「ほかに女のこも何人か来るんだって」 「なおさら、いくべきだ。夜は、乱交パーテイだ」 「青春だな、これは、きっと」 「麻里、こわいだろ、乱交は」 「相手があなたたちなら、交わりのうちに入らないわよ。女が満ち足りて痴呆状態になってこ そ、交わりなんだから」 「おまえも、すこしは、わかってきたようだ」 いくことになった。・ほくも、いくことに決めた。 結局、今日このまま、九十九里へ アパートに寄 0 てもらうことにした。・ほくだけは、オ 1 ト・ ( イでいく。セリカのうしろの席は、 島せまくてかなわない。 女快晴たったのは、海に着いたその日だけだった。 明くる日は、朝からタ方まで、ま「たくの曇り空。明かるくて強い陽光を・ほくは期待していた イ オ漫然と海岸にいて、一日すごした。次の日は、昼からきれいに晴れた。 彼晴れてさえいれば何日でもいたいのだが、明日からはまたアル・ ( イトだ。帰らなくてはならな 部屋数が四つの小ちんまりした別荘に、十人もの人がいる。麻里を含めて四人の女のこたちが、 ちほう
冬のオ ートパイは、枯れ葉とのかけっこだ。そうでもしないと寒くて乗ってられない。 並木のある広い道路の交差点で、朝早く、カワサキにまたがり、ひとりで信号待ちしている。 うっすらと空をおおった冬の雲の切れ目から、陽が射している。薄い陽ざしだ。人のいない歩道 に、並木の影が、かろうじて、できる。木の枝さきに、葉はほとんど残っていない。枯れ葉にな って、あらかた落ちてしまった。まもなく信号が青になるというとき、ななめうしろから、風が 吹く。その風に乗って、カラカラカラと、乾いた小さな音が、アスファルトの路面を走ってくる。 カワサキの右わきを、その音は、走り抜けていく。 一枚の落葉だ。路面を吹き渡る風に、その落葉は、水車のように、くるくると舞っている。固 かっしよく く枯れて褐色になった葉のさきが、アスファルトに触れ、カラカラと音を立てる。落葉は、まっ 「白雪姫と四人の小人たち ? 」 「子持ちガレイと五人の漁夫」 「鶴姫と四人の百姓は ? 」 「それはいけないのよ、差別用語だから」 ディレクターが、また・ほくに顔をむけた。 「お腹が大きくなりきった頃、六月に、レコ 1 ディングなんです。面白いでしよ」 つるひめ
みんなは、それを見て笑った。まるで幼稚園だ。 麻里は、サンダルの先で・ほくの・フーツのヒールを軽く「てよこした。 「どうしてるのよ、コオ、最近は」 「どうもしてない」 「ライ・フラリ 1 でパ・フロ・カザルスを聴いてたの。弾きながら、うーんって、何度もうなるの ね。感動的ー しばらくして、みんなで店を出た。伝票は麻里が払った。 小さな駐車場に、白いセリカのがとまっていた。・ほくたち五人は、乗りこんだ。うしろの 三人は、きゅうくつだ。麻里が運転した。 「五人も乗ると、ハンドルの感しが、ぜんぜんちがう」 島 女やがてクーラーが、きいてきた。 彼 どこへというあてはなく、都心にむかって走った。街道をいきながら、郵便ポストをみつけた とうかん イ ばくは、セリカをとめてもらい、白石美代子への返事を投函した。 一走りながらいろんな雑談が四人のあいだを飛びかった。・ほくは、おおむね、黙っていた。 彼ほかの仲間たちはどうしているのだろうかという話になり、夏休みのいまでも東京にいること が確実な連中のところへ、赤電話が見つかるたびに、電話した。 三度目に、大垣がセリカを降り、和田という男の自宅に電話した。
208 「アクセルの開けすぎ ? 」 「シフト・ダウンしろよ、かならず。ギアは、高すぎるよりは低いほうがいいんだから」 「どうして ? 」 こういうところが、ミ 1 ョは、まだ・せんせん弱い 「なにかあったとき、とっさの加速で、かわせるじゃないか。カー・フに入るときはスロ】で、 出るときに加速して、オートバイらしくファストで抜けきる」 「ハンクは ? 」 「倒しすぎになりそうだ。悪いくせがっかないうちに、なおすといい」 「倒しこむと、気持いいのよ」 「そのときだけさ。あとで、えらい目に会うよ」 秋の峠で、甘いような、からいような団子。ッ 1 リングのライディング・テク = ックについて、 常識的なことだけど、語り合う。団子の味と空気の香り、それに、話の内容が、よくからみ合う。 しかも、相手は、ミーヨ。いい気分だ。 「おなじカー・フを、おなじマシ 1 ンに乗り、おなじス。ヒードで抜けても、路面をこする人とこ すらない人がいる。こすらない人のほうが、有望なんだ」 「倒せば、こするもんだと思ってた」 「ラインのとりかたがいけなかったり、ギアが適切でなかったり、体の・ハランスがよくなかっ -
168 てんとう 進入してくる車に面して、「トンネル内、点灯せよ」と書きらけた大きな看板が中央分離帯に 立っている。・ほくは、その看板とトンネルの入口との中間にいる。 約東の時間は、七時十五分だ。 しばらく前に、ぼくは、ここへ来た。今日は、六時あがりの仕事が、ちょうど六時に終った。 ここへ来てから、ずっと、こうして石足をつきつばなしにして、待っている。高層ビルに窓がい くつもあり、不規則に黄色く、明かりが輝いている。 人が、たくさんとおる。ビルにくる人、駅のほうへむかう人。はじまったばかりの夜のなかを、 そんな大勢の人たちの歩きかたが、けだるい。 目に入る文字を、ぼくは、何度も、読んだ。右側の車線のすじむこうにある高層ホテルには、 — 0 の英文字がブル 1 地に白。それに、植えこみのなかに、「展望室入口」という標示。 行手の陸橋には、「新都心地下道」「けた下 4 ・」と、読める。三井ビルへの階段のわきに は、「ひろば」「商店街」「住宅センター」。左端の車線には、白い字で大きく、「タクシ 1 のり ば」。歩道の端に標識が立っていて、その標識にも、「タクシーのりば」とある。のりばにタクシ 1 がつづけて入ってきた。屋根の標識は、「国産」「帝都」「大和」「個人ー「新日本」。もう一台、 「新日本」が、駅にむかって走っていく。 新都心地下道が、ゆるいカー・フを描いて、駅にのびている。クリーム色に塗ったコンクリ 1 ト けいこら′ン」う くつもつづく。 の柱が何本もつらなり、螢光灯の光をうけている。車の赤いテール・ランゾが、い
118 輸送員の先輩たちが、お盆にあわせ、その前後に休みをとる。年齢で言えばばくは中堅以上な のだが、それでも、年上のしかもキャリアのながい、沢田のような先輩が何人かいて、彼らが休 みの日をさきに決定する。八月のはじめにしか、ぼくの休みはとれないことになった。 電話をかけてくれた美代子にそれを伝えると、それでは私もあなたに合わせる、と言う。べっ にどうしても盆踊りに帰らなければいけないわけではないから。美代子は、そう言っていた。 何度か電話をかけたりかけてもらったりして、瀬戸内海いきの計画を立てた。 一日さきに彼女が西宮から島へ帰り、次の日の午後、ぼくがフェリーで笠岡から渡っていく。 それを美代子がむかえてくれる。そういう段取りになった。 フェリーは、午後の早い時間だった。 笠岡の、国道 2 号線からすぐの、小さな港からフェリーに乗った。車は一台もいず、大きなオ 1 ト。ハイは・ほくのカワサキだけ。ほかに、島の人だろう、ホンダのペンリイのおじさんがいた。 おばさんや女子高生、それに、島へ泊まりがけで海水浴にいく人たちで、フェリ 1 は、なんとな く満員の感じがあった。 白く塗った、小さなフェリーだ。 そうだしつ 船体の中央に・フリッジがあり、そこに操舵室が乗っている。・フリッジの後方は、濃いグリーン てんがい の天蓋でおおった駐車スペース。そして、そこから階段があり、小さな船室にあがっていける。 駐車ス。ヘースには、車がないかわりに、コークが満載してあった。
ぼくは表通りに出ていった。 山車が一台、こちらにむかってくる。菓子屋の前に立ち、ぼくはそれを見守った。 いしよう 祭りの衣裳に身をかためた若い男たちが、山車からのびている二本の長いロー。フを引いている。 踊っている人たちもいる。 山車は背の高い二階建てだ。古風な、こったっくりの屋根が四本の柱で支えられ、手すりで囲 はやしかた まれた高いスペースのなかでは、芸者がひとり、レコードの音楽にあわせて舞っている。囃子方 が、芸者のうしろにすわっている。 その下のスペースには、大きな太鼓がはめこまれたようにつんであり、お神酒をそばに、地元 のだんなたちが何人も乗っている。ここにも、四方に手すりがある。 二階の屋根からは、提灯がたくさんさがり、祭りのために寄付をしてくれた人の名前と金額を 書きつけた白い紙が、ずらりと貼ってある。 山車の車輪は、木製の大きなものだ。まわりに、子供たちがついている。芸者の踊りがおわっ た。山車は、ゆっくり、動きはじめた。 三又路で、山車はとまった。 町なかにむかって、ぼくは歩いた。ほどよく暑い夏の夜だ。祭りにふさわしい ざっぱく 雑駁にならんでいる建物のなかに、ワラぶきの古い農家が道路に一軒、残っていたりする。す けいこうとう だれをかけた戸口から、なかが見える。天井の螢光灯の下で、ステテコだけの老人が酒を飲んで
と、何人かが、声をかけてよこす。 英国紳士とは、・ほくが 0 のパーチカル・ツインに乗っているからだ。イギリス系の、いか にもオートバイらしいクラシカルなエンジンと別体ミッションなのだ。本国のイギリスにも、も うこんなオート・ハイは、ない。 真四角の、殺風景な部屋だ。天井はダークなグリ 1 ンで、鉄板の壁はクリーム色に塗ってある のだが、きたない黄色にすすけている。 ふたつの壁いつばいにスチールのロッカーがある。あいた壁には、仕事でよく出向く先の電話 番号や、同僚たちの自宅の番号が、大きく書いてはり出してある。 この通信社の記者がニューヨークから持って帰ったというポルノ映画の大きなポスターが、そ 島のとなりにテー。フでとめてある。はじめての人は、これを見ると、みんなおどろく。 女大きな四角いテー・フルのまわりに、全員がすわっていた。 コークの空きカンや、弁当の容器、スポーツ新聞、マンガなどが、散らばっている。 イ オート・ハイのロ 1 ドレースのクラ・フに所属している数人の男たちを中心に、ロ 1 ドレースの話 オが展開していた。 彼しばらくして、出社してきた沢田秀政を、・ほくは、視界のはじにとらえた。 テ 1 ・フルの隅のほうにすわった沢田は、・ほくを見て、立ちあがった。テ 1 ・フルをまわって、ゆ つくり、彼は歩いていく。・ほくは、気づかないふりをしていた。
248 いちばんよろこんだのは、ミーヨだった。 「どこなの。ここから近いの ? 」 「車で二時間もあれば、いけてしまう。山の中だ」 「丹沢か」 ート・ハイ・ツーリングに関してよ、ま こういうことに関する小川の推量は、いつも正しい。オ くよりもはるかに徹底したクレージーだから、地理はよく知っている。 「コオ。あなたに故郷があるの ? 」 ナミが、きいた。 「あるさ」 「せんぜんそんなこと感じさせない人よ、あなたは。星から来たみたいな人」 「いってみたい」 ミーヨは、うれしそうに言っていた。 「まだ陽は高い。ひと走りしよう」 、Ⅱこ一一 = ロった。 し J 、・ま 2 、は , ー . 冫 「これか」 小川は、オ 1 トパイのハンドルを握るしぐさをしてみせた。・ほくは、うなずいた。 「私に乗せて」 たんざわ
警官は、一歩、前へ出た。 右腕をまっすぐにのばして・ほくを指し、 それをかぶっていた男は、どこへいった」 「その赤いへルメット。 ・ほくを、はったと、にらみつけてよこす。 すこし間を置き、 「どこにもいきませんよ」 と、・ほくは、こたえた。 「このヘルメットは、・ほくのだから。朝からずっと、・ほくはここですよ」 「それは、ちがう ! 」 島 警官は、おかしな言いかたをする。 の 女 「ちがわねえよお」 彼 ナみ れ部屋の隅で漫画を読んでいた小野里という男が、どすのきいた低い声を出した。いま部屋にい る男たちのなかでは、いちばんの年かさだ。 オゆっくり立ちあがって漫画をテー・フルに伏せ、小野里は、警官の前へ歩いた。 彼 「いきなり人んちへ入ってきて、なんなんだよう」 警官も負けてはいない。右腕をのばし、小野里を無言で押しかえした。 「なんだよう。なぜ、人を押すんだよう」