ヤーコフ・ペ - みる会図書館


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1. 二重人格

250 の中でも思いちがいをしていたことが、いまでははっきりとわかりました。ャーコフ・ペ トローヴ ーヴィッチ、僕は気がさして君の顔もまともに見られないくらいです。ャーコフ・ペ どうかあの手紙を返してください、君の目の 。イオしかもしれないけれど・ ィッチ。君よ一言しよ、 トローヴィッチ、それともそれがどうしても不可能 前で破いてしまいますから、ヤーコフ・ペ ならば、お願いだからあれを逆の意味に取ってくたさいーー全然逆の意味に、つまり、あの手 紙のことばを全然逆の意味に取って、友情的な読み方でわざとそう読んでもらいたいのです。 トローヴィッチ、僕はまった 僕は思いちがいをしていました。赦してください、ヤーコフ・ペ トローヴィッチ」 : 僕は悲しむべき思いちがいをしていたのです、ヤーコフ・ペ 「君は誤解だと言うんですね ? 」と旧ゴリャートキン氏の背信的な友人はかなり冷淡に、気 乗りしないような調子で尋ねた。 トローヴィッチ、僕とし 「僕はまったく自分の誤解たったと言ってるんです、ヤーコフ・ペ ては偽りの羞恥心をまったくかなぐり棄てて : : : 」 「いや、なあに、結構ですよ ! 君が誤解していたというのは非常に結構なことです」と新 ゴリャートキン氏は取ってつけたように答えた。 トローヴィッチ、こんなことさえ考えたんです」と開けっぴろ 「僕はですね、ヤーコフ・ペ げなわれらの主人公は、自分の偽りの友の恐るべき背信には少しも気づかすに、上品な態度で つけ加えた。「僕はこんなことさえ考えたんです、つまり、ここにどこからどこまでそっくり

2. 二重人格

248 おそらく、なにもかもねーー・世間の取り沙汰です、奴隷根性の衆愚の考えです : : : 。僕はざっ くばらんに言いますが、ヤーコフ・ペ トローヴィッチ、それもこれもみんなありうることです よ。さらに突っ込んで言えばですね、ヤーコフ・ペ トローヴィッチ、もしもそんなふうに考え ると、つまり上品な高い観点から事の次第を見ればですね、僕はあえて言いますが、偽りの羞 恥をかなぐり棄てて申しますが、ヤーコフ・ペ トローヴィッチ、僕には自分が誤解していたと 白状するのが、むしろ愉快なくらいです、それを認めるのがむしろ愉快なくらいですよ。君は 賢明な、その上高潔な方ですから、よくおわかりでしよう。僕は羞恥心を、偽りの羞恥心をか なぐり棄てて、いつでもそれを認める用意があります : : : 」とわれらの主人公は威厳にみちた 高潔な態度でことばを結んだ。 「宿命ですよ、約東事ですよ ! ャーコフ・ペ トローヴィッチ : : : しかしそんな話はもうや めにしましよう」と溜め息をつきながら新ゴリャートキン氏は言った。「それよりもこうして お目にかかる短い時間を、もっと有益な愉快な会話に使おうじゃありませんか、二人の同僚の 間にかわされるにふさわしい会話にね : いやまったく、どうしたものかこのところずっと 君とゆっくり話をする暇がありませんでしたなあ : ・ しかしそれはなにも僕のせいじゃあり ませんがね、ヤーコフ・ペ トローヴィッチ : : : 」 「僕のせいでもありません」とむきになってわれらの主人公はさえぎった。「僕のせいでも ありませんよー このことについて僕には罪がないってことを、ヤーコフ・ペ トローヴィッチ、

3. 二重人格

148 ッポヴィッチのあと ま大車輪で働きはじめた。それに御当人もその書類とアンドレイ・フィリ を追って、閣下の部屋へ出かけるつもりだったのである。ところが突然そのときすぐ戸口のと ソボヴィッチのまうしろのあたりに、新ゴリャートキン ころに立っていたアンドレイ・フィ 氏が現われ、いきなりするりと部屋の中にすべりこむと、仕事に追われているようにそわそわ と息を切らしながら、もったいぶった、ひどく改まった顔つきで、いきなり旧ゴリャートキン 氏のほうへ駆け寄った。相手はこのような襲撃を受けようとは夢にも思っていなかったのであ る : トローヴィッチ、書類を : : : もう出来上がったかという閣下のお尋 「書類を、ヤーコフ・ペ ねですよ ! 」と旧ゴリャートキン氏の親友は小声で早口にさえすりはしめた。「アンドレイ・ フィリッポヴィッチもお待ちかねです : : : 」 「お待ちかねなのは、なにも君に言われなくてもわかっているよ」と旧ゴリャートキン氏は、 同じように早ロでささやくように一一一口った。 トローヴィッチ、そうじゃないんです。私の言っているのは、ヤーコ 「いや、ヤーコフ・ペ へトローヴィッチ、全然別のことなんですよ。私は御同情中しあげているんです、ヤーコ へトローヴィッチ、まったく心から御同情申しあげているんですよ」 「そんなものは平に御容赦願いたいもんですね。ちょっと失礼、失礼ながら : ドローヴィッチ。 「あなたは、もちろん、ちゃんと紙でくるむんでしようね、ヤーコフ・ペ

4. 二重人格

247 トローヴ はいささかびつくりして答えた。「どうも僕にはよくわかりませんね、ヤーコフ・ペ ッチ : : : まあ僕としては : : : つまり立派な、公明正大な観点に立てばですね、ヤーコフ・ペ トローヴィッチ、ねえ、そうでしよう、ヤーコフ・ペ トローヴィッチ : : : 」 「そうですな。しかし御自分でもよくおわかりでしようが、ヤーコフ・ベトローヴィッチ」 と抜け目なくいかにも後悔の念にかられ同情を禁じえない悲しみにみちた立派な人間であると 見せかけるように、新ゴリャートキン氏は静かな表情たっぷりな声で答えた。「御存じのよう いまは実につらい時代でしてね : : 。僕は君のことばをお借りしたわけですが、ヤーコ へトローヴィッチ、君は賢明な方ですから、正しい判断をくたすことと思いますがね」と 新ゴリャートキン氏は卑劣にも旧ゴリャートキン氏にちょっとおべつかを使った。「人生は玩 ちゃ 具じゃありませんよーー君もよく御存じのようにね、ヤーコフ・ペ トローヴィッチ」と新ゴリ ートキン氏は高尚な問題についてもいろいろ論ずることのできる聡明な、学問のある人間た と見せかけるように、ひどく意味ありげな様子でことばを結んた。 「僕としてはですね、ヤーコフ・ペ トローヴィッチ」とわれらの主人公は元気よく答えた。 「まあ僕としては、遠まわしなやり方が嫌いなもので、大胆率直に、単刀直入に上品なことば を用いて、あらゆる問題を高尚な俎板の上に載せて言うわけですが、これだけははっきりと立 派に断言できますよ、ヤーコフ・ベトローヴィッチ、つまり僕が完全に潔白であるということ ですね。それに君も御存しのように、ヤーコフ・ベトローヴィッチ、これは双方の誤解ですよ、

5. 二重人格

243 「たけどねえ君、暇がないんですよ」と、高潔を装うゴリャートキン氏の仇敵は、いかにも 善良そうに見せかけながら、不作法な馴れ馴れしい調子で答えた。「また別のときにしてくだ このとおり本当にため さい、本当ですよ、そのときこそはそれこそ誠心誠意。だがいまは なんです」 トローヴィッチ ! 」と彼は泣き 『卑劣漢め ! 』とわれらの主人公は考えた。「ヤーコフ・。へ 出しそうな声で叫んだ。「僕は君の敵だったことは一度だってないんです。腹黒いやつらが僕 ャーコフ・ のことを不当に言いはやしただけなんです : : 。たから僕は喜んでいつでも : トローヴィッチ、これからす へトローヴィッチ、もしもなんでしたら御一緒に、ヤーコフ・ペ ぐどこかへ行こうしゃありませんか ? ・ そこで、いま君がいみじくも言われたように、誠 きぬ : ほら、この喫茶店がいいで 心誠意、歯に衣着せずに、上品に話をつけることにしましよう : すよ。そうしたらなにもかも自然に解決がっきます : : : ねえ、どうです、ヤーコフ・ペ ヴィッチ ! そうすればなにもかもきっと自然に解決がつくに決まっています : : : 」 「喫茶店に ? しいでしよう。別に反対はしませんよ。喫茶店に入りましよう。ただし条件 が一つありますよ、君、条件が一つだけね , ーーそこでなにもかも自然に解決されるっていうこ とです。つまり、これこれしかじかというわけですな、君」と新ゴリャートキン氏は馬車から 降りながら、厚かましくもわれらの主人公の肩を。ほんと叩いて言った。「いや君は実に大した 友達だよ。君のためなら、ヤーコフ・ペ トローヴィッチ、僕は横町だっていといはしませんよ

6. 二重人格

249 この胸が僕にちゃんと言ってくれます。なにもかも運命に罪があるということにしようじゃあ りませんか、ヤーコフ・ペ トローヴィッチ」と旧ゴリャートキン氏はすっかり柔らいだ調子で つけ加えた。その声はしだいに衰えて、震えをおびてきた。 「ところで、どうです ? からだの具合はだいたいどうなんです ? 」と道を踏みはずした男 は甘ったるい声で言った。 「少々咳が出ましてね」とわれらの主人公はそれよりもさらに甘ったるい声で答えた。 「用心なさいよ。このごろひどく悪い風邪がはやってますからね、すぐに扁桃腺をやられま すよ。僕なんかも、実を言うと、もうフランネルにくるまっているような始末ですよ」 「そのとおりですよ、ヤーコフ・ペ トローヴィッチ、すぐに扁桃腺をやられますからね : ャーコフ・ペ トロ , ーヴィッチ ! 」とちょっと黙っていてからわれらの主人公は急に呼びかけた。 「ヤーコフ・ペ トローヴィッチ ! 僕は自分が誤解をしていたことがわかりました。 ・ : 僕は 貧しいけれども、しかしあえて言いますが、温い心のこもった私どもの屋根の下で君と一緒に 過ごすことのできたあの幸福な数時間のことを、感激の念をいたいて思い起こします : : : 」 「しかし君の手紙の中には、そう書いてありませんでしたね」と、 いくぶん非難するような 調子で新ゴリャートキン氏は完全に筋道の立ったことを言った ( たたし、筋道の立っているの はただこの点に関してだけであったが ) 。 へトローヴィッチ ! 僕は思いちがいをしていたのです : : : 。あの不幸な手紙

7. 二重人格

124 : 御知遇と御庇護をお願いしようと、あえてあなたにおすがり申したようなわけでございま すーと客はそのことばを結んたが、どうやら、その言いまわしには苦心し、自分の。フライドを ついしよう 傷つけないように、あまりお追従めいたり卑屈にはならない、そうかといって、不躾けな対等 な態度たと思われるような、つまりあまり無遠慮なものにもならないようなことばを選ぼうと している様子たった。だいたいにおいてゴリャートキン氏の客の身のこなしは、継ぎの当たっ た燕尾服を身につけ、ポケットには由緒正しい身許証明書を持ち、ただ不慣れのためにまだう まく物乞いの手をのばすことのできない、生まれのいい乞食のそれと言ってもよかった。 「しかしですねえ」とゴリャートキン氏は自分のからたと、あたりの壁とお客の姿をじろり と見まわしながら答えた。「 いったいどうすればなにかあなたのお役に立っことができるかということなのですがね ? 」 「私は、ヤーコフ・ペ トローヴィッチ、一目見ただけであなたという方に心惹かれて、こん なことを中しあげては失礼ですが、実はあなたを頼みの綱としたわけなのですー・ーー厚かましく トローヴィッチ。私は・ : 私はこの土地では糸 も頼みの綱といたしましたので、ヤーコフ・ペ の切れた凧のような、哀れな男でして、ヤーコフ・ペ トローヴィッチ、ひどい苦しみ方もいた しました。ャーコフ・ペ トローヴィッチ、それにこの土地にはまだやって来たばかりなので。 それで生まれつき美しいお心をつね日ごろ具えられたあなたが、私と同姓同名の方とうけたま わりましたので : : : 」 いったいどうしたら私が : いやつまり、私の中しあげたいのは、

8. 二重人格

た。「いや、つかぬことをおうかがいいたしますが、なんとお名前をお呼びしたらよろしいの で ? 」 トローヴィッチと申します」とほとんどささやくような声 「私は : : : 私は・ : : ・ヤーコフ・ペ トローヴィッチという名前であることに で客は言ったが、それは、自分がやはりャーコフ・べ 対してまるで赦しでも乞うような、まるでそれを恥ずかしく思い、良心が咎めてでもいるよう な様子だっこ。 「ヤーコフ・ペ トローヴィッチ」とわれらの主人公は繰り返したが、その狼狽ぶりを隠すこ とはできなかった。 「そうです、まったくそのとおりで : : : あなたと同姓同名なのでございますよーとゴリャー ひょうきん トキン氏のおとなしい客は、勇気を出してにつこりと笑い、思いきってなにかもっと剽軽なこ とを言おうとして答えた。ところが主人にとってはいまは冗談どころの騒ぎでないことを見て 取ると、急にひどくまじめな、だがいささかうろたえたような顔つきをして、尻込みしてしま 「あなたは : : : 失礼なことをおうかがいするようですが、いったいどういうわけでこの私 「実はあなたがお心の寛い、徳行のあるお方と存じておりますので」と客は椅子からちょっ 冫だがおずおずとした声で彼のことばをさえぎった。「あなたの と腰を浮かしながら、早ロこ、

9. 二重人格

242 ず、たったいま馭者を相手に行く先の話をつけて辻馬車の踏み段に早くも片足を乗せかけてい た例の仇敵の外套にやっとのことで手をかけたとき、われらの主人公はまさに死から蘇ったよ うな、悪戦苦闘の末やっと勝利をつかんだような思いだった。「もしもし、君 ! 君 ! 」と彼 は、とうとう追いっかれた品性劣等な新ゴリャートキン氏に向かって叫んだ。 「もしもし、君はたぶん : : : 」 「いや、どうかもう、たぶんなんてことは一切おっしやらないでいただきましよう」とゴリ ャートキン氏の冷酷無情な仇敵は、片方の足を馬車の踏み段にかけ、もう一方の足を馬車の中 に入れようと懸命の努力を払いながらもむなしく空中に振りまわし、、、ハランスを取ろうとしな がらも、同時に全力を挙げて自分の外套を旧ゴリャートキン氏の手から、振り切ろうとしなが ら、あいまいな調子で返事をした。一方相手は相手で、自然から与えられたありとあらゆる手 段を尽くして、その外套にしがみつくのであった。 へトローヴィッチ ! ほんの十分ばかり : : : 」 「失礼ですが、僕には服がないのでね , 「まあこちらの身にもなってくださいよ、ヤーコフ・ペ トローヴィッチ : : : お願いです、ヤ へトローヴィッチ、 : : : 頼みますよ、、ヤーコフ・。へ トローヴィッチ : : : これこれし か。しかと 話し合うだけです : : : ざっくばらんに : ほんのちょっとたけなんた、ヤーコ トローヴィッチー

10. 二重人格

131 身の兄弟のようにして暮らしていくんだ。われわれは、うまく立ちまわるんだ、共同戦線を張 ってうまく立ちまわるんだ。こっちはこっちであいつらに対抗して策略をめぐらすのさ : : : 策 略をめぐらしてあいつらに対抗するんたよ。それからあの連中なんか誰一人信用しちゃだめだ トローヴィッチ、 ぜ。なにしろ僕には君という人間がよくわかっているからね、ヤーコフ・ペ 君の性質もよくわかってるよ。ぎっと君なんかなんでも残らすべらべらしゃべっちゃうにちが いないんだ、とにかく君は実に正直だからねえー いいかね君、あの連中には気をつけるんだ ぜ」客はまったくそれに同感の意を表し、ゴリャートキン氏に感謝し、ついには同様涙ぐんだ ものである。「そこでだねえ、ヤーシャ〔ャーコフの愛称〕ーとゴリャートキン氏はカの抜けた震え る声でことばをつづけた。「どうたい、ヤーシャ、ひとつ一時僕のところに引っ越して来たら、 いやずっと居ついたってかまわないよ。仲よくやっていこうじゃよ、 オしカどうだい君、え ? なにも気にすることなんかないよ、それに君と僕との間にこんな妙ちくりんな事情があるから って、不平を言っちゃいけないよ。不平を言うなんて、君、罪だからね、自然のなせるわざじ ゃなしか ! 母なる自然は恵み深いものさ、ねえ、そうだろう、君、ヤーシャ ! 君を愛すれ ばこそ、兄弟のように愛すればこそ、僕はこんなことを言うんだぜ。これから二人でだねえ、 ャーシャ、大いに策略をめぐらして、こっちはこっちで トリックを使って、やつらの鼻をあか してやろうじゃよ オいか」とうとうポンスはそれそれ三杯四杯と重ねられた。するとゴリャート キン氏は二つの感情を味わうようになった。一つは自分がやたらに幸福だという感じであり、