ヴェリー - みる会図書館


検索対象: チャイナ・オレンジの秘密
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1. チャイナ・オレンジの秘密

「どれ、わしがその衣服類を見てみよう」と警視がうなるようにいって前へ進み出た。「製造商 標など : : : 」 ヴェリー部長刑事が大きな梁みたいな腕を突き出してそれをさえぎった。「むだですよ、警 視」気の毒そうに、「全然そんなものありやせんのです」警視は目を見張った。「なんともかと も、みんな切り取られとるんです ! 」 「う 1 ん、こいつめ ! 」 エラリイは考えこむようにしていった。「ますますおかしいね。いや、ぼくはこのぶつ殺し屋 に大いに敬意を表したくなってるところだ。実に徹底的じゃないか ? ヴェリ 1 君、ほんとにま ったく何もないのかね、全然 ? 下着はどうかねフ 「ありふれた上下別々のものです。何の手がかりもなしです。商標はなくなってますー 「靴には ? 」 「ナイハ 1 類はみな削り取られ、そこの机の上にある墨 : : : 消えないインキで塗りつぶされとる んです」 「いや驚いたね ! カラーは ? 」 「同様です。洗濯屋のマークなどとても読み取れません。ワイシャツの方も同様です」ヴェリー は巨人みたいな肩をよじるようにして、「これはわたしがさっきからいってるように、たいした 事件ですよ、クイーンさん。こんなのはまったく初めてですな」 「いうまでもないが、これは被害者の身元割り出しをできないようにするためのあらゆる努力が 払われてるね」エラリイがつぶやくようにいった。「そしてそこにこそ難間がある。いったし 非論理の神かけてどういうことなんだ ? 商標類ははぎ取り、洗濯屋のマークとか靴の番号など

2. チャイナ・オレンジの秘密

「いやもうすぐのことだ」と警視はおちついていた。「わしら犯人を捕まえるチャンスをのがし はしたんだが、このカバンはきっといい話を提供してくれるに違いないって気がするね」 「・ほくもほんとにそれを願ってるな」とエラリイがつぶやいた。 クイ 1 ン警視の部屋で、一見何でもなさそうなこのみすぼらしい旅行カ・ハンが開けられる前に なると何か厳粛な一瞬となった。ドアは閉めきられて、みんなのコ 1 トや帽子は部屋の隅にごち やごちゃにぬぎ捨てられ、警視にエ一フリイ、ヴェリー部長刑事それそれの感情を表わして警視の 机の上のカバンをじっと見守っていた。 やがて、「では」と警視がちょっとおさえたような声でいった。「開けるよ」 警視はカバンを持ちあげて、古びよごれたそのカイハスの表を丹念に調べた。ラベルなどは一 つもついていなかった。金具は少しさびていた。しわになっている部分がすりきれていた。頭文 字や紋章のようなものもまったくなかった。 ヴェリ 1 部長刑事がうなるようにいった。「ずいぶん使ったもんですね」 「まったくだねーと警視がつぶやいた。「トマス君、鍵をよこしたまえ」 部長刑事は合鍵の東を黙って上司へ手渡した。警視はあれこれ半ダ 1 スほどの鍵を試したあげ 、やっとこのカバンのさびた錠に合う鍵をみつけた。錠の中で小さなポルトがかすかなきしみ 音をたてて外れた : : : 警視は両側の金を引っぱり上げ、金具の中央部を押さえてカバンのロを 半分ほど引き開けた。 エラリイとヴェリーが机の上にのしかかるようにしてのそきこんだ。 クイーン警視はカバンの中の物をひつばり出し始めた : : : 手品師がシルクハッ トの中から物を

3. チャイナ・オレンジの秘密

にされていた。 「はい。ォズボーンとシェ 1 ン夫人がほかの連中の出入りのことを話してくれたんです。それか らまたシェーン夫人は、オズボ 1 ンが、この小男がやって来た時からカ 1 ク氏とクイーンさんが ここへみえるまでの間、全然一度も事務室から出ていないというのを裏づけ証言しております。 「そう、そうーとエラリイがつぶやくようにいった。「犯人は廊下側のドアからこの控室へはい り、また出て行ったことは明確だ」その語調には何かもどかしそうな様子があった。「ところで ヴェリ 1 君、この男の身元はどうかね ? 何か手がかりがあるはずだが ? ぼくはこの男の着衣 にもまだ手を触れてないんだ」 「はあーとヴェリ 1 部長刑事は持ち前の噴火口みたいな太い声で、「それがまたクイーンさん、 この犯行のもうひとっへんてこなとこなんですよ」 「え ? 」といって丁ラリイは目を見張った。 「どういうことかね、トマス君 ? 「まったく身元不明です」 「なに ? 」 「男のポケットには何ひとつはいっておらんのです、クイーンさん。何かのかけらひとつないん ですからな。例の綿くずみたいなもの、よくボケットの中にたまるあれですな、あんなものがあ るくらいのもので。これは係の方で分析することになってますが、何も別に出てこんでしよう。 煙草の粉のこ・ほれもなしですから、煙草も吸わんのですな。まったく何もなしなんですよ」 どうも : : : 」 「強奪でもされたのかな」エラリイがつぶやいた。「おかしい ,

4. チャイナ・オレンジの秘密

220 「ぼくの名をイタリアふうに呼んじゃいかんよ」。 ーンがいった。「きみのフェリックスたよ」 そして二人は出て行った。 しばらくは三人とも一言もいわなかった。警視はその場に突っ立ったまま無表情にドアの方を にらみつけていた。ヴェリー部長刑事はひどい緊張から解放されたようにほっとため息をついて エラリイがやさしくいった。「さあお父さん、あんな酔っ払いの無礼者なんか気にすることな いですよ。ほんといえばあいったしかに挑戦的でしたがね。ぼく自身首根っこがむずむずしてき てもう少しで爆発しそうだった : : : お父さん、そんな顔してるもんじゃないですよ」 「あいつが初めてなんたよ」と警視がやっとおちついていった。「この二十年間わしに人殺しの 気持を起させたやつは。もう一人は自分の娘に暴行したやつだが、そいつは気違いたったから ヴェリー部長はひとりぶつぶっと何かひどい悪口をつぶやいていた。 エラリイは父親の腕を打ち振りながら、「さてと ! お父さん、・ほくのために一つやってもら したいことがあるんですがね」 クイーン警視はため息をつきながら彼の方を向いた。「うん、いったい何た ? 」 「あのシウエルって女ですがね。あれを今夜おそく何か口実をもうけて下町の方へ呼び出しても らえないですかね ? そして彼女のメイドもじゃまにならないように」 「うーん、それでどうするつもりだ ? 」警視は急に興味をお・ほえていった。 エラリイは何か考えこむ様子で煙草を吸いながら、「ついさっきいったほんのわずかな光明に ついて一つ考えがあるんですよ」

5. チャイナ・オレンジの秘密

登場人物 ヒュー・カーク・・ ドナルド・カーク・・・ マーセラ・カーク・・ グレン・マクゴアン・・ ジェイムズ・オズボーン・・ フェリックス・バーン・・ ショー・テンプル・ アイリン・リューズ・・ ミス・・ディ′ヾシー シェーン夫人・・ プラマー プラウティ・・ トマス・ヴェリー ジューナ・ 工ラリイ・クイーン・・ リチャード・クイーン・・ ・・ヒューの息子。出版社の経営者。 切手と宝石の収集家 ・ドナルドの妹 ・・マーセラの婚約者 ・ドナルドの助手 ・・ドナルドの共同経営者 ・・・作家 ・・・旅行家 ・・・看護婦 ・・・・執事兼従僕 ・・ホテルの事務員 ・・ホテルの支配人 ・・ホテル付きの探偵 ・・・検死官補 ・・・部長刑事 ・・クイーン家の召使い ・・・犯罪研究家 ・・・エラリイの父。警視

6. チャイナ・オレンジの秘密

れにはそっくり同意はできない あべこべの犯罪を解決するには非凡の才能が必要で、わたし はそれこそ地獄の火が凍ることがあってもそしてまた友を失うことがあっても : : : 実際に失う 可能性大 : : : この考えを固執する。 また一方わたしはこの事件に関係しなかったことをひそかに喜んでもいる。エラリイはあらゆ る点で推理機械のような男だから、疑わしいという推理が出たら友情など一向に尊重しやしない。 そしてまたもしわたしが何らかのことで、たとえばドナルド・カークの弁護士として事件との関 係があったとしたら、エラリイは忠実なる部長刑事ヴェリーにわたしの貧相な手首に手錠をかけ させていたかもしれないのである。というのは、これははっきりわかっていることだがわたしは 大学時代に二つの競技部門で虚名をうたわれたもので、その一つはクラスの背泳選手だったし、 もう一つはポートの整調をこいでいたからである。 これらの取るに足りないことどもがこの殺人事件でわたしをもっともらしい、というよりはた いへん容疑濃厚な人物にしたかもしれないのであるが、以下のページで述べられている殺人事件 を読者のみなさん自身で解明に当られるならばこの上ない喜びである。 ニューヨークにて

7. チャイナ・オレンジの秘密

195 ヴェリ 1 部長刑事は死者の手荷物捜索に当っていたのを急にアイリン・リュ 1 ズの部屋手入れ にまわされて来て、チャンセラーのロビーで警視に報告をしていた。 「目下、人目はありません。部下のジョンソンを手入れの後、ホテルのポーターに化けさせて女 の部屋の鉛管施設修理ということで入りこませてあります。メイドの方も心配なしです。六時ま で半日休暇で外出してましたから」 「メイドも捜索のことには気づいとらんだろうね ? 」警視がきつくきいた。 「気づいておりません」 「アイリンの方はどうだね ? 」 「ジョンソンの報告ですが、六時半ごろに帰ってきて、 1 ティにでも行くようなぎらぎらの服 に着替え、壁にはめこみの金庫に入っている宝石には全然見むきもしなかったといいます。化粧 箱の中の自分の宝石入れをのそいて、その中から取り出した物を身につけたそうです」 「部屋を出る時にはコ 1 ト か何か着て行ったのかね ? 」エラリイがきいた。 部長刑事は苦笑して、「いや部屋から出て行ったんじゃないです、クイーンさん」 「一人でいるのかね ? 」 「そうじゃないです。カ 1 クんとこの連中のためにカクテル・ ーティをやるんだと女がいって 宝石の贈物

8. チャイナ・オレンジの秘密

「はい、そうです」彼女がおどおどしていった。 「この果物鉢にひょっとして気づきませんでしたかね ? 」 : ええ、気づいて 何かはっとした様子が彼女の目にばっと現われた。「果物ですか ? あの : ました。あたし : : : その、ちょっと一ついただきましたの」 「こいつはよかった ! 」エラリイは徴笑を浮べた。「これは・ほくが期待していた以上に好運だっ た。それで、特にミカンに気づきませんでしたかね ? 」 「ミカンですか ? 」彼女はもはやおびえていた。「あたし : : : それをひとついただきました」 「ああーと明らかに失望の色がエラリイの顔に出た。「すると、ここにあるこの皮が、つまりあ なたの食べたミカンのですね ? 」とむいた皮を指さした。 ミス・テ え、そうじゃありません。あた 。イバシーはその皮をじっと見つめていた。「あ、いい しが食べたのは、皮も種も一緒にこの開いている窓から投げ捨てました」 「ああ ! 」とエラリイの顔から失望が消えて、熱心がそれに代った。「あなたが一つ食べた後に 、、カンはいくっ残っていたか気づかなかったですか ? 、二つでした」 。イバシー」エラリイがもそもそいった。「たいへん助けになり 「はい、それだけです、ミス・テ ました。もういいよ、部長刑事」 ヴェリーは何となくにやりとして看護婦を連れ去った。 エラリイはテーブルの上の一かたまりの果物をたいへん興味深そうにじっと見つめていた。そ の中にミカンは一つしかなかった。

9. チャイナ・オレンジの秘密

262 ドル札と手紙とをよこした人物は非常に警戒して、あくまで表面へ出ないよう気をくばっていた んだと思う」 「それで ? 」と警視がいった。 「それで」とエラリイがゆっくりいった。「そいつはどんな行動をとると思いますね ? 一か八 かの冒険をやりますかね ? 」 「おまえのいう意味がよく飲みこめんな」 「いやこれは驚きましたね、お父さん」じれったそうにエラリイがいった。「相手はばかやまぬ けじゃないはずですよ ! 相手にとってはチャンセラ 1 ・ホテルのロビ 1 にそれとなくぶらつい ていて、手荷物預り所に目をくばってポーイが手荷物の合札を渡すのを見ているなそはきわめて やさしいことじゃないですか ? 」 ヴェリ 1 部長刑事が顔を真っ赤にして、「しまった」とほえるようにいった。「そいつは気が つかなかった」 警視は冷たい小さな目になるほどといったきびしい色を浮べ、「たしかにそうのようだな」と っこ 0 残念そうにいナ 「いまいましいんだが」とエラリイが痛切にいった。「ぼくもこのことを思いついた時はすでに 遅かったんだ。まったくすばらしいチャンスだったのに。とはいえ、わからんのはどうして : いやもちろん相手は用心の上に用心していたに違いない。ただ万事うまくいくのを確認するため にね。あそこにいれば安全だし : : : 」 リーがつぶやいた。 「ことに、ホテルに住んでるやつならよけい安全だ」とヴェ 「あるいはいつもホテルに用のあるやつならね。だがそれはまあ肝心な点じゃない。やつの計画

10. チャイナ・オレンジの秘密

112 「見られた ? どこで ? 」 「エレベ 1 ターのうちの一つでです。その時刻ごろカ 1 クを乗せて上へあがったことをお・ほえて いるエレベ 1 ター・ポ 1 イを探しだしたんです」 「何階へ ? 」エラリイがゆっくりきいた。 「そいつをポーイはお・ほえてないんすよ。でも、いつも降りる二十二階じゃなかったことだけは 確かだっていうんです。それでよくお・ほえてるってんですよ」 「理屈に合わんことになったな」とエラリイはすけない調子でいった。「・フロ 1 ドウェイや五番 街を散歩していたというんたったな ? それだけですかね、部長刑事 ? 」 「それだけで充分じゃないんですか ? 」 「あ、よしトマス、やっから目を離すな」と警視は何かほかのことでも考えついている様子でい った。「このことはわしらだけの胸におさめておくこと。やつがおしけづくといかんからな。だ が、やつの生れ素性を調べあげといてくれ。宝石と切手の方の手がかりはまだないかね ? 「部下の連中がまだ出たままですから」 「よしー ヴェリ 1 部長刑事がバタンと閉めたドアがまだ震えている時、エラリイは額にしわをよせてい った。「実は今ので思いだした。すっかり忘れていたな : : : ちょっとこれを見てください」とポ ケットからくしやくしやになった封筒をひつばりだして、警視の方へ押しやった。 警視はしけしけとエラリイを見ていた。それから封筒を手に取ってしわをのばした。中へきや