こうした君のような登校拒否は必ずしも学期はじめだけに起こるものではない。連休の 後とか、あるいは運動会とか、文化祭があって少しお休みしたとか、体をこわして一週間風 邪で休んだ後とかに起こりやすい そこでぜひお勧めしたいことは、一方で検査、診断は必要だが、しかし、はっきりした診 断が下るまで学校を休ませないことが大切である。 各科の主治医の先生に、・ 学校を休ませるほどなのか、あるいは学校に行きながら診断、検 査を受けても大丈夫なものなのか、よくよく念を押して確かめてみることが大切だ。各先生 も、それそれ専門の立場からの診療ににしく、そこまで手が回らないことも多い。主治医と この辺の判断について話し合うのは親の責任だと思う。 学校を休ませないで、診察を受けるときだけ休むようにして、学校に行く習慣を失わない ように配慮することがとても大切だ。これが登校拒否を予防する、一番大切な早期治療の根 本原則である。 登校拒否戦後社会の子供たちにとって、最も特有な社会現象、ひいては精神病理 現象が、登校拒否である。精神医学的にいえば、頻繁な不登校や、長期にわたる不 登校の状態に陥り、しかも、精神病、神経症といった特定の精神医学的な病気によ らないで、一見些細な理由づけ ( 頭が痛い、体がだるい、朝起きられない、何とな
自分自身になりたい〈家出・自殺未遂と親の七光〉 親の七光という言葉があるが、学校でも企業でも、その社会で有名であ 0 たり、顔がきい の 」たりする父、母を持っ子供たちの精神的な悩みは意外に深刻である。 こ見える思 発私たち精神科医に共通の認識として、登校拒否や家庭内暴力などの問題で相談し 春期の患者さんの中に、学校の先生の子弟が、どう見ても普通の家庭より多いという事実が 春ある。また企業で言えば、親の七光でいわゆるコネ入社した人たちの中に、メンタル〈ルス の問題の対象になる人が多い 0 子さん ( 高校一一年生 ) の家は、その地方では名の知れた教員一家であ 0 た。祖父がその く行くのがいやだなど ) で登校を拒否し、不登校が次第に慢性化していく場合をい う。しかし、現在、マスコミで用いられている登校拒否という一言葉は、精神病によ るものから、一時的なする休みや、怠けによるものまで、すべてを含んでいる。こ れもまた、家庭内暴力の場合と同じように、さまざまなレベル、性質、原因による ものが一括されているために、かえ 0 て問題の所在があいまいにな 0 ているきらい ( 『現代用語の基礎知識』自由国民社刊から ) がある。
君の場合もそうだった。しかし、そのころにはすでに新学期がスタートして十日以上た っている。もともとクラスにとけ込んでいない、気の弱い君のことだ。何とか第一学期は 頑張って行っていたのだが、宿題も全部できていない。 いまごろ授業に出てもわからない 友達が一体どう思っているか。学校に行くことがますます負担である。出ばなをくじかれて、 行くのがますますおっくうで苦痛である。 それまで心配していたお父さん、お母さんも、先生に、登校拒否、あるいはノイローゼと 一一一一口われ、それなら気のせいなのだから厳しくして学校に行かせなければと思う。 そこで、教育相談所を紹介されたり、心理学者、あるいは精神科の先生を紹介される。こ れらの先生は、これ以上手遅れになると大変です。一刻も早く学校に連れて行きなさい。中 引きすってでも、 しいから連れて行きなさい。自動車に乗っけてでも、 の教室まで連れていってそこに座らせておけばい、 しのです、と言う。学校の先生もその事情を そ と聞いて、「自分が迎えに行きましよう」ということになったり、あるいは友達を迎えによこ 発したりする。 しかし、そのときにはすでに子供の心理としては、まるで犯罪者がっかまって、警察に手 の 春錠をかけて連れて行かれるのと同じような心理状態に陥っている。とても格好が悪くて学校 に行く気にはなれない。みんなが心配して騷げば騷ぐほど、拒絶的になり、自分の部屋に引 きこもって外に出よ、つとしなくなる。
休み明けのパニック〈登校拒否と過保護〉 毎年のことだが、九月上旬には登校拒否の小・中学生の相談がふえる。一言でいえば、夏 休みに家庭にいて久しぶりに登校というときに、休みぐせがついていて、学校に行きたくな くなってしまう子供が多いからだ。 が一括して論じられることによって、問題の真の実情が見失われるおそれがある。 最も多いのは、父母に対して、育て方が悪い、思う通りにやってくれない、なぜ自 分を生んだのか、などの理由づけによって暴力を振るう場合で、いずれも家庭環境 の中だけで起こり、それ以外の人物に対しては暴力を振るったり、異常な態度をし ない場合が多い。しかし中には精神病の徴候、非行や拒食症・多食症、あるいは思 春期挫折症候群ないしは境界パーソナリティー障害の現れのひとっとして、これが 起こる場合がある。精神医学的に見たそれそれの子供の心の状態をよく見極め、そ れぞれのケースについて、個々の家庭状況と親子関係、その子どものパーソナリテ ィーなどについて原因を正確に把握したうえでの適切な接し方が大切である。 ( 『現代用語の基礎知識』自由国民社刊から )
転勤先で出勤恐怖症〈新婚サラリーマンと不安発作〉 ス 登校拒否は、わが国の戦後社会に特有な青少年の心の病である。この登校拒否の中には、 レ 幼稚園、小学校低学年で、うちを離れ、お母さんと別れて仲間に入るのが不安で、幼稚園、 ス 2 学校に行けないという不安の強い子供たちの学校恐怖症がある。ところが最近、この学校恐 ーマンが目立つ。幼い幼稚園児、小学生のよ 怖症によく似た、出勤恐布症に陥る若いサラリ うに、会社に行こうとするとにわかに不安になって、どうしても出勤できなくなってしまう 識すること。そしてその意味を正確に読み取り、有効な新しい適応様式をつくり上 に、これらの適応の仕方が、常に短期間しか有効でない事実をよく げること。第三 わきまえて、さらに次の修正、変更に対して絶えす心の準備を怠らないこと、第四 こうした個々の年代や状況、社会の変化に伴って、随時随所に柔軟で多様な新 しい自分を次々と発揮できるような準備を怠らないこと。 こうした柔軟で、豊かな可能性を含む視界ゼロの生き方こそ、社会変動の急速な、 これからの社会の中で生きるうえでの大切な適応の仕方である。 現代用語の基礎知識』自由国民社刊から )
の あまりにも大きい父のイメージ〈 " 立派すぎる父〃の子に目立っ問題児〉 そ 達 発 父親不在がしばしば口にされるが、わが国の青少年の中には、むしろあまりにも父親の存 の 在が大き過ぎて、そのために自由を失っている場合が意外に多い の 春特に、教育者、医者、学者、裁判官といった、世の中から見ると人々の尊敬を集め、また、 社会的に期待される建前をきちんと守っていると見なされているような職業の父親たちの子 供に、この種の悩みがしばしば見られる。 っともわかっていないような気がする。とりわけ両親は学校の先生のかたまりで、そういう 話し合いしかできない。肝心の自分の娘がいろいろ心で悩んでいても、よその生徒の登校拒 否に対する場合と全く同じようなパターンで、自分の子供に接しようとするんです。あれは 親なんてものじゃないですわ」 この 0 子さんの登校拒否は、その x 家の祖父母の代にまでさかのばって、家族の変革を要 求するような自己主張であり、造反であった。 o 子さんの自立と親離れの動きは、その家族 全体の革命につながることになったのである。 ときによって七光は、自立への脅かしになる。七光はほどほどでなければならない
母親離れから拒食症へ〈心の葛藤と愛情の象徴・食物の拒否〉 思春期は親離れの年代である。特に、密着した母子関係が目立っ今日、思春期の子供たち 折の悩みもまた深刻である。子供のころからの母親との結びつきが濃厚であればあるほど、自 の立するための苦労もそれだけ大きくなる。非行や登校拒否、家庭内暴力といった社会問題に とさえなっている現代の青少年の問題行動のその多くが、この母親離れの苦悩のあらわれであ の 戦後の社会の中で特有な心の病は何かと問われるなら、私は躊躇なく青少年の登校拒否と の 春摂食障害と答えるが、いすれもこの意味での母親離れの病である。しかも摂食障害は、思春 期から青年期にかけての女子に特有である。このごく身近なアメリカでの一例として、カー 。ヘンターズのカレンさんを挙げることができる。彼女はやはり思春期からこの病にかかって 勉強を一時期やめたりすると、それつきり落ちこばれになってしまう。 しかしながら、子さんほど過激でなくても、何らかの意味で、思春期の少年少女が、親 に対する反乱を起こし、自分自身を持とうとする気持ちは大切である。その時期を、どう支 えかかえるかが、おとな側の課題だ、と思うのだが。
これはだれにも身に覚えがあることだと思うが、大人のわれわれでも、夏休みが終わって、 さあ仕事というときには、出たしが何となくおっくうなものだ。まして夏休みに先立っ第一 学期、学校での適応が悪かったり、勉強がいやだったりして、やっと夏休みで解放され、家 庭の中でホッと安心していた子供たちが、また再び苛烈な受験競争や学校生活、とけ込めな い集団の中に戻らなければならないときに経験するストレスはたいへん大きい。中には、夏 休み中に。ハソコンばかりやっていて、肝心の宿題を何一つやっていなくて、とても学校に行 けないとパニックに陥る子供もいる。 こうした子供たちが共通してあらわすのは、目まい、頭痛、胸が苦しい、心臓がドキドキ する、微熱が出る、夜、眠れない、食欲がない、吐き気がする、などの体の訴えである。 このタイプの登校拒否の子供たちの母親は、多くの場合、心配症で神経質で、子供の健康 折 のを人一倍心配する過保護型が多い。子供たちがこうした症状を訴えると、さあ大変と病院に 一」連れて行く。そこで、新学期の登校時の一週間、二週間を病院通いで費やしてしまう。 発 22 君 ( 中学二年生 ) は、八月の三十日に頭が痛いと言いだした。目がかすんで見えないと とうとう九月一日、そして三日と学校 も一言う。また、ときどき気持ちが悪くて吐きつばい の 春に行かなくなってしまった。四日、五日と両親が心配して病院に連れて行った。 思 病院に行くといろんな検査を受ける。しかも、目まいが心配なので耳鼻科の診察がある。 頭が痛いというので脳波の予約をしたり、スキャンの予約をする。吐き気がするという
苦手な群れのつきあい〈孤独な性格と大人のつきあい〉 登校拒否の子供たちの中には、授業中はよいのだが、休み時間がいやだという子供が意外 に多い。決まった勉強をし、講義を聞き、先生との間で話をしたりするのはうまくいく。 ところが、休み時間になって友だち同士で遊んだり、ふざけたり、からかったり、 あったりするようなっきあいがうまくできない。大人との間では結構おもしろい子であった り、おませな話もするのだが、子供同士になると、仲間にとけ込めない。運動もきらいだ。 格 体育の時間が一番恐ろしい。特に、学校に入るまで、お母さんと二人で大きくなった子供な わどにツっい、つタイプが多一い こうしたタイプの子供は、成績だけはよくて、何とか学校を卒業して会社に就職した場合 の とに、同じような悩みを抱えていることが多い たとえば与えられた仕事はきちんとやる。その点で、昼間仕事中はよい社員である。心も 安定し、比較的充実した気持ちで仕事ができる。ところが、彼の苦手は、上司、同僚とのつ わゆる落ちこばれとか、無気力症といわれる青少年の心には、しばしばこの縁を恨む気持ち がひそんでいる。
、どこに行っても祖父母、そして両親の手が回っている。その地域の学校社会が う重苦しい つくづくいやになった。 O 子さんがあるとき、突然家出をして、二、三日、無断で東京に行ってしまったのは、こ うした事件が起こったときである。そして、この家出事件以後、学校に行かなくなってしま つつ 0 そうなると、「ああ、 X 家のあの O 子ちゃんが登校拒否になったそうだ」とか、「すっかり ひねくれて非行少女になったらしい」とか、その地域の評判になってしまった。町を歩いて いても、方々でそういううわさが聞かれる。 O 子さんはそう思い込んで、ますます被害妄想 的になった。 あるとき 0 子さんは、絶望的になって自分で死にたい気持ちになり、手首を切ってしまっ こ訪れることになったのだが、 O 子さん自身はこう語って こんな事情から精神衛生の相談幺 = 「何とかして自分自身になりたいのです。いままで子供のときから現在までの私の生活は、 祖父母の代から決まったコースをただ歩まされていただけみたいに思います。教育者って、 建前ばっかり説いていて、その建前どおりでないとすぐに、あいつはだめだ、こいつは落ち こばれだというふうなことを言って評価してしまうけれども、本当に人間らしい気持ちはち