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検索対象: チャイナ・オレンジの秘密
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1. チャイナ・オレンジの秘密

つかった。それもすごくすばらしいやっ、がらくたもんじゃないやつだ。で、これは女の持ちも のじゃないとにらんで、部下に早速その出所を調べさせた。何が出てきたと思う ? 」 エラリイはため息をついた。「こんどはかたきをとられたようだな。・ほくも時には今のお父さ いや、わかりませんね、何です ? んみたいに意地悪をしたことがありましたかね ? 「正規の宝石商に見せてみると、こいつは珍しいもんだとわかった。飾りが珍しいし、宝石は古 いもので、由緒あり、宝石収集家がほしがるもんだというんだ」 「驚きましたね ! 」とエラリイが大きな声を出した。「まさかそんなものを盗むばかはあります 「その点はわからんがね」と警視がつぶやいた。「だが一つわかっとることがある」とエラリイ の服のえりをぐいと引っぱって、「そのいすから出るんだ、あちこち歩くんだ。一つわかっとる ことというのはね : : : 宝石商のことごとくが口を揃えていうには、この宝石の所有者はちゃんと わかっている。仲間には常識になっているというんだ」 「まさか : : : 」エラリイがゆっくりいいかけた。 「そうなんだよ。この宝石類は全部が全部ドナルド・カークの収集の中のものなんだ ! 」

2. チャイナ・オレンジの秘密

193 「まあ待ちなさい」と警視はちやめにいった。「今にわかるて」 エラリイはそう長いこと待たなくてもよかった。彼がその夜、暖炉の前にゆったりいすにより かかって、ひどく迷惑顔のジ = ーナ君にモック・タートルの演説集を朗読してやっているところ へ警視があわただしくとびこんできた。 「おいエル , いったいどうなったと思う ? 」と老警視は帽子を放り出し、エラリイに向ってあ ごをしやくってみせた。 エラリイが本を置くと、ジューナ君は助かったとばかり大ため息とともに姿を消した。「めど がっきましたかね ? 」 「うんめどがついた。めどがっきすぎたくらいだ」と警視は晩年のナポレオンみたいにコ 1 トを 着たままでそこらを気取って歩きまわりながら、「今日午後、わしらチャンセラ 1 の例のシウェ ルの部屋を捜索したんたよ」 「そいつは聞きものだ」 「今話してやる。女がどこかへ出かけとる間にわしら手早く仕事をやったんだ。いったい何をみ つけたと思う ? 」 「全然見当もっきませんね」 「宝石類だよ」 「ほお」 警視は例のかぎ煙草をごきげんに吸ってくしやみをした。「いや話は簡単だ。トレンチからの 電報にあの女は宝石に目がないとあったが、女の部屋には果して多数の宝石が隠してあるのがみ

3. チャイナ・オレンジの秘密

エラリイ・クイ 1 ン氏はその多彩な経験の中でも、あの自分の居間での大実験をした明くる朝 ほど綿密に舞台ごしらえをしたことはなかった。そしてクイーン警視も今回は一緒だった。 どうしてこんなにまで徹底的に用心し骨を折って準備をしている必要があるのか、またそれを 誰にも明かさないのかわからなかった。そしてそのわけを知っていそうな唯一の人物がその場に いないのだ。ヴェリ 1 部長刑事はほんとはきちょうめんな人なのだが、この場に姿がなかった。 しかも彼が姿をみせないことをクイーン警視が平気で受け入れてもいるのだ。 準備が始められるとたいへんうまく進んでいた。早朝、いかめしい顔をした本部からの刑事が 事件関係各人のところを訪ねて、理由のわからない護衛にとりかかった。説明も断りもなかった。 ただそっけなく、「クイ 1 ン警視の命令です」といって各刑事は黙りこんでいるだけだった。 さて十時になると、ドナルド・カ 1 ク事務所の控室 ( 犯罪現場 ) は何かわけのわからないとい うよりはむしろびつくりしている人たちでいつばいになりだした。ヒュ ・カ 1 ク博士は弱々し くどなりちらしながら、すっかり服従的なミス・テ ・イバシーの押す車いすで控室へはいってきた。 その監視役はハグストロム刑事だった。ドナルド・カークと妹のマーセラはリッタ 1 刑事に伴わ れてはいってきた。ミス・テン。フルはひどく青白い顔をして、ヘス刑事と一緒にやってきた。グ レン・マクゴアンは怒った様子だが文句はいわず、どかどかと足音をたててジョンソン刑事に守 回

4. チャイナ・オレンジの秘密

1 の目も おさえていた感情が針を刺された風船のようにつぶれた。しつかり見つめているジョ はばからず、カークは近くのいすに身を沈めると両手で顔を覆った。押しつぶされたようなあわ れな声で、「そうです。いや : : : ぼくは自分でしたことがわからないんだ」 冫いった。「ああ、ドナルド。あなたってず 「違うっていうの ? 」とアイリン・リューズが早ロこ いぶん物おぼえの悪い人ね」そしてそのまま寝室へ急いではいって行った。部長刑事がいやな顔 をしたが、警視が首を横に振ったので緊張を解いた。彼女はすぐ一枚の紙を持って戻ってきた。 「クイーン警視、きっとドナルドは自分で何をいってるのかさえわからないのよ。あたしこんな 内密のものを公表するようなことは普通しないんですけど : : : でも、こうなれば仕方ありません ドナルド、恥と思わない ? 」 ものね、警視さん ? 警視は女の顔をきつくじっと見つめていたが、彼女の手から紙を取ると、声を出して読み始め ・ほくはあなたを愛している。この気持をどうしてあなたにわかって 親愛なるアイリン もらえるか・ほくには充分の手だてがない。ぼくの宝石は・ほくの持 . っているものの中でももっ とも貴重なものです。これらの宝石をあなたに贈ったということがぼくの真実の気持を表わ ″宝冠〃これはロシアの大公妃の頭を飾ったもの、 している証拠ではないでしようか ? ″赤のプロ 1 チ〃これはスウ = 1 デン女王のクリスチナの母の持物だったもの、そしてひす いは中国皇帝の娘の指に光彩をそえたもの : : : その他の宝石もすべてぼくが長年秘蔵してい たものです。だが今・ほくはこれらの物を世界中でもっともすばらしいあなたに喜んで差しあ げる。ぼくと結婚するといってください ,

5. チャイナ・オレンジの秘密

324 ・オレンジを食べていたという事実に何か意味があるようにぼくが見たからといって、それが責 められますか ? 」 「ああ」と彼女はつぶやいた。失望の様子だった。「では被害者がタンジールみかんを食べてい たということは全然意味ないことだったんですか ? わたしはまたたいへん頭のいい話でも出て くるのかと思ってたんです」 「まったく意味なしですーエラリイがゆっくりいった。「ただあの男が腹をへらしていたという こと以外はね。もっともこれはもうわかってる話でしたね。彼が鉢の中のナシやリンゴやその他 の果物を取らないで、チャイナ・オレンジを選んで空腹を満たしたという事実からぼくはまった く何の光明もし・ほり出すことはできなかった。ぼくもチャイナ・オレンジが好きですが、中国に はシカゴから先へ近づいたこともないですよ : : : だが、ひとっチャイナ・オレンジについて : そう、おもしろいことがある」 「何だね、それは ? 」とカ 1 クがきいた。例の手紙の包みをしつかりと持っていた。 「それはね」とエラリイはくすくす笑って、「運命のいたすらというか気まぐれさというか、そ れを表わしているね。というのは、彼が食ったチャイナ・オレンジはこの犯罪とは何の関係もな かったが、彼が持ってきたチャイナ・オレンジは全面的にこの犯罪と関連しているのだからね・ : : それがこの犯罪の動機になっているのだから ! 」 「あの男が持ってきたチャイナ・オレンジですって ? 」とミス・テンプルがわからないといった ふうにつぶやいた。 「オレンジ色ですよ」とエラリイがいった。「切手のことですよ。実際、よくもこう偶然に一致 したもので、もし・ほくがこのかわいそうなオズボ 1 ンと、にこにこ顔の小男中国宣教師の異常な

6. チャイナ・オレンジの秘密

の恐ろしい事件でいつも王様然と君臨しておられましたから、わたし、何かと質間するのをさし 控えていたんですけど : : : またすべてはっきりしてほんとに感謝してます。でも、わたし、わか らないことが : : : 」 「あなたの知力をもってすれば容易にわかることばかりじゃありませんか。まだ何かはっきりし ないことがありましたかな ? 」 「ほんのちょっと」と彼女は自分の腕をドナルドの腕に通してしつかりおさえた。「あなたはタ ンジールみかんのことでたいへんな騒ぎをしておられましたね、クイーンさん。そしてここでは そのことについてはまったく何もおっしゃいませんでしたね ! 」 エラリイの顔に影がさした。彼は首を振りながら、「まったく奇妙なことなんです。ォズボー ンの悪知恵から生じた過ちの悲劇がどんなに恐ろしいものだったかあなたにもおわかりになって いることと思います。彼の考えではあのあべこべ仕事が誰かを巻きそえにするなどとはまったく 思っていなかったらしい。あのあべこべそのものには何の意味も認めていないで、ただあらゆる 物をあべこべにすることによって、かかわり合いのことなどまったく考えずにあのカラ 1 と、な いネクタイのことを隠そうとしたに過ぎないようです。 だが運命は彼に幸いしなかった。運命は事件に関係ないいくつかの事実を取りあげてぼくに投 げつけてきました。・ほくは何事にも意味をさぐり求めました。だが、すでに申しあげたように・ほ くはまちがった意味のものを探し求めていたんです。その結果は、あべこべのものなら何でも、 また何者によらずすべて調べる必要があるとぼくには思えたのです。そこへ、テンプルさん、あ なたという人がおられた」とエラリイの灰色の目がきらりと光った。「あなたは生きたあべこべ 3 の土地中国から来られたばかりだった。被害者が死の直前にタンジールみかん、つまりチャイナ

7. チャイナ・オレンジの秘密

173 冫いった。「何も強制されることはない そんなことしなくていい」カークが早ロこ マクゴアンが友だちの腕に軽く触れて、「おちつけよ、ドナルド。そうした方がいいよクイ 1 ン君のいうとおりだ」 「ほんとにそうよ」とミス・テンプルが陽気につぶやいた。「あたしの父は前にも申しましたよ : これはカークさん以外のお方には興 うに中国でアメリカ外交官の任務についておりましたが : 味ないことだと思ってどなたにも申しあげませんでしたが、父もほんの少しばかりの切手の収集 家でした。ドナルドやマクゴア、ンさんのようなすばらしいものではありません。そんなにお金の かかる収集のできるほどの収入があったわけではありませんのでー 、あなたは考えたことないかな : : : 」 「いえ、、ドナルド、今にわかってきます。隠していては決して間題解決の助けにはならないと思 うわ。それにあたしはどうせ世間知らずですけれど、必ず正しいことは勝っと信じてます」と彼 女は美しくにつこりして、カークさえほほえみ返したくらいだった。「父はもう何年も何年も前 に、ちょっとうさんくさい欧亜混血男か何かから福州で一枚の切手を手に入れてました : : : その 男がどうしてその切手を持っていたのか、あたしにはよくわかりません。たぶん地方郵便局にで も勤めていたのでしようか。それはともかく、父はあの切手をおかしいほどの安い値段で買って、 父がなくなりますまでずっと父の収集の中にありました」 「へえ、たいした幸運だ ! 」とマクゴアンが目を輝かして叫んだ。 「そしてほかの収集家はあなたのお父さんがそれを持っていることを知らなかったんですね ? 」 エラリイがきいた。

8. チャイナ・オレンジの秘密

172 「どこかの切手商かなにかからだった。忘れてしまったよ」 「うそっき」とエラリイはやさしくいって、煙草のマッチの火を手で囲んだ。 カークはいすに深く寄りかかって顔を赤くしていた。大男のマクゴアンは自分の友人からエラ リイへとじろじろ目を移していたーーー友情と疑惑の復活との板ばさみになって苦しんでいるのが よくわかった。ミス・テンプルはハンカチをくしやくしやに丸めていた。 「・ほくにはわからないな」とカ 1 クがやっとのことでいった。「クイ 1 ン君、いったいきみはど ういうつもりでそんなことをいってるのかね ? 」 「おいおいカーク君」とエラリイは煙草の煙を吐き出しながらゆっくりいった。「きみはうそを ついている。あの福州切手はどこで手に入れたんだ ? 」 ミス・テンプルは丸めたハンカチを落すと、いった。「クイ 1 ンさん : : : 」 ・ : やめて ! カ 1 クがばっと立ち上った。「ジョ 1 「大丈夫よ、ドナルド」彼女がおちついていった。「クイ 1 ンさん、カークさんはとても義侠心 の強い方です。まるで昔の騎士のよう。それはたいへんいいことかもしれません。でもそんな必 してすかクイーンさん、ド 。、いえ、ドナルド、あたし何も隠すことなんかないわ ナルドはあたしからあの福州切手を手に入れたんですよ」 「ああーとエラリイがほほえんでいった。「それでいいんだ。それでこそいいんだ。金言ふうに いわせてもらうなら、真実こそ常に最後に報いられるだな ? どうもそんなことではなかろうか と、ここへ来た時からにらんでいたんだ。カーク君、きみは紳士で学者だ。それでテンプルさん、 もっと詳しくお話し願えるでしようねー

9. チャイナ・オレンジの秘密

ていた。「ぼくの生活状態はグレンがだいたい知ってるはずだ。ここの営業ぶり、ぼくらの生活 ぶり、きみたちの考えるほどしゃない。これはジョ 1 にも聞いてもらいたい。前に話しておくべ きだった : : 目下・ほくは経済的にだいぶ苦境にあるんたよ : : : 」 、、ス・テンプルは何もいわなかった。 「ああ」とエラリイがいった。それからこんどは陽気にいった。「うん ! この不況時代には一 向珍しいことでもないじゃないか、カーク。マンダリン書房はがたついてるのか ? 」 「相当悪い。売掛金、集金、書店は続々つぶれるしね : : : 」とドナルドは首を振った。「ぼくら にも支払未済の金が莫大にあるんだ。もう長いこと、ぼくは事業の運転資金を何とか確保しよう : どこで と懸命の努力をしてまかなってきている。く 1 ンももちろん金なんて持ってやしない : どう使うのかしらないが、金なんそ持っていたためしがない。こんなふうではいけない、何とか 事業を好転させなくちゃ、そして切りぬけさえすればあとはうまくいく。というのはわれわれに 1 ンの才腕で売れる作家をつかんでいるおか はしつかりした著者群があるからだ。これは主にバ げだ。しかし今のところ : : : 」と彼は両肩をゆすって身体中で絶望の奇妙な表情を表わした。 「だが切手は」とエラリイがやさしくいった。 「ぼくの収集の中からやむなく二、三の品目を現金に替えざるを得なくなった。そんなわけで、 ああいうことにもなったのだ : : : 」 マクゴアンがこちらへ向き直って、きんきんした声でいった。「それはみんなわかったよ、ド ナルド。どがに ナまくにわからないのは、きみがどうしてあのようにこそこそ隠れて売ったりしたの : ドナルド、一体全体ど かだ。おかけでぼくはすごくつまらない立場におかれることになった : うして直接ぼくに相談しなかったんだ ? 」

10. チャイナ・オレンジの秘密

276 読者への挑戦 わたしはこれまで書いたいくつかの小説創作中に、どこかでよい思いっきを取り落 していた。もはや昔のことのように思えるのだが、クイーンという紳士が探偵小説を 書いているということを発見してくれた親切な人々、そしてまたその俊傑の作品をば 読みつづけてくれた人々は、思い出されることであろう : : : 初期の本の中でわたしが 戦略的要所において読者への挑戦を挿入していたことを。 ところが、何かが起きた。どうもそれが何であるかよくわからない。だが一つの小 説が完成し、印刷にまわされ、そのゲラ刷りが出版社の ( まことに明敏なる ) 人の手 で校正されたのであるが、さて例の″挑戦〃文が脱落していると注意してくれたこと をお・ほえている。どうやらこれはわたしが書くのを忘れていたのらしい。わたしは当 惑し、急いで脱落部分を埋め、脱落本ができてしまう寸前にそいつを挿入したのであ った。どうも良心がとがめるのでわたしは少々探求にとりかかった。そしてその前に 出版した本にもこれまた″挑戦〃文を落していることを発見したのである。″時がた ってもあやまりは消えず〃です、まったく。 ところでわたしの著書の出版元はクイ 1 ン本の完璧さについてはすこぶる厳格なの であるから、このとおりわたしは諸君への″挑戦〃を呈する次第である。まったくも