か黒かは、の奴は知っている。もしおれの従者が白だったら、奴は、奴の従 者が悪者だと気づくだろう。少なくとも一人が悪者なら、奴の従者しかいないわけだからな。そ れなら、奴は今日中に、従者の首をはねるだろう。よし、明日の新聞が楽しみだ。おれの従者が 白なら、奴の従者の首が飛んでいる。奴の従者が無事なら、おれの従者は黒だ」 は翌朝の新聞を見て、大事件が起っていないことを知ると、、静かに立ち上がり、従者を呼ん で、首をはねた。も同じように考えて、同じように行動した。こうして二日めに、二人の従者 の首が飛んだ。 貴族が三人 (< 、、 0 とする ) の場合はどうか ? 貴族はこう考える。 「おれの従者が白か黒かは、ほかの奴らは知っている。もしおれの従者が白だったら、奴らはど うするだろうかなあ。うん、はこう考えるだろう。 146
怒りになるでしようが、私が参りまして、『王様のご命令がご無理であった』ことを、ご説明申 しあげましよう この国の慣習で、刑の執行を免れた囚人は、再び同じ罪では捕えられないことになっている。 お姫様が狂喜したことはいうまでもない。 では天文学博士は、どんな論証を思いついたのであろうか ? しろいろな「いいかえ」がある。変ったのをふたっ、 この問題には、、 問題のヴァリエーション 紹介しよう。 ある大学で、試験の日取りについて、次の規定が発表された。 【規定 1 】どの学科についても、学期末までに、一回だけ試験をしなければならない。 【規定 2 】どの試験も、期日を予告してはならない。また、前日の夕方に「明日試験があるー とわかってしまうような日には、試験をしてはならない。 これらの規定は、すべての教官・学生に公表された。すると何日もしないうちに、数学科の教 び あ官と一部の学生から「この規定どおりに試験を行なうことは不可能である」という苦情が出た。 の というのは、なぜであろうか ? 理「試験ができない ②あるクラブで、先輩が新入りを十人、タテに一列に並ばせて、こういっこ。 「これから諸君の思考カテストを行なう。まず諸君に、白い帽子と赤い帽子をかぶせる。誰も、 一三ロ 179
「こういう場合はね、問題の表現が重要なんですよ」 なるほど。しかし、コダワリ氏を納得させるには、与えられた問題の表現を吟味しなおすより も、証明 ( 帰納法 ) の。フロセスを吟味したほうがいいのではなかろうか。そこで論戦が始まり、 三十分の後 「私が問題といっているのはですね、そういう。フロセスをも含む、今問題になっている事柄の全 体です」 こんなふうに、議論の途中でどんどん言葉の意味をひろげてしまい、おしまいには、間違いと はいえないけれど何の意味もないアッタリマエの結論に逃けこんでしまう人がいる。これは言葉 をもてあそぶ型と呼べばよいであろう。この型の人はプライドが高く、議論に負けるのを特に嫌 うようである。 では、コダワリ氏を納得させるには、どんなふうに説明すればよいのだろう 説得をめざして か。やはり、コダワリ氏のいっている問題点を、理解するところから始めな ければならない。「何も起らない」とわかっている「一日が経過した」ということから、何かの 情報が得られるとしたら、これはたしかに不思議なことではあるまいか ? また、貴族が二、三人しかいない場合に戻って、考えなおしてみよう。 貴族が、の二人しかいない場合、 < の判断の材料は、「が第一日めにどうするか」とい 150
は『朝からわかっていた』ことを申したてて、役人を追い返すことができるでしよう」 「おお、わしにもわかったそ ! 」 大臣が叫んだ。 「処刑できる最後の日には、朝にそのことがわかってしまうから、処刑できないのだな。そこで、 『最後の日』を次々と除いてゆくと、けつきよく処刑できる日はなくなってしまう」 「でも、今日中に処刑されてしまったら、どうなるのかしら ? 「ご心配には及びません。王様は、『明日から来週の金曜日まで』と仰せになりました。さあ、 もう大丈夫です。首斬り役人は私の配下ですから、理屈ぬきにあの若者の首を斬るようなことは させませんー お姫様と若者の物語は、めでたく終った。しかし論理のあそびとしては、 バラドックスの発生 ビ これからがむしろ問題である。物語がハ、 ・エンドになるのは作者の ご都合主義である、どうして首が斬れないのだ、という批判があることを忘れてはならない。 早トチリ氏「やつばりへンじゃよ、 オしかな。まあ、金曜日ではまずいかもしれないけど、土曜日 から火曜日ぐらいまでの一日をアミダで選んでさ、その日に処刑してしまえばいいんじゃな いの。なぜその日が選ばれたのか、若者にわかるはずがないんだからね」 コダワリ氏「しかし、さっきの天文学博士の論法は、どうなるんだい ? あの議論のどこがま 182