ほんとはおしさんってよばれてもいい年なのに、おしさんてよばれるのをいやがるおしさ んもいる。 いえす ぼくとイツバイアッテナは、あの夜いらい、神社をひきあげて、日野さんの家に住むよ もんだい げんかん みつか うになった。間題の玄関のドアは、あれから三日もしないうちに、下に、ねこ用の小さな とびらがついたものにかえられた。ねこ用のドアといえば、家の中のドアは、たったひと ひの つ、日野さんが仕事に使う部屋以外は、ドアにはせんぶ、下にねこ用のとびらがついてい るのて、ぼくたちは、どの部屋にも自由に出入リてきた。ても、たいていは、玄関を入っ さいしょ おうせつま おお て左がわの、最初の晩にお祝いをした応接間て、ゴロゴロすることが多かった。 ひの 日野さんは、となリの小川さんにかけあって、境界線にあるコンクリートぺいを、かき ねにかえてもらった。費用は、せんぶ、日野さんが出したのだ。それてデビルも、かきね にわあそ をくぐって、こちらの庭に遊びにくることがてきるようになった。 ひの かえ 「てもなあ。日野さんが帰ってくるまえになかなおリてきて、おれは、ほんとうに運がい おも いと思っている。」 六月に入ったばかリのある日、ぼくがひとリて玄関のタイルにねっころがっていると、 しごとっかへや ひょう じゅ、つ ひの じんじゃ げんかん きようかいせん よう ひの げんかん ロ 7
そういいのこして、ブッチーはいってしまった。 じんじゃ ひとリて神社にいてもつまらないし、朝こはんもまだだったのて、ぼくも出かけること にんげん にした。ぼくとイツバイアッテナは人間にも友だちがたくさんいるのて、ほうぼうてエサ をもらえる。魔女みたいに見えるけど、ほんとはとってもやさしいおばあさんとか、クマ じゅ、つい みたいな小学校の先生。ィッパイアッテナがデビルにやられて大けがしたとき、獣医さん きゅうしよくしつ につれてってくれたのはその人だ。それから給食室のおばさんもしんせつにしてくれる。 しようてんがいさかなや 岐阜の魚屋のおやしは、おにみたいな男だったけど、こっちの商店街の魚屋は、とって もやさしいおにいさんがやっている。 ぎふ 岐阜っていえば、リエちゃんはどうしているだろうか。それから、ロープウェーて働い げんき ているとなリのおねえさんも元気にしているかな。このごろぼくは、あんまリ岐阜のこと おも を思い出さなくなってしまったようて、あのふたリのことを考えると、わるいような気が する。 さかなや まじよ あさ とも かんが ぎふ はたら
か、男がそういうことを、上きげんな声て、くリかえしいっているのがきこえる。 さかな みせ 「ちょっと、そのへんの店にいって、なんてもいいから、魚のかんづめを買ってきてくれ。 ぎゅうにゆう こんばん こんや それから、酒だ。今夜はお祝いだぞ。今晩、ここにとまるからな。あ、それから、牛乳 もた。」 うんてんしゅへや 男がそういったかとおもうと、運転手が部屋からとび出してきた。ぼくたちは、とっさ うんてんしゅ に庭ににげた。走リ出るところを見つけられたのだろう。運転手がおくにむかって、 しゃちょう 「社長 ! へんなねこが二ひきいますが : : : 。」 どうろ といった。ぼくたちは、とびのき、そのまま道路きわまて走って、立ちどまった。 「へんってことはないだろうよなあ。へんっていうんなら、タイガーのほうが、てつかく て、よっぽどへんしゃねえか。」 ブッチーが不平をいう。 うんてんしゅこえ 運転手の声が中にとどいたのだろう。ィッパイアッテナが玄関に出てきた。男もつづい て出てくる。 「ルドー。ブッチー。こっちへこいよ。こいつな、おれの飼い主だ。」 じよ、つ こえ げんかん カ 3
せつかくきたんだから、朝めしののこリても食ってくか。」 あさ そういえば、ぼくは朝ごはんがまたたった。 ある デビルは玄関のほうに歩きたした。 「この中に、ステーキののこリが入ってる。せんぶ食ってもいいぞ。」 げんかん デビルは、玄関のわきにおいてあったせんめんきを鼻ておした。そばによって、中を見 てみると、なるほど、タバコの箱くらいのステーキが食べのこしてある。ぼくは、おなか がグーツと鳴ってしまった。デビルの本心がよくわからないうちに、肉なんかもらってい おも いのたろうかと思ったが、どうもぼくは意地きたないようた。つい、 「これ、ほんとに食べていいの。 なんていってしまった。 「いいよ。」 ぎゅうにく しようしんしようめい」ゅうにく においをかいてみた。正真正銘の牛肉た。ちょっとかしってみる。牛肉どくとくの、な んともいえないかおリがロの中にひろがる。こんないい肉は、ほんとうにひさしぶリた。 まえに食べたのはいつだったか、わからないくらいだ。 げんかん あさ ほんしん
の問屋のトラックがブッチーのうちにきたとき、自分も岐阜にいくっていってたんだって。 ひの いま、ぼくは日野さんの家にすもうか、それとも神社のえんの下にすもうか、まよって かえ かんが いる。岐阜に帰るまえは、いろいろ考えて、日野さんのうちにすむことが、いけないこと のような気がしていたけど、いまはそれほどてもない。 にんげんこぶん 飼いねこだからって、べつに人間の子分ってわけしゃないってことは、なんとなくわ かってきた。それても、丿ラねこのほこリっていうのも、あるような気がするし : じんじゃ とうぶんは、日野さんのうちにとまったリ、神社のえんの下にねたリするつもリだ。そ もんだい かんが うしながら、飼いねことか、丿ラねことかっていう間題について、ゆっくリ考えてみよう おも と思う。 りよ、」、つ 最後にひとことつけくわえると、こんどの旅行て、ぼくはどこにてもいけるっていう自 しん おも につばんいっしゅう 信がついちゃって、そのうち、日本一周をやってみようかと思っているほどた。ィッパイ アッテナにそういったら、 「おまえはスケールが小せえなあ。どうせなら、世界一周っていってもらいてえな。 なんていわれてしまった。 どんや ひの ひの じぶんぎふ せかいいっしゅう じんじゃ 幻 6
「あいつ、とおっしゃいますと、そのお友だちのことてすか。」 うんてんしゅ うんてんしゅ とうもよくわからないというようすて、運転手は 運転手のことばに、男はうなすいた。 " ま 男がなにかいうのを待っているようたったが、男がだまっているのて、 「すみません。ドアの下に、また小さなとびらがついているドアっていうのは、特別注文 て作らせないとないんてす。それて、てきあがるのがおくれています。ても、あと一一、三 日ててきることになっていますから。」 げんかん といって、さきに家の中に入リ、玄関のあかリをつけた。 ど あか げんかん 玄関のまわリが、ばっと一度に明るくなったところて、 「ねえ、イツ。ハイアッテナ。あいつが、ここに住む男らしいよ : : : 。」 かお といって、ぼくはイツバイアッテナの顔を見た。 ィッパイアッテナは目をカッとみひらいて、玄関のほうを見つめている。 うんてんしゅ 「あの運転手は、あいつの子分かな。」 ぼくがそうきいても、イツバイアッテナはヘんしをしない。こわいような顔をして、身 動きひとっしない。 つく こぶん とも げんかん す かお とくべっちゅうもん み に 7
と、さきをこして、すばリといった。 「さっきな、タイガーのとこにいってきたんだ。そしたら、おまえが、どうもそんなこと を考えて、家を出ていったんしゃないかって、あいつ、そういうふうにいってた。」 おも しんばい きっとイツバイアッテナも、心配しているんだろうと思う。ぼくは、なんだか自分が、 とってもわがままなことをしているような気がした。 かんが にんげんこぶん 「おれは飼いねこだけど、べつに人間の子分をやっているなんて考えたことはないけどな。 かんが にんげん おまえのいうこともわかるような気もするし、人間のほうしや、どう考えてるかしらない こぶん けど、エサをもらってるからとか、いっしょにすんているからって、子分ってことにはな きようぞんきようえい おも らないと思うな。いちいち命令されて生きてるわけしゃないんだから。ま、共存共栄って とこしゃないか。」 「なに、そのキョウゾンキョウェイって。」 しようてんがい さか 「いっしょにやっていって、いっしょに栄えるってことだ。うちのおやしが、商店街のれ んちゅうと話すときに、よくそういってる。」 「へえ、キョウゾンキョウェイね : : : 。」 かんが じぶん
にちょうび 街に出かけた。つきの日、それは日曜日て、 めすらしく日野さんが家にいた日だったけれ げんかん ど、玄関のチャイムが鳴った。日野さんがド アをあけると、 「そこのそば屋さんてきいてきたんたけど ばしゅう ね、おてつだいさんを募集してるのは、ここ のうちかい。」 と、ききなれた声がした。 おう そのとき、ぼくとイツバイアッテナは、応 接間てテレピを見ていたんだけど、その声を げんかん d きいて、玄関に出た。 「あリや、そこにいるのは、トラとクロしゃ ないか。こんなところて、どうしたんだい。」 と、つきし、つ まじよ それは、ぼくが東京に出てきたとき、魔女 せつま ひの こえ ひの こえ 図 0
ばん′」う じゅうしょ 番号も知らないのてす。知らないというよリ、その友だちには、きまった住所があリませ ん。だから、電話もあリません。 かんけい てすから、どんなに気になっても、その友たちとルドルフが、どういう関係なのかとい うことは、調べようがあリません。 おも 一度、わたしは、ルドルフが住んていると思われる地域を見にいき、住み家らしい神社 くろ もけんとうがついたのてすが、黒ねこもトラねこもいませんてした。鳥居の下にブチねこ が一びきすわって、わけしリ顔て、こちらを見ていましたが、ひょっとすると、あれはプ おも ッチーだったんしゃないかと思います。 おも 日野さんの家と小川さんの家をさがそうかとも思いましたが、そういうことをするのは、 にんげん 教養がない人間だと、ルドルフにいわれそうなのて、それ以上のせんさくはやめておきま した。 きようよう ひの しら でんわ がお とも とも ちいき じよう とりい じんじゃ 2 円
「はあ ? 」 うんてんしゅ 運転手は、わけがわからないというようすをしている。 ひょうさっ ししし - し 。ても、なるべくはやく、表札をとリかえておきなさい。」 いえげんかん 男はそういうと、家の玄関にむかって歩きだした。 「おや ? 」 まえかいだん げんかんの前の階段に足をかけたところて、男は立ちどまった。 せつけいず 「このドアは設計図とちがっているしゃないか。」 男はドアの下のほうを見ている。 「はあ、しつはドアがまにあわなくて、とリあえす、べつのをつけさせておいたのてすが うんてんしゅ こた 運転手はポケットからかきをとリ出して、それをかきあなにさしこみながら答えた。 ひょうさっ 「ますいな、こリや、ますいぞ。表札には川上って書いてあるし、ドアには、このとおリ、 下に小さなとびらがついていないし、これしや、あいっ : ひら 男がそこまていったところて、ドアが開いた。 ある に 6