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検索対象: 彼のオートバイ、彼女の島
269件見つかりました。

1. 彼のオートバイ、彼女の島

225 彼のオートイ、彼女の島 「 350 くらいのを、買おうかな」 「な。せ ? 」 「大きいのになれるため」 「必要ない。 250 を乗りこなすのが、ほんと言って、オ 1 トパイ乗りのひとつの目標なんだ。 2 50 がこなせたら、ナナハンの試験なんて、すぐ受かる」 「むずかしいって言うじゃない」 「受ける人たちの程度が低いんだ。押し歩きの 8 の字で外側に倒れたりするんだもの」 「 2 5 0 と 7 5 0 では、重さは確実にちがうでしよ」 「取りまわしを練習したらいいんだ。・ほくのカワサキで」 「走るのは ? 」 「貸しコ 1 ス」 「教習所 ? 」 「うん。日曜日に」 「仕事は ? 」 「泊まりのシフトにしてもらえばいい」 「シフトは、わりと自由なのね」 「だから、ポーナスがないんだ。よその会社は、シフト制が厳しくて、たくさん稼ごうと思っ かせ

2. 彼のオートバイ、彼女の島

もう一度、ぼくが言った。 「なんでもない。じっとしてて」 命令口調で、彼女が言った。 そして、 くちびる と、まっ赤に塗った唇から、息をもらした。 ぼくを抱いていゑというわけではない。壁にぼくの背や尻をつけて立たせ、そのぼくに自分 の体をべったり押しつけている。胸のふくらみでぐいぐいとばくの胸を押し、下腹が、独自に、 回転運動をつづけている。 の彼女は、のけそる。目の前に、かたちの良い鼻の穴がふたっ、見える。小鼻が、荒い呼吸と共 彼に、広がったり閉じたりしている。歯が白い。舌のさきが出てきて、唇をなめる。 イ 「よせ」 「よさない」 オ 「やめろ」 の 彼 「すこし待って」 「人が来る」 「五時まで、誰もいない」

3. 彼のオートバイ、彼女の島

268 歓声と拍手だ。ステ 1 ジの右わきにいるライトマンに、スポットをひとつつけさせ、客席にむ けさせた。もうすこし右、ちょっと下、とナミは指示し、ついにそのスポット・ライトは・ほくの 右どなりの小川をとらえた。 「あの人」 ナミの声に、みんなが小川を見た。 「立ちあがっておじぎしろ」 川の肩をゆすった。 「ステージに出てきてもらおうか」 と、ナミが寄席に呼びかける。さかんな拍手だ。 「よしてくれよ」 小川が、低い声で言っている。 「いってこい」 ・ほ・か・月 ) ーノ 日の背を押し、 「お願いします。サンシャインのためです」 と、ディレクターが言う。 拍手にせきたてられ 4 丿 、、日は、しぶしぶ、席を立った。ステージにあがり、ナミの肩に片手を 置き、客席を見渡した。

4. 彼のオートバイ、彼女の島

まるつきり違うの」 「俺のと違うのか」 「そう ! 」 「人がかわれば、曲も違ってくるさ」 「こんなにも違うものなの ? 」 「どっちが気に入ったんだ」 「あのね。コオのも、素敵なのよ。すっきりまとまってて、歌の持ってる感じをひつばり出し てくれるでしよ。だけど、小川敬一のは、なんて言うんだろう、ひつばりこまれちゃうのね。も とは自分でつくった歌なのに、ぐんと深みが出てて、その深みは、私にはなかったものなの。小 川敬一つて、深刻な破減型だわ」 妙なひと言を加えて、ナミは、言葉を切った。 「小川のアレンジのほうが、気に入ったわけだ」 「まあ、そうなのね」 「な・せ『道草』にいるんだ。昼間でもあいているのか」 「だって、昼間は、契茶店ですもの」 いまは土曜日の午後一時すぎだ。ばくは、明日の午後まで、時間があいている。久しぶりにと れた休みだ。

5. 彼のオートバイ、彼女の島

「あと一曲、のこってるの。ちょうどよかった。つきあって。いまの自分をこれまでの十曲で さらけ出して、もうほとんどからつぼなの」 「これがあるじゃないか」 ばくは、ナミの腹を指さした。 「すいぶん大きい。双子だな」 「お医者さんに聴診器で聴いてもらったの。中身は、ひとりですって。寝てると、蹴とばすの 「なにが ? 」 「なかの赤ん坊が、なかから、私のお腹を蹴っとばすの」 島 、つもとかわらない小月たた の 彼「ちょっかいを出しすぎたんだ。そしたら、怒って、泣きだした。のこりの二曲について、う れたいかたをかえさせようと思ったら、私を自分好みの女にかえようとしてると言って、ナミは怒 レったんだ」 オナミとのいさかいを 、小川はそんなふうに説明した。 彼「人を自分の好みにはめるなよ。出たとこ勝負なんだから」 ミーヨよ ? ・」 . 「おまえに言われなくても、わかってる。 「好きなようにやってる」

6. 彼のオートバイ、彼女の島

しかも、フェイク・エンディングなんか使って」 「あの歌だけ、題名がまだないんですよ」 ディレクターが、うれしそうに笑いながら、言った。 「サンシャイン・ガールにしたら ? 」 「サンシャイン・ガールね。すると、歌詞をすこしかえないといけない」 「リフレインの部分に、サンシャイン・ガールという言葉は、うまく乗るでしよ」 「乗りますね」 「題名といえば、ねえ、ねえ」 と、ナミが、話に割りこんだ。 の「録音のときの・ハックの・ハンドの名前も、きまってないのよ」 彼ナミの友人のミ = 1 ジシャン仲間から、五人を選んで・ハックをやってもらうのだという。 イ 。。、ツク旅行でヨーロッパにいったっ 「。ヒアノだけ、女のこなの。いま、ウィ 1 ンにいってる いでに、国立アカデミ 1 の。ヒアノの試験を受けて合格しちゃったこなのよ。そのこが、リ 1 ダ オになると思う」 彼 「女のこが、 リーダ 1 か」 と、一アイレクターが一一 = ロった。 「白雪姫なんて、どうだろう」

7. 彼のオートバイ、彼女の島

178 「いろいろあったけど、人が持っていった」 「残ったのが、これか」 「うん」 「おまえにちょうどいいよ。おまえは、役立たずのロマンチスト屋だから」 「実利派だよ」 「馬鹿言え。プラグマチストなら、原稿の輸送にカワサキのなんか使ったりしないよ。使 いにくくてしようがないだろうが」 「まあ、な。クオーターなんかにくらべると、だいぶちがう」 「ガソリン代は会社が出してくれるのか」 「自前」 「きゃあ ! 」 「・せんぶ、自前。タイアもオイルも。豆球も。事故だって、そうだ。ポーナスはないし」 「やつばり、ロマンチストだ」 この小川は、すこし変わったところのある男だ。 いつも、・フルージーンズにダンガリーのカウポーイ・シャツだ。夏のあいだは、袖口をまくり、 胸や背中に汗をうかべてたが、いまは下に白い e シャツを着こみ、袖のスナツ。フを止めている。 ぼくがいまのカワサキを手に入れて間もなく、学校で知り合った。それまでにも顏は知ってい

8. 彼のオートバイ、彼女の島

172 唇をはなす。香りが、ほのかに甘い。 彼女の胸が、大きく上下している。呼吸が、深く早い。・ほくの左腕に、それが、胸のふくらみ といっしょに、はっきりと感じられる。とても素敵な感じだ。 「でも、いくとこ、ないのよ」 「なんだって ? 」 と、ききかえしたとき、いきなり、 「そこのオート・ハイ ! なにをしている ! 」 と、左ななめうしろから、ス。ヒーカ 1 をとおした、かん高い声が、・ほくたちに浴びせられた。 ・ハトカーた。 「なにをしている ! 」 ・ほくは左を見た。 人々が足をとめる。歩道の端へ寄「てきて、・ほくたちを不思議そうにながめる人もいる。 運転席の警官が、窓から顔を出している。 「左端へ寄りなさい ! 」 窓の外に出した右手のジ = スチ = アと共に、左手に持ったマイクに、警官はそう言った。 威圧するように、パトカ 1 は、すこし前進した。 「歩道に寄る」

9. 彼のオートバイ、彼女の島

「そうよ。大工道具のカンナ」 「なぜ ? 」 「男の身を削るもん」 と、麻里は、身ぶりを加えた。 「よく言うよ」 三人の男が、そろって笑った。 「その薄い腰で」 「助平ねえ」 「でもさあ、男をほろ・ほすのは、意外にこういう女なんだ。なあ、橋本」 「こいつあ、知らないよ。オ 1 ト・ハイにまたがってばっかりだから」 ウェ ートレスが、麻里の注文したものを持ってきた。アイス・ウインナだ。広ロのずんぐりし たグラスにアイス・コーヒーを入れ、コーヒーのうえにクリームが厚く白い層をつくっている。 「ああ、飲みたかったんだ、これ」 グラスを持ち、麻里はロをつけた。 「白いヒゲができるよ」 グラスをかたむけると、クリームの下から、アイス・コ 1 ヒーがロのなかに入ってくる。こ・ほ さずに飲もうとすると、鼻の下にクリームが白く八の字ひげのようにくつつく。

10. 彼のオートバイ、彼女の島

と、・ほくは言った。あきらかに、いまの・ほくは、気持が沈んでいる。 ギターをかかえ、うたった。ナミが最初にうたった歌だ。メロディの要所をいくつかしめなお し、美しさがきわ立つようにし、コードをすこし変化させ、ギターのストロークにも特徴を持た せた。うたいおわると、高校生たちがまた拍手した。 ギターを置き、・ほくはカウンターにひき返した。コースターとメモ用紙をカウンターに置き、 腰をおろした。 「たいへん、たいへん ! 」 、、・まくのとなりの席に、スカートを広げてすわった。 とナミが一一 = ロし冫 「あなた、音楽をやる人なの ? 」 と、・ほくの腕をつかんだ。 「プロ ? 」 ・ほくは、首を振った。 「ナミちゃんの歌だったわねえ。ナミちゃんが自分でうたうよりも、すっきりしてた。おじよ うずなのね」 カウンターのなかで、おばさんはにこにこ笑っていた。 「ねえ、ねえ、ねえ」 ナミがぼくの肩をゆする。