「おれな・ : ィッパイアッテナはそこまていって、さきをいおうとしない。どうもへんだ。いつもの ィッパイアッテナとようすがちがう。なにかをいいかけてやめるようなねこしゃないのだ。 かえ 「おれな・ : いや、そのまえにおまえのことだけど、おまえ、岐阜には帰らないのか。 あたま そういって、イツバイアッテナは頭をあげ、ぼくの目を見た。とっせん岐阜のことなん かいわれたものだから、ぼくはめんくらってしまった。 「岐阜 ? 」 「そうだ。おまえ、おれがデビルのだましうちにあっていなければ、去年の秋には、商店 りよこう ぎふ かえ 街のバス旅行にもくリこんて、岐阜に帰っていたはすしゃなかったのか。」 かえ ィッパイアッテナのいうとおリだった。あの事件は、ぼくが岐阜に帰れるということに わか なって、お別れにイツバイアッテナが、肉をぼくにごちそうしてくれようとしたことから はしまったのだ。ぼくにないしょて、イツバイアッテナとブッチーが、肉をもらいに、デ ビルのところに出かけていった。だが、そこてイツバイアッテナはだましうちにあい、大 おも けがをさせられ、ぼくとブッチーがそのかたきうちをしたのだ。いまから思うと、ぼくた じけん きよねんあき しようてん
「なんだと、このやろう ! 」 ィッパイアッテナがブッチーにつかみかかろうとしたところて、ぼくは大きな声を出し もんだい 「ふたリとも、やめてよ。いま、そういうことが間題なんしゃないだろ。ましめに、考え てくれてるのかよ。」 かんが かんが 「ごめん、ごめん。もちろん、ましめに考えてる。おれがましめに考えてるのに、ブッチ ーのやろうが、ふましめなことをいうからよ。いや、おれがいいたかったのは、こういう 0 ことだ。つまリな : ある さいあく せつめい ィッパイアッテナの説明はこうだった。最悪のはあい、何百キロも歩く気があるなら、 ある みち と、つめいこ、っそく とうめいこうそくどうろ いい方法がある。それは、東名高速だ。東名高速道路づたいにすっと歩いていけば、道に と、つきよ、つ あいちけん いちのみや いちのみや まよわないて、愛知県の一宮まていける。東京から一宮まて、約三百六十キロ。そこか こくどう ぎふし ごうせん ら、国道二十二号線を十数キロ北上すれば、岐阜市に出られるというのだ。 もんだい しゆとこうそく ) 」う とうめいこうそくどうろ 「問題は、ここから東名高速道路まて、どうやっていくかっていうことだ。首都高速七号 じめん みなみ とお せん 線っていうのが、南のほうを走っている。そこまては、そう遠くないけどよ。あれは地面 ほ、つほ、つ すう はくじよう なん こえ かんが
「へんだね。あいつら、なんてぼくのこと知ってたのかな。それにイツバイアッテナは、 どうしてあいつらが飼いねこだってわかったの。 ィッパイアッテナは、めんどうくさそうにあくびをひとっした。 「おまえとデビルのけんかのことは、ブッチーがほうぼうていいふらしてるから、それが うわさになって、川のむこうまてとどいたんだろ。それからな、あいつらが飼いねこだっ きんに′、 強一んに′、 てことは、あいつらの筋肉を見れば一発てわかるしゃねえか。あリやあ、筋肉しゃなくて、 せい肉だ。うまいもん食って、くうたらしてると、ああいうふうになるのさ。」 かえ あにきぶん 「へえ。てもさ。あいつらがけがして帰ったら、ブラッドとかいう、あいつらの兄貴分が しかえしにこないかな。」 どきよう 「くるもんか。そんな度胸はあリやしねえよ。」 そういって、イツバイアッテナはまたねっころがってしまった。 それにしても世の中にはいろんなねこがいるもんだなあ。線路のむこうまて女の子にあ おも いにいくねこがいるかと思えば、さっききたやつみたいに、わさわさ川をこえて、けんか とお をしにくるのもいる。ねこっていうのは遠くにいくのが好きなんだろうか。そういえば、 せんろ
おな 「いや、イツバイアッテナも同しこといってたから。」 「そうか。ま、おとなの考えってのは、そのへんたな。」 ブッチーは、ぼくと年があまリちがわないくせに、ときどきぼくを子どもあっかいにす る。線路のむこうの薬屋のねことっきあうようになってからた。ぼくが不服そうな顔をし ていると、ブッチーは左足て耳のうしろをかいてから、 かんが 「おれもよ、きのうひと晩、ねないて考えたんだけどな。ああしゃねえか、こうしゃねえ そうぞう かって、だいたいの想像はつくんだが、はっきリしたことはわからなかったな。」 といい、たらいの上に、ゴロンと横になった。 「そういうことは、けつきよく、本人にしか、わかんねえんしゃねえかな。 そうつけくわえると、ブッチーは目をとしてしまった。 ためた、こリや。ぼくは立ち去ることにした。 ある おも 二、三歩、歩いてから、ぼくは思い出して立ちどまリ、ふリかえった。 「あ、そうた。 " フッチー。きのうはあリがとう。ぼくを車のあるほうににがして、自分は おとリになってくれたんたろ。」 せんろ くすりや かんが ふふく かお じぶん
くろ ある あれ、鳥居をくくってこっちに歩いてくるのはブッチーしゃないかな。白と黒のあのも ようは、やつばリブッチーだ。 「いつまてゴロゴロしてるんだよ。もう昼すきだせ。」 かいだん 階段をかけあがったいきおいて、さいせん箱にひょいととびのると、ブッチーはぼくた ちを見おろしていった。 「うるせえなあ。いつまてねていようが、おれたちの勝手しゃねえか。」 うす目をあけたイツバイアッテナは、ふきげんそうだ。 「そうそう。ブッチーとちがって、ぼくたちは丿ラねこだからね。いつまてねてようが勝 ぼくもあいづちをうって、ゴロンと横になった。 「せつかくおもしろい二ュースを持ってきてやったのによ。」 あたま ブッチーはさいせん箱からとびおリて、ぼくの頭のすくそばにすわった。 「おもしろい一一ユースって ? あたま ぼくは、ねたまま頭だけあけて、ブッチーを見た。 ひる かって かっ
おも 思ったけど、それ以上きかないことにした。ときどき、イツバイアッテナは知っていても いわないことがあって、そういうときは、どんなにしつこくきいてもむたなのだ。 よくあさ しようてんがい 翌朝、ぼくは商店街に出かけていった。ブッチーにあうためだ。 金物屋の店さきには、大きな金だらいがうらがえしにして、かさねてある。いついって 、つ も三つかさなっているところを見ると、せんせん売れてないのだ。 はんぶん ブッチーはその上にすわって、うす目をあけていた。半分ねむって、半分起きている。 てんいん 「そこのねこの店員さん。」 ぼくは声をかけた。だるそうに、ブッチーは目を開いた。 「なんだ、ルドか。タイガーは ? 「中学校さ。 , 「へえ。よく勉強するねえ。そのうち大学まていくんしゃないか。 「タイガク ? なに、それ。」 こうこう お 「おまえ、大学も知らねえのか。小学校が終わると、中学校だろ。そのつきが高校た。そ きらく にんげん れがすんだら、大学にいくんだ。人間はたいへんたよな。そこいくと、ねこは気楽ていし 7 かなものや こえ みせ べんきよう し じよう かな ひら はんぶんお し
「そうだ。わかってるんしゃないか。わかってるなら、そういうことはするな。 「ごめん。 「まあ、いい 。立ってないて、そこにすわれよ。」 げんかんまえ かいだん だんぶんにわ たか ぼくは、イツバイアッテナのとなリにすわった。玄関の前は、階段て三段分、庭よリ高 くなっていて、タイルがしいてある。すわると、つめたくて、おしリが気持ちいし 庭のほうを見まわすと、かきねになるのか、プロックになるのか、それともコンクリー しきち うえき トぺいになるのか、まだわからないけど、敷地のまわリにかこいがてきて、植木が植えら いえかんせい かねも れれば、もう家は完成だ。 すいぶんリつばな家になリそうだ。やつばリ、お金持ちが住む んだろう。 ぼくがそんなことを考えていると、イツバイアッテナが、小さな声て、 「ルド : : : 。」 とつぶやいた。 「なに ? 」 てん ふリむくと、イツバイアッテナはうつむいて、タイルのゆかの一点を見つめている。 かんが こえ
「そ、そうた。 といったが、その声はかすれていた。 」も 「き、気持ちわるかったな。」 ブッチーのいうとおリ、それはほんとに気持ちのわるい動物だった。あれても動物なの きも たろうか。図鑑て見るのよリも、本物はすっと気持ちがわるい。 かえ 「か、帰ろうか。」 ぼくがそういうと、ブッチーは、だまってうなすいた。 ぼくたちは、土手にむかって歩きたしたが、そのへんにまだヘビがいるんしゃないかと おも 思い、下をむいて、足もとばかリに気をとられていた。こういう見はらしのいい坦戸 ました こ、つど、つ そういうのって、あまリほめられる行動しゃないのた。土手の真下にたどリつき、ふと顔 くろ きけん をあげたときには、危険はまぢかにせまっていた。左のほうの土手の下て、白地に黒のは ちゅうがた んてんがある中形のいぬが三びき、こちらを見ている。そばに人がひとリいるけど、人と いぬのきょリから見て、どうやらつながれていないようだ。 「フッチー。ポインターだ。」 ずかん こえ ある ほんもの どうぶつ しろじ どうぶつ かお 4 一
にんげん むかしはねすみがたくさんいて、ねすみをとらせるために、ねこを飼う人間がけっこう おし いたって、イツバイアッテナが教えてくれたことかある。そういう時代なら、そのキョウ ゾンキョウェイってことも、あったかもしれない。たけど、いまはねすみなんかあんまリ し方し にんげん にんげんやく 「どうして、人間はねこを飼うのかな。ねこなんて、あんまリ人間の役には立ちそうもな いしゃないか。」 かえ 「さあな。きっと、さみしいからしゃないか。さてと、帰ろうかな。」 ブッチーは立ちあがった。それから、えんの下の出口まていって、ふリかえった。 かえ しつはな : 「なあ、ルド。おまえ、い っぺん、岐阜に帰ったらどうだ。「 ブッチーはそこまていうと、またほくのそばにもどってきた。 いけん 「いやな、ほんとはこれはな、追い出すみたいて 、いいにくいから、おれの意見みたいに して、おれの口からいってくれって、タイガーにたのまれたんたけどな : ぎふ かえ 「イツバイアッテナが、ぼくに岐阜に帰れって、そういったの。 かえ 「帰れって、そういうんしゃないんだけどな。タイガーだって、べつに、おまえがしやま じだい 6
すすべをしらないようだ。 デビルをつれていた女の人は、どうしていいかわからす、ちょっとはなれたところて、 うおうさおう 右往左往している。 「よ、よしなさい。デビル。 その声て、デビルがいっしゅん、あごの力を弱めたのたろう。かまれていた一びきが脱 しゆっせいこう 出に成功し、わき目もふらすににげだした。ほかの二ひきもあとにつづく。 「キャーン、キャイーン。 , シッポをまるめてにげる三びきを、デビルは、そうはさせないとばかリに、けんめいに なって追いかけたが、相手がポインターては追いつくはすもなかった。走っても走っても、 差はどんどんひらくばかリだ。それてもデビルはあきらめない。しつこく追いかける。 「キャイーン、キャイーン。」 ごえとお なさけないさけび声が遠さかっていく。 「デビル。デビちゃん ! ちょ、ちょっと待ちなさい ! よしなさい。これ、デビル、デ ビちゃんったら ! 」 こえ よわ だっ