現代社会 - みる会図書館


検索対象: 現代人の心をさぐる
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1. 現代人の心をさぐる

な可能生を心の中に準備するが、最後に大人としての社会人になるときには、それらをまと め上げて、一個の社会的な自分というものをつくり上げる。そうした準備期間がモラトリア ムの期間なのである。 しかし、現代社会ではこれまでの社会のように、このモラトリアムが明確な準備期間とし ての性格を失い始めている点に問題がある。社会が人々に対して寛容で、自由で、いろんな しつまでもこのモラトリアムの状態を続けるよ 可能性を許容するようになっているだけに、、 うな心理構造が、現代人の社会的性格になっている。 こうした人間像のことをモラトリアム人間と呼ぶのだが、それだけにいつになっても従来 の意味での大人の社会人としての自己像を確立できなかったり、いつになってもどこまでが 仕事で、どこまでが趣味で、どこまでが学生気分で、どこまでが社会人かはっきりしない、 そうした心理の持ち主が若い世代にふえている。 それはそれなりに自由で、個性的で、創造的な面を持っているのは確かなのだが、このよ 病 のうな心理から脱却しないまま会社に入ったり、結婚したりすると、そこで改めて〇〇会社の 〇〇としての責任や義務が期待される。また、夫、妻、あるいは父親、母親としての役割を 年きちんととることが期待されるときに、意外な心の脆弱さを露呈することがある。 青 それは、まだ自分はモラトリアムの状態にいるつもりでいるのに、周りから、お前は〇〇 会社の〇〇だ、あるいは、私の妻だ、この赤ん坊の母親だ、父親だ、という身分を強いられ

2. 現代人の心をさぐる

心の耐性の未熟さ〈精神医学から見た現代青少年の精神問題〉 1 青年の心とその病 社会的な自己をどう確立するか〈モラトリアムと試行錯誤〉 ピーター ハン・シンドローム〈無責任、不安、孤独から、やがて社会的不能症に〉 無気力症と誇大自己〈むなしさ・自負心・挫折〉 % 母親妻と末熟な夫〈妻の不満が分からぬ夫〉 9 Ⅱ現代の家族と夫婦、父母の心 いま家族が直面している四つの課題 世代・夫婦関係の再構築〈三世代にわたる変革と女性の自立〉 夫婦の危機 末完成結婚の悩み〈性障害と情緒希薄なテクノ人間〉鵬 子のない夫婦の危機〈習慣性流産と生きがい発見〉 ウエンディ型夫人の離婚・再婚と新人生〈男尊女卑と女の自我の目覚め〉 114

3. 現代人の心をさぐる

174 不老長寿の社会が出現するという明るい面を持っている。これをェイジレス人間の時代の到 来と呼ぶが、エイジレス人間とは不老長寿の人間を言う。 高齢化社会をこうした明るいエイジレス人間の時代につくり上げていくためには、既成の ものの考え方、特に老人観、老年観の決定的な革命が必要である。たとえば老人同士が恋愛 したり、再婚したり、一緒に暮らしたりすることについても、社会はもっと寛容にならなけ ればならない。また、それに伴う財産相続制度、その他を含めた法律上の修正も必要になる かもしれない 。もっと気楽に老人たちが暮らせるような、あるいは老年パワーをもっと社会 が尊重するような時代をつくらなければならない。 ポケ老人がふえるといっても、実際には八十歳になっても四・五バーセントくらいの人々 しか本当の意味での老化による痴呆状態には陥らない。その他の多くの人々は、心身壮健に 老後を送ることができる。肉体的にも、精神的にも、より若い世代の人々に負けない能力を 発揮する人々も多い 一方で、老父母の扶養、あるいは養護のための三世代同居の問題が新しい家族問題になっ ているが、他方では、こうした老人たちの同世代間の友情や助け合い、団結もまた、これか らの大きな社会的な課題になろうとしている。 これからの現代人の心を理解する上で、高齢化社会に伴うライフサイクル ( 人生の図式 ) の変化が、人々の心にどんな影響を与えるかという視点がとても大切である。

4. 現代人の心をさぐる

222 トレスになり得る。 現代社会において、ストレスという一一 = ロ葉が一般化するに至った背景には、セリエ (Selye, H. ) のストレス学説がある。セリエは、物理的、心理的、社会的、あらゆ るストレスに対して生体はその刺激に順応、適応するために一定の防衛機構を持っ ているという。この防衛機構は、間脳ー脳下垂体ー副腎皮質系のシステムを介して 営まれる。急激なストレスに対する急性の反応に引き続いて、ストレスが持続する と、警告反応期、抵抗期、疲憊 ( ひはい ) 期の三つの段階を経過する。 こうしたストレス学説が一つの人間観ともなり、もっと広義のストレスとそれに対 する生体の適応、それに伴う種々の汎適応症状群という見方が、現代社会における 人間を理解するうえで重要な一つの枠組みになっている。たとえば、心身症は、社 会生活を営んでいくうえでのこうした心理的、社会的なストレスが身体的な違和変 調を起こす場合である。 社会的ストレス ( 現代社会のストレス ) 現代の社会生活では、ストレス社会と言 われるように、以下のようなさまざまな社会心理的なストレスがある。 第一に、現代社会の急速な変化によるものがある。価値観、適応様式が、科学技術 の急速な進歩により次々に変化する。こうした変化に適応する過程で、人々はさま ざまなストレスに出会っている。第二に、現代社会の都市化や文明化に伴って、現

5. 現代人の心をさぐる

決め、その間お姑さんが家の留守番をするとか、そのときには、夫も少し早く帰ってきてお 姑さんの相手をするとか、いろいろなルールを決めることになった。 高齢化社会の中で父母がいくら年老いても、老父母は老父母、自分たち夫婦は自分たち夫 婦という世代境界 ( 世代間に一線を画す心理 ) が確立し、横関係を中心にしたアメリカ的な 家庭観と、父母が年老いたら一緒に暮らして世話をしたいと考える日本的な縦関係中心の家 族観の違いによって、一緒に暮らすか別に暮らすかが分かれる。しかし、中年世代の夫婦は どうしてもこの夫人の場合のような三世代同居による心の脳みをしよい込む機会が多い 一方、前述した夫人 ( 一七八ページ参照 ) のような空巣症候群の悩み、他方に夫人の 迷いのような老父母との同居による心の悩み、この二つの悩みが現代のわが国家庭婦人の典 藤型的な苦悩である。この悩みをどう適切に解決して中年以後の人生を確立するかがわが国の 2 家庭婦人に問われた深刻な課題である。 の しかし、そのためには一人ひとりの心の問題だけで解決できないものが多い。わが国の家 代 年族のあり方をもっと深く考えてみる必要がある。 中 母 父 老

6. 現代人の心をさぐる

128 夫人 ( 四十二歳 ) は、下の男の子が高校に入ったころから、かっての大学時代の勉強を 再開したいと思うようになった。そして、某カルチャーセンターで若いときから勉強したか った歴史の講義を継続的に聞くようになった。やがてその講義に来ている講師の先生の大学 の講義を聞いたり、研究会に参加するようになった。同時に、クリスチャンである彼女は、 いままで以上に活発に教会に出入りし、そこでカウンセラーのゼミにも参加した。教会が行 っている家庭問題や夫婦問題についての研究会にも出席し、牧師さんを助けて、幼稚園の などでのカウンセリングも担当するようになった。 この過程で、彼女は現代の家庭問題、夫婦問題などについて学べば学ぶはど、肝心の自分 たち夫婦がいままであまりにも夫婦としての自覚に乏しかったことに気づき始めた。気がっ いてみると、夫婦で外出する機会もまれである。日曜日になると夫はゴルフに行ってしまう。 週日は九時、十時以前に帰宅することはない。それまでは夫に仕え、夫が仕事の上で成功す ることが妻のっとめであると考えていた。それに、自分には経済力もないし、働きもないの だから、こうやって私たちを養ってくださることに感謝しなくてはと思っていた。 しかしながら、自分がこうやっていろいろな社会参加をして自信ができてみると、その目 で見る夫とは何とも貧弱である。自分がいろいろ勉強して、夫婦のあり方について、家庭問 題、あるいはもっと広い社会問題などについて話しかけても、さつばり返事をしてくれない。 少し理屈つばいことを言うと不愉快な顔をする。

7. 現代人の心をさぐる

の精神的な危機が描き出されているという。 『ピーター ノンに忠実に、そのお ハン・シンドローム』は、むしろこの原作のピーター 話をいわばライトモチーフにして、現代の青少年の思春期の発達上の心の悩み、ひいては三 十代までの現代の男性たちの心の病をみごとに浮き彫りにしている。 彼らは現実の家庭、そして社会に失望し、大人社会の一員になることを避けて、もっと自 分本位の幻想的な世界で暮らそうとするようになる。 現代のピーター ハン人間は家庭にいれば両親の不和に巻き込まれ、社会に出れば自分の ーウーマンを目 居場所がなく、男らしくなろうと思っても男らしさのモデルがなく、スー 指す自立志向の女性たちに脅かされる。みんなと同じように流行商品を追い求めるか、みん なと同じお決まりのコースでワーカホリックになる以外に理想像がない。現代社会における 男の子全般のこうした悲劇を鋭く描き出しているのが本書である。 ハンの分析を通して その意味で、ピーダー ハン・シンドローム論は、現代のピーター の鋭い現代社会批判を展開している。 ・バン・シンドロームの基本症状 年ピーター 青 ハン・シンドロームについて説明すると、それは、四つの基本症状 ここで一しピーター ハン・シンドロームは同時に と二つの決定的症状からなっている。しかも、このピーター

8. 現代人の心をさぐる

229 心のストレス 人間ー会社Ⅱゼロ」といった、高度成長期の猛烈社員型の若いサラリーマンが少しすっ減っ ている、社会全体の動向がその背景にあるのもまたたしかである。 出勤拒否 / 出勤恐怖戦後のわが国社会の最も特徴的な精神病理現象の一つは、青 少年の登校拒否と学生無気力症である。ところが、これと同じような精神病理現象 が、現代の会社人間たちにも見られるようになった。これを出勤恐怖ないしは出勤 拒否、あるいはサラリ ーマン無気力症と呼ぶ。 第一のタイプは職場に出勤しようとする途中で急に不安になって、不安発作を起こ したりして、これをきっかけに出勤できなくなってしまうタイプである。多くの場 合、職場でそれまでお客様的、責任回避的な態度をとっていたところが、それでは 済まないような責任を持たされたり厳しい職場の現実と対決しなければならないよ うな役割りを課せられたり、人の上に立ったりするときに、その状况に直面するこ とに強い不安を抱き、また、その役割りを全うする自信を失って、こうした出勤恐 マンにしばしば見られ 怖の状態に陥る。特に、現代の二〇代から三〇代のサラリー る。 第二のタイプはこうした出勤恐怖が慢性化し、自宅にいる間は普通に暮らしている が、いざ出勤してはすぐに具合が悪くなって会社を休むといった状態に落ち込むも

9. 現代人の心をさぐる

の姿勢でいたいという気持ちが、いつの間にかわれわれの心に広がっている。 現代人の心の適応を理解する上では、このようなモラトリアム人間としての特性をよくの み込む必要がある。 しかしその一方で、われわれ日本人の伝統的なご縁を大切にする心もまだ生きている。ひ とたび縁ができれば、その縁を末長く大切にして人とかかわろうとする、そうした人とのか かわりを大切にする気持ちも残っている。わが国の離婚率が低いのも、依然として職場で終 身雇用的な伝統が続いているのも、ひとたび師弟関係ができれば一生その先生を師とあおぐ という気持ちが強いのも、縁を大切にする心の発露である。 しかしその一方で、合理化が進み、人と人とのかかわり方に契約主義的な心理が強くなっ ている。職場との間でも契約関係でやっていこうとするし、結婚も一つの契約であるから、 契約を解除すれば離婚も可能だという気持ちが若い世代には次第に高まっている。 このような契約主義の観点から見ると、利害関係のバランスが失われれば契約を解除して スもよいはずなのだが、われわれ日本人の場合には、一度できた縁を切ることは不徳義なこと で、後々さまざまなしこりが残る。そのしこりがその人物の社会生活での不適応の原因にな 9 ることが多い。そして、この縁を大切にする気持ちが、現代の日本社会でも、集団や組織や 人間関係を維持する一つの重要な機能を果たしているのは事実である。 しかしながら、あまりにも縁を大切にし過ぎると、その結果、さまざまな犠牲を強いられ

10. 現代人の心をさぐる

第四に、濃密な母子関係を持っている子供が多く、一人で本当に自立することができない 本当の意味で孤独に耐えたり、自分で自分のことをコントロールすることが、感情面におい ても、欲望の面においても未熟な場合が多い。絶えず周囲に依存し、周囲が自分の思うよう な条件を設定することを暗黙のうちに期待している。そのために、思春期の親離れの過程で、 さまざまなフラストレーションに出合って破綻する場合が多い。 第五に、現在の生活環境の中では、精神的な苦悩や、精神的な苦痛を内面化して、これを 種々のイマジネーションや構想力によって表現するような、そうした心の形成機能が未熟で、 すぐに外面的な行動によって解消しようとする。そうした反応のバターンが大人から子供ま で及んでいるが、その結果、どうしても行動的な形の種々の精神問題をあらわしやすい これらの現代青少年の心理的な特徴が、現代の学校教育における諸問題の発生する根源に 折 の存在しているのではなかろうか。 そ 第六は、社会全体が私の言うモラトリアム人間の時代を迎え、既成の伝統的な価値規範が 達 発失われ、国家、社会に対する帰属感が希薄になり、だれもが、より自己中心的な生き方をす るようになったが、それとともに、青少年がどうしても従わなければならない内在的な規範 の 春を心の中に形成する機会が乏しくなり、社会人として人間が生きていく上の、必要最小限の 義務とか責任といったものに対する感覚と厳しさが身につかなくなっている。 この動向と比例して、私の一一一一口う自己愛人間化、 つまり、常に自分自身のナルシシズム、 ( 自