巧 4 ことだ。父親が愛情いつばいに娘を抱きしめてキスしたからといって、それを秘密にしなく てはいけない理由はひとつもない。それどころか、そのようなスキンシップは子供の情緒が 健康に育っためには必要なことである。その父親の行為は、愛情のかよった親子の健全な関 係を示しているにすぎない。 ところがもし、このとき父親が子供の性器に意図的に触れたり、あるいは子供に自分の性 器を触れさせたとしたらどうなるだろうか。二人ともそのことは絶対に秘密にしておかなく てはならないだろう。ここに大きな違いがあるのである。 このほかにも、「心理的な生的行為」はいろいろある。実際に体に触れなくても、子供が 服を着替えているところや風呂に入っているところをのぞいたり、子供に対して誘惑するよ うなことを言ったり、くり返しみだらな一一 = ロ葉をかけるなどがそれである。これらの行為は文 字どおりに解釈すれば近親相姦には相当しないが、被害者の子供は心理的に似たような苦痛 を受ける。 近親相姦に関する誤解 だいぶ前のことだが、私は近親相姦についての社会の認識を高めようと発言をはじめた 時、あちこちでたくさんの抵抗に出会った。おそらくその理由は、世の人々は〃近親相姦〃 などという嫌悪をもよおさせることはその言葉すら聞きたくなく、そのようなことが存在す
と″対決〃してから、自信が増してくるのを感じはじめた。 , 彼女には八歳になる娘がいた が、両親には娘をひとりだけであずけることはしないと決め、そう両親に宣言した。父親は 加害者としての治療を受けることをまだ拒否していたし、自分を父から守ってくれなかった 母も信用できなかったからだ。 また、娘には、健康的で正常な愛情と変質者の行動の違いを教えるため、そのことについ て子供向けに書かれた本を何冊も買ってきた。これらの教材は、子供に恐布心を植えつける ことなく、その問題をわかりやすく説明し身を守る方法を教えるためのものである。 彼女はさらに、父が自分に対してしたことを兄弟姉妹の全員にいうことにした。自分の娘 ばかりでなく、甥や姪にも危害が及んではいけないと思ったからだ。黙って話を聞いてくれ た者もしたが、 , ゝ ' 彼女の行動を喜ばない者もいた。親に対してひどいことを言っているとか、 家のなかをめちゃくちゃにしたといって腹を立て、彼女を攻撃する者もいた。だが、これも 親との〃対決〃の時と同じである。その相手がどのように反応するかは、将来その人間との 関係がどうなるかを決定づける。したがって、家族や親戚のなかには関係が悪化する者も出 てくることは避けられない。それは子供たちを守るために支払うやむを得ない代価なのであ る。
いるだけなのである。いずれにせよ、どのような方法を取るにしても、自分の「感情」をは つきり認識することなしに、これより先に進むことはできない。 抑え込まれて自覚していなかった感情が表面に出てくる時には、しばらくのあいた、非常 りに不快な気分が続くことがあるので、ゆったりと構えてあまり先を急がないことが大切だ。 専門家のセラピーを受ければたちまち気分がよくなるように思っている人もいるが、そんな のことはあり得ない。むしろ気分はよくなる前に一度悪くなるのが普通である。この作業は 蛎「心の外科手術」のようなものだ。傷は治癒する前にまず洗浄しなくてはならないし、痛み 日が消えるまでには時間がかかる。だが、痛みを感じるのは癒えるプロセスがはじまったとい う証拠でもあるのだ。 生冂 読者が自分の感情を調べる作業を容易にするため、つぎのチェックリストでは感情を「罪 感 悪感」「恐れ」「悲しみ」「怒り」の四つに分けてまとめてある。これらの感情はすべて、き つかけがあると自動的にわきあがってくるネガテイプな感情であり、たいていはトラブルの え 「もととなる感情であるが、発生の予測がつくものでもある。自分の状態に近いと思われるも 章のに印をつけてみてほしい。 第 リ〈親との関係で私が感じる「感情」〉 1 ・私は何事でも親の期待通りにできないと罪悪感を感じる。
なのは私たちの気持ちであって、お前の気持ちではない。お前は親を幸せにするために存在 しているのだ」と言っているのと同じである。彼らはロに出して言うことなくその考えを息 子に吹き込み、焼き付けていたのである。そのために彼は首を絞めつけられ、結婚生活すら はたん す破綻するところだったのだ。 を もうひとつ重要な点は、彼はもしセラピーを受けてこのことを学ばなかったら、将来自分 動 ということである。彼の親は、す の子供に対して同じようなことをしていたかもしれない、 べての「毒になる親」と同様、「自分たちの望む通りにしなければ罪悪感を与え、愛情は与 よ の えてやらない」という人たちだった。これこそ、子供に対するコントロールを再び自分の手 ぜ 中に取り戻そうとするための手法なのである。彼はこのことを正しく理解できたおかげで、 無実の罪悪感から解放されることができたのだった。 親 る 言葉で語られるルールと語られないルール 毒 親の考えはその家のルールとなる。そして考えと同じでルールも時間とともに変化してい 章く。家のルールとは親の「考え」を具体的にあらわしたものであり、「 : : : をしろ」と 第「 : : : をしてはいけない」というシンプルな二種類の強制から成り立っている。 考えと同じで、ル 1 ルにも一 = ロ葉に出して語られるものと語られないものがある。言葉にさ れるルールは気まぐれで独断的なことが多いが、とりあえず内容ははっきりしている。「毎
らうが、私はそれには賛成できない。 実はかく言う私も、カウンセラ 1 の仕事をはじめたばかりのころはその考えを信じ、自分 を傷つけた相手、特に親を許すことは、心の癒しにはもっとも重要なことではないかと思っ ていた。そして、親からひどい虐待を受けた人たちに、そういう親を許すようにと私も説い たものだ。だが、その後私がしだいに発見していったのは、多くの被害者は親を許したと語 っていたが、 , 彼らの心は少しも癒えていないということだった。彼らはあいかわらず自責の 、な 念に責められていたり、みじめな気持ちゃ抑え込まれた怒りを消すことができないままでお 要 り、心身の症状はまったく好転していなかったのである。「許した」と思った時には一時的 必 許に気分がすっきりすることはあるが、その状態がずっと続くことはなく、人生が劇的に変わ を ったわけでもなかった。実際、そんな風に自分に言い聞かせることによって、さらに打ちひ しがれている人もいた。自分の許し方が足りないのだと思い込み、ますます「自分はだめな る 宀は 人間だ」と感じてしまっている人もいた。 毒 そういうわけで、私はその後、長い年月をかけて「許す」という概念について綿密に研究 章してきた。そして次第に、「許さないといけないから許す」という考えは、傷ついた心の回 第復には助けにならないばかりか、むしろ妨げになっているのではないかと思うようになっ ふくしゅう 私は「許す」ということにはふたつの要素があることに気がついた。ひとつは、「復讐を
離婚後、子供が父母どちらと一緒に暮らすことになるにせよ、片方の親がいなくなってし まうと、子供の心に大きな傷を与えてしまう。ここで忘れてならないのは、家族に何かネガ いいほど、それが自分のせいではない テイプなことが起きると、子供はほば必ずといっても かと感じるということである。子供には、「離婚はすべて親の責任であり、子供のせいでは ない」ということをはっきりと教えてあげなくてはならない。 やむなく子供と暮らさないことになる親は、その後も子供とはひんばんに会って、一緒に 時間を過ごすようにしなくてはならない。そのまま姿が消えてしまうと、子供はますます透 明人間になった感じが強まり、ひとりの人間として存在していることの自信を育てることが できなくなる。そうなると、成長してもその問題は消えないまま、成人後もずっと引きずつ 親 ていくことになってしまう。 宀は さ 果 必要なものを与えられないために受ける傷 を しつよう 義親が子供に暴力を振るったり、執拗にひどい言葉で傷つけたのであれば、その親が「毒に なる親」であることは容易に見分けがつく。だが「すべきことをしない親」「親の義務を果 章 第たさない親」の場合には、主観的な要素もあるうえ、それがどの程度のことなのかという問 題もあって、はっきり見分けをつけることが難しい 子供が親から受けるダメ 1 ジが、親が何かひどいことをしたことによってではなく、何か
時期の設定は慎重に考える必要がある。準備もせずにやぶから棒にはじめたのではもちろ んよい結果は生まないが、いつまでも延期しているのもまたよくない。 多くの人は、実際の行動に移るまでにつぎの三段階の心理状態を通過する。 第一段階そんなことは自分にはとうていできそうにない。 第二段階いっかするが、いまはまだできない。 道 の第三段階いつやればいいのだろうか ? 独 カウンセラーとしての私の経験では、ほとんどすべての人ははじめ「そんなことはできな 章 い」と言い張る。そしてつぎに、私が〃それ以外ならなんでも症候群〃と呼んでいる反応を 十 第示す。それ以外のことならなんでもするが「それだけはできない」と言うのだ。カウンセリ ングを受け、ほかの練習はすべてうまくいっていても、第二段階に進むまでには二カ月近く かかるのもまれではない。だがそこまでいければ、第三段階にはたいてい数週間で進める。 トナー ( 妻や夫 ) や自分の子供のうえに吐き出してしまうことになる可能性が非常に高いの である。 な対決々はいつ行うべきか
自分は不十分であるように感じているのである。 「毒になる親。の子供がこのように感じるのは、意識的であれ無意識的であれ、親から迫害 を受けた時に、「自分がいけなかったからなのだろう」と感じるためであることが多い。外 部の世界から自分を守るすべがなく、生活のすべてを親に依存している小さな子供は、親が 怒っているのは自分がなにか〃悪いこと〃をしたからだろうと感じるのが普通である。自分 を守ってくれるはずの親が実は信頼できない人間だったなどということは、小さな子供には 考えもっかないからだ。 そのような子供は、「罪悪感 ( なんとなく後ろめたい感じ ) 、や「自分が不十分な感じ、を心 の奥に抱えたまま育っているので、成長して大人になった時にポジテイプで落ちついた自己 像を持っことが非常に困難になる。自分に対する基本的な自信がなく、生きていくことの価 値がなかなか見いだせないようになるのはそのためなのだ。この心のメカニズムは成長後も 継続し、人生のさまざまな局面に影響を及ばすようになる。 自分をよく見てみよう 自分の親が「毒になる親ーかどうか ( すでに亡くなっている場合には、生存中そうだったか ) を判断するのは、常にたやすいとはかぎらない。親との関係がうまくいっていない人はたく さんいるが、それだけの理由でその親が「毒になる親、だとは言えないからだ。なかには、
なると、とたんに腰くだけになるのである。その時までにはそのパタ 1 ンがすでに身につい てしまっていた。 社会に出てからは、どんな仕事をしてもいつも上司に対して反抗的になった。それは、や しくつもの職を転 はり子供の時に身についたパターンをくり返していたのにほかならない。 ) 転とした後、最近ようやく気に入った仕事を見つけることができた。だがそこで、また上司 と問題を起こしそうになり、心配になってカウンセリングを受けに来たのだ。 彼がいつも上司に対して反抗的になるのは、すでに会わなくなって久しい義父にあいかわ 親らず心を支配され、「こき下ろしの言葉」が頭のなかでくり返し鳴り響いていたからである。 かなしば けその結果、彼が陥っていたのは、「完全主義」「ぐずぐずする癖」「金縛り」の三つであった。 傷 で 葉 いまの仕事はとても気に入っているが、完璧にはやりおおせないのではないかという恐 れをいつも抱いている。そのため、しなくてはいけないことをぐずぐずして、期限を過 酷 残 ぎるまで引きのばしたり、ぎりぎりになってからあわててやって結局失敗するというこ 章 とをくり返している。すると今度は、失敗するたびにクビになるのではという不安が頭 五 第 をもたげる。そこで上司が何かを言うと、非難されているように感じて過剰に反応した り反発したりする。最近、仕事が遅れていて、ついに仮病を使って休んでしまった
ができたなら、あなたはいままでに経験したことのない自信に満ちた自分を体験できるだろ その日に備えるにあたっては、最悪なケースを想定しておく必要がある。親の激高してい る顔、哀れを誘う表情、涙を流している顔などを頭のなかに浮かび上がらせ、彼らが怒って 吐く言葉や、事実を否定してあなたを非難している声を耳のなかで再現してみる。親が言い そうなセリフを声に出して言ってみることによって、そういう親の一一 = ロ葉に過敏になっている あなたの心が反射的に反応しないように自分を慣らす。そして、自己防衛的になって相手を 攻撃することなく冷静に対応する練習をする。信頼のおける友人やパートナ 1 、またはカウ ンセラーなどに親の役をやってもらい、親があなたを攻撃する時にいいそうなあらゆる言葉 を言ってもらうのもよい ( 訳注【これについては「ロール・プレイ」の項を参照のこと ) 。予想 道 のされる親のネガテイプな反応に対しては、つぎのような一一 = ロ葉を練習しておく。 独 ・あなたはもちろんそういう見方をするでしようが、 章 三・私のことをそんな風にののしったりわめいたりしても、何も解決しませんよ。 第・そういう決めつけは受け人れられません。 ・あなたがそのようなことを言うということ自体、こういう話し合いが必要だという証拠で す。