久「ありませんよーだ」 正「ありますよーだー 久「じや作ってみろ、一分間で、作ってみろ」 正「あっかんべーだ」 最初正君は「あるわけない」といっていたのに、途中から話が逆になってしまったが、本人た ちは平気である。世界最強の矛と、世界最強の盾とが火花を散らしているようなもので、どちら も負け知らずである。 このような理屈ぬきの「押しの一手」は、「強弁」と呼ぶべきであろう。これに対して、多少 とも論理や常識をふまえて「相手を丸めこむ ( あるいはごまかす ) 」のが「詭弁ーである。「詭 弁ーが詐欺や窃盗にあたるとすれば、「強弁ーはさしずめ強盗になる。実際には泥坊が居直って 強盗になるように、詭弁と強弁をおりまぜたようなやり方もあるにちがいないが、基本技術とし 相ては詭弁と強弁を区別しておいたほうが便利なので、私たちもこれらの言葉を一応区別して使う 種ことにしこ、。 の ところで「頭は悪くないつもりだが、どうも議論は苦手だ」という人におすす 論理のあそび めしたい、気分転換法がある。それは、論理のあそび ( 「言葉の。 ( ズル」とい ってもよい ) である。ひとっ簡単な例をお目にかけよう。
【例 1 】誤り。男でないソクラテスの妻に、男についての主張 ( 大前提 ) をあてはめられるわけがない。形 の上では「不当肯定の虚偽」を犯している ( しかし結論自体は正しい ) 。 【例 2 】正しい。 金持でない詩人クライツは、金持でない芸術家でもある。これは第三格の 0 ス 0 型の三段 論法である。 【例 3 】誤り。動詞という字が、二重の意味で使われている ( 最初の前提の「動詞」は「動詞という言葉」 をさしているし、あとの前提の動詞は、歩くや走るなどを意味する、ふつうの意味の動詞である ) 。媒概念 曖昧の虚偽あるいは四個概念の虚偽とみられる ( 「」を省いて書くと、さらにもっともらしくなる ) 。 この種の混同は、昔から話の種にされている。 "What is the last letter of the alphabet ~ : 先生 ( イギリスの小学校 ) が期待した答は ( <no : : : の最後の文字 ) であ 0 たが、生徒 ( ある日本人 ) は「アルフア・ヘット」の綴りの最後の字と混同したのであった。 【例 4 】誤り。十字架や = ン = クが嫌いな人間も、いないとはいえない ( キリシタンを弾圧した人たちはど うだったろうか ? ) 。形の上では「媒概念を包まない虚偽」に陥っている。しかし結論は正しい ( とされて 解答 ( 問題は四ーペ 206
やさしいパズルでは、答をみつけることよりも、その答を「誰にでもわかるように」説明でき るかどうかが問題とされる。すぐに「そんなこと、当り前だ」という人でなく、鬼神をも哭かし むる、一万ドルの指輪を買った貴婦人をもほほえましむる説得力が必要とされる。まずは—章の 初級問題 ( へ 1 ジ ) から始めてみよう。 「十三人の客が十二の個室に、ひとりずつ泊れた」という説明を読んで、「あ 初級問題解答 れつーと思った人はいないだろうか ? もちろん「そんなはずはない」のだけ れど、この説明だと・ : ・ : ? 「客の数のほうが多いのだから、みんながひとりずつ泊れるはずがない」 これはいわば「結論」であって、説明の「どこ」がまちがっているかを指摘したことにはなら 問題は、 1 号室に入ったふたりの内容である。まず最後 ( 十三番め ) の客をかりに入れ、それ からほかの客のひとりを到着順に入れたのだから、最初 ( 一番め ) の客が同室することになる。 やさしいパズル 126
1 ワ朝 -4 ーっ 0 8 1 十 1 ところがよく見るとこれは答でも何でもなく、計算が合っていないー などと意地悪をいうのはやめにしよう。この問題には では正しい答をみつけてください 「答がない」のである ( 。 ( ズリスト高木茂男氏の発案 ) 。Ⅱ 9 とおいてもダメなものはダメなので、 「ほかの数ではうまくいかないから、Ⅱ 9 だ」というところが、インチキなのであった。 という消 最初の問題でも「 ()n Ⅱ 8 ではダメなので、Ⅱ 9 でなければならないー 失敗の逆用 去法を使っている。それでうまくいったのは、たしかに「答が存在する」からで あった。ふつうのパズルなら、答があるのは当り前なので、気にかける必要もないかもしれない が、やかましくいえば、Ⅱ 9 として本当に答が求まるかどうかは、最後に検算してみるまでわ からないのである。 エルキュ 1 ル・ボアロ氏は、この点実に慎重である。犯人が誰であるか見当がついても、動か e Ⅱ 9 でなければならない。 このあと、ありえない場合を消していく間に、次のような答 ( ? ) がみつかる。 ー 08
【初級問題】個室が十二部屋しかない小さなホテルに、十三人の客がやってきた。何とかみんな 泊めてしまおうと頭をひねったマネージャーは、まず最後についた客に、かりに ( 一時的に ) 1 号室に入ってもらい、それからほかの客を、その 1 号室からはじめて各部屋にひとりずつ、順番 に割り当てていった。 こうして 1 号室だけは、ふたりが入った。そして三番めの人は 2 号室に、四番目の人は 3 号室 に、五番めの人は 4 号室に入った。以下、六番めの人は 5 号室に、・ ・ : と続いて、十二番めの人 がⅡ号室に入った。 それからマネージャーは、あいている肥号室に、さっき 1 号室に入ってもらった「最後の客」 をつれてきた。これでめでたく、十三人の客が十二の個室に、ひとりずつ泊れたことになる。 どこがまちがっているか ? 【中級問題】買物上手の君に、、 0 、の三人が千円ずつ出して、三千円のレコードを買う 相のを依頼した。君は五百円だけ値切って買い、二百円を着服して、残り三百円とレコ 1 ドを三 人に渡した。三人は喜んで、おつりを百円ずつわけた。 の ム冊 さて、、 0 、は一人九百円ずつ出したことになるので、三人の出費はあわせて二千七百円 議 である。これに < 君が着服した二百円を加えると二千九百円になり、最初の三千円より百円少な
やたらと強弁をふりまわすのは、好ましいことではないし、また長い眼でみれば、決して得な ことでもない。しかし、強弁をふりまわされる立場におかれたときに、忍の一字で耐えるよりは、 相手の術の型を観察し、性格を占ったりしながら応対をしたほうが、精神衛生上はるかに有益で あろう。この章では、強弁術を「身につける」ためではなく、「観察して楽しむーために有益と 思われる知識を、いくらか整理して紹介してみたい。 強弁術の誕生 動物の世界には、強弁というものはない。強い者が勝ち、大きな魚が小さな魚を 権力と強弁 食う。人間の世界でも、遠い昔はそうであった。ところが社会制度がしだいに複 雑になり、権利とか義務などがやかましくなってくると、強弁・詭弁が生まれてくる。 想像にまかせて物語ることをお許しいただけるなら ( これも強弁 ? ) 、最初に強弁をふるったの はやはり昔の権力者であろう。「泣く子と地頭には勝てぬーの言葉どおり、権力者が何かをいい だしたが最後、無理が通って道理がひっこむのが相場であった。 権力者にはさらに、法律と伝説に対する絶大な力がある。年貢の高がどのようにきめられたの
ことをいし ヒトラーはいつでもウソをつくが、スターリンはウソをつくか本当のことをいうか きまっていないとする。ケネディはこれらのうちの ( 誰ともわからない ) 二人に、一回ずつ、 え」で答えられる質問をする。三回以上質問をしても、誰も答えてくれない。 「はい」か「いい ケネディは、正しい道をみつけられるだろうか ? ケネディは、こんなふうに考えた。 「おれの最初の質問の相手が、もしスターリンだったら、答は何の意味ももたない。何の情報も 得られないんだ。してみると、あと一回の質問で、完全な情報を獲得しなくちゃならない。三人 を相手に、そんなことは不可能だー 頭をかかえてしまったケネディを、何とか助けてください。 さっきとは逆に、ケネディの考えのどこがまちがっているか、ということから考えてみよう。 最初の質問の相手がスタ】リンだったら、その答には何の意味もない。また、三人を相手に、一 び回の質問で完全な情報を獲得することは、たしかに不可能である ( その一回の相手もスターリン あだったら、お手上げである ) 。しかし、最初の質問の相手がスターリンでなければ、何かの情報 理は得られるわけである。また、二回めの質問は、最初の質問の相手を除いた残りのふたり ( のど ちらか ) にすると考えれば、「三人を相手に一回の質問」ではなくて「二人を相手に一回の質問」 と考えるべきである。 141
そこで ( 休刊では困るので ) 貴族たちは、毎朝チラリと新聞に眼をやるのである。 「ウム、これで推理の材料がふえた。奴らの推理 ( おれのもだが ) が予定どおり働くことがわか ったぞ」 一日が経過することの意味はやはり、新聞が刊行されて、推理の材料が保証されることであっ た。だから新聞が休刊になっては、それこそ「第一日めも第二日めも、全員同じ状態にあるーこ とになる。早トチリ氏がいうように「まさに、一日がすぎた」というだけでは、何のたしにもな らないのである。 朝刊のほかにタ刊もあるなら、一日の意味は当然変ってくる。推理がス。ヒードアップされて、 第二十日めの夕刊が配られた直後に、四十人の従者の首が飛ぶことになるであろう ( 王様の話の 後で、最初に見るのは第一日めの夕刊であるとする ) 。 ところで、この原稿を読んだ数学者の某氏は次のような苦情を持ちだした。 最後のツメ 「これまでの議論には、大切な点がぬけているね。王様が、自分の従者が悪者と わかったら『即刻』その首をはねよといったのはなぜか。『即刻』ということの意味が、全然考 慮されていない。 この言葉がなかったら、自分の従者の首を、自信をもってはねることができる 貴族は、だれもいなくなっちゃうんだからね」 これはもっともな指摘なので、私も気がっかないわけではなかったのだが、こういう小さな論 152
これで、ケネディの考えにわずかなスキがある ( らしい ) ことはわかったが、そのスキをつい て、うまい質問を組み立てることはできるのだろうか ? それともやつばり、不可能なのだろう 、刀 第二の質問は、残った二人 ( 最初の相手を除く ) がどちらもスターリンでなければ、簡単であ る。前の問題と同じになるので、質問が役に立つ。しかし、残った二人のどちらかがスターリ ンである場合は問題である。必要な情報を得るために、二回めの質問は、残り二人のうちスター リンでないほうにきかなければならない。 この要求をみたすには、最初の質問で「誰がスタ 1 リンであるか」をきくとよいであろう ( と いうよりは、この質問しかない ) 。詳しくいえば、最初の質問の相手を < 、残りを、 O とする とき、から はスタ】リンであるか。 ということをききだすのである。がスターリンであれば、 O はスターリンでないから、二回め の質問の「きくべき相手」がわかったことになる ( がスタ ] リンでなければ、にきけばよ 【第一の質問】ーー天使 < ( 誰でもよい ) をつかまえて、次のようにきく。 「あなたは、『この方 ( と天使を指さしながら ) がスターリンですか』ときかれたら、『は
た人は「頭の回転の早い人」 ( 回転が遅ければ、決してひっかからない ) 、最初からゴマカシを見 破った人は「冷静な人」と考えていただいてさしつかえない。 なお、部屋の数より人数のほうが多ければ「どこかの部屋を二人以上にしなければならない」 という、ごくアタリマ = の事実には、ディリクレの部屋割り論法という立派な名前がつけられて いる。ディリクレは十九世紀の数学者の名前であるが、この事実を利用して、ある ( 整数論の ) 定理のエレガントな証明を与えた。 、 O 、は、一人九百円ずつ出したことになるので、三人の出費はあわせて 中級問題解答 二千七百円である。ここまでは正しい。その二千七百円がどのように使われた かというと、二百円を < 君が着服し、二千五百円がレコード の代金として支払われた。いいかえ れば、三人の出費二千七百円から君の着服した分二百円をひくと、本当のレコード の代金二千 五百円になる。もともと、 < 君が着服した二百円は、三人の出費二千七百円の一部分なので、 「二千七百円に << 君の着服した二百円を加えるーのでは君の着服した分を二重にかぞえただけ であり、出てくる「二千九百ーという数字には何の意味もない。 最初の三千円は、どこに行ったのだろうか ? 二千七百円が出費となり、三百円は戻ってきた。 つまり、三人の出費二千七百円に、戻ってきた三百円を加えれば、 ( 戻す前の ) 最初の三千円に 一致する。このように「戻ってきた三百円」を加えるべきところを、似て非なる数字「君が着 貶 8