おふくろさん - みる会図書館


検索対象: ぼくがぼくであること
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1. ぼくがぼくであること

270 てりや、とめにはいるのはあたりまえじゃないか」 「なにがあたりまえですか。あんたはなんのために大学へいってるの ? そんなこ とのために大学へいったわけじゃないでしょ ? うちはよそさまとちがうのよ。兄弟 が大ぜいいるのよ。あんたのためにむだづかいするよゅうはないのよ ! 」 「なあ、おふくろさん、・ほくはおふくろさんに心配かけてすまなかったと思ってる けいさつぼうりよく : とにか ~ 、、ま ~ 、、つかれ けど、これはぼくの責任じゃない。警察の暴力なんだ。 てるんだ。話なら、あとでちゃんとおふくろさんの気のすむようにするよー 「あまったれなさんな ! そんなところへいったあんたの責任ですよ」 びしよう それまで、いくらか微笑さえうかべていた良一がとっぜん顔つきをかえた。 「そんなところへって ! おふくろさんはぼくがどこへいったと思ってるんだ。自 分の学校へいったんだぜ。学校へいっちゃいけなかったのかい ? 」 「いいですよ ! そうやってなんでも人のせいにすれば」 「ほう ! じゃあ、だれのせいですか ! 」 良一は完全にひらきなおっていた。 「あなたのせいですよ。そんな学生運動なんかやる、ひまで勉強したくない人のそ ばへ、よるからですよ」

2. ぼくがぼくであること

312 ずらしいものであった。 マ「ミはぼたもちをうけとると、ばらばらとなみだをおとした。 「秀ちゃん、ごめんね。夏代さんにわるいことして : : : 」 「いいんだよ。過去のことにこだわるなよ。おれたちにや、いまが問題なんだ」 秀一は夏代のことばのうけうりをした。 「ふふ、かっこ、 しいこというわね」 トシミがわらった。 みんなの腹ごしらえがすんだところで、秀一はみんなといっしょに焼けあとの整理 をはじめた。そこへとなりの主婦が顔をだした。 「おかあさんが気がついたわ。どなたか、きてちょうだい」 「うん、おれ、いってくらあ」 秀一がいった。みんながうなずいた。秀一はまっくろになった手をあらいながら、 大きく息をした。 : でも、 おふくろさんはおれの顔なんか、見たくないっていうかもしれない : : でも、 おれはこの顔を見てもらおう。おふくろさんはおれをなぐるかもしれない。 おれはよけないでおこう。おれは、やつばりおふくろさんの子だということを、わか

3. ぼくがぼくであること

310 「だいぶまえのことらしいが、おふくろはがらにもなく金もうけをたくらんで失敗 したらしい : おれたちがおふくろさんを信用してなかったように、おふくろさん もおれたちを信用していなかったらしいよ。金さえあれば、子どもたちにみすてられ ないってな」 「自信がなかったんだな。それで、そのことをおやじにいっきりだそうかと、いら いらしていたらしい」 かたづけていた長兄の良一がそばへきた。つづいてトシミやマュミがきた。マュ、、 は目をなきはらしていた。 「おれ、知らないでわるかったな」 秀一はだれにいうともなくいった。 「いやあ、おまえがいたって : 。おれたちでさえ、このざまなんだ」 良一はそういうと、ポケットから、くしやくしやになったタバコをだしてくわえた 9 あらりようじ ま、 「おふくろや、マュミたちはかわいそうだと思うけど、こりやいい荒療治さ。い おれたちはみんなおなじ、きたきりスズメのはだか同然になって、ちっともかなしく ないなんてのはふつうじゃないよ。この家はおれたちの家じゃなくて、おふくろさん

4. ぼくがぼくであること

255 「ヒョウタンから駒がでるなんて、話もあるからな。おやじだって限界をこえれば ばくはっ 爆発するし、おふくろだって追いつめられりや前後の見さかいなく、なにを口ばしる かわかったもんじゃないよ。中年女のヒステリイっていうやつは、手おいのクマみた いなもんだっていうからな」 優一はまるで他人ごとのようにいった。もしかすると、そんなことはおこるはずが ないと思っているのかもしれなかった。 「わかれてどうする気よ」 「そんなこと、おれが知るもんかよ。とにかく、この家と土地を売れば、かなりの 金がはいるという気がおふくろにあるうちは、おやじをたたきだすかもしれないな。 となにしろ、このへんの土地の値あがりで、この家なんか王地をふくめて億に近い金に るなるらしいからなあ : あ で 「そ、そ、そんなことになったら、わたしたちはどうなっちゃうの ? 」 マュミはもうなき声をだした。優一はそんなマュミを見ていじわるくわらった。 「どうなるかなあ ? こればかりは親しだいだからな。もしおふくろさんや、おや はっげんけん じさんがわかれ話になったとしても、おれたちにはなんの発一言権もないからな。子ど もはおやじさんがひきとるっていえば、おれたちはおやじさんにつれられてこの家を こま おく

5. ぼくがぼくであること

271 「ちょっとまってくれよ、おふくろさん ! ぼくはね、権力によって四十八時間も 不当なあっかいをうけて、やっ .. との思いで家へかえってきたんだよ。むすこを信じる 母親だったら、そんなばかなことはいってほしくないよ ! 」 「しようじきいって、ぼくもいままでおふくろさんのように学生運動なんかやるや つは、ひまで金にこまらないやつだと思ってた。でもね、ああやって警察へつれてい かれたら、ホテルに招待されるようなわけにいかないんだぜ。それに起訴されれば前 科もっくし、就職もふいだろうし、へたすれば学校まで追いだされるかもしれない。 たぶん、一生をぼうにふるだろう。だれがすきこのんでそんなことをするもんか。そ とこにはたくさんの不正があるからだよ。なぜこんなことになったんだい。そいつはね、 るおふくろさん ! あんたの責任だよ ! 」 で 「なにをいうの、この子は ! 」 「だまって、ききなさいー おかあさんのように人を愛することもしないで、めさ きのことだけで結婚し、ただ自分の気分のためにだけ、子どもを勉強へ追いやり、自 分のめさきのちっぽけな安楽のためにだけ、子どもを大学へやり、一流会社へいれて、 なにごともなくぶじにすごしたいというおとなたちが、この不正でくさりきった社会 こ しようたい

6. ぼくがぼくであること

175 ので、あいさつにいったのだといわれている。 しな どころが、じいっとたえぬいてきた信玄は、「まってました」とばかり、駿河と信 くにざかい 濃の国境に兵をだして、もどってこようとした父信虎をさっさと追っぱらってしまっ ッ 親孝行どころか、親をたたきだしちまうなんて ! 武田信玄って、 おっかねえんだな。でも、信玄もおやじのやりかたによっぽどはらをたててたんだろ うなあ 秀一は感心してうなった。 おふくろさんのいうとおり、おれが武田信玄さんを見ならっていたりしたら、 ととんでもないことになるな。おふくろさんや、おやじさんをこの家から追っぱらわな るくちゃならないんだからなあ。それでも、おふくろさんは、おれに武田信玄さんを見 、でならえっていうかな 秀一がそんなことを考えているとも知らず、母は秀一のところへココアやビスケッ ・ほトをはこんできた。 「秀一。きようのあんたは、ほんとうにえらいわよ。わたしになんにもいわれない うちから、ちゃんと勉強しているんですものね」 こ

7. ぼくがぼくであること

の城だったからだろうなあ」 ほんとだ。おれもびつくりはしたけど、かなしくない。 こんなのって《おかし いや。それとも、おふくろさんがこまって、 しい気味だと思ってるのかな ? ・ そんなんじゃない。そんなんじゃない 「おいヒデ、おまえの持ってるの、、それなんだ ? 」 「あ、これか ? 重箱だ。ぼたもちがはいってるんだ。夏代ちゃんがつくってくれ たんだ」 秀一は大いそぎで、ふろしきづつみをあけた。 「ほう、うまそうだな。みんな、手をあらってきて、ごちそうになろうや」 と良一はそういうと、まがりくねった水道管からこぼれる水で手をあらった。みんな るがそれにならった。 で 「あのう、おやじさんと、おふくろさんのぶんだけはのこしておいてくれよな」 秀一がいった。良一は「おや」というように秀一を見たが、にやっとしていった。 、、とう ば 「おふくろはから党だけど、このうまさは身にしみるだろうよ」 秀一は重箱といっしょにつつんであったはしで、ぼたもちをみんなにくばった。そ のはしも夏代のつくったもので、一刀彫りで小さな花のかざりがぶらさがっているめ こ しろ

8. ぼくがぼくであること

を運転して、チョコレートとアイスクリ 1 ムだけで生きているような人だと思ってい ・ . ノリ . る。それなのに、お茶づけをワシャワシャかっこんで、たくわんをバ かじり、 ィモをもぐもぐやる、ややふとりぎみのおばはんが″ママ″とよばれて返事をする。 「なあに」 「秀ちゃんが立たされたのは、よそ見をしていたからじゃないんですってよ」 「おや、秀一。それはどういうことなの ? 」 「ちえっー もう、あんなにたくさん、しかられてやったんだから 「なんてことをいうんです ! しかられてやったですって ? そういう気持ちだか ら、いつまでたってもだめなのよ。さあ、ほんとうは、なにをして立たされたのか、 いってごらんなさい ! 」 「もう、 しいよう : : : 」 「よくありません ! あんたはちっともわかってないのね」 ああ、ああ、わかってないのは、おふくろさんのほうじゃないのか。 もう学校からかえってから一時間だよ。そのあいだに勉強すれば、おふくろさんの いうような点にちかいやつがとれるかもしれないじゃよ、 オしか。ねえ、おれはもう、足 がしびれて死んでしまいそうなんだよ。こんなことなら、思いっきり、二つ三つ、ぶ 、、、どろう ? 」

9. ぼくがぼくであること

ことを思いだした。 いまごろどうしているかなあ。「この家と土地さえ売ればなんとかなるんだか ら、家族なんかひとりもいらない」なんて、わめきちらしているかもしれないな。た しかにおふくろさんは子どものためにいっしようけんめいだっていえばいえるけど、 ありや強引すぎるよ。おふくろさんはいつでも自分のほうが正しいと思っているし、 だれもさからわなかったから、いまになってがたがたしてるんだろうな 「秀一くん。あんたおかあさんのことを考えていたんでしょ ? 」 「ああ、うちじゃいまごろ、戦国時代みたいになっているところだ」 だが、秀一はそれ以上は話さなかった。どんなに母のわるロをいおうと、現実に母 とのいない夏代には、それがみんなうらやましく感じられると思うと、話す気になれな る かったのである。それにこうして夏代と話をしていると、秀一にとって、あれほど重 あ で 大だった郵便物不着中告書のことも、なにか相手をまちがえた、たわいないできごと であったように思えてくるのであった。こうして秀一が夏代のところへきて、なにも ぽかも話してしまえば、母のあのすさまじいほどの抵抗は、まったくむだなことであっ それを考えると秀一の心の中には、なにかばかばかしく、ものがなしいようなすき こ ごういん

10. ぼくがぼくであること

148 「おかあさんは、自分の生んだ子が信用できないのかい」 「あたりまえよ。こんなことをされて信用できて ? すこしはマュミを見ならった らどうなの ? あんたの妹だけど、あの子はいい子よ」 秀一はもうなにもいわないことにした。 ばかだなあ。おふくろさんて、あんなすぐ人のことをつげロしたりするやつの ことをいい子だなんて : 。あいつがおふくろさんのことをかげでなんていってるか 知ってるのかい ? ガリゴンだぜー 秀一は心の中でそんなことを思ったが、ロにはださなかった。それはそうだ、秀一 は男の子なのだ。マュミのまねをするわけこよ、