一人 - みる会図書館


検索対象: 北の海
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1. 北の海

がやって来て、一人一人から会費を集めた。洪作も会費を出そうとすると、 「洪作さんだけは、今日はいいんですって」 と、れい子は言った。 ( しオしカら、わたしも出られます 「みんなで浜へ出ません ? もう階下にもお客さんま、よ、ゝ そのれい子の一一一口葉で、寝転んでいた藤尾もむつくりと起き上って、 「よし、賛成、浜へ出よう」 と一一一口った。 海「ほんとに、れいちゃんも一緒に行くかー 遠山が念を押した。 の「ええ、お内儀さんも行って来ていいって言ってました。相手が一人ではいけないけど、大勢な らいいんですってー 「相手が一人ではいけないのかー 「いやだわ、二人だけで歩くなんて」 「二人だけで歩いたことないか」 「ないわ それから、 「そうね、一度だけあるわ。とても楽しかった。悲しくもあったけどし れい子は言った。 「聞き棄てならぬな。 相手は誰だ」 引 6

2. 北の海

このあと、二年側は宮関に一人抜かれたが、二人目が引き分け、南にも一人抜かれたが、二人 目が引き分けた。南も宮関も共に体格はすばぬけており、技術も抜群だったが、一一年の選手との 仕合においては、実力を半分も発揮できなかった。 そして、初めの予想を裏切って、一年側は大天井を一人残して勝つどころか、大天井が一人で 三人を引き受けなければならなくなった。 洪作は大天井の仕合を見るのは初めてであった。大天井、南、宮関の三人のうち誰が一番強い 海かは、誰にも判らなかった。ただ大天井は受験生であり、無声堂で三年練習しているとは言って も、当然その練習には限界があった。 の大天井は立技ばかりでなく、寝技もできた。寝技は金沢に住みついて、無声堂に通うようにな ってから身に着けたものであった。 北大天井に対して、一一年側は光村という選手が立ち向った。この大天井と光村の仕合は、何日か 前に見た南と久住の仕合のように、見ていて何とも言えず美しかった。 大天井はみごとな払い腰で二回捲き込んだが、その度に光村は背中を畳につかないで、倒れた 時は大天井の背にくつついて、 した。あとは光村が攻めに廻った。一回光村は大天井を押えたが、 何回も返されかけては、それに耐えていた。が、結局二人は互いに相手から飛びのくようにして 立ち上った。時間が来て、 「それまでー と、久住が引き分けを宣した時、間髪をいれず、大天井は小外刈を放「た。一瞬の油断があ「

3. 北の海

ようとは考えられなかった。 せんぼう 一年の先鋒は鳶、一一年の先鋒は川根であった。川根は立ち上ると、鳶に振り廻され、捩じ伏せ られ、すぐ一本とられた。次に一一年側からは長身の伏木という選手が出た。動作緩慢な選手で何 回も鳶に押えかけられては危いところで逃げており、鳶の方に八分の勝味があったが、もうすぐ ざ押えられたとなると、 引き分けという時になって、どういうものか、鳶の方が押えられた。い 鳶はびくりとも身動きできなかった。 鳶に替って、次に杉戸が立ち向って行ったが、この場合も、杉戸は終始攻撃に出て、何回も相 海手を三角締めに捉えては逃げられていたか、これも引き分け間近になって、あっという間に、杉 戸の方が反対に三角締めに捉えられた。杉戸は身動きできず、そのままおちてしまった。 の 三人目に立技の利く小柄な初段の選手が出たが、これも結局は押え込みに一本とられた。四人 目にもう一人黒帯の選手が立ち向って行き、攻めて攻めて攻めまくったが、また最後ふわりとひ 北つくり返されて、びたりと押えられた。凡そ俊敏とは反対の、のろのろした選手だったが、いざ 押えたとなると鉄壁の感じだった。 五人目の選手が、四人抜いた伏木と引き分けた。次に二年側からは三保という小柄な選手が出 て、一年側の黒帯を押え、一一人目の黒帯と引き分けた。一年側の二人の黒帯は共に立技は切れた が、三保は決して相手が立技に出る隙を見せなかった。 かくして、一一年は蓮実以下七名が残り、一年側は大天井、南、宮関の大もの三名が残った。 ここまでの仕合を見ていて、洪作はなるほど二年の部員たちは、目立たないが強いと思った。 最初の川根は別にして、伏木、三保、二人とも実に手堅かった。さすがに一カ年の長があると思 4 とら およ

4. 北の海

限りでは、南や宮関たちの方がずっと強いのでまよ、、 ( オし力と思った。そのことを洪作がロに出すと、 「これから一年稽古したら、南たちの方がずっと強くなるだろうが、今のところではどうかな。 オしかな」 仕合してみたら、やはり蓮実さんたちの方に分があるんじゃ、よ、 杉戸は言った。その一年の部員と一一年の部員の練習仕合が行われたのは夏稽古があと一日か二 日で終るという時であった。 一年の部員と一一年の部員の対抗仕合は、それぞれ十名の部員を出場させて行われた。審判は先 輩の久住が受け持った。 海二年の部員は非力な川根まで狩り出され、全部員がこの仕合に加わった。 一年の方は部員が多 いので、全部員出場というわけには行かず、何人かが見学に廻り、洪作も勿論見学席に坐らされ のた。ただ大天井だけは特に一年側の選手の中に組み人れられた。 見学席から見ている限り、一年側の方が優勢に見えた。南、宮関、大天井はいずれも一一段であ 北り、そのほかに四名の初段が加わっている。白帯は三人だけで、その中に鳶と杉戸がはいってい る。 これに引きかえ、一一年側は全員白帯であった。この稽古を終ると、何人かは黒帯になるという ことだったが、現在のところでは有段者は一人も居なかった。 道場のまん中に、それぞれ十名すつの青鬼赤鬼たちは居並んだ。二年の大将は蓮実、一年の大 将は大天井である。一年側が大天井を大将に据えたのは、副将の南までで勝敗を決めてしまい 大天井を残して勝ってしまおうという作戦であることは明らかであった。実際にまた、そうなる であろうと、洪作には思われた。い くら蓮実が仕合巧者でも、副将の南や三将の宮関を処理でき 487

5. 北の海

に何人かの人影が見えている。夕食後に散歩に来た人たちであろう。 洪作は小さい砂山の一つに腰を降ろした。理由の判らぬ淋しさが胸を緊め付けて来る。早く台 北へ出発しなければならぬと思う。が、その前に金沢にも行かねばならぬ。早く金沢行きを決行 して、その上で一日も早く台北に発っことである。 洪作は遠くの方で自分の名を呼んでいる声を耳にした。 こ - っさノ、、こ - っさく。 という声が、潮風に乗って聞えている。波の砕けている音の間から、遠くなったり、近くなっ 海たりして聞えている。藤尾が呼んでいるに違いなかった。 洪作は返事をしないで、仰向けにひっくり返った。夜気に湿った砂が首すじに冷たく感じられ のた。星が夜空一面にちらばっている。 こ - っさく、こ - っさく。 相変らず藤尾の叫び声は聞えているが、洪作はそれに応えないでいた。何となく一人にしてお いて貰いたい 気持だった。藤尾は一人でビールを飮むのが厭になって、洪作を探しに来たものと 思われたが、洪作としては、そうそう藤尾の思い通りになるものかといった気持があった。 同じ中学に通っている頃は、一度もこうしたことはなかった。いかなる場合でも、一人で居る より、藤尾と一緒に居る方が楽しかった。何日一緒に居ても倦きなかった。それなのに、こんど は、藤尾とゆうべ会ったばかりなのに、早くも藤尾の言動が鼻につき出していた。藤尾と遠山と を較べると、藤尾の方がずっと頭もよく、喋ることも気が利いて . おり、何事にかけても一段上だ オカいまの洪作には遠山の方が気に合っていた。 昨日のように大喧嘩をしても、すぐ仲直り

6. 北の海

もう一年居ても、合格は難しかったと思いますがー 「去年は、誰か合格しましたかー こんどは遠山が訊いた。 「去年というのは、僕がはいった年ですが、やはり一人もはいりませんでした」 「おととしは ? 「おととしも、はいっていませんー 「じゃ、誰もはいっていないんですね」 海「いや、昔ははいっていました。有名な選手で、金子大六という人がありますが、その人など、 やはり金沢で浪人生活を一一年送り、はいった年に優勝戦で六高の大将を投げています。鈴川三七 の彦、これも全盛時代の大将ですが、やはり四高の道場で練習しながら、受験勉強をしていた人で す。鈴川が合格するかしないかは、四高柔道部にとってはたいへんなことでした。この人も一年 の時から、高専大会の花形でしたー それから、蓮実は洪作の方に、 「どうです。中学の道場に通っているくらいなら、金沢へ来て、四高の道場に来ませんか。昼は 練習し、夜は勉強する。勉強の邪魔はしません。あなたなど小柄だから、寝技をやったら、凄く なりますよ」 と一一 = ロった。 「だめ、だめ」 内儀さんが横槍を入れた。 105

7. 北の海

て、二人の若者のところへ行って、 「俺たちは金石の海に行って、夕方まで遊ばうと思うんだ。お前らも仲間に人れてやる。一日付 合え。めしぐらいは俺が奢ってやる。たまには骨休みをしろ。がつがっ働くな」 そんな勝手なことを言った。それから大天井は、 「よ、、いごろう」 と、一人の若者の肩をばんと叩いた。若者は二、三歩あとにさがった。 「帰りに金石で魚を食いたい。安くて、うまそうなところを案内してくれ。一緒にビールを飲も 海う」 こんどは他の若者の肩を、大天井は叩いた。その若者も一「三歩あとにさがった。 の二人の若者はまた相談していたが、やがて相談が纒まったらしく、一人が大天井のところに来 「相棒の家が漁師だから、魚を食うんなら、あいつの家がいい と思うんだ と一新った。 「そうか、そりや好都合だ。そこで魚を食わして貰おう」 「そうしてくれるんなら、乗ってもいし 相手は言った。、 交換条件を持ち出して来るところは、多少計算高く思われた。 大天井が積荷台に乗ると、若者一一人も前の連転台に乗り込んだ。すぐトラックは動き出した。 四人はビール箱ぐらいの大きさの荷物の上に、それぞれ腰を降ろした。 鳶は荷物を見廻して、 440 て、

8. 北の海

366 た がと 俺苦 苦権おな 野戸 うち のし はす ど権 な言首と 掛が 掛一 つお 思杉 のめ け叫 のた 。る 命だ 習そ でた 喉こ じ ががはあ こか 野き はて れ作 終一 たは 南十 はた と人 と立 う変 い掛 にな うけ 員聞 も出 カゞ 返向 なて けい れて れる 不掛 幸け 参聞 にね がな なば ある つな た こが をカ 理な 由る にも し てか 夏判 練な を 十権十 をん一 い の の 、の 人藤人杉ー け と 練 仕 る た 行 て 歩 に 方 も で ん と と ふ と る が杉 / △てろ し - ー 1 呈杉もお利 ち と ー -1 オょ い じ や な い ー -1 く ー・ 1 締 めー 利 か か の い ー -1 し く か が のた変 カ 任 せ に 締 め 上 げ て た が そ の つ ち に ま け し た 感 じ で 手 を 放 し 月リ つも . に い な 、かは わ れ い こ お ち し は、 た 力、 洪 い作お の 、ぜ し、 っぜれ い を し の い 杉 は お の に く 襟 戸締杉 め し、 り て ま オこ こ ん 戸 と っ し間た に つひ野 つ さ り 下 た し て つ そ の は藤初 一葉ら はでや っ杉直 尸 いはだ ま に 立 行 な よ し か し

9. 北の海

それぞれ客が取り巻いていた。 杉戸はくんくんと鼻を鳴らし、 「いい匂いだな」 と言った。確かに肉を煮るうまそうな匂いが広間全体に立ち籠めていた。 四人は隅の空いている卓を囲むと、みんな上着を脱いで、シャッ一枚の姿になった。女中が二 人やって来た。 「あんたたち、夏休みだというのに、まだうろうろしているの。困った人たちだね」 海一人が言った。 「牛肉を食わせろー の ~ 焉が一一一口 , っと、 「商売だから食べさせて上げるけど、おとなしく食べるのよー 「いつだっておとなしく食べているじゃないか 「嘘おっしゃい。 いっか、火鉢を袴の中に人れて持ち出そうとしたのは、あんたでしよう」 「知らんな」 「だめ、だめ、ごまかそうと思っても」 それから、 「あら、この人も一緒だった ! 」 と、杉戸に眼を当てて言った。 「知らんよ」 513

10. 北の海

475 杉戸はさんざんやつつけられた報復に、最後に憎まれ口を叩いた。自転車と別れると、 「腹の立っ野郎だ」 杉戸は言った。それから一一人はロをきかないで歩いた。言葉を交す一兀気はなくなっていた。 無声堂 海日本海を見に行った翌日、道場へ出てみると、道場の様子は一変していた。東大から一一人、京 大から四人、九大から一人、それに地もとの金沢医大から一一人の、柔道部の先輩たちが顔を見せ のていた。三年の部員も四、五人出席しており、大部分が洪作の初めて見る顔であった。先輩たち の半数は柔道着を着、あとの半数は大学の制服を着たまま道場へ出た。先輩たちはすぐ判った。 しやば 北以前は青鬼赤鬼の一族であった筈であるが、現在は娑婆の普通の人間の顔をしている。鳥の巣の ような頭をしているのは一人もなかった。 大天井も、この日から道場へ出ることを許されて、大きな体を柔道着に包んでいた。蓮実も姿 を見せている。 一同は道場に出ると、それぞれ所定の場所に居並んだ。先輩たちは柔道着を着ているのも、着 ていないのもひと固まりになって坐り、三年の部員は三年の部員、現役の部員は現役の部員で、 多少の間隔をあけて、先輩たちと向い合って坐った。現役の部員たちの一番端のところに大天井 と洪作は坐った。