カテリーナ・イワーノヴナ - みる会図書館


検索対象: カラマーゾフの兄弟 下巻
61件見つかりました。

1. カラマーゾフの兄弟 下巻

かたき た。二人はなにか互いに恋し合う仇同士みたいだった。ミー チャに対するカテリーナの愛の、束 の間ではあるが、はげしい再発は、もはやイワンを完全な狂乱におとしいれた。奇妙なことに、す でに記した、アリヨーシャがミーチャとの面会の帰りに寄ったときに、カテリーナの家で起った あの最後の一幕まで、イワンは、自分があれほど憎んでいる兄に対して彼女の愛が〈再発〉した にもかかわらず、まるひと月の間にただの一度として彼女の口から、ミー チャの有罪に対する疑 念をきいたことがなかった。さらにもう一つ注目すべきことは、彼がミーチャへの憎悪が日まし に強まるのを感じながら、同時に一方では、自分が兄を憎んでいるのは、カテリーナの愛の《再 弟発〉のためではなく、まさに兄が父を殺したためであることを理解していた点であった。彼はそ ののことを自分でも感じ、十分意識していた。それにもかかわらず、彼は公判の十日ほど前に、、 フ ゾチャを訪ね、脱走の計画を、それも明らかにだいぶ前から考えぬいた計画を提案したのだった。 マこの場合、彼にこのような行動をとらせた主要な原因のほかに、兄を有罪にするほうが得だ、そ カうなれば父の遺産の額が彼とアリヨーシャにとって、四万から六万にはねあがるからだ、と言っ つめあと たスメルジャコフのあの一言によって、心に癒えることなく残された爪痕も、責任があった。彼 はミーチャの脱走をお膳立てするため、自分が三万ループル提供しようと決心した。が、その日、 兄のところから帰る途中、彼はひどく心が滅人り、乱れていた。突然、自分が脱走させようと望 んでいるのは、それに三万ループル出して爪痕を癒やすためばかりではなく、ほかにも何か理由 があるような感じがしはじめたからだった。『心の中では、俺も同じような人殺しだからではな いだろうか ? 』彼は自分にたずねてみた。何か間接的ではあるが、焼きつくようなものが心を刺 した。何よりも、このまるひと月の間、彼のプライドはひどく苦しみつづけていた、だがその話

2. カラマーゾフの兄弟 下巻

ず、怒らせるだけだったが、やがて子供たちの快活な大声や話が、彼女の気をまぎらせるように なり、しまいにはすっかり気に人ったため、もし子供たちが来るのをやめたりしたら、彼女はひ どくふさぎこむにちがいないほどになった。子供たちが何か話したり、遊戯をはじめたりすると、 彼女は声をあげて笑い、拍手するのだった。子供たちのだれかれをよびよせて、接吻してやるこ ともあった。スムーロフ少年は特にお気に人りだった。二等大尉はと言えば、イリューシャを楽 しませにやってくる子供たちの姿は、そもそものはじめから感激に近い喜びと、これでイリュー シャも悲しがるのをやめ、ことによるとそのおかげで回復が早まるかもしれぬという希望とで、 ち彼の心を充たした。ィリューシャの病状に対する恐怖にもかかわらず、彼はごく最近まで、わが 子がふいに快方に向うことを、片時も疑っていなかった。彼は小さな客たちをうやうやしく迎え、 年 少まわりをうろうろして、精いつばいサービスし、肩車でもしかねない勢いだったし、本当に肩車 編をしてやりかけたのだが、そんな遊びがイリューシャの気に人らなかったため、あきらめた。子 第供たちのために、ポンポンだの、しようが人り。ハンケーキだの、くるみだのを買ってやり、お茶 を人れたり、サンドイッチを作ったりしてやった。断わっておかねばならないが、このところず っと、金には不自由しなかったのである。カテリーナからのあのときの二百ループルを、彼はず ばりアリヨーシャの予一一一口どおり、受けとった。その後カテリーナは、家庭の状況やイリューシャ の病気についてさらにくわしく知ると、みずから住居を訪ね、家族みんなと知合いになり、半ば 気のふれた二等大尉夫人さえも魅了してしまった。それ以来、彼女は惜しみなく金を与えたし、 当の二等大尉も、息子が死にはせぬかと考えると恐怖に押しひしがれて、かっての自尊心を忘れ、 おとなしく施しを受けとった。この間ずっと、カテリーナの招きで、ヘルツェンシトウーベ博士 せつぶん

3. カラマーゾフの兄弟 下巻

四伸。カーチャ、だれかが金を貸してくれるよう、神さまにお祈りしてくれ。そうすれば、 俺は血に染まらずにすむ、借りられなければ、血を見るのだ ! 俺を殺してくれー・ どれい きゅうてき 奴隷であり仇敵である ・カラマーゾフ』 イワンはこの〈文書〉を読み終ると、確信にみちて立ちあがった。つまり、殺したのはスメル ジャコフではなく、兄なのだ。スメルジャコフでないからには、つまり、彼イワンでもない。こ ンの手紙が突然、彼の目に数学のようにはっきりした意味を持ってきた。もはや彼にとってはこれ イ以上、 チャの有罪に対していかなる疑念もありえなかった。ついでに言うなら、ミーチャカ スメルジャコフと組んで殺したのかもしれぬという疑いは、イワンの心に一度も生じなかったし、 一それは事実とも符合しなかった。イワンはすっかり安心した。翌朝、スメルジャコフや、その嘲 第笑を思いだしても、軽蔑をおぼえただけだった。数日後には、どうしてあんな男の疑いにあれほ ど苦悩して腹を立てたのか、ふしぎな気さえした。彼はあの男を軽蔑し去って忘れようと決心し た。こうして、ひと月過ぎた。彼はもはやスメルジャコフのことなぞ、だれにもたずねなかった が、二度ほど、あの男が重い病気で、頭がおかしくなっていることを、ちらと耳にした。「結局、 発狂するでしようよ」 一度、若い医師のワルヴィンスキーがこう言ったことがあり、イワン はそれを記憶にとどめた。その月の最後の週に人ると、彼自身もひどく身体具合がわるいのを感 ずるようになってきた。裁判の直前に、カテリーナに招かれてモスクワから来た医者にも、もう せんえいか 2 診てもらっていた。カテリーナとの関係が極度に尖鋭化したのは、まさにこの時期にあたってい

4. カラマーゾフの兄弟 下巻

でたぎり返っていた。『今すぐスメルジャコフを訴えに行こうか ? しかし、何と言って訴えよ う。あいつはとにかく無実なんだからな。あべこべに、あいつが俺を訴えることだろう。実際、 何のためにあのときチェルマーシニヤへ行ったりしたんだ ? なぜ、何のために ? 』イワンは自 分に問いかけた。『そう、もちろん、俺は何事かを期待していたんだ。あいつの言うとおりだ ・ : 』と、これでもう百遍目にもなるのだが、またしても、あの最後の夜、階段の上から父の様 子にきき耳を立てたことが思い起された。だが今はそれを思いだすなり、ひどい苦痛をおぼえた ため、突き刺されたようにその場に立ちすくんだほどだった。『そうだ、俺はあのときあの事態 弟を期待していたんだ、たしかにそうだ ! 俺は望んでいた、殺人を望んでいたんだ ! 俺が殺人 : スメルジャコフのやつを殺さなけ のを望んでいたって ? ほんとに望んでいたのだろうか ? ゾりやいけない ! もし今スメルジャコフを殺す勇気もないんなら、これから生きてゆく値打ちも マないんだ ! 』イワンはそのとき、自分の家へ寄らずに、まっすぐカテリーナのところへ行き、そ 力の姿で彼女をびつくりさせた。まるで狂人のようだったのである。彼はスメルジャコフとの話を、 しず 細かい点にいたるまで残らず伝えた。どんなに彼女が説得しても、イワンは気を鎮めることがで きず、のべっ部屋の中を歩きまわって、きれぎれに異様なことを口走っていた。やっと腰をおろ ひじ したものの、テープルに肘をつき、両手で頭を支えて、奇妙な警句めいた一一一口葉をつぶやいた。 「殺したのがドミートリイではなく、スメルジャコフだとすると、もちろんそのときは僕も共犯 だ。なぜって僕はたきつけたんだからね。僕がたきつけたのかどうか、まだわからんな。しかし、 殺したのがドミートリイではなく、あいつだとしたら、もちろん僕も人殺しなんだ」 これをきくと、カテリーナは黙って席を立ち、自分の書き物机のところに行って、その上にあ 210

5. カラマーゾフの兄弟 下巻

でして」へルツェンシトウーべと話して、スメルジャコフはいっこう狂っているように見えず、 衰弱しているだけのようだがという疑念を伝えてみたが、それもこの老人の徴妙な笑いを誘った にすぎなかった。「あの男が今特に熱中しているのが何か、ご存じですか ? 」老人はイワンにた ずねた。「フランス語の単語をせっせと暗記しているんですよ。枕の下にノート が置いてあって、 フランス語の単語をだれかにロシア文字で書いてもらってあるんです、へ、 へ ! 」イワンは ついにいっさいの疑念を放棄した。もはや兄。 トミートリイのことを、嫌悪なしに考えることさえ できなかった。が、それでも一つだけふしぎなことがあった。ほかでもない、アリヨーシャが頑 ンなに、殺したのはドミートリイではなく、〈十中八、九〉スメルジャコフだと、主張しつづけて イいることだった。イワンはかねがね、アリヨーシャの意見が自分にとって大切なものであること を感じていたので、今度は非常に不審でならなかった。また、アリヨーシャが彼とはミーチャの 一話をしようとせず、自分からは決して切りださずに、イワンの質問に答えるだけなのも、ふしぎ 第だった。そのこともイワンは強く気にかかった。もっとも、この当時彼は直接的な関係のまった くない、さる事情にすっかり気をとられていた。モスクワから帰って最初の数日のうちに、彼は カテリーナに対する炎のような狂おしい情熱に、もはや抜き差しならぬ勢いでのめりこんでしま . ったのだ。その後、全生涯に影響を与えたイワンのこの新しい熱情に関して語り起すには、ここ はその場所ではない。それだけで、すでにほかの物語なり、別の長編なりの構想に十分使えるは ずであるが、その長編にそのうち取りかかるのかどうか、わたしにもわかっていないのである。 しかし、やはり黙っているわけにもいかないので、ここでは、すでに書いたように、あの夜イワ 四ンがアリョ シャといっしょにカテリーナのところから帰る途中、「俺は彼女に関心がないのさ」 かたく

6. カラマーゾフの兄弟 下巻

たてじわ さな縦皺が、一見けわしいとさえ見える思いつめた色を、愛くるしい顔に与えていた。たとえば、 かっての軽薄さは跡も残っていなかった。婚約したほとんどそのとたんに、いいなずけが恐ろし い犯罪によって逮捕されるという、この気の毒な女性を見舞ったあらゆる不幸にもかかわらす、 ながわすら あるいはまた、その後の長患いや、今後ほとんど避けられぬと思われる恐ろしい判決などにもか かわらず、グルーシェニカがやはり以前の若々しい快活さを失くしていないことも、アリヨーシ ごうまん ヤにとってはふしぎだった。かって傲慢だった彼女の目に、今では、なにか柔和な色がかがやい ていた。だが、そうは言うものの、すっかり消えてしまわぬばかりか、むしろ心の中でつのって ンさえいる従来どおりのある心配が見舞ったりすると、その目がときおり、またもや一種の険悪な ワ イ炎に燃えあがるのだった。この心配の種は、相も変らず、カテリーナであり、病床に伏していた ときも、グルーシェニカはうわごとにまで彼女を思いだしたほどだった。いつでも面会に行ける 一はずのカテリーナが、まだ一度も拘置中のミーチャを訪ねたことがなかったにもかかわらず、グ しっと 第ルーシェニカが逮捕されたミーチャのことで彼女にひどく嫉妬していることは、アリヨーシャも 知っていた。これらすべてがアリヨーシャにとっては、ある種の困難な課題となっていた。なぜ なら、グルーシェニカはただ一人彼だけに自分の心を打ち明け、のべっ助言を求めるのだったが、 彼とて時には何一つ言うことができぬ場合もあったからだ。 すまい 彼は気がかりそうな様子で、彼女の住居に人った。彼女はもう家に帰っていた。三十分ほど前 ひじかけいす にミーチャのところから帰ってきたのだが、テープルの前の肘掛椅子から出迎えに跳ね起きた彼 女のすばやい動作を見て、アリヨーシャは、彼女が待ちきれぬ思いで待っていたのだと推察した。 テープルの上にカードがのっており、〈薄のろ〉のゲームがやりかけになっていた。テープルの

7. カラマーゾフの兄弟 下巻

った手文庫を開け、何やら紙片を取りだして、それをイワンの前に置いた。この紙片こそ、のち にイワンがアリョ シャに、父を殺したのは兄のドミートリイだという《数学のようにはっきり した証拠〉として語った、ほかならぬあの文書であった。それは、いっぞやカテリーナの家で、 彼女がグルーシェニカに侮辱された例の一幕のあと、修道院に帰る途中のアリヨーシャに野原で ーチャが出会った、あの晩、酔いにまかせてミーチャがカテリーナ宛てに書いた手紙だった。 あの晩、アリヨーシャと別れたあと、ミー チャはグルーシェニカのところにとんで行った。彼女 に会ったかどうかわからないが、夜中近くに飲屋〈都〉に姿をあらわし、当然のことながら、ぐ ンでんぐでんに酔った。酔った彼はペンと紙を求め、この重大な文書を書きなぐったのだった。そ じようぜっ イれは気違いじみた、饒舌な、とりとめのない、まさしく《酔いにまかせた〉手紙だった。ちょう ど、酔払った男が家に帰るなり、妻なり家族のだれかなりをつかまえて、俺はたった今侮辱され 一た、俺を侮辱したのは実に卑劣なやつだが、反対にこの俺はきわめて立派な人間なのだ、俺はあ 第の卑劣漢にきっと思い知らせてやる、といった類いのことを、酔った目に涙をうかべ、拳でテー プルをたたきながら、いきり立って、とりとめもなく長々と、異常なくらいむきになってしゃべ びんせん りだすのと同じようなものだった。手紙を書くのに飲屋でもらった紙は、粗悪なごく普通の便箋 を切りとった汚ない紙片で、裏には何かの勘定が記してあった。酔払いの饒舌にはどうやら紙面 が足りなかったらしく、ミー チャは紙面いつばいに書きなぐったばかりか、最後の数行などは、 前に書いた文章の上に縦に書きつけてあった。手紙は次のような内容だった。 『宿命の女性カーチャよ ! 明日、金を手に人れて、例の三千ループルを返す。そしたら、さ 211 たぐ

8. カラマーゾフの兄弟 下巻

る施設へカテリーナを連れて行こうと判断した。彼女はこの女中をとて大事にしていたので、 ただちにこの考えを実行して、女中をそこへ連れてゆき、そのうえ付き添っていてやることにし た。さらに、もう朝になってから、どういう理由でか、クラソートキナ夫人の友情と協力が必要 になった。クラソートキナ夫人なら、こういう場合、だれかに何かを頼んだり、カになってやっ たりすることができるからだった。というわけで、夫人たちは二人とも出かけていたし、クラソ ートキナ夫人の女中をしているアガーフィヤという中年女は市場へ買物に行ってしまったので、 コーリヤはしばらくの間、《ちびっ子たち〉、つまり心細くとり残されたドクトル夫人の男の子と 弟女の子のお守り役と、留守番を仰せつかったのである。留守番くらいコーリヤはべつにこわくな のかったし、おまけに。ヘレズヴォンがついている。ペレズヴォンは玄関の土間にあるべンチの下に、 ゾ《身動きせずに〉伏せているよう命じられていたため、家じゅうを歩きまわっているコーリヤが しつな マ玄関に出てくるたびに、首を振っては、おもねるように尻尾で上間を二度強くたたいてみせるの 力だが、悲しいことに、自分をよぶロ笛の音はしなかった。かわいそうな大をコーリヤが脅すよう ににらみつけると、大はまた神妙にひっそりとなった。だが、かりにコーリヤを困惑させるもの があるとすれば、それはもつばら〈ちびっ子たち》だった。カテリーナの身に起った思いがけぬ ちんじ 椿事を、彼はもちろん、この上なく深い軽蔑の目で見ていたが、父親のいなくなったちびっ子た ちのことは、非常にかわいがっていたので、すでに何か子供の本を持って行ってやったくらいだ った。姉娘のナースチャは、もう八歳で、本が読めたし、下のちびっ子である七つの男の子コー スチャは、姉さんに本を読んでもらうのが大好きだった。もちろん、コ 1 リヤはもっとおもしろ い遊びをしてやることもできた。つまり、二人を一列にならばせて兵隊ごっこをしたり、家じ おど

9. カラマーゾフの兄弟 下巻

「ひゅー ! 」コーリヤはひそかにロ笛を鳴らした。 「でなけりや、こうかもしれないわ。赤ちゃんはどこかから運ばれてくるんだけど、でもお嫁に 行った人のところにだけなのよ」 コースチャはまじまじとナースチャを見つめ、思慮深げにききながら、思案していた。 「ナースチャ、姉さんってばかだね」やがて彼はむきにもならずに、しつかりした口調で言った。 「だってさ、カテリーナはお嫁に行ってないのに、どうして赤ちゃんができるのさ ? 」 ナースチャはひどくいきりたった。 いらだ だん ち「あんたなんか、何もわからないのよ」苛立たしそうに彼女はさえぎった。「もしかすると、旦 ろうや 那さんがいたんだけど、今は牢屋に人っているのかもしれないわ。だから赤ちゃんを産んだんじ 年 少ゃないの」 編「ほんとに旦那さんが牢屋に人ってるの ? 」実際的なコースチャが重々しくたずねた。 第「それとも、こうかしら」ナースチャは最初の自分の仮説をすっかり放棄し、忘れ去って、勢い こんでさえぎった。「あの人に旦那さんはいないわ、それはあんたの言うとおりよ。でも、お嫁 に行きたいと思って、お嫁に行くことばかり考えて、いつもそのことばかり考えつづけていたも んだから、とうとう旦那さんの代りに赤ちゃんができたんだわ」 「そうにきまってるさ」すっかり言い負かされたコースチャが同意した。「はじめつからそう一言 ってくれないんだもの、僕わからなかったんだ」 「こら、ちびっ子たち」部屋に一歩踏みこんで、コーリヤは言った。「どうやら、君たちは危険 人物らしいな ! 」

10. カラマーゾフの兄弟 下巻

たのです。僕の考えはあのときは愚かしいものに見えましたけど、でもおそらく兄はあのとき、 例の千五百ループルを縫いこんだお守り袋を指さしていたにちがいありません ! 」 シャ、そうなん 「そのとおりだ ! 」ふいにミーチャが席から叫んだ。「そうなんだよ、アリョ こぶし だ、あのとき俺は拳でそれをたたいていたんだ ! 」 フェチュコーウイチがあわてて彼のところへとんで行き、落ちつくよう頼むと、すぐにアリョ シャにくわしく質問しはじめた。アリヨーシャは夢中になって記憶をたどりながら、おそらく その恥辱とは、その気になればカテリーナ・イワ 1 ノヴナに返せるはずの負債の半分の千五百ル 審ープルを、兄が肌身につけていながら、やはり返ざずに、ほかのこと、つまりグルーシェニカさ え同意してくれたら駆落ちの費用に当てようと決心した点にちがいないと、熱心に自分の推測を 誤 二「そうなんです、きっとそうだったんです」だしぬけに興奮して、アリヨーシャが叫んだ。「兄 第はあのとき、恥辱の半分は、半分だけなら ( 兄は何度か、半分という言葉を言ったのです ) 、今 すぐにでも取り除けるんだが、それができないくらい、性格の弱いところが俺の不幸なんだ、と 叫んだのです : : : それができない、実行する力のないことが、俺には前もってわかっているんだ、 と叫んだのです ! 」 「で、兄上が胸のこの辺をたたいたことを、あなたはたしかにはっきりおぼえているんです ね ? 」フェチュコーウイチがむさぼるようにたずねた。 「たしかにはっきりおぼえています。それというのも、その時僕は、心臓はもっと下なのに、な ぜあんな上の方をたたくんだろうと思いましたし、そのときはそんな考えが愚かしく思えたから 321