285 文庫版あとがき < という現実があるときには、それに対処するキという心のあり方と対応のシステムが有 効だ。しかし、もし現実がからに変化するなら、新しいという現実に対処する心のあ り方Ⅳを発見しなければならない。 社会環境の変化が急速なので、 < からへの変動がどんどん進行している。そのために、 新しいに対してを発見し、つくり出す心の対応がどうしても立ち遅れてしまう。この現 実と現代人の心のギャップが、さまざまな心のストレスをつくり出している。 しままでの古い心 しかも、同時に、新しいという心のあり方が見出されると、今度は、、 のあり方キからへの心の変化が必要になる。このキからへの心の移り行きのプロセスでも、 さまざまな心の葛藤やストレスが起こる。 本書が新たに朝日文庫として刊行されるにあたって、読者諸氏に私が期待するのは、し 述べたような公式に基づいて、本書に描き出されているさまざまな現代の人間像を、読者諸 氏のそれぞれの心と照合し、自己認識を深めることである。 一九九〇年初夏 小此木啓吾
しかも、これらの心の苦悩に対して、古い秩序と規範を取り戻そうとすることには無理が ある。古い原理に基づいた解決を試みても、古い心と新しい心の間にギャップがあって、そ の多くは空振りに終わるからである。むしろいまわれわれが優先すべきことは、これらの現 代人の心を探り、そのリアリティーを虚心に見つめることである。 既成のさまざまな価値観や生き方に頼ろうとすると、そのリアリティーが見えなくなって しま起こっている しまう。本書の『現代人の心をさぐる』というタイトルは、ます虚、いに、、 われわれの心の苦悩を率直に見つめ、その意味を読み取り、理解することを本書が目指して いるところからつけられたものである。 では、どうしたらよいのかというこれからの方針は、この適切な自己洞察を出発点にして やがて見出されるに違、よ、 しオし不が、「よりよい精神生活のために」という副題をつけたの もそのためである。 たまたま私は精神科医であり、臨床家である。私のもとを訪れる、心の問題についての援 助を求める方々は、同じような心の苦悩をともにしていても、適応力が強い人々に比べて、 少し脆弱なために、さまざまな破綻をあらわしている方々である。 同じ高温多湿のストレスの環境におかれた場合、少し適応力の脆弱な人のほうが、より健 康度の高い人よりも先に破綻する。そして、この脆弱な人々が倒れるのを見て、その環境が 持っさまざまなストレスや、健康な人々も共有している問題点が明らかになる。
中年の「里帰り」心理〈国際結婚と故郷回帰〉 キャリアウーマン″中年の惑い〃〈自立型女性と心の健康〉 老父母と中年世代の心の葛藤 命日がくると不安発作〈姑への愛憎と命日反応〉 姑の同居と妻の立場〈主婦の典型的な悩みとウッ〉 中高年に再燃した兄弟げんか〈相続問題と心因性発作〉 おばあちゃんのヒステリー〈病気見舞い期待の胃痛と病気利得〉 再婚望む老父と息子の不安〈茶飲み友達ができウッから脱出〉朋 Ⅳ現代人の心のストレスと人とのかかわり < 心のストレス 心の適応とストレス〈新しい多様な生き方を求めて〉 転勤先で出勤恐怖症〈新婚サラリーマンと不安発作〉 職場のストレスと「死にそう」な恐怖〈通勤途上の不安発作と心身症〉 不安の心理〈不安の諸相とその対応〉
■初出一覧■ —思春期、青年期の心とその病理 休み明けの。ハニック〈登校拒否と過保護〉自分自身になりたい〈家出・自殺未遂と親の 七光〉子が親に″秘密〃をもつ意味〈手が利かなくなった娘と親離れ〉母親離れから拒食 症へ〈心の葛藤と愛情の象徴・食物の拒否〉自立できないための過食症〈心の痛みと肥満 型摂食障害〉無気力症と誇大自己〈むなしさ・自負心・挫折〉母親妻と未熟な夫〈妻の不 満が分からぬ夫〉 Ⅱ現代の家族と夫婦、父母の心 子のない夫婦の危機〈習慣性流産と生きがい発見〉育児を嫌う母親〈生みの親と育ての 親の分離〉父親になれぬ心理〈子に嫉妬する父とクヴァート症候群〉単身赴任の功罪〈母 子家庭化型と結束型〉父親不在で崩れる世代境界〈単身赴任と息子の父役〉 Ⅲ中高年の心とその病 中年婦人の空巣症候群〈子離れと主婦の中年期症状〉出世して落ち込む〈配転後の新し い役割と適応・創造カ〉中年の「里帰り」心理〈国際結婚と故郷回帰〉キャリアウーマン ″中年の惑いみ〈自立型女性と心の健康〉命日がくると不安発作〈姑への愛憎と命日反応〉 姑の同居と妻の立場〈主婦の典型的な悩みとウッ〉中高年に再燃した兄弟げんか〈相続問 題と心因性発作〉おばあちゃんのヒステリー〈病気見舞い期待の胃痛と病気利得〉 Ⅳ現代人の心のストレスと人とのかかわり
216 心の適応とストレス〈新しい多様な生き方を求めて〉 人間の心は一定の環境の中に適応しなければならない。 もしその環境とうまくいかないで 不適応に陥ると、その不適応が心のストレスになって、さまざまな心の病や破綻を生する。 適応というのは、ただ環境に従順に順応することだけを意味するわけではない。積極的に 環境をつくりかえて、自分をどんなふうに実現していくかも大切な課題である。 このような適応すべき環境として、自然環境もあり社会環境もある。また、人間環境もあ る。人とのつき合い、人とのかかわりとの間でどんなふうな適応が可能で、どんなふうな不 適応が生ずるか。家族、職場、学校での人間関係が問題になる。 こうした対人関係への適応を考える上で大切なもう一つの側面は、それぞれの人物の人柄 とか性格とかいわれる。ハーソナリティーである。だれにも愛され、好まれる人物もいれば、 < 心のストレス
の中でも、親の心を身につけることはできるし、妻の場合でも、また別の形でその可能性は いろいろある。 ところが、この夫婦の場合には、実の子供を持っことでそうなろうという気持ちにとりつ かれてしまったために、その肝心の子供を持っことができないと、いつになっても親になれす、 心の成熟も得られなかった。いつになっても新婚時代の夫婦のあり方以上の発達が見られな 子供のない夫婦によくこうした停滞が見られるが、この夫婦の場合も、その典型である。 しかし、夫人の心に、最近になって中年心理が芽生えている。子供を持っことに執着し て、そのために自分の人生そのものの発展の道が閉ざされてしまうくらいなら、」 な生き方、 別な人生観、別な夫婦のあり方を考える必要がある。こう思うようになった夫人には、た しかに心の変化が起こっている。しかもその変化は、、 しままでに比べてワン・ステップ成長 する可能性を持っている。 夫婦関係では、夫婦が同じような心の変化をともにすることが大切だ。もし夫人だけが いま述べたような心境になっても、肝心のご主人がまだまだ子供がほしい、 子供ができなけ 危ればわれわれ夫婦には幸せはないと思いつづけているとすれば、夫婦との間の溝は深まるば 婦かりだ。 夫婦の子供を持てない悩みを通して、夫婦とその心の成熟というものを考えていただけ れば幸いである。
目次 はド ) 。めに 3 —思春期、青年期の心とその病理 < 思春期の心の発達とその挫折 親離れと自立を目指して〈思春期革命と愛憎の葛藤〉 4 なぜ自分を生んだのか〈家庭内暴力と末生怨〉 1 休み明けの。ハニック〈登校拒否と過保護〉 自分自身になりたい〈家出・自殺未遂と親の七光〉芻 = 。」、大、、」父 0 ー , 〉 00 派。 0 」〕 0t00 〉 子が親に " 秘密 , をもつ意味〈手が利かなくなった娘と親離れ〉 親離れの失敗〈歌手志望の娘と教育一家〉 母親離れから拒食症へ〈心の葛藤と愛情の象徴・食物の拒否〉 1 自立できないための過食症〈心の痛みと肥満型摂食障害〉療
217 じめられる子供もいれ すぐ人とトラ。フルを起こし、みんなから嫌われる人もいる。また、い ば、すぐ人をいじめる子供もいる。 一言で対人関係といっても、一対一のかかわりもあれば、三者関係、あるいは集団の中で どんなふうに適応していくかという課題もある。また、陸格と一概にいっても、大変自分中 心の自己愛人間型の人もいれば、人とのつき合いが苦手な孤独な性格の人もいる。 さらに、現代人の心を理解する上では、こうした人と人とのかかわりが希薄になり、それ それの人物の性格がより自分本位になったという特徴が挙げられる。また、集団に対する帰 属感も弱くなり、どういうグループや組織も、自分の生きる上での手段、道具としてしか見 なさない風潮もある。 そもそも、特定の集団にかかわるときには、その集団が一定の役割や目的がはっきりして 、と、う、いわゆる いて、一緒に仕事をしたり、その目的に対して一定の役割を果たせま、 ワークグループ ( 課題集団 ) であれば、人々の心も発展し、それぞれの集団とのかかわりも スやりがいのあるものになる。 ところが、その集団が目的もあいまい、情報の連絡も不足がち、それそれの役割分担もあ ス の いまいな未組織の集団になればなるほど、人間の心は群集心理的なものに左右されやすくな る。そしてまた、感情的なもので動く。噂や憶測が肥大する。 こうしたあいまいな集団の中で暮らしていると、たちまち心の脆弱さと不安定さが露呈す
の定めであって、われわれは全知全能の神ではないのだから、どこかに限界があり、あきら めたり、運命を受容するといった心の準備も大切である。 私なりに考えてみると、現代に残っている病気というのは、かっては自然死の一つとみな されたようなものが多いのではないかと思う。がんになって死ぬことも、脳血管障害で倒れ ることも、一定の年齢になれば仕方のないことだ。現代のわれわれから見ると、われわれは 全知全能にならなければならないために、こうした自然死を不幸・災厄とみなす気持ちが強 。そうなると、それが治らない、治せないといったときの無力感や絶望感のために、運命 を恨んだり、医療技術の未発達を嘆いたりすることになる。 これも当然の人情ではあるが、その一方で、われわれ現代人がもっと自分たちの限界を悟 り、どうにもならないことが世の中にはあるのだといった断念の術を身につける心の準備も 大切である。 しかし、またその一方で、こうした医療技術の及ばない領域である、ノイローゼとか心身 理 窈症のような形で病気の中に逃げ込む人々も少なくない。病気であることによって社会的なス 患トレスを回避したり、責任と義務を負うことを延ばしたりする心理がある。 師しかも社会的なストレスが高まれば高まるほど、心のストレスが原因で起こってくるさま ざまな心身の障害が増加している。心の問題と身体の病気が、かってほど明確に二分されず、 密接な因果関係を持っていることも次第に明らかになっている。心の健康は同時に、心身の
心の耐性の未熟さ〈精神医学から見た現代青少年の精神問題〉 1 青年の心とその病 社会的な自己をどう確立するか〈モラトリアムと試行錯誤〉 ピーター ハン・シンドローム〈無責任、不安、孤独から、やがて社会的不能症に〉 無気力症と誇大自己〈むなしさ・自負心・挫折〉 % 母親妻と末熟な夫〈妻の不満が分からぬ夫〉 9 Ⅱ現代の家族と夫婦、父母の心 いま家族が直面している四つの課題 世代・夫婦関係の再構築〈三世代にわたる変革と女性の自立〉 夫婦の危機 末完成結婚の悩み〈性障害と情緒希薄なテクノ人間〉鵬 子のない夫婦の危機〈習慣性流産と生きがい発見〉 ウエンディ型夫人の離婚・再婚と新人生〈男尊女卑と女の自我の目覚め〉 114