村上春樹 ノレ II ⅢⅧ膩Ⅲ朏Ⅷ川 文春文庫 村上春樹の本 パン屋再襲撃 TV ピープル 不意に部屋に侵入してきた T v ヒ。 ープル。詩を読むようにひとり , とを言う若者。男にとても犯され やすいという特性をもつ美しい女 性建築家。 17 日間一睡もて、きず、 さらに目が冴えている女。 そ れぞれが謎をかけてくるような、 怖くて、奇妙な世界をつくりだす。 作家の新しい到達点を示す、魅惑 にみちた六つの短篇。 著者紹介 村上春樹 ( むらかみ・はるき ) 1949 年 1 月 12 日、兵庫県芦屋市に生 れる。早稲田大学文学部演劇科 卒 1979 年「風の歌を聴け」て群 像新人賞、 1982 年「羊をめぐる冒 険」て、野間文芸新人賞、 1985 年「世 界の終りとハードボ、イルド・ワン ダーランド」て、奇潤一郎賞を受 ける。上記のほか、「 1973 年のヒ。ン ボ、一ル」、「中国行きのスロウ・ポー ト」、「螢・納屋を焼く・その他の短 編」、「回転木馬のデッド・ヒート」、 「羊男のクリスマス」、「パン屋再襲 撃」、「ノルウェイの森」、「ダンス・ ダンス・ダンス」「 TV ピーフ。ル」 の小説作品、そして工ッセイ、翻 訳など多くの著書がある。 A 型。 山羊座。 9 7 8 4 1 6 7 5 0 2 0 2 7 1 9 2 0 1 9 ろ 0 0 5 7 1 0 I S B N 4 ー 1 6 ー 7 5 0 2 0 2 - X C 0 1 9 5 \ 5 7 1 E 定価 ( 本体 371 円 + 税 ) 村上春樹 文春文庫 む 5 2 文春文庫 文舂文庫 装画・佐々木マキ 十税
文春文庫 T V ピープル 村上春樹 文藝春秋
T 文春文庫 V ピ フ。 村上春樹 文藝春秋 ノレ
文春文庫 T V ピープル 1993 年 5 月 8 日第 1 刷 1997 年 11 月 20 日第 5 刷 著者村上春樹 発行者新井信 発行所株式会社文藝春秋 東京都千代田区紀尾井町 3 ー 23 〒 102 TE L 03 ・ 3265 ・ 1211 定価はカバーに 表示してあります 落丁、乱丁本は、お手数ですが小社営業部宛お送り下さい。送料小社負担でお取替致します。 印刷・凸版印刷製本・加藤製本 Printed in Japan ISBN4 ー 16 ー 750202 ー X
泉麻人 リモコン症候群井上ひさし四十一番の少年 、い中 五木寛之青年は荒野をめざす井上ひさし手鎖 五木寛之蒼ざめた馬を見よ井上ひさしイサムよりよろしく 五木寛之樹 氷井上ひさしおれたちと大砲 ン 牢 五木寛之につばん退屈党井上ひさし合 者 ク 鼠 五本寛之涙の河をふり返れ井上ひさし黄色 フ の 五本寛之幻 女井上ひさしさそりたち 庫 文五木寛之白夜草紙井上ひさし花石物語 文五木寛之わが憎しみのイカロス井上ひさし江戸紫絵巻源氏上・下 の 五木寛之裸 町井上ひさしもとの黙阿弥 五木寛之金沢望郷歌井上ひさし野球盲導犬チビの告白 五本寛之ステッセルのピアノ井上ひさしイヌの仇討 井上ひさし青葉繁れる井上靖おろしや国酔夢譚 シンドローム
井上 靖その人の名は言えない 色川武大虫けら太平記 生月 井上 魔の季節植草圭之助わが青春の黒沢明 井上靖白 炎内田春菊フアザーファッカー 生月 井上 花うつみ宮土理く ねり坂 井上靖地図にない島内海隆一郎街の眺め 井上靖戦国城砦群内海隆一郎 一杯の歌 フ 井上 靖月 スタ 光海老沢泰久ス 庫 文井上 靖若き怒濤海老沢泰久 2 グランプリ 文井上 靖一 海海老沢泰久美味 生月 井上 沙上・下海老沢泰久監 督 色川武大離 婚海老沢泰久ただ栄光のために 堀内恒夫物語 色川武大怪しい来客簿遠藤周作 説身上相談 色川武大あちゃらかばし 、ツ遠藤周作ピアノ協奏曲二十一番
102 の ? どうしてそれをちっともわかってくれないの ? どうして私をそんなにいじめる の ? 」彼は彼女を抱いた。「僕がいれば怖くない」と彼は言った。「僕だって本当は怖い んだ。君と同じくらい怖い。でも僕は君と一緒なら怖がらすにやっていけると思う。僕 と君とで力を合わせれば何だって怖くない」 彼女は首を振った。「あなたにはわかってないのよ。私は女なのよ。あなたとは違う のよ。あなたにはそれがわかってないのよ、ぜんぜん」 それ以上は何も言っても駄目だった。彼女はすっと泣いていた。そして泣きゃんでか ら不思議なことを言った。 「ねえ、もしょ : : : もしあなたと別れることになっても、あなたのことはずっといつま でも覚えているわ。本当よ。決して忘れない。私はあなたのことが本当に好きなんだも の。あなたは私が初めて好きになった人だし、あなたと一緒にいるだけですごく楽しか ったの。それはわかってね。ただそれとこれとは別なのよ。もし何かそれについて約束 がほしいのなら、約束する。私はあなたと寝る。でも今は駄目。私が誰かと結婚したあ とであなたと寝る。嘘じゃないわ、約束する」
消えてしまっていたのだ。 ばうだい それではあの時代に、私が本を読むことで消費した厖大な時間はいったい何だったの だろう ? 私は本を読むのをやめて、しばらくそれについて考えてみた。でも私にはよくわから なかったし、そのうちに、自分が何について考えていたのかもわからなくなってしまっ た。ふと気がつくと、私はただばんやりと窓の外の樹を眺めていた。私は頭を振って、 また本のつづきを読みはじめた。 上巻のまんなかを過ぎたあたりにチョコレートの屑がはさまっていた。チョコレート は乾燥して、ばろばろになったままページにこびりついていた。きっと私は高校時代、 チョコレートを食べながらこの小説を読んでいたんだ、と私は思った。私は何かを食べ ながら本を読むのが大好きだった。そういえば、結婚して以来チョコレートもまるで食 べなくなってしまった。甘い菓子を食べることを夫が嫌うせいだ。子供にもほとんど与 えない。だから家には菓子の類は一切置いていない。 むしよう その十年以上前の白く変色したチョコレートのかけらを見ているうちに、無性にチョ コレートが食べたくなった。私は昔と同じようにチョコレートを食べながら『アンナ・
160 一昨日の見分けもっかないという事実に。そういう人生の中に自分が含まれ、飲み込ま れてしまっているという事実に。自分のつけた足跡が、それを認める暇もなく、あっと いうまに風に吹き払われていってしまうという事実に。そういう時、私は洗面所の鏡で 自分の顔を眺める。十五分くらいじっと見ているのだ。頭をからつばにして、何も考え ないで。自分の顔を純粋な物体としてじっと見つめる。そうすると、私の顔はだんだん 私自身から分離していく。ただ純粋に同時存在するものとして。そして私はこれが現在 なんだと認識する。足跡なんか関係ない。私はこうして今現実と同時存在しているのだ、 それがいちばん大事なことなんだと。 でも今では私は眠れない。私は眠れなくなってから日記をつけるのもやめてしまった。 眠れなくなってしまった最初の夜のことを私は鮮明に覚えている。私はそのとき嫌な 夢を見ていた。とても暗くて、ぬめぬめとした夢だった。内容までは覚えていない。私 が記憶しているのはその不吉な感触だけだ。そしてその夢の頂点で、私は眠りから覚め た。それ以上夢の中にひたっていたらもう取り返しがっかなくなるという危うい時点で、
く変な声だ。分厚いフィルターで養分をすっかり吸い取られたあとの声だ。自分がすご く歳を取ってしまったような気がする。 「それはまだ色を塗っていないからじゃないかな」と > ビープルが言った。「明日に はちゃんと色を塗る。そうすれば飛行機だってことがはっきりわかるはずだよ」 「色の問題じゃない。形の問題だよ。それは飛行機じゃな、 「飛行機じゃないとすると、これは何なんだい ? 」とビープルが僕に訊いた。僕に はわからなかった。だとするとこれはいったい何なんだろう ? 「だから色のせいなんだよ」とピープルは優しい声で僕に言った。「色を塗ればち ゃんとした飛行機になるんだよ」 とちらだっていいじゃよ、 オしか、と僕は田 5 っ 僕はそれ以上討論することをあきらめた。。 た。それがオレンジの絞れる飛行機であろうが、空を飛べるオレンジ絞り機であろうが、 とちらだってかまやしない。女房はどうして帰ってこないん それが何だっていうんだ。・ 一だ。僕は指先でもういちどこめかみを押さえた。時計の音が響きつづけた。タルップ・ 科ク・シャウス・タルップ・ク・シャウス。テープルの上にはリモコンが載っていた。そ の隣には女性雑誌が積み重ねてあった。電話はまだ沈黙したままだ。部屋はテレビのほ