返事 - みる会図書館


検索対象: ぼくがぼくであること
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1. ぼくがぼくであること

「なんたって、おじいさんの顔を見ると、まぶしいからな」 「まぶしい ? わしははげてないぞ」 「いや。そのう : : : ねぼうして、朝の仕事をサポッたりしちゃ、かっこわるいもん な」 「フン」 老人は鼻のさきで返事をして、でかけていった。秀一は夏代に教えてもらって、ニ ワトリにえさをやり、えんさきをそうじしたりした。夏代がめすらしく鼻歌をうたっ ていた。それが流行歌だったので、秀一はふしぎな気がした。 秀一は仕事がおわったので、あがりがまちのところでひと休みしていた。そこへ老 人がもどってきた。すでにしたくのすんだ食ぜんを見て、老人はすまなそうにいった。 「さきにやってくれればよかったのに」 る で秀一は老人が意外にやさしいところを持っているのを発見したような気がした。 食事のすんだあとで、秀一は老人に、土蔵の中を見せてくれとたのんだ。 「ちょっと、のそいてみたいんだよ」 「なにを見ようっていうんだ」 「宝に関係したようなものが、ないかと思って」

2. ぼくがぼくであること

218 るな ! 」 「すみません」 秀一はおそれいった。杉村先生は秀一にはがきの複写をわたした。わざわざ、両面 をとって、のりではりあわせてあった。秀一はにこにこしながら読みはじめた。 「やれやれ、おまえのそのうれしそうな顔を見ていると、こっちまでうれしくなる よ。 : おや、どうした」 秀一はゆっくり杉村先生を見た。それからもういちど複写されたはがきに目をおと した。 〈ーーお返事がないので病気じゃないかと心配しています。もし学校あてにだして、 みんなにひやかされたことで、おこっているならごめんなさい。まえの手紙のこと、 ごむりでしたら、 しいんです。おじいさんも私が手紙をだしたのに、返事がないとい ったら、心配しています。祭日にでも、きてください。おまちしています・ーー・〉 おかしいな。返事がないので : : : 」 「返事がないので : 秀一は考えながら、あたりをぎろりとにらんだ。 「どうかしたのかフ 杉村先生がびつくりしてたずねた。

3. ぼくがぼくであること

しいわね。このテストのまちがえたところを、きちんとやりなおして、も ういちど、おかあさんのところへ持ってくるのよ」 「ふあーい」 秀一が気のない返事をして立ちあがろうとすると、マュミがまってましたとばかり 声をかける。 「ママ、もうひとつあるでしよ」 「え ? もうびとっ・ あ、そうそう、いまマュミがいってたこと、 ・ : なんで 立たされたかいいなさい」 ほんとにもう、なんてえやつだ。せつかく、おふくろがわすれていたというの に。ちきしよう、あとで、おぼえていろよ 「秀一、返事をしなさい ! 」 「はい、あの、ぼ、ぼく、ついうつかり、よそ見していたもんで : 。すみませ ん」 「うそおっしや、 よそ見していたぐらいで、立たされるわけがないわ。なん回 もなん回も注意されたんでしょ ? 」 ま、そういうことにしておきましよう。そのほうが、めんどうくさ、 ししいわけ

4. ぼくがぼくであること

15 ぼくがほ・くであること んなぐってかんべんしてもらったほうが、よっぽどありがたいよ もくひけんはつどう そこで秀一は黙秘権発動、つまりだんまり戦術である。そうなると、秀一がだまっ ているのをよいことに、マュミがパチンコ事件のことをことこまかに説明する。まる で , ハ年二組の教室にいて見ていたみたいだ。それをききおわると母は、またテストを みつけたところから小言をやりなおす。しかるほうは頭にきていて、気がたっている から夢中で時間のたつのも気がっかないが、しかられているほうは楽じゃない。それ に黙秘権といっても限度がある。 「あんたはついこのあいだも、立たされたばかりじゃないの。返事をしなさいー 返事を ! 」 「ついこのあいだって ( いっさ ? 」 「もうわすれたの ? 」 「ああ、きのうのことか . ? 」 「まあ ! きのうも立たされたの ? わたしがいってるのは、おとといのことよ。 それじゃ、あんたは年がら年じゅう立たされてるってことじゃないの。 んてことなの」 ああ、そうかな、こういうのを、やぶヘビっていうんだなあ

5. ぼくがぼくであること

正直はにやにやしながら、秀一を見た。秀一は負けずににらみかえした。正直はそ の秀一の目に気づくといやな顔をした。 「ふん ! おめえなんそに用はねえよ。それより夏代ちゃんあしたの夜だぜ。約東 はわかってるだろうな」 「ええ」 夏代はすなおに返事をした。正直はあらためて秀一をにらみつけると、しりをふつ て自転車をスタートさせた。秀一は思いきり顔をしかめると地面につばをはいた。 : あんちきしょ 「夏代ちゃん、あんなやつに返事なんかしてやることないよ。 う ! それに約東ってなんだいー と 「あとで、くわしく話するわよ。それに、その約東ならとっくにやぶっているわ。 るもう、あんたにいってしまったもの。ふふふ」 で夏代はいたずらつぼくわらった。 ・ほ 「あんちきしよう、なに考えてやがるのかなあー 「さあ。いやなことをいったわよ。このまえの選挙でうちのおじいさんが選挙違反 をしたのをみつけたっていうの。証拠もあるし、証人もいるから、警察へ連絡したら ) いっぺんにブタバコいきだなんて : 279 せんきょ

6. ぼくがぼくであること

147 ぼくがぼくであること とよ 「ねえ ! もうしないといってー 秀一が返事をしないので、母が声を高くした。 そんなこと、約東できないよ。おれは武田信玄の宝のこともきいてしまったし、 それに、あそこには夏代ちゃんという友だちもいるんだ。かわりもののおじいさんも いるし : 。それに、あそこにはいろんな冒険があるんだ。それもあそびやなんかで なく、ほんもののやっさ。でも、おふくろさんやなんかが手をだすと、そいつはほん ものじゃなくなっちゃうんだ。だから、ないしょでいきませんなんて、いえるもんか 秀一はそう思ったので、首をふった。 「じゃあ、また家出をして、あたしをおどかそうっていうの ? 」 「ちがうー こんどはおかあさんをおどかすためじゃない」 「とにかく、家をでていたあいだ、なにをしていたか、あとでじっくりきかせても らうことにするわ」 「いわないー 「まあ ! いわないですって。子どもが、そんな秘密を持つなんて、不良のやるこ ばうけん

7. ぼくがぼくであること

116 はないだろう。が、その心配はいらなかった。老人はとんでもないという顔をした。 「いやいや ! きゅうくつかもしれんが、わしとここにいてくれ。わしはねないっ もりだから : : : 」 「そんなことしたら、こんどはおじいさんのからだがまいっちゃうよ」 じゅんさ ふしんばん 「ふん、わしはこれでもわかいころは東京で巡査をしていたんだ。不寝番ならなれ ている」 けいかん 「へ 1 え。警官だったのか、それでどろぼうかなんか、つかまえたかい ? 」 老人はいやな顔をした。むすっとして返事をしなかった。そんな話はしたくないと いっている顔だった。 そのとき、夏代がゆっくりと首を動かして、ひくくうめいた。麻睡からさめたので ある。 「夏代 ! 」 老人が声をかけると、夏代は顔をしかめて老人の顔を見た。それから秀一を見ると、 かすかにわらってみせた。一 「わしがわかるか ? 」 老人はせつかちにたすねた。

8. ぼくがぼくであること

242 「わるかったね、マュ、、 マュミは返事をしなかった。 「さ、さめないうちにおあがり」 「いらない」 冫いった。母の顔つきがかわった。 マュミがふてくされたようこ 「あんなにあやまったじゃないの ! それでも不足だというの ! もうたくさんー 子どもなんか、ひとりもいらないわ。わたしがばかだったのよー 母は手あらにマ = ミのまえへおいた紅茶のカップやドーナツのさらをぼんへもどし た。紅茶がぼんの中へ、ざぶざぶこぼれた。母はそのまま、ぼんをおいてへやをでて . し / 「ばかみたい。飼い犬に手をかまれるっていうのは、こういうのよね」 冫いった。それをきいて秀一はふきだしてしまった。 マュミがはきだすようこ 「ばか ! おまえそれでも、おふくろを飼ってたつもりかよ。ははは : : : 」 「だって、秀ちゃんの手紙だって、わたしがいなければとりかえせなかったのよ。 まになって、こんなことになったのも、秀ちゃんの書いた手紙をわた それなのに、い しがとりもどしてきたからだっていうのー

9. ぼくがぼくであること

212 秀一は夏代からの返事をまった。だが、夏代からはうんともすんともいってこなか きっと夏代ちゃんはいそがしいんだな。クリもいま収穫だろうし、ほかにも秋 野菜の畑があったからな。おれとちがって夏代ちゃんははたらいてるんだもの : それにおじいさんのぐあいもよくないってことになると、きっと夜はくたびれて、勉 ・ : それにしても、手紙を 強するだけが精いつばいというところかもしれないなあ。 うけとったというはがきぐらいはくれてもいいな。だけど、もしかすると、病気して るんじゃないかな。盲腸ってのは再発しないはずだけどなあ 秀一はじりじりする気持ちをおさえていた。それでも、ときどき先生にきいてみた。 「手紙 ? ああ、あの人からか ? べつにきてないな。心配するなよ。きたらまち がいなくおまえにやるよ」 それもたびかさなると、先生は秀一の顔を見ただけで首をふるようになってしまっ ところで、ふと気がついたことだが、母やマュミがなんとなく秀一にやさしいよう なそぶりをするのである。ほんとうなら、秀一はそれをあやしいと思わなければなら しゅうかく

10. ぼくがぼくであること

を運転して、チョコレートとアイスクリ 1 ムだけで生きているような人だと思ってい ・ . ノリ . る。それなのに、お茶づけをワシャワシャかっこんで、たくわんをバ かじり、 ィモをもぐもぐやる、ややふとりぎみのおばはんが″ママ″とよばれて返事をする。 「なあに」 「秀ちゃんが立たされたのは、よそ見をしていたからじゃないんですってよ」 「おや、秀一。それはどういうことなの ? 」 「ちえっー もう、あんなにたくさん、しかられてやったんだから 「なんてことをいうんです ! しかられてやったですって ? そういう気持ちだか ら、いつまでたってもだめなのよ。さあ、ほんとうは、なにをして立たされたのか、 いってごらんなさい ! 」 「もう、 しいよう : : : 」 「よくありません ! あんたはちっともわかってないのね」 ああ、ああ、わかってないのは、おふくろさんのほうじゃないのか。 もう学校からかえってから一時間だよ。そのあいだに勉強すれば、おふくろさんの いうような点にちかいやつがとれるかもしれないじゃよ、 オしか。ねえ、おれはもう、足 がしびれて死んでしまいそうなんだよ。こんなことなら、思いっきり、二つ三つ、ぶ 、、、どろう ? 」