仕事 - みる会図書館


検索対象: チャイナ・オレンジの秘密
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1. チャイナ・オレンジの秘密

がいだった。男は太平洋航路をとって、サンフランシスコから大陸横断列車でこっちへ来たのか もしれんからな」 「じゃ、どうして」とエラリイがつぶやいた。「チャンセラ 1 ・ホテルの事務員みたいな頭のい いのがいてあの男のことをおぼえてるのがいないんですかね ? たしか鉄道関係の捜査も相当徹 底的にやったんでしよう」 「いっぺんいったように、そいつがなかなかの厄介仕事でね。そっちも別に手落ちはないがね。 被害者はなにしろごく平凡な目立たない男なんだから、誰の注意もひかなかったんだと思うね、 それだけの話だよ。鉄道従業員なんて一日に何千という人間の顔を見とるんだ。物語の中かなん かならすぐ見当がつくんだがね。実際の世間じゃなかなかそうはいかんよーと警視はいすの背に シャンハイ 寄りかかって・ほんやり天井を見あげた。「上海か ? 中国ね。どうやらおまえのいったとおりら しいな」 「何がです ? 」 「いや何でもない、何でもない。ちょっと今考えてたとこなんだ : : : あれは、どうやらわしがま シャンハイ ちがっとったらしいな、例のカリナンという男のことは。どう考えても。ハリと上海では結びつか んよ。いや今にキャッペ総監から報告が来るだろうから万事はっきりするだろう」警視はしゃべ りつづけていた。 突然がたんという音で自分のまわりのことにはっと気がついた。びつくりしてばっと立ち上っ てみて、エラリイも立ち上っているのに気がついた。 「一体全体何事だ ? 」 「いや何でもないです」エラリイがいった。その顔には有頂天の表情があった。「まったく何で

2. チャイナ・オレンジの秘密

屋中に指紋検出薬をふりまいて歩いていたし、写真係は死体や家具類ドアなどの撮影をしていた し、検死官補のプラウティは死体のわきにしやがみこみ、ヴェリー部長刑事指揮下の殺人課の刑 事たちは人の名前や証言などを収集して歩いていたが、このショッキングなわけのわからない殺 人事件の現象を単なるおまわりの手でわけをわからせようとするのはとても期待できまい、と老 警視は気にし始めていた。種々の手がかりになるべき性質のものがすべてあべこべにされている ということ、これは狂人の気まぐれで何の目的もないことだとして深く考えもせずに捨て去るほ ど警視は軽率でない。だがいったいそれでは他にどんな考えようがあろうか ? 「どう思うかね、おまえは ? 」と警視は息子のエラリイにかみつくようにきいた。部下はその間 もがたがた部屋中をやっていた。 「まだ何とも考えがっかないんですがね」とエラリイはもどかしそうこ 冫いった。開け放たれた窓 ぶちに寄りかかって、渋い顔でじっと煙草を見つめていた。「いや正直にいいますとね、いろい ろ考えは雲のように出てきますが、どれもこじつけぎみでびったりこないんで、これ以上考える のがいやになってるところです」 「こんな状況ではね、こじつけになるのも無理ないねーと警視もうなるようこ 冫いった。「わしは もうこの気違いじみたあべこべ仕事の方はみんな忘れるとする。わしの単純な頭では手におえん。 いつもの手でいくことにする : : : 身元、人間関係、動機、アリ。ハイ、利害関係、証人の有無など 「うまくいきますように」とエラリイはつぶやくようこ 冫いった。「その方が賢明でしよう。です が、このとんでもない仕事をやらかしたやつを今すぐお父さんが捕まえたとしても、 ぜこんなつまらんあべこべ遊びをやったか、そのわけをぼくは知りたいですよー

3. チャイナ・オレンジの秘密

した。わたしの経験によりますと、犯罪者というものは、無意識の行動は別として、目的のない ことを積極的にするということはまれなのです。この裏返し仕事は意識的であり、積極的です。 これは骨の折れる仕事で、成には貴重な時間の消耗を要します。ですからわたしはこの仕事の 裏には理由があるはずだと直言しても差支えないと思いました いかにも目的なしの気違いざ たのようにみえるが、少なくともこれは正気の仕事だと思ったのですー 一同はじっと謹聴して 2 た。 エラリイがつづける。「正直いって実はわたしにも昨日までその目的が何なのかわからなかっ た。わたしは死にもの狂いのねばりで懸命に考えつづけたが、なぜあらゆるものをあべこべにし たものか、どうしてもわからなかった。もちろん犯行のあべこべ性がこの事件関係の誰かについ てのあべこべなことを指摘していることはわたしにもわかった。これがあり得る唯一の手がかり でした。それでもなお言語学や切手収集学やまた専門術語学といったものの迷路へ落ちこんでし まって、わたしは一再ならずこの事件の謎そのものを放棄してしまおうと考えたくらいでした。 解答を要するありとあらゆる疑問だらけなのです。誰かのあべこべの特徴を指摘するために、あ らゆるものをあべこべにしておいたとすると、その誰かもまた犯罪に関係してることになる。で も、そのあべこべの特徴というのは事実何だろう ? 誰を犯罪にまきこもうと意図したものなの か ? そしてさらに重要なことはいったいそもそも誰があらゆるものをあべこべにしておいたの か ? 誰が誰を指しているのか ? 」 エラリイはくすくす笑った。「ここに混乱があり、みなさんが混乱しているのも無理ありませ ん。わたしは多くの手がかりを発見しました。それらの手がかりはそれそれりつばに手がかりと しての機能を持っていながら、不幸にして混迷へ導く手がかりとなるばかりで問題解明の手がか

4. チャイナ・オレンジの秘密

の恐ろしい事件でいつも王様然と君臨しておられましたから、わたし、何かと質間するのをさし 控えていたんですけど : : : またすべてはっきりしてほんとに感謝してます。でも、わたし、わか らないことが : : : 」 「あなたの知力をもってすれば容易にわかることばかりじゃありませんか。まだ何かはっきりし ないことがありましたかな ? 」 「ほんのちょっと」と彼女は自分の腕をドナルドの腕に通してしつかりおさえた。「あなたはタ ンジールみかんのことでたいへんな騒ぎをしておられましたね、クイーンさん。そしてここでは そのことについてはまったく何もおっしゃいませんでしたね ! 」 エラリイの顔に影がさした。彼は首を振りながら、「まったく奇妙なことなんです。ォズボー ンの悪知恵から生じた過ちの悲劇がどんなに恐ろしいものだったかあなたにもおわかりになって いることと思います。彼の考えではあのあべこべ仕事が誰かを巻きそえにするなどとはまったく 思っていなかったらしい。あのあべこべそのものには何の意味も認めていないで、ただあらゆる 物をあべこべにすることによって、かかわり合いのことなどまったく考えずにあのカラ 1 と、な いネクタイのことを隠そうとしたに過ぎないようです。 だが運命は彼に幸いしなかった。運命は事件に関係ないいくつかの事実を取りあげてぼくに投 げつけてきました。・ほくは何事にも意味をさぐり求めました。だが、すでに申しあげたように・ほ くはまちがった意味のものを探し求めていたんです。その結果は、あべこべのものなら何でも、 また何者によらずすべて調べる必要があるとぼくには思えたのです。そこへ、テンプルさん、あ なたという人がおられた」とエラリイの灰色の目がきらりと光った。「あなたは生きたあべこべ 3 の土地中国から来られたばかりだった。被害者が死の直前にタンジールみかん、つまりチャイナ

5. チャイナ・オレンジの秘密

いうことです ? 」 「家具類のことをいっとるんですか、クイ 1 ンさん ? 」プラマーは黒々とした眉を困ったふうに 寄せて、「ただもう何もかもめちゃくちゃになっとるとしか、わたしにや見えませんね。いくら 気違いでもこれだけ部屋中を荒らすにや、さそ骨が折れたことでしようて。わたしにやどうもわ からん : : : 」 「いやこれは驚いたねーとエラリイが大きな声でいった。「あなた方は二人とも目が見えないね。 ブラマー君、きみはめちゃくちゃというが、いったい何がめちゃくちゃというのかね ? 」 「あなたにはこれが見えんのですかい ? あるべき所に物がなくて、何もかもひっかきまわされ とるじゃないですか」 「それだけかね ? いやはやだ ! きみには何かこわされてるもの、たたきつぶしてあるもの、 こなごなにしてあるものなんか目につかんのかね ? 」 ブラマーはからせきをして、「ええまあ、目につきませんですな」 「もちろん目につかんはずた。というのは、これは物をこわそうと思った人間がやった仕事じゃ ないからだ。何か冷静に考えられた目的あっての仕事 : : : ばかばかしい単なる破壊などとははる かにへだたった目的を持った男の仕事だ。まだわからないかね。プラマー君フ ・フラマー探偵は情なさそうな顔つきだった。「わかりませんな」 エラリイはため息をつくと、鼻眼鏡をそのほっそりした鼻にのせた。「ある意味では」となか ばひとりごとのようにつぶやいた。「これは貴重な勉強になる。いやまったくぼくにも必要だ : : いいかね、ブラマ 1 君、きみのいう、その : ″めちゃくちゃ〃になっている本棚のことだが、 どういうふうにきみには見えるか、それをいってもらいたい」

6. チャイナ・オレンジの秘密

・ : 彼女の部屋はこの一階下なんですから。ミス・テ ぶんあの階段から降りて行ったんでしよう : ・ ンプルはカーク家私室へと戻ってます : : : カ 1 ク家の賓客ですからね。看護婦も同じです。この 、、ス・ディ・ハシ 1 は事務室へ行く前にちょっとこの控室へ立ち寄ったそうですが、その時には何 もかもきちんとしていたといいます。以上です、警視。ほかに関係人物はありません。つまり、 この仕事をやつつけたやつは向うのあの階段を使って、廊下の角までは姿を現わさず、ためにシ 工 1 ン夫人の目にもとまってないというわけでしよう」 「とするとだ」と警視は吐きだすように、「この仕事をやってのけたやつはカ 1 ク家私室にいる 人間しゃないというわけだ」 「わたしもそのように考えとるんですーと部長刑事ががらがら声でおもしろくなさそうにいった。 「それからわたしが考えますのは、犯人が事務室のドアのかんぬきをおろしたのは、オズボ 1 ン か誰か事務室にいる者が、この部屋の家具類や何かに犯人がいんちき手品みたいな細工をする間、 じゃまがはいらないようにするためだったと思います」 「そしてまた、同じ理由で廊下側のドアにも鍵をかけといたんだろう」と警視はこっくりうなす きながら、「といってもおそらくこれはわれわれにはしまいまでわかるまいがね。仕事を終った 犯人はこの廊下側のドアから出て、発見された時の状態のようにドアを閉め、鍵はかけていなか った。事務室へ通ずる方のドアのかんぬきは外していかなかった。逃け出すのにそれだけよけい な時間がかかると思ったからだろう。さてと ! 」と警視はため息をついて、「何かほかにはなか ったかね ? 」 エラリイは六本目の煙草を吹かしていた。何か放心の様子にはみえていても実は熱心に話に聞 き入っていた。彼の目は死体検査に忙しい検死官補プラウティ医師のひざをついた姿にくぎづけ

7. チャイナ・オレンジの秘密

320 つく : : : とすると、警察は他の牧師からあの切手のことを聞きだし、こちらへ来た理由もわかっ てくるし、そうすると警察はカ 1 クさんや・ほくを調べる。カ 1 クさんは実際にあの切手のことは 何もご存じない。だから残るぼくが追求される。おそらく警察はぼくの手紙もみつけだすでしょ うし、署名の筆跡を追跡捜査してぼくへと追求の手がのびる : : : ぼ、ぼくはとてもそういうこと に耐えきれません。ぼくはお芝居ができません。しまいに参ってしまうでしよう : : : そこで・ほく はあのあべこべ仕事を即座に思いついたのです。でも、あのドアとひもと死体や何やかやのこと はあれは前々からちゃんと計画し準備もしておいたことです。万事片づくとぼくは彼を : : : 死ん だ彼をそこに立たせて、さていよいよその彼を使うところまでになったのですが、最初はうまく いきませんでした : : : ひもがよくなかったのです・ : ・ : で何度も何度もやり直してやっと成功しま した。だが、ネクタイは手に入れることができなかったのです : : : ーオズボーンの声はしだいに 弱くなっていって、しまいにはまったく出なくなってしまった。顔には呆然自失の表情が浮び、 自分の立場の恐ろしささえもっかめていないようであった。 イ・ハシーかね ? 」とつぶや エラリイは心が痛み、わきを向いた。「その女というのはミス・デ くようにいった。「きみが彼女に何も話していないのなら、彼女はこの事件とはもちろんまった く無関係なんだよ」 「ああーといってミス・テ ・イシ 1 は失神してうしろざまに倒れた。 ォズ・ホ 1 ンの意図に誰かが気づく前にそのことが起きていた。彼はおとなしく、困りはてた様 子で、すっかり恐れ入っていた。この態度こそ、あとになって思うと、彼の最後の絶望的な賢い ポーズだったのだ : : : エラリイは後ろを向いていた。警視はヴェリー部長刑事と一緒にドアの所 に立っていた。刑事たちは :

8. チャイナ・オレンジの秘密

178 時には、女はひどくあわててカーク博士の書斎のドアをいじっていた。するとドアはすっと開い て、女は部屋の中へ姿を消した。 エラリイはトップコート のすそをはね上けながら風のように廊下をとんで行った。といっても 物音は立てず、何事もなくドアのところへ達した。廊下の左右を見渡してみたが人影はなかった。 カ 1 ク博士はたぶん部屋にはいないのたろう 、ス・テ ・イバシーに車いすを押してもらってチ ャンセラ 1 ・ホテルの屋上を、いつもながらのふきげんで、ぶうぶう文句をいい、汚ないののし り声をあげながら朝の健康保持の散歩をやっているのでもあろう : : : = ラリイはひざまずくと鍵 穴からのそきこんだ。書斎の中を女が敏速に動きまわっているのが見えたが、視界が狭くて全体 の見通しはきかなかった。 彼は大急ぎで廊下をとなりのドアのところへと駆けて行ったが、そこはカーク博士の寝室だっ たとおぼえていた。かんしやく持ちの老博士さえいなければよいが : : : と彼はドアを押してみた。 錠がおりていない。すっと部屋へ忍びこんだ。右手のもう一つの寝室へ通ずるドアの所へとんで 行くと、それへかんぬきをかけ、それから書斎へ通じる閉まっているドアへと駆けつけた。その ドアのノブをひねって音を立てずにごく細目にそっと開けるのには数秒を要した。 女はもうほとんど仕事を終っていた。茶色の包装紙は床の上に散らかっていた。女はひどくあ わてふためいて包みの中身ーー大型の重い幾冊かの本ーーを ( ・フライ語の本が盗まれたカ 1 ク博 士の本棚へ載せていた。 女が茶色の包装紙をくしやくしやに丸めてそれを持って部屋から出て行くと、エラリイはそっ と書斎へはいって行った。

9. チャイナ・オレンジの秘密

「あらほんと」ミス・テ 。イシ 1 はあきれ顔になって、「ジョージ王が切手収集家なんですか 「そうなんです。いろんな偉い人たちが収集家なんですよ。ルーズベルトさん、アガ・カ 1 ン : 「まあ驚いた ! 」 「カ 1 クさんも同じなんですよ、ドナルド・カ 1 クさんの方ですがね。カ 1 クさんの中国切手収 集は世界でも最高の一つになっておりますからね。これにはいろいろ専門がありましてね。マク ゴアンさんは地方切手を集めておられるんです。この地方切手というのは、全国的な郵便制度が できる前に、 州とか公共団体などから発行された切手のことなんです」 スディバシ 1 はため息をついて、「ほんと、とてもおもしろいんですね。でもカークさん はまだほかにも集めてらっしやるものがおありなんでしよう ? 」 「ああ、そうなんですよ。宝石類をですね。・ほくはその方面にはあまり関係してませんが、その 収集品は銀行の金庫室に保管されております。ぼくの主な仕事は収集された切手類をきちんと整 理しておくことと〈マンダリン書房〉関係の機密の仕事をカークさんに代ってやっておることで 「おもしろそうですわね ! 」 「そりやもう」 「ほんとおもしろいですね」とミス・ディバシ 1 がもう一度いった。なんでまたこんな話なんか 二人でしなくてはならないのか、といまいましい思いだった。「あたし、マンダリン書房から出 た本を読んだことありますわ」

10. チャイナ・オレンジの秘密

「全然ないね。で、お願いとは何だね ? わしは忙しいんだからね。四十五番街で浮浪人が一人 撃たれてね。今わしはそれで手いつばいってとこだ」 エラリイは暖炉の上の壁をぼんやり見つめていた。「実は、劇場の衣裳屋で信用のできる人間 を知ってませんかね。ごく内密の仕事を他言無用で頼みたいんです」 「衣裳・ : 一体全体何ごとだ ? 」 「正義のための実験をやりたいんですがね。そういう人、知ってませんか ? 」 「一人ぐらい何とかさがしだせると思うー警視がうなるようこ 冫いった。「またまたおまえの実験 ってやっか ! 四十九番街にジョニ 1 ・ロ 1 ゼンツワイクというのがいる、わしも一度仕事を頼 んだことがあるんだ。信頼していいやつだと思う。話は何だね ? 」 「人形が一つほしいんですよ」 「何を一つ ? 」 「人形ですよ。いや人間じゃないんです」とエラリイはくすくす笑った。「なんならシャツに何 か詰めこんだようなものでもいいんですがね。いやこれはあれこれいい過ぎたようです。そのロ ーゼンツワイクにですね、あの殺された男とだいたい同じ背かっこうの人形を一つこしらえさせ てください」 「いよいよおまえは頭がおかしくなっちまったそ」と警視は困ったもんだといわんばかりだった。 「これがほんとに事件と関係のあることなのかいフ それともおまえは例の頭のおかしいこじっ けの探偵小説の腹案でも考えとるのか ? もしそうだったら、エル、今わしはえらく忙しいんだ からそんな暇はないよ : : : 」 「いや、これは = = 1 ヨークの治安をより安泰にするための踏み石になること確実なんです。今