・ : 、・まっちり見える へのカー・フ、それに、左の太腿の側面なとカ もう、駄目だ。 高原列車について、さらに彼女は、楽しそうに喋った。どんな受けこたえをしたのか、ぼくは、 いっさいお・ほえていない おどろいたことに、彼女は、湯船のふちをまたぎ、お湯のなかに入ってきた。・ほくになかって 歩いてくる。お湯とすれすれのおへそだけが、な・せか、くつきりと見える。 サッシの窓のほうへいった。 ばくのすぐわきをすり抜け、彼女はアルミ・ 窓の前に突っ立ち、ぼくを振りかえる。 「あれ、なにかしら」 と、窓の外を指さす。 駄目たよ、それは無理というものさ。 窓の外を見るためには、彼女とならんで立たなくてはいけない。そんなこと、できない。 ばくを振りかえったまま、彼女は待っている。 肩まで湯に沈んだまま、・ほくは静かに歩いた。彼女のところまでいき、おそるおそる、中腰に なった。そして、いいことを発見した。 尻をうしろに突き出すようにして腰を「く」の字に曲げ、太腿をびたりとつける。そうすると、 坊主頭の彼は太腿のあいだにはさまれ、見えなくなるのだ。 しやペ
196 へむかった。 アパートに帰りつくと、階段のわきの道路に、 O 4 0 0 がとまっていた。まだエンジンが熱 カワサキを駐車場に入れていると、小川が階段を降りてきた。 「どうだ。面白かったか」 「病みつきになりそうだ」 道路に出てきて、、ー / 月は左右を何度も見た。 「もうひとり、帰ってくるんだがなあ」 と、ひとりごとのように一一 = ロう。 「おそいな」 「なんだって ? 」 「もうひとり帰ってくる、と言っただけさ」 やみ 川が言いおえるかおえないうちに、むこうの闇のなかに、ヘッド・ランプがひとつ、見えた。 オートパイだ。排気音から察して、 2 5 0 クラスのミドル・ランナーだ。いい音を出している。 近づくにしたがって、スビードを落とす。 「帰ってきた。俺が以前に乗ってたヤマハだ」
274 置き去りにしたにちがいないと思っていると、うしろから顎のさきをかすめ、前方へ急速に吹き 抜けていった。その一瞬、風の姿が目に見えたようだった。 夜おそく、街灯に照らされた並木の道路。人はもうとっくに家のなかに入ってしまっている。 月のない夜だ。つらなっている水銀灯の街灯に、アスファルトの道路がうかびあがり、冬でも葉 をつけている並木が、くすんで銀色に光っている。一本の樹に寄せて、電話ポックスが見える。 明かるく照らされた黄色い電話機。ポックスの中はとてもあたたかいのではないかと、ふと思う。 冷たい木枯らしとの競争をあきらめ、吸気音を聞きながらおだやかに走っていると、ヘルメッ トのうしろにカチンと当たるものがある。 一枚の枯れ葉だ。ヘルメットの前にまわってきて、小さなグライダーのように、木枯らしのな かを滑空していく。風の中で反転するたびに、街灯の白い光を受けて、鈍く輝く。月のない夜の 暗さと、自分の身のまわりだけしか照らさない街灯の光のせいで、前方にまっすぐのびている道 路には、奇妙に奥行きが感じられない。そのなかを、枯れ葉が一枚、まっすぐに、飛んでいく。 街灯の明かりのなかへ入っていくたびに、鈍く光る。暗さに奥行きが感じられないから、その棈 れ葉は、空中の一か所に静止しているように思える。 その枯れ葉めがけて、・ほくは、カワサキで走った。すこしアクセルを開けてみた。枯れ葉は、 位置をかえない。反転をつづけているから、飛んでいることにまちがいはない。だが、静止して いるように見える。さらに、・ほくは、アクセルを開いた。右側の回転計の針が、左から右へ、あ
二台のオート・ハイの排気音が、紅葉の山にこだまする。 くつもつら ゆるやかなカー・フが、適当な間隔を置いてつづいている登り坂だ。小さな山が、い なっている。その山なみに刻まれた往復二車線の道路だ。平日なので、車はすくない。 どの山にも、紅葉と濃い緑が、絶妙の調和を見せている。澄みきった空気のなかに、秋の山が 島放っ冷気が、目に見えるようだ。 女山は、暮れはじめている。遠くの山と山とのあいだに、タもやがたなびく。小さな谷あいが、 白っぱくかすんで見える。昼間とは、空気の味がちがう。 イ 空を雲がおおっている。ところどころ、切れ目があり、秋晴れの日の名残りである、淡い・フル オーの空が、おだやかにのそいている。 彼沈んでいく陽をうけて、雲の西側は、。ヒンクに染まっていく。 ミ 1 ョの乗ったヤマハ 2 50 が、さきをいく。川が言っていたとおり、タイアをいいも のにとりかえたは、最高のできばえだ。 ( ンドルは低いものにかえてある。 「ツーリングに出るといい。二人で。いま、絶好の季節だから」 まるで・ほくの胸のなかを読みとったかのように、そのとき・ほくが思っていたことをそのまま、 ト川は、言葉にした。
「まだ、さきなのか」 「もうすぐだ。この道を降りていって、湖のむこう側にまわるんだ。湖に流れこんでいる川が また見えてきて、その川そいに林道がある。川原へ降りて、食事にしよう」 「静かないいとこだ。はじめて来た」 小ぶりな山が、いくつもかさなりあっている。樹が深い。紅葉した樹が、十一月のくすんだ緑 川の言うとおり、静かだ。山の香りがする。人工湖の、深 のなかで、枯れ樹のように見える。小 く濃い・フルーの水面が、じっと動かずに冬のはじまりの陽をうけ、山影を映している。 セリカを待ってから、ばくたちは、くだり坂を降りていった。途中で、旧道を走った。人工の 湖の底に沈められずに、ほんのわずかに残った旧道だ。そこだけ、かっての・ほくの村の面影が、 いしがき 島昔のままに残っていた。こけむした石垣が道の片側につらなり、木造の古い民家が、ひっそりと 彼木にかこまれて建っている。廃屋なのだろう、人の気配がまるでない。 へいたん 石垣の反対側は、川へ落ちこむまでのせまい平坦な土地だ。畑が草の生えるままにほうってあ る。『たばこ』と、赤い看板を出した家の庭に白い軽自動車がとまっている。ここには、まだ人 オが住んでいる。 彼湖をこえると、古いアスファルト舗装の旧道は終り、林道になった。川原へ降りていくスロ 1 プが、昔のまま、あった。ぼくたちは、川原へ降りた。 広い川原だ。ススキの生えた地面が広がり、その内側が、丸い岩の転がった川原だ。浅くてせ
朝から降っていた雨は、いま、霧雨になって、残っている。路面が濡れて黒く、車の屋根があ ちこちでライトに光る。 かちどき 1 ネス・・フーツ。グラ・フ、そ カワサキで、ぼくは、勝鬨橋にむかっている。皮のつなぎに、 して、シールドをおろしたヘルメット。・ほくは、フルフェ 1 スのヘルメットは、使わない。風が 顔にこないから。 十一時半に、有明へいかなくてはならない。沢田秀政に申しこまれた、決闘のためだ。 どんな決闘なのだろう。 真剣にあれこれ想像すると、気分は急速にダウンし、不安になってくる。 静かに、ばくは、勝鬨橋をこえた。 つぎしま や倉庫、それにさまざまな まっすぐに月島を突っ切って朝潮運河をこえ、晴海。公団アパ 1 ト 四角いビルが、霧雨の夜の空間を、おりかさなるようにふさいでいる。 晴海のまんなかで左折。ふいに、潮のにおいがした。 晴海橋を渡ると、行手に、そして両側に、石川島の工場だ。とんでもないところへ迷いこんだ ような錯覚が、一瞬、ある。 しののめ 貨物線を三度渡ると、東雲橋だ。この時間、このあたりの道路は、がらんとしている。工場の 建物の間に、いきなり、小さな貨物船が見えたりする。なにを見ても、気分はひき立たない。 東雲を有明へ右折した。左側がゴルフ場になっている、長いまっすぐな道路の行きどまり近く
・プレートを読んで ほくがいなくても、 O 4 0 0 のナンく 見えないはずだ。あの加速では、・ 覚えているゆとりは、なかったはずだ。すこしアクセルを開き気味に走りながら、・ほくは、ふり かえった。 マ 1 クⅡは左に寄ってとまり、ドライ・ ( 1 が外に出て、ミラーの折れた跡を見ていた。 加速して、・ほくは小川を追った。 、川は、タイミングよく青を狙い、抜けていく。 前方の交差点を 小川が右折した交差点のひとつ手前の信号で、ばくは、とめられた。 青にかわってから、ゆっくり交差点に出て右折すると、小川がすぐさきにとまっていた。なに ごともなかったように、けろっとしている。サドル・パッグにおさめたのだろう。 島「ざっとあんな感じ」 女うしろにとまった・ほくに、ふりかえって小川は言った。 ・ほくは、笑ってしまった。 イ 「ミラーは、ぼっきり折れた」 オ 「そうさ」 彼「車をとめて、折れた跡を見てたよ」 「青天のへきれきさ」 「おどろいただろうな」
竹橋のほうにまわりこんでいくぼくに、くつついてくる。 日曜の夜もこの時間になると、人通りはなく、車もまばらだ。 白いスカイラインは、・ ほくの右に寄ってきたまま、ス。ヒ 1 ドを合わせて、ついてくる。 竹橋をすぎ、共立講堂にさしかかるころから、スカイラインは、さらに幅寄せをしてきた。カ ワサキに車体が触れそうだ。 ・ほくは、長くひつばって、ホーンを鳴らした。 運転している男は、知らん顏だ。 交差点をこえるとき、スカイラインは、左折するような動きを見せて、ばくのほうへ寄ってく ばくは、すこし左へ逃げた。 できたス。へ 1 スのなかへスカイラインは入ってきて、そのまま、交差点を渡っていく。 助手席の女のこの顔が、ちらと見えた。なにか言いながら、にやにや笑っている。 ぼくは、またホーンを鳴らし、スピードを落とした。 スカイラインも、速度を落とす。そして、さらに左へ寄ってくる。 ぼくは、左のガードレ 1 ルとスカイラインとのあいだに、びったりとはさまれてしまった。 「この野郎」 と、・ほくは、心のなかで静かに言った。
自分を落着かせるために、なれた感じで、ぼくはそう言った。 こたえずに、彼女は、両手をうなじにまわした。腹から胸まで、ぜんぶ、見えた。 ふたつの乳房が、両腕の動きと共にすこし持ちあがるように動き、ふたつの先端はわずかに外 をむいている。 顎を胸につけ、両手でうなじのあたりをどうにかしながら、きれいな上目づかいで、 「カワサキは ? 」 と、彼女は、きいた。 「外にある」 「濡れたでしよ」 島 「ずぶずぶ」 の 女ちらと、彼女は、笑った。 肩を湯のなかに沈めたまま、・ほくはどうすればいいのか、わからない。タオルと石ケンをとり イ に、外へいこうとしたのに。 オ うなじから両手を降ろすと、彼女は、ポーズをかえた。片腕で胸をかくし、もういつぼうの手 彼は、中腰になっている太腿のうえに軽く乗せた。目を伏せ、すこし肩を落とす。 男の視線のなかで、自分の裸をいまはじめて完全に意識したようなポーズだった。美しい 昼間見たときには、細っこい体の、どことなく少女っぽい女性だという印象だった。
までもすこしずつ木を切り出しているようだ。向こう岸は、山裾にそって、細長い平坦な土地だ。 畑の跡がある。いまでは、荒れるにまかせたままだ。 ミーヨし J ー 1 ハ川は、オート・ハイで林道を走りにいった。帰ってきてから、川原にスト 1 ・フを持ち 、Ⅱは、また、吊り橋までいった。 出し、食事をつくった。食べおえてコーヒ 1 を飲み、・ほくとる , 木造の簡素な橋を吊っているワイア・ロープにもたれ、 「見てみな。俺たちの女が、あやとりをしてる」 と、小月力、川原のむこうに顎をしやくった。 たき火のそばで、ナミとミーヨは、あやとりをしていた。ふたりが、そろってふとこちらに顏 をむけ、笑った。 島「ナミのつくった歌を、なおしてやったんだって ? 」 の 女・ほくは、 「おまえのアレンジは、もとの歌の気持のとおりに、きちんと出来てるんだそうだ。俺のは、 イ めちゃくちゃだと、ナミは言ってた」 「ナミは、めちゃくちゃのほうが好きなわけだ。おまえのことを破減型だと言ってた」 彼「そんなに安易にタイプ分けしないでくれ」 「ナミは、かわった女だ」 「俺には、ああいうのが、普通に見えるけど」