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検索対象: 現代人の心をさぐる
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1. 現代人の心をさぐる

「あれもこれも」の生き方〈エリートコース捨て転職希望〉 最近、しばしば私が依頼される仕事の中に、「どうも彼 ( あるいは彼女 ) が少しおかしい んじゃないかと思うんですけど、本人の話を聞いてみてくれませんか」という相談がある。 そのご本人の上司、配偶者、親などが、どこかおかしいのではないかと心配しているのだ が、ご本人はまじめに真剣に考えていて、しかも、直接会って話を聞いてみると、精神医学 的には何も異常はないというケースである。 そのなかでも、最も多いものを挙げると、第一は、中年過ぎの妻が突然離婚を宣言する場 合であり、二十代後半から三十代前半くらいの男子会社員が、これもまた突然、順調なエリ ートコースを歩んでいたのに、その職場をやめたり、かわりたいと言いだす場合である。 いずれの場合もご本人は最も現代的な生き方を合理的に考え、周到な準備をした上でこの ス決心を周りに伝えるのであるが、周りにしてみると、なぜなのか、何ともその真意をはかり かねるというわけである。 2 ④君 ( 三十三歳 ) は、某大学の理工学部出身の優秀な技術者であ 0 た。最先端の技術開発 にその会社ではなくてはならぬ人物であり、最近もそのすぐれた業績によって、社内で表彰 されたのである。そして、近く米国の工科大学の研究所に留学も予定されていた。

2. 現代人の心をさぐる

124 とうしてこんなことになった に入るとばかり思っていたのに、子会社に転出を命じられた。・ のか。夫自身も妻もその決定を怪しんだが、周りから見ると、この夫婦が思っていたほどそ の夫は社内での評価はかんばしくなかったようだ。 このようにして夫が大会社の部長という肩書を失い、小さい会社に移ったころから、 o 夫 人のうつ状態は深刻になった。いままでの人生が全部むなしいものに感じられ、これから生 きていく希望もない。体じゅうがだるく、ちょっと何かをやっても疲れてしまう。精神衛生 相談に行き、いまはうつ状態だと一一 = ロわれた。 彼女自身が迫られているのは、、 しままでのエリート志向の気持ちを一度清算して、もっと 落ち着いた心の内面を見つめるような生き方をこれから新しく身につけることである。 最近目立つのは、ご主人が大会社から小さな会社に出向、あるいは転職したとき、肝心の ご主人自身は何とか頑張って新しい環境に適応しようとしているのに、その奥さんのほうが がっかりして、うつ状態に陥るケースである。 必ずしも出向や転職に限らない 。うちの夫はきっと重役になるに違いない、あるいは社長 になるかもしれないと期待して、結婚以来献身的に夫に仕え、尽くしてきた。 ところが、その夫がエリートコースから外れたのがわかったり、〇〇会社の〇〇というエ リートとしての肩書を失ったりすると、妻のほうが生きがいを失ったり、絶望的に落ち込ん でしまうのである。

3. 現代人の心をさぐる

とりわけ中高年サラリーマンたちは「会社人間ー会社日ゼロ」と言われるような滅私奉公型 で、それまで勤めた会社に一体化することで生きがいを見いだしていた。 ところが、四十代半ばから五十代にかけて、そのような一体感が失われ、青年期から自分 の心のよりどころになっていた会社を離れ、別な小さな子会社や見知らぬ職場に転出、ある いは転職しなければならない。同じ会社にいれば、六十歳の定年まで地位も下がり、収入も 下がり、部下もなくなり、といった立場に甘んじなければならない。 このような心の転換期にさまざまな破綻が生じている。そして、中高年者のうつ病とか、 心身症とか、上昇停止症候群とか、さまざまな心の病理が注目されている。 それだけではない。職場生活でこのような心の危機を経験するのとほとんど並行して、家 庭の中でも中高年の夫婦の間には著しい意識の格差が生まれている。 妻たちの立場から見ると、こうである。 かっては青年期に結婚し、妻となり、母となって四十代半ばになれば、やがては孫の世話 をしたり、いわゆるおばあさんになって余生を送ればそれで済むのが人生であった。ところ 高が現代の中年女性は、子供たちが親離れしたときに、ふと気がつくと、まだ自分の人生はこ れからである。妻であり、母であるだけではなく、もう一度自分自身に戻る、あるいは社会 人としての自分を取り戻したい、あるいは新しく持ちたいという気持ちが高まっている。 からのす 空巣症候群は、ふと気がつくと子供は親離れし、夫は仕事と男のつき合いにしか生きがい 171

4. 現代人の心をさぐる

僕を生んだ責任をとってくれ」と言って、毎晩のように母親に文句を言い、あげくの果ては 物を投げつけたり、ときには暴力をふるうということである。しかし、直接会ってみると、 とても頭のいいしつかりした少年 ( 中学二年生 ) である。 それまでは < 君の母親は、君が学校や塾から帰るのを待っていて、食事をつくってくれ 一緒にご飯を食べながら、学校での一日の話をしたり、二人で歓談するのが < 君の楽し みだったという。 ところが、数カ月前から母親が働かなければならなくなった。しかも、夜九時くらいまで 仕事がある。そうなると、 < 君は母親も父親も不在のところに、ただひとりポツンと帰らな ければならない。夕食もひとりでとる。ひとり息子で、大事、大事に育った < 君にとって、 この突然の家庭の変化はとても堪え難いことだったようだ。 そして母親に、「どうして帰りが遅いんだ」「どうして働かなきゃならないんだ」「どうし て僕をひとりにしておくんだ」といって当たるのが不和のきっかけであった。 「どうしてお母さんは急に働かなければならなくなったのですか」ときくと、同伴して来て いた父親が答えた。「いや、実は私が長年勤めていた会社を定年でやめて、新しいところに 転職したのですが、その結果、収入が半減してしまったのです。それで家内に働いてもらわ なければならなくなってしまったのです」と言う。

5. 現代人の心をさぐる

ら「⑧さんはすごいはにかみ屋で人みしりをするのね」と言われた。 クラブのみんなでムロ宿に行ったりすると、夜は。ハーティーがある。みんな楽しくカラオケ で歌を歌ったり、自由にはしゃいだり、騷いだりするが、自分はどうしても一人取り残され たような気持ちになって、ますます緊張してしまって、うまく仲間に入れない とうとう耐えられなくなって、彼は大学の保健センターの先生のところに相談に行った。 「君の脳みは対人恐怖症といって日本の大学生にはとても多い悩みなのだよ」と説明された。 そして、これから社会人になって就職しても、こういう脳みをもっていると会社でうまくや っていけないからと、精神分析の治療をする精神療法のクリニックを紹介された。 対人恐怖の心理は、人みしりから発している。日本人の精神構造を欧米人のそれと比較す るときに、しばしばその一つに挙げられるのが、日本人特有の人みしり心理である。 人みしりを字引で引くと、「人見知り」と書いてある。 格 性 一つは、見知らぬ人に会ったときに、相手が自分を好意的に迎え入れてくれるか、親しん わでも大丈夫な人物かどうかを見知るときに起こる不安である。言いかえれば、もし安心して か親しもうとしたところが、実は自分を受け入れてくれない相手だったらどうしようという不 安が、その背後に潜んでいる。 人 もう一つは、自分が人に見知られる不安である。相手にどう思われるか、相手が果たして 自分を好いてくれるかどうか、どう受け入れてくれるのか、相手が自分をどんなふうに認知

6. 現代人の心をさぐる

会社の社員である。 しかし、この夫は夫人から見ると何となく幼いまま、学生気分のままのようなところが ある。夫人は、夫として、男性として夫を頼りにしようと思うのだが、肝心の夫のほうは妻 を頼りにし、母親かお姉さんがわりのように思い込んでいるらしい。自分の職場での大変さ を、ぐちることはあっても、妻である自分がどんな気持ちでいるか、共働きでどんなふうに 大変か、などについて語りかけるとさつばり耳を傾けない。 話といえば、彼が会社でどんなに大変か、きようは上役にほめられたとか、文句を一一 = ロわれ たとか、自分はどのくらいの評価を受けているのか、そんな話ばかりである。また同僚たち との間のことでも、みんなでカラオケに行って、自分がどんなにもてたとか大変興奮して話 をする。 恐らく会社人間として職場にいると、愉央で、調子がよくてみんなともうまくやっている のだろう。しかし、根本的には彼は自分のことしか考えていない。 夫人のほうは、共働きをしながらいったい自分はどこまでこの仕事をやっていけるのか、 悲壮な心境である。そろそろ子供をつくり、母にならなければならないのではないか、と思 い悩む。夫に、いつごろそうなったらいいのだろうか、あなたはどう思っているの ? と尋 、じゃ ねても、夫は、そういう話になると困ったような不愉快そうな顔をする。「まあ、 なしか、そんなことは。急に考えなくても」と言う。どうやら彼に、親になる心の準備がさ

7. 現代人の心をさぐる

250 ところが、その④君が突然上司に対して、「僕はこの会社をやめて転職したい」と言いだ したのである。しかも、別な会社からスカウトされたとか、同じ技術を生かして条件のよい ところに就職するというつもりは全くないという。 彼は、全く別の仕事を考えている。コンピューターなどを使うという点では共通している のだが、むしろ理工科畑の仕事ではなく、それまでの知識を生かし全く畑違いの仕事をこれ から勉強したいという。それは、むしろ産業関係の情報研究所のようなところである。 リートコースの しかし、上司や家族にしてみると、いまのままの会社でやっていけば、エ トップにいるのだから、みんなにうらやまれるような人生が送れるのは目に見えている。一 流企業の中で、このままやっていけば、どんなすばらしい技術も開発できるだろうし、しま いにはエグゼクティ・フにもなるかもしれない。それなのにどうして彼は全く未知の分野にも う一度入ろうというのだろうか もしかしたら、「彼、いわゆるいまはやりのうつ病なんじゃないでしようか。この門 つだけ会議の席で彼の意見が通らなかったことがあるので、それでがっかりしてしまったの じゃないかな」「もしかしたら、みんなに言うほど英語が上手じゃないので、アメリカに留 学することがいやでやめたくなったのかな」ーー上司や同僚はいろいろな原因を探り出そう とするが、どれも当たっていない。やつばりこれはうつ病とか、何らかのノイローゼがあっ て、それであんな思い詰めた気持ちになってしまったに違いない。一度精神科の先生に診て

8. 現代人の心をさぐる

な可能生を心の中に準備するが、最後に大人としての社会人になるときには、それらをまと め上げて、一個の社会的な自分というものをつくり上げる。そうした準備期間がモラトリア ムの期間なのである。 しかし、現代社会ではこれまでの社会のように、このモラトリアムが明確な準備期間とし ての性格を失い始めている点に問題がある。社会が人々に対して寛容で、自由で、いろんな しつまでもこのモラトリアムの状態を続けるよ 可能性を許容するようになっているだけに、、 うな心理構造が、現代人の社会的性格になっている。 こうした人間像のことをモラトリアム人間と呼ぶのだが、それだけにいつになっても従来 の意味での大人の社会人としての自己像を確立できなかったり、いつになってもどこまでが 仕事で、どこまでが趣味で、どこまでが学生気分で、どこまでが社会人かはっきりしない、 そうした心理の持ち主が若い世代にふえている。 それはそれなりに自由で、個性的で、創造的な面を持っているのは確かなのだが、このよ 病 のうな心理から脱却しないまま会社に入ったり、結婚したりすると、そこで改めて〇〇会社の 〇〇としての責任や義務が期待される。また、夫、妻、あるいは父親、母親としての役割を 年きちんととることが期待されるときに、意外な心の脆弱さを露呈することがある。 青 それは、まだ自分はモラトリアムの状態にいるつもりでいるのに、周りから、お前は〇〇 会社の〇〇だ、あるいは、私の妻だ、この赤ん坊の母親だ、父親だ、という身分を強いられ

9. 現代人の心をさぐる

229 心のストレス 人間ー会社Ⅱゼロ」といった、高度成長期の猛烈社員型の若いサラリーマンが少しすっ減っ ている、社会全体の動向がその背景にあるのもまたたしかである。 出勤拒否 / 出勤恐怖戦後のわが国社会の最も特徴的な精神病理現象の一つは、青 少年の登校拒否と学生無気力症である。ところが、これと同じような精神病理現象 が、現代の会社人間たちにも見られるようになった。これを出勤恐怖ないしは出勤 拒否、あるいはサラリ ーマン無気力症と呼ぶ。 第一のタイプは職場に出勤しようとする途中で急に不安になって、不安発作を起こ したりして、これをきっかけに出勤できなくなってしまうタイプである。多くの場 合、職場でそれまでお客様的、責任回避的な態度をとっていたところが、それでは 済まないような責任を持たされたり厳しい職場の現実と対決しなければならないよ うな役割りを課せられたり、人の上に立ったりするときに、その状况に直面するこ とに強い不安を抱き、また、その役割りを全うする自信を失って、こうした出勤恐 マンにしばしば見られ 怖の状態に陥る。特に、現代の二〇代から三〇代のサラリー る。 第二のタイプはこうした出勤恐怖が慢性化し、自宅にいる間は普通に暮らしている が、いざ出勤してはすぐに具合が悪くなって会社を休むといった状態に落ち込むも

10. 現代人の心をさぐる

周りから見ると、自由に力を発揮できる新分野の開拓者になれてうらやましいと言われる。 しかしそう言われれば言われるほど責任を感じ、自信がなくなってしまった。 毎日うちに帰っても、仕事のことが心配で頭から離れない。家族と話をしていても、昼間 の仕事のことが頭に浮かぶ。やがては夜、床に入っても、あれでよかったのか、これは間違 っていたのではないか、心配になってとうとう不眠症の状態に陥った。会社にいても、昼食 色えすイライラし、緊張している。 がのどを通らない。糸 しかも、まだいままでの実績というものがないので、その製品がうまくルートに乗るまで にはすいぶん時間がかかる。会社のほうも、半年、一年は、そんなにうまくいかなくても焦 る必要はないという。しかし、その間の、一体これでうまくいっているのか、だめなのか、 一年後に結果が出るまでは、何とも心もとない。 ついに課長は、不眠と胃の痛みと緊張感のために会社を休んでしまった。部長のもとに 行って、もう自分はそのポジションには向かないので、何とかもとの仕事に戻してもらえな いかと懇願した。部長は、あんなにいままでよい成績を上げ、有能だった君がどうしてそん なに自信を失ってしまったのか、わからないという。しかし、本人にしてみると、この立場 にこれ以上置かれることは、どうにも耐えられないのである。 技術革新、社会変動の急速な現代社会のサラリーマンにとってのストレスは、次つぎに生 まれるいままでとは違った新しい役仰や、仕事との出合いである。もはやこれまでのように、