おかあさん - みる会図書館


検索対象: ぼくがぼくであること
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1. ぼくがぼくであること

結婚して、子どもがうまれても、おかあさんみたいになりたくないって。 : ほんと すぎなみ はね、おかあさんにもすきな人がいたらしいの。杉並のおばさんがいってたわ。ただ、 その人からだがよわかったらしいの。それで、おじいちゃんとおばあちゃんが、じよ うぶでまじめなだけのおとうさんをむこさんにしたのよ。だから、おかあさんにして きたい みれば、おとうさんにはあんまり期待できないわけよ。そこで子どもたちに期待した わけ・ : でもね、そうわたしたちに期待してもむりだと思うの。だってわたしたち はたのんでうまれさせてもらったわけじゃないし、そうそうおかあさんのいいなりに なんかなれないでしよ。これでわたしたちが大きくなったら、おかあさんはあと、ど うなると思う ? たとえば良にいさんにお嫁さんがきたとするわよ。わたしたちはお とかあさんの子だから、あるていどはおかあさんのいいなりになってるけど、お嫁さん るはて一つよ、、 をし力ないわよ。きっとおかあさんはじゃまものあっかいよ。そうなればあの おかあさんのことだから、わたしたち兄弟にぎゃあぎゃあなきごとをいうわよ。はじ めのうちはうんうんてきくけど、しまいにはうるさくなるわよ。そうなればわたした ぼちだっておとなですもの。そうそうおかあさんにつきあいきれなくなるでしよ。そう 9 なったら、おかあさんはどうする ? ひどいことになるわよ : : : 」 「ふうーん。ねえちゃん、どうしてそういうことがわかるんだい ? 」

2. ぼくがぼくであること

にく小注くであること においておけないっていうんだ」 「どうも、へんだと思 0 たら、おふくろが妹をつか 0 て、ポストからかつばら 0 た らしいんだな」 「おーやおや」 「だからさ、そんな書類をだすと、おふくろをう 0 たえることにな 0 ちゃうらしい んだ。おれだって、頭へきちゃうよ」 「しかしな、おかあさんはおまえのことを心配しているんだ。おかあさんの気持ち を理解してあげるんだな」 「おかあさんだって、わざといじわるしているわけじゃないんだから : くしてあげることだな」 「おまえがすなおにすれば、おかあさんだ 0 て安心して、も 0 とおまえを信用する 9 ようになるよ」 秀一はなにもいわずにいきなり教室へむか 0 てかけだした。杉村先生はあ 0 けにと 。やさし

3. ぼくがぼくであること

「いいよ。そんなことをいうなら、たのまないよ。封筒ぐらい自分でつくるよ」 母はヘやじゅうがゆれるばかりの大きなため息をついた。 「どうして、あんたはそうすなおじゃないのよ。いままでうちの子でおかあさんに ロごたえなんかした子はいなかったわ」 「だけど、おかあさんは、どうして、そんなにおれのことばかりいうのよ」 「あんたはね、ほかの兄弟とちがって、学校の成績もわるいし、家出をしたりして、 ・せんがくれん はんこうてき 反抗的だからよ。あんたみたいな子が、全学連になるのよ」 「そうかな」 「そうにきまってるわよ。良にいさんを見なさい。良にいさんの大学も、紛争で授 業にならないけど、良にいさんはちゃんと、そういうのを批判しているわ。あたしは 良一を信じているし、良一もあたしを信じているわ。だけど、あんたはおかあさんを 信じていないじゃないのー 「秀一。おかあさんは、あんたが心配なのよ。あたしがちょっと目をはなすと、あ んたはなにをするか、わからないじゃないの。現にこの夏休み、家出をしたじゃない のー ひはん ふんそう

4. ぼくがぼくであること

272 をつくってしまったんだよ。その責任はおかあさんにもある ! 」 「ばかなこといわないで ! わたしはただのまずしいサラリ 1 マンの家庭の主婦で す。そんな、社会をどうのなんて : : : 」 「そう、そのとおり。社会に無関心だったおかあさんたちが、このどうしようもな い社会をつくってしまったんだ。だから、あの連中がそれをこわしてつくりなおそう とみんなによびかけてるんだよ。それがわからないなら、おかあさんも敵だ ! 」 「わたしは : : : わたしは : : : そんなことをいわれるためにあんたをそだてたんじゃ ないわー 「じゃ、なんのために。ほくを生んで、ぼくをそだてたんです。ぼくばかりじゃない。 優一や、トシミや、秀一たちを、なんのために生んで、なんのためにそだててるんで す。こたえてくださいー ぼくや、優一や秀一たちのためにも、こたえてくださいー よろめくように自分のヘ 母はなにもいわなかった。いえなかったのかもしれない。 やヘかけこんでしまった。 秀一よ、 。しいだすきっかけをなくしてしまった。しかたがないので、ぼうーっと丸太 ミこ、つこ。 のようにつっ立っているマュ 「おれ、あした夏代ちゃんのところへいく。おかあさんにいっておいてくれ」 まるた

5. ぼくがぼくであること

198 ンチキだそ ! 夏代ちゃんのおかあさんじゃないそ。ほんとうの年は二十四だ。二十、 四じゃ、夏代ちゃんのほんとうのおかあさんになれないものな。そして、その女がい ったけど、山をとっちゃうらしいそ。だけど、まるじんの正直がなにをねらってるか わざとだまされたふりをしてみな。おもしろいそ。それに、おれ、正直のすごい秘密 知ってるんだ。村井の政さんにカンケイあり。それから、おじいさんのこと、おれも、 。いい人だな。でも、ほんとのことをいうと、おじいさんは、お ときどき思いだすよ れのことすきじゃないらしい。これは、夏代ちゃんのことにカンケイあるんだ。でも、・ これも秘密だ。それから、重大な秘密があるよ。もしかすると、夏代ちゃんのほんと うのおかあさんがみつかるかもしれない。おれ、きっとさがしてやるからな。さよう ならーー〉 読みかえしてみると、やたらに″秘密〃があって気になったが、なんとか手紙にな っていた 「おかあさん ! 封筒と切手ちょうだい ! 」 秀一は夏代への手紙を書きあげたうれしさで、つい、大声でどなってしまった。 「秀一。どこへだす手紙 ? 」 まるでまちかまえていたように母がへやヘはいってきて、あやしげな目で秀一を見

6. ぼくがぼくであること

気持ちでがんばった。 「手紙のことはまちがっている」 母の顔つきがまたかわった。 「秀一」 見かねたように優一がいった。 「いこう」 優一はヒステリイ気味の母と秀一をむかいあわせておくことは、ただ無意味な混乱 をひきおこすだけだと思ったのである。 「まちなさい、優一」 母がとめた。優一はその母に静かにいった。 きやっかんてき る 「おれ、客観的にいわせてもらうよ。手紙のことはだれがきいても、おかあさんの あ でほうがまちがっている。そのことにだけ、おかあさんは秀一にあやまるべきだと思う 9 たとえ、そのことを秀一にあやまったからといって、おかあさんの権威がきずつくわ ぼけじゃないと思うんだけど」 「なんですって ! わたしが秀一にあやまるんですか ? わたしが ! 」 母があきれかえったようにいオ けんい こんらん

7. ぼくがぼくであること

「おかあさん : : : 」 優一はゆっくりと母を説得するような調子で話しかけた。 「 : : : もしも、秀一がだれの目からみても、まちがっているというようなことをし ようとしているのなら、おかあさんは親として、秀一に反省をもとめるべきだと思う よ。だけど秀一がしようとしていることは、だれが考えても当然のことだ。だとした ら、親として秀一に協力してやるべきじゃないのかなあー だが母は一歩もあとへひかなかった。 「なにが当然なものですか。もしかすると、その手紙は、その谷村夏代さんの家の とどこかにまぎれこんでいてみつからなかったのかもしれないじゃないの。もしそうだ めいわく るったら、郵便局の人たちに、ただわけもなく迷惑をおかけするだけじゃありません ゅうびんかんさっきよく 「そりやヘんだよ、おかあさん。そういうのをしらべるために郵便監察局があり、 ぼそのために監察局の調査官がいるんだし、それをしらべることはけっしてひまつぶし じゃなくて、郵便局にとっても必要なんだ。それに、そのためにこそ国民は税金をは らっているんだもの」 せっとく ぜいきん

8. ぼくがぼくであること

はくがぼくであること 141 「おかあさん ! 」 トシミがあわてて母をたしなめた。そして秀一にはやく客間からでていけというよ うに目で合図した。 「いいんだよ、ねえちゃん。ねえ、おかあさん。それ、本気でいってるのかい ? もし本気なら、おれ、すぐでていってもいいんだ。い くところならあるんだ」 秀一は静かな声でいった。 「秀ちゃん ! 」 こんどはマュミが秀一をたしなめた。 「うるさいな。おまえなんかに関係ないよ。おれは本気で、おかあさんにきいてい るんだから : : : 」 母はふたたびなきだした。トシミは秀一の手をとるとろうかへつれだした。 「話があるのよ」 トシミは声をひそめていった。トシミは秀一を勉強べやヘつれていった。マコミが ついてきたが、 トシミはマュミを追いはらった。 「秀ちゃんが家をでてから、たいへんだったのよ」 トシミは秀一の反応をたのしむように、まえおきをした。

9. ぼくがぼくであること

て、あちこちでさわぎをおこしたのよ。村の人たちをなぐったり : したり : : : 」 「へえ、だけど、あいっトラックの運転手じゃないのか ? 」 夏代はふしぎそうに秀一を見た。 ・ : あの人はついこのあ 「あんた、けさもそんなこといってたけど、どうして ? いだ、よっぱらい運転で人にけがをさせて、免許証をとりあげられたっていう話よ」 秀一は、「だって、おれはあいつの運転していたトラックにのって、ここへきたん だぜ」といおうとしてやめた。 「ねえ、あんた、なんか知ってるの ? 」 「いや、ただ、なんとなく、そんな気がしたもんだから : : : 」 秀一は用心しなければならないと思った。だまっていると、また、そのことをきか れるのではないかと思ったので、さきにきいた。 「それより、夏代ちゃんのおとうさんやおかあさんは、どうしたんだ ? 」 「おとうさんは死んだわ。おかあさんも死んだっていうんだけど、ほんとうのこと はわからないの。まえに、まるじんのおばさんが、おかあさんが死んだなんて、うそ だといったけど、おじいさんがかんかんにおこって、日本刀持ってどなりこみにいっ めんきよしよう かじゅえん 、果樹園をあら

10. ぼくがぼくであること

わたしのいうことを子どもたちはわかってくれようとしないんですよ。八つあたりも したくなるじゃありませんか ? ね ! みんな、きいてよ ! 優一 ! 稔美 ! 秀一ー 真弓 ! ね、おかあさんはまちがってるの ? みんなのために貧乏世帯をきりもりし てきたおかあさんがまちがってるの ? 」 だれもひとこともいわなかった。みんな食器をおいて、だまってうなだれていた。 「秀一 ! どうなの ? 」 秀一はみんなが自分をうかがうけはいを全身に感じた。追いつめられ、ひらきなお った母の気選にのみこまれようとしている自分を感じた。母の気持ちからすれば当然 のことだということは秀一にもわかった。だが、そうであるからといって、あの手紙 のことまでをふくめて、母のしたことはまちがってはいないといいきれなかった。 「ね、秀一、返事をしなさい。おかあさんはまちがっている ? 」 ということになれば、当然、秀一の怒りはまちがってい もし「まちがっていないー ることになる。 そんなばかなことってあるもんか , それにこ一、で秀一がしりそくことは、ふたたび、母のいたけだかな小言をあびるこ とになるかもしれないのである。秀一はけんめいにがんばった。くらくらするような びんぼうじよたい