子 - みる会図書館


検索対象: ぼくがぼくであること
254件見つかりました。

1. ぼくがぼくであること

148 「おかあさんは、自分の生んだ子が信用できないのかい」 「あたりまえよ。こんなことをされて信用できて ? すこしはマュミを見ならった らどうなの ? あんたの妹だけど、あの子はいい子よ」 秀一はもうなにもいわないことにした。 ばかだなあ。おふくろさんて、あんなすぐ人のことをつげロしたりするやつの ことをいい子だなんて : 。あいつがおふくろさんのことをかげでなんていってるか 知ってるのかい ? ガリゴンだぜー 秀一は心の中でそんなことを思ったが、ロにはださなかった。それはそうだ、秀一 は男の子なのだ。マュミのまねをするわけこよ、

2. ぼくがぼくであること

「いいよ。そんなことをいうなら、たのまないよ。封筒ぐらい自分でつくるよ」 母はヘやじゅうがゆれるばかりの大きなため息をついた。 「どうして、あんたはそうすなおじゃないのよ。いままでうちの子でおかあさんに ロごたえなんかした子はいなかったわ」 「だけど、おかあさんは、どうして、そんなにおれのことばかりいうのよ」 「あんたはね、ほかの兄弟とちがって、学校の成績もわるいし、家出をしたりして、 ・せんがくれん はんこうてき 反抗的だからよ。あんたみたいな子が、全学連になるのよ」 「そうかな」 「そうにきまってるわよ。良にいさんを見なさい。良にいさんの大学も、紛争で授 業にならないけど、良にいさんはちゃんと、そういうのを批判しているわ。あたしは 良一を信じているし、良一もあたしを信じているわ。だけど、あんたはおかあさんを 信じていないじゃないのー 「秀一。おかあさんは、あんたが心配なのよ。あたしがちょっと目をはなすと、あ んたはなにをするか、わからないじゃないの。現にこの夏休み、家出をしたじゃない のー ひはん ふんそう

3. ぼくがぼくであること

夏休みの終り近くなって家へもどった秀一は、兄や姉たちもそれぞれ母にたいして 批判をもっていることを知り、長兄や次兄たちが学生運動や大学闘争に関係して問題 がおきると、教育ママの城がもろくもくすれてゆくのを目にした。また夏代が幼い頃 別れた実母にたいして持っている感情を聞かされて、母親の立場を考えなおすように なるが、それは題名のしめすように、「ぼくがぼくであること」を自覚するプロセス でもあった。 秀一の母親は典型的な教育ママとして描かれているが、作者はそれを子どもの目を とおして批判するだけでなく、そうしたタイプをうんだ社会のありかたにまで視点を むけており、親と子、兄弟、教師と生徒、それに祖父と孫といった人間のさまざまな 、関係を、子どもの側から照射している。 しかも武田信玄の埋蔵金の話や、ひき逃げ事件、ニセの母親とそれをあやつる男な どの挿話がふんだんにもりこまれ、いかにもおもしろく構成されている。とくに秀一 説 という少年のキャラクターやその行動はいきいきと描かれており、現代を呼吸する子 解どもの姿が感じられる。おとなは自分たちの経験からすべてを割り出し、それを子ど 9 もにおしつけようとするが、子どもにとっては いまあること〃がなによりも問題で あり、それをせいいつばい生きることが大切なのだ。

4. ぼくがぼくであること

「谷村夏代という子はどんな子なの ? 」 「えっ ? 」 「秀一にラブレタ ] をよこしたそうね」 「そ、そんな ! 」 「その手紙を見せてほしいの」 なんていうことだー 秀一はいそがしく頭の中で考えた。 だれが、あの手紙のことをおふくろにいし 、つけたのか ? 母のそばにマュミがいたので、ちらとそちらを見ると、マュミはあわてて目をそら せた。 る ばかなやつだー あ 秀一はうんざりした。なんだか、そんなことばかり、ちょこちょこやっているマュ ミがあわれになった。 しいかげんにしたらどうだ。そんなことばかりしていると、 よめ お嫁さんになれないそ ! 」 マュミは電気にでもふれたように、びくんとして、背すじをのばしたが、すぐにそ

5. ぼくがぼくであること

189 はくがぼくであること 「十一一さい ! 」 中江亜矢はすっとんきような声をだした。 「どうかしましたかー 「十一一さいなんて ! あたいは二十四よ。もし、あたいにそんな娘がいるとすれば、 その子は、あたいが十二さい、つまり , ハ年生のときに生んだ子ということになるじゃ ない。でたらめもいいとこだわ ! 」 秀一はよほど、「その女の子は谷村夏代ちゃんですか」ときこうと思ったが、がま んをした。そのかわり、正直がこの中江亜矢となにをたくらんでいるかをさぐること 「でも、おばさん : 「よしてよ、おばさんなんてー 「すみません。だけど武田信玄は十二さいで結婚して子どもをつくったそうです」 「ええ ? あんた武田信玄のこと、くわしく知ってるの ? 」 相手はみごとにえさにかかってきた。 むすめ

6. ぼくがぼくであること

170 「ただいま」 秀一が玄関へはいると、まちかまえていたようにマュミが顔をだし、なんとなくあ やしげなわらいかたをしてみせた。 やれやれ、またか。気をつけなくちゃいけないな 案の定、母がきびしい目つきをしてあらわれた。 「秀一、ちょっとお話があるわ」 秀一が家出からもどって以来、母は秀一に圧倒されつばなしだった。母はなんとか まきかえしのチャンスをねらっていたところであった。母はなんとなく元気づいてい 秀一は母について、茶の間へはいった。 きようは宀子 「ここのところ、しばらく、 いい子になっていたと思ってたのに 校でなにがあったか、私に全部話してもらいましよ」 「残念だけれど、先生やおかあさんにしかられるようなことはしていないね」 「とぼけたってだめよ。だったら、な。せ職員室へなんかよばれたのよ」 「職員室じゃない、図書室だよ」 あんじよう あっとう

7. ぼくがぼくであること

思いだして、「いやあーと、頭をかいてみせた。それを見て和江もわらった。 じゅんしん 「あんまり、けなげなセールスマンだから、サービスしちゃったわ。純真な子と話 をするっていいことね」 ふん、おれのことを純真な子だとよ。いい気なもんだ。子どもだって、らくじ ゃないんだそ ! 秀一は大いそぎで栄荘をでた。 歩きながら、秀一はこみあげてくるわらいをおさえきれなかった。満足だった。 ふふふ。おれは探偵としてもかなりいい線をいってるな。なんたって、山ほど ききこんだんだからな る午後、秀一はさっそく谷村夏代あてに手紙を書くことにした。マュミがうろうろし ているのが気にいらなかったが、なまじかくしたりすると、かえってあやしまれると ノートへ書いた。もう、字がへたくそだとか、文章がなってないなど、ものの かずではなかった。 〈夏代ちゃん、手紙ありがとう。先生からもらって、びつくりした。それから、夏 代ちゃん、気をつけろよ。まるじんの正直のこと、なんだか知らないけど、あれ、イ 197 こ

8. ぼくがぼくであること

140 ことで、こんなになきわめくんだ 秀一にとって、いままでこの世の中の最大の敵のように思っていた母が、これほど までに、かわいそうなものだとは思ってもみなかった。 「おかあさん、もうなかないでくれよ」 秀一は母のかたにそっと手をかけた。けれども、母はその手をじやけんにはらいの けて、秀一をにらみつけた。だが、すぐにまたしくしくやりだした。しかたなく秀一 はだまって立っていた。 そんなところへ、姉のトシミと妹のマュミがそとからもどってきた。ふたりとも、 やはり母とおなじように秀一を見て息をのんだ。 「秀ちゃん ! あんた、いままでどこに雲がくれしてたのよ ? 」 トシミがあきれたようにたずねた。 「うん。テレビのないところにいたんだ。新聞も見なかったし : : : 」 トシミはそれをきいてから、ちらりと母のほうを見た。母はもそもそと動いて、す わりなおした。 「ほっときなさい ! 秀一、おまえのような子は、もううちの子じゃないわ。さっ さとでていきなさい」

9. ぼくがぼくであること

55 ぼくがぼくであること 夏代が古風なぜんに食器をのせてはこんでくると、きちんとすわって秀一のまえへ おいた。いなかの子にはめずらしく、色の白い目の大きな子だった。夏代は秀一を見 ると、にいっとわらってみせた。秀一はきゅうにはずかしくなった。そんな秀一に 気あいでもいれるように、老人がいった。 「めしくったら、さっさとねろ。あした、そのぶんだけかせがせるからな」 老人は立ちあがるとさっさとおくのへやヘいった。と思ったら、ふとんが一組とか やが、どんとなげこまれた。 「ほかにだれもいないのかい ? 」 秀一はおくのほうを気にしながら、そっと夏代にたずねた。 「そうよ」 「あした、かせがせるといったけど、どうするんだい」 「心配ないわ。あたしもいくから」 「あのう : ・ おれのこと、ほかの人にいわないでくれな」 「わかったわ」 夏代は秀一の姉のトシミや、マュミなどとちがってよけいなことをいわなかったが ) 秀一はなんとなく年上の少女の心づかいのようなものは感じた。そして、夏代のおと

10. ぼくがぼくであること

る、揚げ底みたいなペテンである。 「あんまり、 い名まえをつけると、名まえ負けするんだとさ」 秀一は父にいやみをいったことがある。とたんに、父にではなく、母にどなられた。 「なにいってるの ! せめて名まえだけでも、良くつけておいてよかったわよ。あ んたなんか、せいぜい名まえでもってるんじゃないの。兄弟じゅうで、あんたがいち ばんだめなのよ。おとうさんも、たまにはしかってやってくださいー 「なあに、兄弟もおおぜいいれば、なかにはでき、ふできがあるさ。それに、世の ゅうとうせし 中の子どもがみんな優等生になれるわけじゃない。できのわるいのがいるから優等生 ができるんだ。考えてみれば、秀一みたいな子のおかげで優等生になれる子がいると いうわけだー 父はそういってわらったが、その父もたちまち母にとっちめられてしまった。 「おとうさんが、そんなのんきなことをいってあまやかすから、いつまでたっても 秀一は勉強しないんですよ。きっと秀一はあなたににたんですよ」 にやにやしているだけだ。もうあきら こんなことをいわれても、父はおこらない。 めているのかもしれない。 ほんとうだな。おれもおこらないところなんか、おとうさんににたのかもしれ そこ