部屋 - みる会図書館


検索対象: 彼のオートバイ、彼女の島
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1. 彼のオートバイ、彼女の島

ろって三年間の予定でポーランドへ出張することになり、よかったら留守番がわりに若い人に住 幻んでいてもらいたいと、その人からミーヨの母親に話が持ちこまれた。 家賃は無料だという。光熱費を負担し、改造したり模様がえしたりせずにそのまま住んでもら えばそれでいし ということだった。 ・ほくたちは、引っこした。ふたりには明らかに広すぎるし、家のつくりそのものに、たいへん な違和感がある。だが、家賃がないのは助かるし、なによりもいいことには、その家から歩いて 三十分ほどのところに、広い自動車教習所がある。 日曜祭日ごとに、全コースを、貸しコースとして有料で開放している。ミーヨにカワサキを押 させて歩いていけば、取りまわしの練習になる。 八つもの部屋は必要ではない。使用しない部屋をきめ、それ以外の部屋でばくたちは生活する ことにした。家具は、倉庫会社に管理してもらっているという。 がらんとしてなにもない家のなかは、さつばりして気持よかった。会社の先輩の、ロードレ 1 スをやっている男から、ロ 1 ドレース用のマシーンの運搬に使う・ハンを借りてきて、一回ですべ ての荷物を運んでしまった。 夫婦そろってオ 1 ディオが趣味だとかで、防音の部屋がひとつあった。アン・フやス。ヒーカーは、 倉庫会社の倉庫に、レコ 1 ドと共に眠っている。厚いカーベットを敷きつめた部屋に、ばくは、 第二ゆたか荘から持ってきたささやかなオ 1 ディオ装置を、置いてみた。

2. 彼のオートバイ、彼女の島

で、地下コンコースまで、カワサキをふっ飛ばした。爆音は、祝砲のかわりだ。 ほくのほうがさきに帰りついた。 アパ 1 トこよ、・ 友人の小川敬一が、来ていた。あがりこんで畳に寝そべり、を聴いていた。ショパンの練 ープ』だ。 習曲『エオリアン・ハ 、川は、起きあがり、眠気を振り払うように、頭を振った。 部屋に入ってきたぼくを見て 「そうか、おまえには、合いカギが渡してあったな」 びところる 、、川は、オート・ ( イでよく遊びにきていた。・ほくが部屋にいなくてもあがりこんで 、、日は、ヤマハの 2 5 0 に乗 待っていられるように、合いカギを渡しておいた。あのころ 4 丿 島っていた。去年、ホンダの o 40 0 フォアⅡにかえた。 女「この部屋に来るのは、久しぶりだ。しかし、なんにも変わってない」 「変化は俺の内部にある」 イ 「なにを言ってやがる」 オ ト川は、部屋のなかを見渡した。 彼「レコ 1 ドでも聴いてようと思ったって、ろくなのないじゃないか」 と、数枚を指さした。 「なぜ、レターメンだけなんだ」

3. 彼のオートバイ、彼女の島

楽しくしているうちに、日は暮れてきた。 ・ほくには、下心があったのかもしれない。カワサキではなく、借り物のセリカにしたとこなど は、下心と言われても弁明はできない。そうだ、やはり下心はあったのだ。 帰り道、森のなかのモーテルに入った。モ 1 テル『愛の鳥』。「愛」が赤いネオン。「の」は、 紫。そして、「鳥」は、・フルーだった。 の部屋、第二ゆたか荘 204 号室 冬のあいだ、ずうっと、つづいてしまった。・ほくのアパート にも、よく来た。 話が前後するけど、秋がはじまると同時に、ばくは、全日本急送の準社員になり、いま働いて いる通信社で、オートパイに乗る仕事をはじめた。全日本急送のことは、冬美が教えてくれたの 女冬美は、ばくの部屋で、料理をつくってくれたりもした。 彼 冬の寒い日、オートパイ乗りのきつい仕事から帰ってくると部屋に冬美がいるのは、たしかに、 イ ・ ( うれしかった。かわいい顔を見ていると、ほっとする。 一でも、春が来て、冬美が高校を卒業するころになると、再び話題がなくなりはじめた。自分で 彼は気がついていなかったけれど、ぼくは、冬美からはなれていきつつあったのだ。 かならず、ぼくの部屋に はなれていくぼくを、冬美は、つなぎとめようとした。土曜日には、 きてお化粧した。

4. 彼のオートバイ、彼女の島

今日は、いやな日だ。 一週間の夏休みをとっていた・ハ不トさきのおなじ職場の先輩、沢田秀政が、今日から仕事に出 てくる。だから、いやな日。 ・ほくは、午後からの出社だ。 くるまだま カワサキで会社へいき、車溜りに入れ、同僚たちの溜りである地下一階の部屋へいった。 昼食のすぐあとなので、部屋のなかには、顔ぶれがそろっていた。 「よう、ペ ートーベン」 「英国紳士、登場 ! 」 「あなた、なにしてるヒトなの ? 」 「学生。学校には、ほとんどいってないけど」 「音楽の学校 ? 」 「作曲」 「ほんとうなの ? 「将来はべー ばくは、ナミに、きつく抱きっかれてしまった。

5. 彼のオートバイ、彼女の島

立っていって、・ほくはドアを開けた。ミーヨだった。小さな赤いスーツケースをひとっさげて 1 ドアの外に立っていた。 ・フーツを脱いで部屋にあがり、 「すぐにわかった。まちがえずに来れたのよ」 と、部屋を見わたした。 日よ・まくを見た。 ミーヨを、ぼくは川に紹介した。うさんくさそうな顔で、 「ああ、おなかすいた」 る月カら煙草をもらい、火をつけ、柱にとめてある写真の前まで歩いた。 そう一一 = ロったミーヨよ、、ー、 「なんだか、これは大昔みたい」 と、煙草をはさんだ指で写真を示した。 「年なんだよ、おたがいに」 「そうなのかしら、やつばり」 「二十四にもなってしまった」 「今日」 「おめでとう」 「ほんとに、おまえ、今日が誕生日なのか」

6. 彼のオートバイ、彼女の島

「いってやってくれ。ものは、原稿だ。政治部のテスク。現場の警官に話がとおしてあるか 「すぐに。な」 「村田のオート・ハイは ? 」 「こっちからもう車が出てる」 、。ッドの下に押しこんである、段ボールの整理箱をひつばり出した。、 受話器を置くと、・ほくはヘ 雨の日にオート。ハイに乗るための服が、しまってある。 「仕事 ? 」 島と、ミ 1 ョ力、 tJ く。 の 女「仕事」 手早く着替え、部屋を飛び出した。 イ レカワサキで雨のなかに出ていく・ほくを、 彼廊下に重い足音が聞えた。走っている。 原稿輸送員の部屋に、その足音は、むかってくる。 半開きのドアを蹴りとばし、瀬沼という男が戸口に立った。荒い呼吸をしている。 ら」 ミーヨは階段の下で傘をさして見送った。

7. 彼のオートバイ、彼女の島

222 ミーヨは、微笑した。 「まわりの海も含めて、島は広いと言うのね」 「そうだ」 「なぜ広いといいの」 「なぜって。たまには広さを補給しないと。それに、島はぼくを日常から切り離してくれる、 「ふん、ふん」 「切り離さないと、正確につかめない」 「そうね」 「そうなんだ」 もう四日も、雨がつづいている。 今日は、久しぶりに休みが取れた日曜日だ。雨でなければ、日曜に出勤しなければならない男 の肩代わりをして稼いでいるはずだが、雨だから、それはやめにした。 日曜日の昼さがり。外は雨だ。 第二ゆたか荘の、・ほくの部屋。 ミーヨは、・ほくのべッドに体を横たえ、片ひじをつき、掌で頬を支えている。 ・ほくは、ペッドにむかいあった壁に背をもたせかけて畳にすわり、両脚を投げ出している。 ミーヨよ、 ミーヨの服が、さがっている。女性の部屋のようだ。 壁じゅう、いたるところに、 かせ

8. 彼のオートバイ、彼女の島

でんえんちょうふ 田園調布から夜中の道路を、カワサキのエンジンをガンガンにまわして、・ほくは社に帰った。 しか 遅いと言って、デスクからひどく叱られた。事情を説明しても聞き入れてくれないのだ。 作家の先生がくれた小さな封筒には、一万円札が六枚、入っていた。 仕事をおえてア・ハートに帰ってきた。 ドアのカギをあけていると、部屋のなかで電話が鳴りはじめた。 ブ 1 ツのまま部屋にあがり、受話器をとった。 「あら、いたの ? 」 若い女性の声が、電話のむこうでそう言っている 1 「いるさ」 「第二ゆたか荘なのね」 「そう」 「私のとこは、すみれア・ハート」 そうだ。西宮の白石美代子だ。 すみれアパ 1 ト。 「よう」 「ほんとにかかるのかどうか、電話してみたの」 「かかっただろう」

9. 彼のオートバイ、彼女の島

警官は、一歩、前へ出た。 右腕をまっすぐにのばして・ほくを指し、 それをかぶっていた男は、どこへいった」 「その赤いへルメット。 ・ほくを、はったと、にらみつけてよこす。 すこし間を置き、 「どこにもいきませんよ」 と、・ほくは、こたえた。 「このヘルメットは、・ほくのだから。朝からずっと、・ほくはここですよ」 「それは、ちがう ! 」 島 警官は、おかしな言いかたをする。 の 女 「ちがわねえよお」 彼 ナみ れ部屋の隅で漫画を読んでいた小野里という男が、どすのきいた低い声を出した。いま部屋にい る男たちのなかでは、いちばんの年かさだ。 オゆっくり立ちあがって漫画をテー・フルに伏せ、小野里は、警官の前へ歩いた。 彼 「いきなり人んちへ入ってきて、なんなんだよう」 警官も負けてはいない。右腕をのばし、小野里を無言で押しかえした。 「なんだよう。なぜ、人を押すんだよう」

10. 彼のオートバイ、彼女の島

「よろしく頼む ! 」 ひとこと、そう言うと、瀬沼は、タンク ・・ハッグとヘルメットを、部屋のまんなかにむかって ほうりあげた。 ・ハッグは、大きなテー・フルのうえに落ち、赤いへルメットは、・ほくがかろうじて受けとめた。 瀬沼は、廊下の奥にむかって走り去った。ライディング・・フーツの足音が消えるのと入れちが いに、また足音がした。小走りにくる。 ドアロに、自ハイの警官がひとり、仁王立ちになった。皮の手袋を右手に持ち、左の掌をそれ 制服の下の分厚い胸が、荒れた呼吸をコントロールしている。股を開いて突っ立ち、一重まぶ たの細い目で、部屋のなかにいる・ほくたちを、見わたす。びとりひとりの顔を、容赦なく吟味す る。態度は自信に満ちている。浅黒い顔に、義憤の表情がある。 「どこへいったっ ! 」 時代劇俳優のような声で、白パイの警官は、怒鳴った。 「出てこいっ ! 」 ・ほくたちは、あっけにとられた。 さっきの瀬沼はこの白・ハイ警官に追われていたのだなと納得できるまでに、しかし、あまり時 間は必要としなかった。 また