本 - みる会図書館


検索対象: TVピープル
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1. TVピープル

め、つ州 ~ の何が結果的に作者自身を凌駕したか。私にはそれを見通すことができた。 どれだけ意識を集中しても私は疲れなかった。『アンナ・カレーニナ』を読めるだけ 読んでしまうと、私はドストエフスキーを読んだ。私はいくらでも本を読むことができ とのような難解な箇所も私は難な た。どれだけ意識を集中しても疲れを覚えなかった。。 く理解することができた。そして深く感動もした。 これが本来の私のあるべき姿なのだ、と私は思った。眠りを捨てることによって、私 は私自身を拡大したのだ。大事なのは集中力なのだ、と私は思った。集中力のない人生 なんて、目だけ開けて何も見ていないのと同じなのだ。 やがてプランディーがなくなってしまった。私はほとんど一本。フランディーを飲んで ・マルタンを一本買った。ついでに赤 しまったのだ。私はデバートに行って同じレミー ワインも一本買った。それから上等なクリスタルのプランディー・グラスも買った。チ ョコレートとクッキーも買った。 たかぶ 時々、本を読んでいて、気持ちがひどく昂ることがあった。そんな時、私は本を読む 眠のをやめて部屋の中で体を動かした。柔軟体操をやったり、あるいはただ単に部屋の中 を歩きまわった。気が向くと夜中の散歩に出かけることもあった。私は服を着替え、駐

2. TVピープル

とか、あるいは冷凍庫の調子があまりよくないこととか、親戚の結婚式に何を着ていけ ししいかとか、あるいは一カ月前に父親が胃を切ったこととか、そんなことがふっと頭 に浮かんできて、それが次々にいろんな派生的な方向に膨らんでいくのだ。そして気が つくと、時間だけが経過して、ページはほとんど前に進んでいないということになった。 私はそのようにして、いつの間にか本を読まない生活に慣れてしまった。あらためて 考えてみると、それはとても不思議なことだった。子供の頃からずっと、本を読むこと は私の生活の中心だったからだ。私は小学生のときから図書館中の本を読み漁ってきた し、お小遣いはほとんど全部本代に消えた。私は食事を削って、そのお金で自分の読み たい本を買って読んだ。中学でも高校でも、私くらい本を読む人間はいなかった。私は 五人兄弟の真ん中だったし、両親はどちらも仕事を持っていて忙しい人だったので、家 族の誰も私のことなんか気にもとめなかった。だから私はひとりで好きなだけ本を読む ことができた。読書感想文のコンクールがあると私は必ず応募した。賞品の図書券がほ しかったのだが、たいていいつも入賞した。大学では英文科に進んだ。そこでも良い成 績を取った。キャサリン・マンスフィールドについて書いた卒論は最高点を取った。教 授は大学院に残らないかと言った。でもそのとき私は社会に出たかった。結局のところ あさ

3. TVピープル

私は学究的な人間ではなかったし、そのことは自分でもよくわかっていた。私はただ本 を読むのが好きだったというだけのことなのだ。それにもし大学に残りたいと思ったと ころで、私を大学院にやるような経済的余裕は私の家にはなかった。家は貧しいという ほどではなかったが、私の下にはまだ妹が二人もいたのだ。そんなわけで、大学を出る と私は家を出て自立して生きていかなくてはならなかった。文字どおり私は自分の二本 の手で生き残っていかなくてはならなかったのだ。 私が最後にきちんと本を一冊読んだのはいつのことだろう ? そしてその時私はいっ たい何を読んだんだろう ? どれだけ考えても、私にはその本の題名さえ思い出せなか った。人生というのはどうしてこんなにがらりと様相を変えてしまうのだろう、と私は 思った。憑かれたように本を読みまくっていたかっての私はいったいどこに行ってしま ったのだろう ? あの歳月と、異様とも一一一一口える激しい熱情は私にとっていったい何だっ たんだろう ? でもその夜、私は『アンナ・カレーニナ』に意識を集中することができた。私は何も 眠考えずに夢中でページを繰った。私はアンナ・カレーニナとヴロンスキーがモスクワの しおり 鉄道駅で顔を合わせるところまで一気に読んでから、ページに栞をはさみ、プランディ

4. TVピープル

まったく眠くない。 やれやれ、と私は思った。本当にぜんぜん眠くないのだ。 眠くなるまで本でも読んでみようと私は思った。私は寝室に行って、本棚から小説を 一冊選んだ。明りをつけて捜したのだが、夫はびくりとも動かなかった。私が選んだの は『アンナ・カレーニナ』だった。私はとにかく 長いロシアの小説が読みたかった。 『アンナ・カレーニナ』はずっと昔に一度読んだことがある。あれはたしか高校時代だ 。どんな筋だったか、ほとんど覚えていない。最初の一節と、最後に主人公が鉄道 自殺をするというところだけを記憶している。「幸福な家庭の種類はひとつだが、不幸 な家庭はみんなそれぞれに違っている」、それが書き出しだ。たぶんそうだったと思う。 たしか最初の方にクライマックスのヒロインの自殺を暗示するシーンがあったと思う。 それから競馬場の場面があったかしら ? それともあれは別の小説だっけ ? 私はとにかくソファーに戻って本のページを開いた。こんな風にゆっくりと腰を据え て本を読むのなんていったい何年ぶりだろう、と私は思った。もちろん午後の余った時 眠間に三十分か一時間本を開くことはある。でもそれは正確には読書とは呼べない。本を 読んでいても、私はすぐにべつのことを考えてしまう。子供のこととか、買い物のこと

5. TVピープル

間もないころ、私はそれがおかしくて、この人はいったいどうやったら目を覚ますんだ ろうと、何度か実験してみた。スポイトで顔に水を垂らしてみたり、刷毛で鼻の頭をこ すってみたりした。でも彼は絶対に起きなかった。しつこくつづけると、最後にやっと 不快そうな声を出すだけだった。夫は夢さえも見なかった。少なくとも、どんな夢を見 たのかまったく思い出せなかった。もちろん金縛りになんか遭ったこともない。彼は、 泥に埋もれた亀のように、ただぐっすりと眠るだけなのだ。 立派なものだ。 私は十分ほど横になってから、そっとべッドを出る。そして居間に行ってフロア・ス タンドをつけ、グラスにプランディーを注いだ。それからソファーに座って、プランデ ィーをひとくちひとくち舐めるように飲みながら本を読んだ。気が向くと、戸棚に隠し ておいたクッキーやチョコレートを出して食べた。そのうちに朝がやってきた。朝にな ると、私は本のページを閉じ、コーヒーを沸かして飲んだ。そしてサンドイッチを作っ て食べた。 毎日、同じことの繰り返しだった。 私は手早く家事を済ませ、午前中ずっと本を読んだ。そして昼前になると、本を置い

6. TVピープル

消えてしまっていたのだ。 ばうだい それではあの時代に、私が本を読むことで消費した厖大な時間はいったい何だったの だろう ? 私は本を読むのをやめて、しばらくそれについて考えてみた。でも私にはよくわから なかったし、そのうちに、自分が何について考えていたのかもわからなくなってしまっ た。ふと気がつくと、私はただばんやりと窓の外の樹を眺めていた。私は頭を振って、 また本のつづきを読みはじめた。 上巻のまんなかを過ぎたあたりにチョコレートの屑がはさまっていた。チョコレート は乾燥して、ばろばろになったままページにこびりついていた。きっと私は高校時代、 チョコレートを食べながらこの小説を読んでいたんだ、と私は思った。私は何かを食べ ながら本を読むのが大好きだった。そういえば、結婚して以来チョコレートもまるで食 べなくなってしまった。甘い菓子を食べることを夫が嫌うせいだ。子供にもほとんど与 えない。だから家には菓子の類は一切置いていない。 むしよう その十年以上前の白く変色したチョコレートのかけらを見ているうちに、無性にチョ コレートが食べたくなった。私は昔と同じようにチョコレートを食べながら『アンナ・

7. TVピープル

文春文庫フィクシ , ン 由 良 郎 逃深殺運鳥陰修 曲 メ几 本又 人 件 = ヒ 村 昭 の 村 昭 、金 - . ル 短事 亡者 村 昭 艦 セ を黙翼 ズ 道子礼弾 由 良 郎 ホ 調 村 昭 帰闇帽海蚤 士 村 昭 の 使 村 昭 を 裂 く ダ 枕 獏 の 山 村 昭 と 夢 枕 獏 結 城 昌 治 山 村 美 紗 ポ ケ ツ ト ノレ しこ 死 . と戔ご、 村 昭 は り け 山 村 美 紗 ゴ ノレ ド コ ス ト 村 昭 々 、の つ植沈 山 村 美 紗 幌 ま っ り の 枚 墻人件 山 村 美 紗 者 ; 沢 メ几 本又 人 羅 陽発の 匂 自市じし、 月 の 昭 村 山 村 美 紗 レ ン 家 族 メ几 本又 人 事 件 村 昭 下秋磔 の 彳野 村 昭 神虹海総亭 軍 乙 事 イ牛 村 昭 の 村 昭 シ 山 村 美 紗 本又 人 は リ イ ヤ ル 出 家 の 主 昭 村

8. TVピープル

るいは私の話をすっかり信用して、私をどこかの大病院に送り込んで検査を受けさせる かもしれない。 それでどうなるだろう ? 私はそこに閉じ込められ、あっちこっちとたらい回しされて、いろんな実験を受ける だろう。脳波やら心電図やら尿検査やら血液検査やら心理テストやら、なにやかや。 私はそんなものに我慢できそうになかった。私はひとりで静かに本を読みたかった。 毎日一時間きっちりと泳ぎたかった。そして私は何より自由というものがほしかった。 それが私の望んでいることだった。病院になんか入りたくない。それに病院に入ったか らといって、彼らにいったい何がわかるだろう ? 彼らは山ほど検査をして、山ほど仮 説を立てるだけなのだ。私はそんなところに閉じ込められたくなかった。 ある日の午後、私は図書館に行って、眠りについての本を読んでみた。眠りについて の本はそれほど沢山はなかったし、たいしたことは書いてなかった。結局、彼らの言い たいことはただひとつだった。眠りというのは休憩であるーーーそれだけのことだ。それ 眠は車のエンジンを切るのと同じなのだ。ずっと休みなくエンジンを動かしていると、そ れは早晩壊れてしまう。エンジンの運動は必然的に熱を生じるし、こもった熱は機械そ

9. TVピープル

泉麻人 リモコン症候群井上ひさし四十一番の少年 、い中 五木寛之青年は荒野をめざす井上ひさし手鎖 五木寛之蒼ざめた馬を見よ井上ひさしイサムよりよろしく 五木寛之樹 氷井上ひさしおれたちと大砲 ン 牢 五木寛之につばん退屈党井上ひさし合 者 ク 鼠 五本寛之涙の河をふり返れ井上ひさし黄色 フ の 五本寛之幻 女井上ひさしさそりたち 庫 文五木寛之白夜草紙井上ひさし花石物語 文五木寛之わが憎しみのイカロス井上ひさし江戸紫絵巻源氏上・下 の 五木寛之裸 町井上ひさしもとの黙阿弥 五木寛之金沢望郷歌井上ひさし野球盲導犬チビの告白 五本寛之ステッセルのピアノ井上ひさしイヌの仇討 井上ひさし青葉繁れる井上靖おろしや国酔夢譚 シンドローム

10. TVピープル

まれるようにして生きていたときのことを。もうあんなことはごめんだ。あの時は私は まだ学生だった。だからあれでもやってゆけたのだ。でも今はそうじゃよ、。 オし私は妻で あり、母親である。私には責任というものがある。夫の昼食も作らなくてはならないし、 子供の世話もある。 しかしこのままべッドに入ってもたぶん一睡もできないだろうと私は思った。私には それがわかった。私は首を振った。仕方ないじゃよ、 オしか、私は全然眠れそうにないし、 それに本のつづきだって読みたいのだ。私は溜め息をついて、机の上の本に目をやった。 結局、私は朝日がさすまで『アンナ・カレーニナ』に読み耽っていた。アンナとヴロ ンスキーは舞踏会で互いをみつめあい、そして宿命的な恋に落ちた。アンナは競馬場 ( やはり競馬場は出てきたのだ ) でヴロンスキーの落馬を見て取り乱し、夫に自分の不 貞を告白する。私はヴロンスキーとともに馬に乗って障害物を飛び越え、人々の歓声を 耳にした。そして私は観客席でヴロンスキーの落馬を目にした。窓が明るくなると、私 は本を置いて、台所でコーヒーを沸かして飲んだ。頭の中に残っている小説の場面と、 眠突然やってきた激しい空腹感のせいで、私には何も考えられなかった。私の意識と肉体 はどこかでずれたまま、固定してしまったようだった。私はパンを切り、バターとマス ふけ