様子 - みる会図書館


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1. 二重人格

しだいしだいにゴリャートキン氏を取り巻き、そのまわりに輪をつくり、ほとんど 彼らはみんななにか侮辱するような物珍しそうな顔つきで、 が出口がないようにしてしまった。 / 彼の顔をじろじろと眺めるのであった。 これはよくない兆候であった。ゴリャートキン氏はそう感じたので、頭を働かしてこちらも なんにも気がっかないようなふりをしてやろうとした。ところが突然、まったく思いもかけな かった出来事が、ゴリャートキン氏にいわゆるとどめを刺し、彼を完全に破減させてしまった のである。 彼を取り巻いていた一団の若い同僚たちの中に、まるでわざとゴリャートキン氏にとって泣 き出したいようなこの瞬間を狙ったように、不意に、例の新ゴリャートキン氏が姿を現わした いつものようにち のだ。いつものように浮き浮きとした様子で、いつものように徴笑を湛え、 よこまかとして、これを要するに、 いつものような、以前と少しも変わらぬ、たとえばきのう、 旧ゴリャートキン氏にとって最も不愉快な瞬間に立ち現われた姿と寸分変わらぬ相変わらすの いたずらっ子、おっちょこちょい、おべつか使い、笑い上戸、しかも口も八丁手も八丁というあ りさまたった。白い歯を見せ、ちょこちょこと小刻みに歩きまわり、みんなに向かって『今晩 は』と呼びかけるように笑顔をふりまきながら、彼は役人たちの群れに割り込んた。一人の者 の手を握ったかと思うと、つぎの男の肩を。ほんと叩き、第三の男を軽く抱擁し、第四の男には、 ばってき どういう用事で閣下のお使いに抜擢されたか、どこへ行って、なにをし、なにを持って帰った

2. 二重人格

121 ふうにあれこれしきりに考え合わせながら、ゴリャートキン氏は客を自分の部屋へと案内し、 丁寧に椅子をすすめた。一方、客はどうやらひどく当惑している様子で、非常におじけづいて いた。主人の一挙一動をおずおずと怠りなく目で追い、その顔色をうかがっては、その肚の中 おど を見抜こうと努めている様子だった。なにか身を卑下したような、虐げられ嚇しつけられたよ うなところが、彼のあらゆる身ぶりに現われていたので、もしもそんな比較が許されるとした ら、その瞬間の彼の様子は、自分の服がないので他人の服を借り着した男のそれにかなりよく 似たものであった。袖は上の方へ吊り上がり、胴のくびれはほとんど後頭部のあたりにせり上 がっている。そこで当人はのべっ短いチョッキの具合を直したり、もじもじと横を向いたり脇 へどいたり、隙を狙ってはどこかへ身を隠そうとしたり、そうかと思うと、みんなの眼色をう かがったり、人がなにか自分の墫をしてはいないか、自分のことを笑ってはいないだろうか、 自分のために恥ずかしい思いをしてはいないかと聞き耳を立てたりするーーー・そして彼は顔を赤 ゴリャートキン氏 らめ、途方にくれ、その自尊心はひとり悩み苦しむというわけである : は帽子を窓の上に載せた。ところが不注意に身を動かした拍子にその帽子がふわりと床の上に 落ちてしまった。するとお客はすぐさま身を躍らせてそれを拾い上げ、埃をすっかり払い落と すと、用心深くもとの場所へ置いた。そして自分の帽子は椅子のそばの床の上に置いて、自分 はその椅子の端っこのほうへちょこなんと腰をおろした。この小さな出来事がいくらかゴリヤ ートキン氏の目を開けてくれることになった。つまり相手が非常に困っていることがわかった は」 - 」り

3. 二重人格

最後に、錦上さらに花を添えるといった風情に、いつも不断着で、気取らずに歩きまわると いうお気に入りの習慣に従って、ベトルーシカはいまもはたしのままだったのである。ゴリヤ ートキン氏は前後左右からベトルーシカの様子を眺めていたが、どうやら満足のようだった。 この仕着せがなにか儀式ばったことのために損料を払って借りたものであることは明らかだっ た。さらに検査を受けている間ベトルーシカが、なにか奇妙な期待の色を浮かべて主人の様子 を眺め、並々ならぬ好奇心にかられて彼の一挙一動を追っているのが見て取られた。それがゴ 丿ャートキン氏をひどくまごっかせた。 「よし、ところで馬車は ? 」 「馬車も来ております」 「まる一日の約束たな ? 」 さっ 「まる一日の約束で、お札で二十五ループリでごぜえます」 「それから長靴も持って来たな ? 」 「長靴も来ています」 「馬鹿野郎め ! まいっておりますと言えないのか。ここへ持って来い」 長靴もびったり合ったものだったので、満足の意を表しながらゴリャートキン氏はお茶を持 って来るように言いつけ、洗面とひげ剃りの用意をさせた。ひどく念入りにひげを剃り、同様 みじたく しごく念入りに顔を洗い、大急ぎでお茶をすすると、彼はいよいよ肝心かなめの最後の身支度

4. 二重人格

「もういいですよ、気を落ちつけてお坐んなさい ! 」と彼は、なんとかしてゴリャートキン 氏を椅子に坐らせようとして、やっとのことでこう言った。 「私には敵があるんです、クレスチャン・イワーノヴィッチ、私には敵があるんですよ、実 とゴリャートキ に兇悪な敵で、そいつはこの私を破減させようと心に誓っているのです : ン氏はおずおすとささやくような小声で答えた。 「もうたくさん、もうたくさんですよ、敵があったってそれがどうしたというのです ! そ んな敵のことなんか気にすることはないじゃありませんか ! そんなことは全然不必要なこと ですよ。まあお坐んなさい、お坐んなさい」とクレスチャン・イワーノヴィッチはことばをつ づけて、やっとのことでゴリャートキン氏を肘掛椅子に腰かけさせた。 ゴリャートキン氏はようやく椅子に腰を落ちつけたが、クレスチャン・イワーノヴィッチか ら目を放そうとはしなかった。クレスチャン・イワーノヴィッチはおそろしく不機嫌な様子で、 診察室の中を一方の隅から一方の隅へと歩きはじめた。そのあとに長い沈黙がつづいた。 「私はあなたに感謝しています、クレスチャン・イワーノヴィッチ、まったく感謝していま すよ。あなたが私のためにしてくださったことを私は肝に銘じて覚えています。御親切は死ん でも忘れはいたしません、クレスチャン・イワーノヴィッチ」とやがてゴリャートキン氏は、 腹立たしげな様子で椅子から腰を上げながら言った。 「もう結構ですよ、結構ですよ ! 本当にもうたくさんですったら ! 」とクレスチャン・イ

5. 二重人格

120 第七章 彼がややわれに返ったのは、自分の家へ入る階段の上であった。『ああ、おれもとんだお人 よしだなあ ! 』と彼は肚の中で自分を罵った。『ほんとに、どこへあいつを連れて行こうとし てるんだ ? 自分から罠へ首を突っ込むようなものじゃないか。おれたち二人を見たら、。へト ルーシカがいったいなんて考えるたろう ? あの悪党がこれからどんな生意気なことを考える か知れたものじゃないそ ? ・おまけにあいつは疑り深いときているからな : : : 』しかしもう後 トルーシカ 悔するにはおそすぎた。ゴリャートキン氏はドアをノックした。ドアが開いて、ペ が主人と客の外套を脱がせにかかった。ゴリャートキン氏は彼の顔色を読んで、その肚の中を いちべっ 見抜こうと努めながら、ちらりとほんの一瞥をベトルーシカに投けかけた。ところがあきれか えったことに、彼の下男には驚こうとする気配がないどころか、なにかそんなことを期待でも していたような様子さえ見えたではないか。彼が今度も相変わらず苦い顔をして、そっ。ほを向 き、いまにも誰かに食いついてやろうとでもいうような様子をしていたことはもちろんである。 『きようは誰かにみんな妖術でもかけられたのじゃないかな』とわれらの主人公は考えた。 『きっと悪魔かなんかが駆け抜けたにちがいないー きようはきっとなにか変わったことがみ んなの身の上に起こったにちがいないそ。こん畜生め、なんてひどい責苦だろう ! 』とこんな

6. 二重人格

安そうな、ひどく不安らしい、この上なく不安そうな様子でクレスチャン・イワーノヴィッチ の顔を眺めるのたった。い まや彼は全身を目にして、しかもいまいましそうな、遣る瀬ないい らいらとした思いにかられながら、おずおすとクレスチャン・イワーノヴィッチの返事を待っ てした。ど・ : オカコリャートキン氏がびつくりし、まったくあきれかえったことには、クレスチャ ン・イワーノヴィッチはなにやらロの中でぶつぶつつぶやいたばかりであった。それから彼は 肘掛椅子をテープルのほうへ引き寄せると、かなりそっけない調子で、だがそれでも慇懃に、 自分にとっては時間が貴重である、それにどうもお話の筋がはっきりのみこめない、しかし自 分にできることならせいぜいお役に立ちたいと思っているが、それ以上のことや直接自分に関 係のないことには力をお貸しするわけこよ、 といったようなことを中し述べたもので ある。そう言い終わると彼はやおらペンを取り上げ、紙を引き寄せて、それを所定の処方箋の 大きさに切ると、 いますぐ適当な処方を書いて差しあげましようと中し出た。 しいえ、そんな必要はありませんよ、クレスチャン・イワーノヴィッチ ! とんでもない、 そんな必要は全然ありませんよ ! 」とゴリャートキン氏は椅子から腰を浮かし、クレスチャ ン・イワーノヴィッチの右手を抑えながら言った。「そんなものは、クレスチャン・イワーノ ヴィッチ、この場合、全然必要のないことですよ : : : 」 ところがこれだけのことを言っている間に、・ コリャートキン氏の様子に一種奇怪な変化が 生じたのである。その灰色の目はなんとなく奇怪な色を漂わせて光り出し、唇は震え、顔の筋

7. 二重人格

第二章 内科外科専門医クレスチャン・イワーノヴィッチ・ルーテンシュビッツは、もうかなりの年 彼の濃い眉毛と頬ひげはすでに半白で、その目は 輩であったが、いたって健康な人物たった。 , 表情に富み、それだけでもどんな病気だろうがいっぺんに追い払ってしまいそうな炯々たる眼 光をしていたが、おまけになかなか大した勲章までぶら下げていたーーーその朝彼は診察室のゆ ったりとした安楽椅子に腰をおろし、夫人が手すから運んで来たコーヒーを飲んでは、葉巻き をくゆらしながら、ときどきその患者の処方箋にペンを走らせていた。痔を患っていた一人の 老人の小さな薬瓶に最後の処方を記入し終わって、さかんに痛がる老人をわきのドアから送り 出すと、クレスチャン・イワーノヴィッチは腰をおろしてつぎの患者を待っていた。そこへゴ リャートキン氏が入って来たのである。・ どうやらクレスチャン・イワーノヴィッチはゴリャートキン氏が現われようとは思いも設け ず、むしろ彼の顔など見たくもないような様子だった。と言うのは、一瞬彼は妙にうろたえた 様子で、思わすその顔になにか奇妙な不満らしいとさえ言える苦い表情が浮かんだからである。 一方ゴリャートキン氏はゴリャートキン氏で、自分のちょっとした用事で誰かと膝詰談判しょ 買うというほかならぬその瞬間、ほとんどいつも決まって柄にもなく妙に気落ちして途方にくれ

8. 二重人格

285 いというように、今度はゴリャートキン氏のほうへ向き直って、彼はあらためて口を開いた。 「ちょっとお尋ねいたしますがね、いったいあなたはどなたの前でそんなことをおっしやって いるんです ? あなたの前におられるのがどなたで、どなたの書斎にいると思っているんです か ? : : : 」新ゴリャートキン氏は異常に興奮している様子で、顔を真赤にし、忿懣と怒りに燃 え立っていた。その目には涙さえも浮かんでいた。 ノサヴリュ ーコフ様のおいで ! [ と書斎の戸口に現われた従僕が、のども張り裂けんば かりの声で叫んだ。『貴族らしい立派な名前だ、小口シャの出だな』とゴリャートキン氏は考 えた。だがそのとたんに、誰かがひどく親しそうな様子で片手を彼の背中にかけたのを感じた。 やがてもう一方の手が彼の背中にかけられた。卑劣なゴリャートキン氏の双生児の片割れが、 前に立ってせかせかと彼の道案内をしているのであった。そしてわれらの主人公は、自分がど うやら書斎の大きな扉のほうへ連れて行かれるのをはっきりと見て取った。『オルスーフィ イ・イワーノヴィッチのところでのやり口そっくりそのままだ』と彼は考えたが、そのときは もう玄関に来ていた。あたりを見まわすと、そばには閣下の従僕が二人と例の双生児の片割れ がついていた。 「外套だ、外套だ、外套だ、僕の友人の外套だ ! 僕の一番の親友の外套た ! 」と堕落しき った人間ははやしたてて、一人の従僕の手から外套を引ったくると、卑劣ないやらしい笑い草 を楽しむように、いきなりゴリャートキン氏の頭にすつ。ほりとそれをかぶせた。自分の外套の

9. 二重人格

307 は、当の本人がすっかり涙にくれて、熱い涙が冷たい頬を伝って流れるのをはっきりと感じる ほどのありさまだったからである : いまではオルスーフィ 。人々と運命に対して和解し、 イ・イワーノヴィッチばかりではなく、またそこに居合わしたすべての客ばかりではなく、例 の有害邪悪な双生児の片割れに対してすら極端な愛情をいだくようになったわれらの主人公は 例の人物ですらいまではどうやらゴリャートキン氏にとってはまったく有害邪悪な人間で はなく、また双生児の片割れでさえもなく、まったくなんの関係もない局外者で、実はきわめ どうこく て愛想のよい人間のように思われたーーー働哭にむせぶ声を振りしぼって、オルスーフイイ・イ ワーノヴィッチに向かって感動にあふれる心の中を吐露しようとした。しかし胸の中に言いた いことがあまりにもいつばい詰まっていたので、まったくなに一つ口をきくことができず、た たきわめて雄弁な身ぶりで黙って自分の心臓を指さして見せただけであった : やがてアン ドレイ・フィリッポヴィッチは、おそらく、白髪の老人の感じやすい心をいたわろうと思った のだろう、ゴリャートキン氏を少し脇のほうへ連れて行った。だがしかし、どうやら彼を完全 に自由な立場に置いてやったようだった。にやにやと薄笑いを浮かべ、なにかぶつぶつつぶや きながら、いささか狐につままれたような様子どっこ、、、、 ナオカともかくも人間と運命に対してほと んど完全に和解しきったように、われらの主人公は厚い人垣を押し分けてどこかへ行こうとし はじめた。みんなは彼のために道を開けてやった。なにか奇妙な好奇心と、なにか説明しがた い謎のような同情を示しながら、みんなが彼の様子を眺めていた。われらの主人公は隣の部屋 ふたご

10. 二重人格

もたとうべき肩や顔や、ふんわりとしてしなやかな姿態、高雅なことばを用いて言えば、自由 よい意味においてー・ーー婦人というよりはむしろ仙女と 奔放にして繊細優美な足を持った、 呼ぶにふさわしいこうした名流婦人連の嬉々として遊びたわむれる様子や笑い声を、いったい どうしてこの筆者風情に描写することができようか ? さらにまた、これら輝かしい名流の紳 士たち、陽気でしかも堂々とした若者や、またダンスの合間合間に少し離れた小さな緑色の部 屋で悠然と。 ( イ。フをくゆらせている、端正な、喜びにあふれしかも礼儀にもとらぬ程度に陶然 カヴァレール としている騎士連や、ダンスの合間に。 ( イプをくゆらせることをしない騎士連の様子を、いっ たい筆者はどう諸君に描写したらいいのだろうか ? その騎士連は。ヒンからキリにいたるまで それそれ立派な官等と家名の持ち主であり、またそれそれ洗練された感情と深い自意識にみた された騎士揃いなのである。この騎士連は婦人たちと話をするときには主としてフランス語を 使い、たまにロシャ語を話すときがあっても、きわめて高尚な言いまわしを用い、お世辞のこ とばや深遠な語句を駆使する。こうした騎士連が高尚な調子のことばづかいを多少ゆるめて、 まのポルカときたらどうしてすばらしいものだったぜ』と たとえば『おいおい、ペーチカ、い か、『ようよう、大したもんたなあ、ワーシャ、相手の奥さんを自分の好きなように引きまわ したじゃないか』と言ったような打ち解けた愛想のいいお愛嬌を振りまくのは、喫煙室に入っ たときにかぎられるのである。しかしこれらのことをすべて描写することは、おお、読者諸君 よ ! 前にもお断わり申しあげたとおり、遠く筆者の筆力の及ばないところである。したがっ