夫人 - みる会図書館


検索対象: カラマーゾフの兄弟 上巻
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1. カラマーゾフの兄弟 上巻

わいろ らの。たゆまず人々に福音書の教えを説いてやりなさい : : : 賄賂を受けてはなりませぬ : : : 金銀 たくわ を愛したり、貯えたりしてはなりませぬ : : : 信仰を持ち、旗をかかげ持っことです。その旗を高 くかかげてゆくのです : : : 」 もっとも、長老の話しぶりは、ここに記されている、のちにアリヨーシャがまとめたものより、 ずっと断片的だった。ときおり、長老は気力をふりしぼるかのように、びたりと口をつぐみ、息 をあえがせていたが、しかし歓喜に包まれているかに見えた。みなが感動してきいていたものの、 あいまい それでも多くの者が長老の一一口葉におどろき、そこに曖昧さを見た : : : これらの一「「葉に思い当った 弟のは、のちのことである。アリヨーシャはたまたましばらくの間、庵室から離れたとき、庵室の の中やまわりにつめかけている修道僧たちに共通する興奮と期待とにおどろかされた。その期待は ゾある人々の間ではほとんど不安に近く、他の人々の間では厳粛なものだった。だれもが長老の死 マ後ただちに何か偉大なことの生ずるのを期待しているのだった。こんな期待は見方によればほと カんど軽薄と言ってもよいものだったが、もっとも厳格な老僧たちさえ、影響されていた。いちば ん厳格なのは、司祭修道士。ハイーシイ老僧の顔だった。アリヨーシャが庵室を離れたのは、アリ ヨーシャにあてた奇妙な手紙をホフ一フコワ夫人からことづかって町からやってきた一フキーチンに、 さる修道士を介してひそかに呼びだされたからにほかならなかった。夫人はアリヨーシャに、き わめてタイミングよく舞いこんだ興味深い知らせを教えてよこしたのだった。ほかでもない、昨 日、長老に挨拶して祝福を受けるために来た信心深い平民の女たちの間に、一人、町の老婆で、 プローホロヴナという下士官の未亡人がいた。彼女は、遠いシベリヤのイルクーックへ赴任した きり、もう一年も音沙汰のない息子ワーセニカを、死者として教会で法要を行なっていいかどう 310

2. カラマーゾフの兄弟 上巻

証してみせた。彼は女主人のホフラコワ夫人にさえ別れを告げずに、部屋を出て行った。アリョ ーシャは悲しげに両手を打ち合せた。 「イワン、彼は途方にくれたように、兄のうしろ姿に向って叫んだ。「帰ってきてよ、イワン , だめだ、だめだ、今となってはどんなことがあっても帰ってくるはずがない ! 」悲しみに目を開 かれた思いで、彼はまた叫んだ。「でも、みんな僕だ、僕がわるいんです、僕が言いだしたんで す ! イワンは敵意のこもった、不愉快な話し方をしました。不当な、敵意のこもった言い方を : 」アリヨーシャは乱心したように叫んだ。 弟カテリーナがふいに隣の部屋へ出て行った。 の「あなたはべつに何もなさいませんでしたわ。天使のように立派に振舞ったじやございません ゾか」悲しみに沈むアリヨーシャに、ホフラコワ夫人が感激した早ロでささやいた。「あたくし、 マイワン・フヨードロウイチがお発ちにならぬよう、あらゆる努力をしてみますから」 力アリヨーシャがひどく嘆かわしく思ったことに、彼女の顔には喜びがかがやいているのだっ た。そこへ、カテリーナがまたふいに戻ってきた。その手に二枚の百ループル札が握られていた。 「あなたに一つたいへんなお願いがございますの、アレクセイ・フヨードロウイチ」彼女はまっ すぐアリヨーシャを見つめながら、一見まるで本当に今しがた何事も起らなかったかのような、 冷静な、淡々とした声で切りだした。「一週間前に、そう、たしか一週間ほど前に、 イ・フヨードロウイチがある気短かな、とても体面にかかわる、間違った行いをなさったんで かんば す。この町にあまり芳しくない場所がありますの、さる飲屋ですけれど。そこであの人が例の退 役将校に、ほら、いっぞやお父さまが何かの事件でお使いになったとかいう例の二等大尉にお会

3. カラマーゾフの兄弟 上巻

リイのもとに移され、これまた召使小屋に引きとられたのである。母親の恩人であり、養育者だ った、わが寸まな老将軍夫人が二人を見いだしたのも、この召使小屋でだった。老夫人はまだ健 在で、この八年間というもの終始、自分の受けた侮辱を忘れることができずにいた。夫人は八年 間ずっと〈わたしのノフィャ〉の暮しぶりについて、きわめて正確な情報をひそかに人手してお り、彼女が病気であることや、ひどい破廉恥に取りかこまれていることを耳にすると、取巻き連 中に向って二、三度、はっきり口にだして言ったものだ。「こうなるのが当り前さ。恩知らずの 罰を神さまがお下しになったんだよ」 歴ソフィヤの死後ちょうど三カ月して、将軍夫人は突然この町にじきじきに乗りこみ、まっすぐ 族フヨードルの家におもむき、町ですごしたのは全部でせいぜい三十分かそこらだったのに、多く 家 るのことをやってのけた。それは夕刻のひとときだった。まる八年会っていないフヨードルが、酔 あ 払った姿で出てきた。話によると、夫人は彼の姿を見たとたん、何の説明もなしにいきなり、し 一たたか音のする頬びんたを二発くらわせ、前髪をつかんで三度下に引きおろしたあと、一言も付 け加えずに、まっすぐ召使小屋の二人の子供のところに向った。子供たちが行水も使わされず、 汚ない下着でいることを一目で見ぬくと、夫人はすぐに当のグリゴーリイにまで頬びんたを見舞 い、子供は二人とも自分が引きとると申し渡してから、子供たちをそのままの身なりで連れだし、 どれい ひざか 膝掛けにくるんで、馬車に乗せ、自分の町に連れ戻った。グリゴーリイは忠実な奴隷らしくこの 頬びんたを堪え忍び、失社な言葉一つ返さなかったうえ、老夫人を馬車まで送って行ったとき、 最敬社をして、「お子さま方に代って、神さまがきっと償いをなさってくださいますでしよう」 ぬけさく と、うやうやしく言った。「とにかくお前は抜作だよ ! 」馬車で立ち去りしなに、夫人は一喝く いっかっ

4. カラマーゾフの兄弟 上巻

にうかんでくるものである。彼の場合もまさしくそうだった。彼のおぼえているのは、静かな夏 のあるタ方だった。明け放された窓、沈みかけた太陽の斜光 ( この斜光がいちばん強く心に残っ いちぐう ていた ) 、部屋の一隅の聖像、その前にともっている燈明、そして聖像の前にひざまずいた母が、 ヒステリーを起したように金切り声や叫び声をあげながら泣きわめき、彼を両手にかかえて、痛 いほどぎゅっと抱きしめ、彼のために聖母マリヤに祈っては、さながら聖母の庇護を求めるかの ように、両手に抱きしめた彼を聖像の方にさしのべている : : : そこへ突然、乳母が駆けこんでき おび て、怯えきった様子で母の手から彼をひったくる。こんな光景なのだ ! アリヨーシャが母の顔 歴を記憶にとどめたのも、その一瞬にだった。その顔は狂おしくこそあったが、思いだせるかぎり 族の点から判断しても、美しかったと、彼は語っていた。もっとも、彼がこの思い出を好んで語る ノ年時代と青年時代の彼は、ほとんど感情を表にあらわさ びような相手は、めったにいなかった。小 さいぎしん あ ず、ロ数さえ少なかったが、それはべつに猜疑心とか内気のせいでもなければ、気むずかしい人 一見知りのためでもなく、むしろまるきり反対に、何か別のもの、つまり他人には関係のない、も つばら個人的な、内心の悩みとでも言うべきもののためで、それが当人にとってはあまり重大な ことなので、そのためにほかの人たちを忘れるような形になってしまうのだった。しかし、彼は 人々を愛していた。人間をすっかり信じきって、終生を暮しているように見える彼だったが、そ れにもかかわらず、一度としてだれ一人、彼をお人よしと見なす者も、単純な人間と見なす者も いなかった。自分は人々の裁判官にはなりたくない、人の批判なぞするのはいやだし、どんなこ とがあっても批判したりしない、と告げ、感じとらせるような何かが、彼にはあった ( そして、 肪これはその後、終生を通じてだった ) 。始終っらい悲しみを味わっていながら、いささかも批判

5. カラマーゾフの兄弟 上巻

もなく、快活にしていることも嬉しかった。長老は待ち受けている人たちを祝福してやるため、 渡り廊下に向った。だが、フヨードルはやはり庵室の戸口で長老を引きとめた。 しようにん 「聖人さま ! 」感情たつぶりに彼は叫んだ。「もう一度お手に接吻させてくださいまし。いや、 あなたとでしたら、お話相手になれます、いっしょにやっていけますよ ! わたしがいつもこん なふうに嘘をついたり、道化を演じたりしているとでも、お考えですか ? いいですか、わたし はずっと、あなたを試すために、わざとお芝居をしていたんですよ。あなたといっしょにやって いけるかどうか、ずっと探りを人れていたってわけです。あなたの誇りの下で、わたしの謙譲さ の住む場所があるかどうかをね。あなたには賞状をさしあげましよう、あなたとならいっしょに 会 な やっていけますよ ! きて、それじゃ、これで黙ります、今後ずっと口をつぐみますよ。椅子に い 違坐って、沈黙しますから。さ、ミウーソフさん、今度はあんたのしゃべる番だ、今度はあんたが 主伎ですよ : : : 十分間だけね」 第 三信者の農婦たち 囲いの外壁につぎたした木造の渡り廊下のまわりに、このときは女ばかり集まっていた。農婦 が二十人ほどだった。長老がついにお出ましになると知らされて、期待に包まれて集まってきた のである。身分の高い訪問者のために設けられた別室でやはり長老を待っていた地主のホフラコ ワ家の人々も、渡り廊下に出てきた。母と娘の二人だった。母のホフラコワ夫人は、いつも趣味 のいい服装をしている裕福な婦人で、まだかなり若く、顔色こそやや青白いが、ほとんど真っ黒

6. カラマーゾフの兄弟 上巻

れだした。アリヨーシャはハンカチを取りだし、傷ついた手を固く縛った。繃帯するのにほとん どまる一分はかかった。少年はその間ずっと立ちどまって、待っていた。やっとアリヨーシャは 静かな眼差しを少年にあげた。 「さ、これでいい」彼は言った。「見てごらん、こんなにひどくんでさ。これで気がすんだか い、え ? それじや今度は、僕が君に何をしたのか、言ってごらん」 少年はびつくりして見つめた。 「僕は君を全然知らないし、はじめて会ったんだけど」相変らずもの静かにアリヨーシャはつづ 奮けた。「でも、僕が君に何もしていないはずはないよね。君だって理由もなしに僕にこんなひど ないことをするはずがないもの。だったら、僕が何をしたの、君にどんなわるいことをしたのか、 病教えてくれないか ? 」 編返事の代りに少年は突然、大声で泣きだすと、いきなりアリヨーシャのそばから逃げだした。 第アリヨーシャはそのあとについて静かにミハイロフ通りに向ったが、遠くを少年が、足もゆるめ ず、ふりかえりもせず、そしておそらくやはり声を限りに泣き叫びながら走ってゆく姿が、それ からも永いこと見えていた。アリヨーシャは、暇ができしだい、必ずあの少年を探しだして、異 なぞ 常なショックを与えたこの謎を解明しようと決心した。今はその暇がなかった。 四ホフラコワ夫人の家で まもなく彼はホフラコワ夫人の家についた。夫人自身のものであるこの家は、美しい石造の二

7. カラマーゾフの兄弟 上巻

の上に出たとたん、どこからともなくふいに当のホフラコワ夫人が目の前に立ち現われた。最初 の一言でアリヨーシャは、夫人がわざわざここで自分を待ち受けていたのだと察しとった。 「アレクセイ・フヨードロウイチ、ひどいじゃありませんか。あんなのは子供のたわごとです、 何もかもでたらめですわ。あなたはまさか本気で空想したりなさらないと思いますけれど : : : ば かばかしい、本当に愚劣でばかばかしい話ですわ ! 」夫人は彼に食ってかかった。 「ただお嬢さんにそんなことはおっしやらないでください」アリヨーシャは言った。「でないと 興奮するでしようし、今はお身体に毒ですから」 弟「分別ある青年の分別あるお言葉としてうかがっておきますわ。そうしますと、あなたご自身は、 のあの子の病気に対する同情から、反対などして怒らせたくないために、同意なさったにすぎない ゾと、そう理解していてよろしいんですのね ? 」 マ 「いえ、違います、まるきり違いますよ、僕はお嬢さんとまったく真剣に話し合ったのですか きぜん カら」アリヨーシャは毅然として言い放った。 「この場合、真剣なんてことはありえません、考えられませんわ。第一、あたくし、今後はあな たを絶対に家 ( お通ししませんし、第二に、あの子を連れてこの町を離れますから、よくご承知 おきねがいますわ」 「でも、なぜです」アリヨーシャは言った。「だってまだそんな近い話じゃないんですよ。こと によると、この先一年半くらい待たなけりゃならないんですし」 「ああ、アレクセイ・フヨードロウイチ、もちろんそのとおりですわ、そしてその一年半の間に あなたたちは千回も喧嘩をして、仲たがいをするにきまっています。それにしても、あたくしは 424

8. カラマーゾフの兄弟 上巻

なんだ。モスクワにいる例の将軍夫人の実の妹で、将軍夫人よりもっと威張りちらしていたん ごうまん だけれど、夫が公金横領を見つかって、領地も何もかも失くしてしまったもんだから、傲慢なあ の夫人も急にしおらしくなって、それ以来うだつが上がらないってわけさ。それじゃ、あの叔母 さんがカテリーナをとめたのに、彼女が言うことをきかなかったんだな。『あたしは何だって征 服してみせる。すべて、あたしの思うままなんだ。その気になれば、グルーシェニカだって手玉 にとってみせるわ』ってわけだ。そして彼女は自分を信じ、自分に対して見栄を張ったんだよ、 とすればだれがいったいわるいんだい ? お前は、彼女が抜目ない計算のもとに、わざと自分が 弟先にグルーシェニカの手にキスしたと、そう思うかい ? そうじゃない、彼女は本当に、本心か のらグルーシェニカに惚れこんだんだよ、つまり、グルーシェニカにじゃなく、自分の夢に、自分 ゾの夢物語にさ、なぜってそれはあたしの夢、あたしの夢物語だからさ ! なあ、アリヨーシャ、 マそれにしても、どうやってあの女たちから逃れられたんだい ? 僧服のをからげて逃げだした カってわけか ? は、は、は ! 」 「兄さん、兄さんはあの日のことをグルーシェニカに話したために、どれほどカテリーナさんを 侮辱したか、気にもとめていないようですね。だってグルーシェニカは今あの人に面と向って、 『そういうあなたこそ、自分の美しさを売るために、男の人のところへこっそり忍んで行ったく せに』と投げつけたんですよ。兄さん、これよりひどい侮辱があるでしようか ? 」アリヨーシャ を何よりも苦しめていたのは、もちろんそんなことのあろうはずもないけれど、兄がまさにカテ リーナの屈辱を喜んでいるのではないか、という思いだった。 「参った ! 」突然。 トミートリイはひどく眉をくもらせ、掌で額をたたいた。さっきアリョ

9. カラマーゾフの兄弟 上巻

あげ、苦しんでいる人々の看護婦になってあげられれば、と思いますの。そういう傷口に接吻し てもいいとさえ思っているんですの : : : 」 「あなたのご分別がほかならぬそんなことまで空想なさるというのは、それだけで、もう余りあ るくらい、立派なことです。ときには、何かのはずみで実際に、何か善事をなさることでしよう からの」 「はい、ですけれど、あたくしがそんな生活に永いこと堪えぬけますでしようか ? 」熱つぼく、 ほとんど狂おしいばかりに、夫人はつづけた。「それがいちばん肝心な問題ですわ ! これがあ 弟たくしにとって、数ある問題の中でいちばん苦しいものなんです。目を閉じて、よく自分にたず のねてみることがございますの。お前はこの道で永く辛抱できると思うか ? もし、お前に傷口を ゾ洗ってもらっている患者が、すぐ感謝を返してよこさず、それどころか反対に、さまざまな気ま マぐれでお前を悩ませ、お前の人間愛の奉仕になど目をくれもしなければ評価もしてくれずに、お カ前をどなりつけたり、乱暴な要求をしたり、ひどく苦しんでいる人によくありがちの例で、だれ か上司に告げ口までしたりしたら、そのときにはどうする ? それでもお前の愛はつづくだろう か、どうだろう ? ところが、どうでしよう、長老さま、あたくしはもう結論を出してぎくりと いたしましたの。かりにあたくしの《実行的な》人類愛に即座に水をさすものが何かあるとした ら、それはただ一つ、忘恩だけですわ。一言で申してしまえば、あたくしは報酬目当ての労働者 しようさん と同じなのです。ただちに報酬を、つまり、自分に対する賞讃と、愛に対する愛の報酬とを求め るのでございます。それでなければ、あたくし、だれのことも愛せない女なのです ! 」 彼女は衷心からの自責の発作にかられていたので、話し終ると、挑戦的な決意の色を示して長 せつぶん

10. カラマーゾフの兄弟 上巻

ようじゅっ かを、長老にたずねたのだった。これに対して長老は、その種の法要を妖術にひとしいときめつ ゆる けて固く禁じ、きびしい口調で答えた。しかし、そのあと長老は彼女の無知を赦し、ホフ一フコワ せがれ 夫人の手紙の表現によれば、〈まるで未来の本でものぞき見るかのように〉、「忰のワーセニカは 疑いもなく達者でおって、近く本人が帰ってくるなり、便りをよこすなりするはずだから、お前 さんは家に帰って、待っているがいい」と慰めを付け加えた。『ところが、どうでしよう ? 』ホ フラコワ夫人は感激して書き加えていた。『この予言が文字どおり的中したのです、いえ、それ 以上ですわ』老婆は家に帰るなり、すでに待ち受けていたシベリヤからの便りをすぐさま渡され 奮たのである。しかも、それだけではない。旅の途中、エカテリンプルグから書いたその手紙で、 なワーセニカは、自分は今ある伎人といっしょにロシア本土へ帰る旅の途上にあり、この手紙がっ 病いて三週間ほどのちには『母を抱擁するつもりでいる』ことを、知らせてよこしたのだ。ホフラ きせき 編コワ夫人は、この新たに実現した《予言の奇蹟〉を修道院長はじめ修道士たち全員にただちに伝 第えてくれるよう、熱つぼい調子で強引にアリヨーシャに頼んでいた。『これは一人残らずみんな に知らせなければなりません ! 』ーー手紙の結びで、彼女はこう絶叫していた。手紙は心せくま ま大急ぎで書かれたため、書き手の興奮がどの行にもひびいていた。だが、もはやアリヨーシャ が修道士たちに知らせるべきことは、何もなかった。みながもう一部始終を知っていたからだ。 それというのもラキーチンが、アリヨーシャの呼びだしを修道僧に頼んだとき、それ以外にさら に、「まことに恐縮ですが、。ハイーシイ神父に、僕、つまりラキーチンが、ちょっと用があると お取次ぎいただけないでしようか、ただ、きわめて重大なことなので、一刻もご報告を遅らせる わけにはいかないのです。失礼の段は深くお詫びいたします」と、頼んだのである。そして修道 311