ビール - みる会図書館


検索対象: 北の海
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1. 北の海

びん 藤尾はビールの壜を取り上げ、それがからであることに気付くと、 「奥さん、手打ち式のビールをお願いします」 と言った。夫人はすぐビールを連んで来た。宇田、藤尾、洪作の三人はビールを飲んだが、遠 山は水を飲んで神妙にしていた。 「このビールは特別だ。手打ち式のビールだ。お前も飲めよ」 藤尾が言うと、 「そうか、手打ち式のビールか。普通のビールじゃないんだな。それなら、 海みよう。どんな味がするか」 遠山が言って、コップを取り上げると、 の「遠山君はいかんよ」 宇田の声が飛んで来た。 「はあ」 遠山はまたコップを置いた。 「先生、いつまいだけならいいでしよう。こいつ、 藤尾が一一一口うと、 「いつも、飲んでいる ? それはいかんな」 宇田は言って、 「じゃ、遠山君にも誓約書を書いて貰うか。以後絶対にアルコール分はロにしないという一札を 入れて貰うかー 569 いつも飲んでいるんですー いつばいだけ飲んで

2. 北の海

「この続きはあとで話す」 遠山は立って行って、ビールやコップを連んで来ると、宇田に、 「じゃ、藤尾に連絡して来ます。 いですねー と、一一 = ロった。 「いやに念を押すような言い方をするんだな」 「奥さんが反対ですからね [ 「反対なものか。藤尾君とは案外気が合うらしい」 海と、宇田は言った。 藤尾のところに電話をかけに行った遠山が戻って来ると、宇田は洪作のコップにビールを満た のして、 「遠山君の方はまだ中学生だからビールはいかん . と一一 = ロった。 「もちろん、ビールなんて飲みません」 遠山はさすがに神妙に言った。 「卒業すると、しないとは、こういうところに差が出て来る [ 洪作は言って、 「お前も、来年は卒業だけはせんとな」 「何を言っていやあがる」 「いや、本当だよ。何とかして卒業だけはしろよ。こんどドッペルと放校だぞ。ドッペル・アウ 561

3. 北の海

193 祖父は言ったが、すぐ洪作を刺韓することを警戒して、 「洪もあんまり利ロじゃよ、ゞ、 オしカ台北の両親の方はもっと困り者だ。ばか者めが」 と言い直した。淇作は祖父のコップにビールを満たし、自分のコップにも注し 、ご。祖母は井戸 山面に冷やしたビールをとりに行った。 「さっきから見ていると、お前は何ばいもビールを飲んでいる。少しは飲んでも、 しし、カ、たノ \ ↓ 0 んはいかん」 「大丈夫だよー 海「お前はすぐ大丈夫だというが、ちっとも大丈夫だった験しはない」 「おじいさんこそ、もう余り酒は飲まん方がいい 。中風になったら大変だ」 の「だから酒は飲まんで、ビールを飲んでいる , 「ビールだって、酒だって、同じだよ。ころりと行ったら大変だ」 「ころりと行くなら、ころりと行ってもいいさ 「おじいさんはよくても、おばあさんが可哀そうだ。あんな神さまみたいなおばあさんを悲しま せてはいけない」 「お前は、こんど会ってみたら、ロだけは達者になっている。このわしに意見をする気か。わし は一生みんなに意見されて来た。とうとう孫のお前にまで意見をされるようになった。しかし、 酒はいかん。酒というものは確かにいかん。わしは酒で失敗した。お前は酒は慎しまねばならぬ。 わしの方は慎しんでも、もう遅い」 祖父は言った。

4. 北の海

と一一「ロった。 「お客さま卩とんだお客さまがあったものだ。中学を卒業したというのに、郷里にも帰らんと、 先生に心配かけ、寺の人にも心配かけ、台北の親にも心配かけ、このわしにも心配かけ、 本来なら、出て行けと言うところだが、出て行けと言ったら、はんとに出て行ってしまうに 出て行けと言うこともできん」 と、洪作は笑った。 海「おじいさん、僕のことを心配していたのか」 「なんだと、心配せんと思っとったのか。ばかもん」 の「そりや、少しぐらいは心配しているだろうと思っていた」 「そう思ったなら、なぜ顔を見せん 「だから、今日帰って来たじゃない、 「なににしても、ろくでなしめが。 ばあさん、ビールを冷やしておきなさい。ろくでなしで も帰って来たとあれば、ビールぐらい飲ませねばならぬ。もの要りなことじゃ」 「うふー 「何がおかしい ? 」 「ビールは自分が飲みたいんじゃない、 「そりや、わしも飮みたいー 祖父は言「た。祖父はいかなる言葉を口から出す時でも、苦虫を噛みつぶしたような顔をして

5. 北の海

宇田は立ち上ると、風呂場にはいって行った。洪作は宇田が入浴をすませるまで、縁側に坐っ ていた。夫人がビールを持って来て、栓をぬこうとするので、 「先生とご一緒にいただきましよう」 と、洪作は言った。 「もう出てまいりますわ、どうぞー 「でも [ 「構いませんわよ。案外遠慮深いんですのね」 海夫人はビールをコップにみたしておいて、再び台所へ戻って行った。洪作は折角ついでくれた ので、コップを取り上げた。縁側に坐って、浴衣がけでビールを飲むなどということは、ついぞ のないことである。こういうのを快適というのであろうと思った。 やがて、宇田も浴衣を着てやって来た。 「なかなか結構ですー 洪作はそういう言葉で、いかに自分が満足であるかということを表現した。 「どれ、僕も貰おう」 宇田も縁側に坐った。 「どうだ、決心はついたか 「は、なんの決心です ? 「なんの決心って、君、台北の両親の許に行くか、どうかということが、昼間から二人の間の門 題になっている。君はそれについて考えてみると言って、どこかへ行ったと思ったら、そのまま 凵 6

6. 北の海

金沢へやっておいた方が安全です」 「変なことを言うね。君たち、ぐるになっているんじゃない、 「冗談じゃありませんー 「いや、ど , つも、そうらしい。黙って聞いていると、一一一口うことがおかしい、 宇田は言って、それから夫人に、 「ビールでも持って来なさい と一一一口った。 海「だめ、ねえ、この先生、ーーー遠山さんの言うように甘いんですから。洪作さんのことをかんか ビール飲み始めたら、もうだ んになって憤っていながら、いざ顔を見ると、だめなんです。 のめ、ね。先生の敗けね」 夫人が言うと、 「そんなことはない。まだ何も意見はしていない。叱ってもいよい。すべてはこれからだ。 ビール、持って来い」 「威張らなくても、持って来ますわよ。洪作さんの二回目の送別会をしたいんでしよう」 夫人はロでは皮肉を言っているが、彼女自身満更でもない顔をして立って行った。 「奥さんの言う通りだな。先生は甘いですよ。洪作なんか、ひとすじ縄で行く相手ではないんで すから」 遠山は言って、 「これではだめですよ。藤尾でも呼んで来なくては [ 559

7. 北の海

601 内儀さんは言った。 「何も、俺を引き合いに出さなくても、 遠山が一一 = ロ , っと、 「あんたは、ね」 と、内儀さんは遠山の方に向き直って、 「えらそうな顔して、ビールなんか飮んでいるけど、本当はビールなんか飲めないんだよ。中学 生なんだからね」 海「判っているよし 「判っているような顔はしていないじゃないの。あんた以外は、とにかく卒業しているんだけど、 のあんたはーーー」 「判ってる、判ってるー 「判っているもんかね。 , ーー何だね、最近は色気なんか出して。れい子を引っぱり出したりする と、きかないからねー 「そんなことをした覚えはない」 「この間、呼び出していたじゃないの 「あれ、違うんだよ [ 「だめ、だめ。変なことをすると、学校に言いつけるよ . 「いやになっちゃうな。違うんだよ。れいちゃんが洪作に気があるんで、それで、俺ーー」 「だめ、だめ、 でたらめ言うの、やめなさい しいたろう」

8. 北の海

101 「本当はビールなど飲んでは、柔道はできません。息切れしてだめです。煙草はのみますか、 「のみます」 遠山が答えると、 「煙草もだめですよ、柔道には。 んなやめちゃいますがねー 「どうしてですか 遠山が言うと、 海「稽古の時、自分が辛いので、飲めと言っても飲まなくなりますよ」 「稽古はそんなに烈しいですか」 の「まあ、烈しいと言えましようね。朝稽古、昼稽古、夜稽古ー 「ほう、すると、勉強は ? 」 「勉強なんて、そんな余分なものはしませんよ。勉強しに学校へはいって来たんじゃない、 , 「じゃ、何のためにはいったんです」 遠山が訊くと、 「もちろん、柔道をやるためですよ。僕は今年入学して来た一年下の連中に言ったんです。学を やりに来たと思うなよ、柔道をやりに来たと思え」 「ほう」 淇作は、ここでもまた " ほう。と言う以外仕方なかった。 「じゃ、柔道ばかりやるわけですね。三年間」 もっと 煙草とビールは禁物です。尤も飮むなと言わなくても、み

9. 北の海

「そんなことはありません」 「いや、どうも、そうらしい。とにかく、君の仲間はあまりよくない。類は類を以て集まるとい うが、困った奴ばかりが集まったものだ。あの連中が居なくなったんで、学校もやっと静かにな それから、 ・「煮出したな」 宇田は鼻をくんくんさせた。なるほど階下で肉を煮ている匂いが二階に上って来ている。 海階下の居間でスキ焼の鍋を囲んだ。畳の上に茣蓙が敷かれ、その上に七輪が据えられ、その七 輪の上に鍋が置かれてある。 の若い女性がビールを運んで来て、 「これでもう運ぶ物はないわね そんなことを言って、彼女もまた坐った。 宇田はビールを自分のコップにつぎ、それから洪作のコップを満たした。 「君も、どう ? 」 「戴きますわ」 自分でコップを取上げた手が、洪作にはひどく白く見えた。こんな白い手をしている女はそう たくさんはあるまいと思った。 「洪ちゃんっておっしやるんでしたわね」 「はあ

10. 北の海

そう言って、富士に視線を当てていたが、 「まあ、坐んなさい」 宇田は自分から坐った。 「煙草をのむかー 「はあ」 煙草入れと灰皿が畳の上に置かれた。 「いっからのみ出した」 . 海「三年の終りですー 「仕方ない奴だな。酒は ? 」 の「酒は少ししか飲みません。それも最近のことです」 「それはそうだろう。三年生ぐらいから酒を飮まれては収拾がっかんー 「初めてビールを飲んだのは四年の時です。藤尾が家からかつばらって来たのを、僕の寺で飲み ましたー 「かつばらうなんて言い方はいかん。 僕の寺とは何だ ? 」 「僕が下宿している寺ですー 「それならそうと正確に言いなさい。やつばり四年生ぐらいから飮んでいるじゃよい、 「いや、その時酔払って気持が悪くなったんで、それに懲りて、それ以後はずっと飲みませんで した。藤尾たちがビールを飮む時、僕の方は専らラムネですし 「ほんとか。君の言うこともあてにならんようだー