編 「や、ロゴージンだ ! 」フェルディシチェンコが叫び声をあげた。 すき 「どうお思いですな、 トーツキイさん」将軍はすばやく隙を見てささやいた。「あの女は気がち がったんじゃないでしようか。つまり、その、譬喩ではなく、ほんとうの医学的な意味で、ね 「だから、わたしの言ったとおりでしよう、あの女はふだんでもその気があったんですから」ト ーツキイはずるそうにささやきかえした。 「おまけにいまは、熱に浮かされていますな : : : 」 ロゴージンの一団はほとんどけさと同じ顔ぶれであった。ただ新入りとしてはなんだか道楽者 らしいよぼよぼの老人ーーーこれはかってあるインチキなゆすり新聞の編集をやっていた男で、金 一の入れ歯を質に入れて飲んだという逸話の持主であったがーーーそれに退役少尉が一人加わってい げんこっ た。この男はその職分からいっても仕事の性質からいっても、けさほどの拳骨の旦那の好敵手で 第あったが、ロゴージンの一団にとってもまったくの新顔で、ネーフスキーの大通りで、日向ぼっ そで こをしているところを拾ってきたのであった。彼はそこで道行く人の袖をひいては、マルリンス 訳注詩人一本名 ) の一節を引いて、喜捨を乞うていたが、その言いぐさたるや、『わたしだっ て昔は物乞いに十五ループルもくれてやったもんですよ』という人を食ったものであった。二人 の好敵手はさっそくたがいに敵視しはじめた。例の拳骨の旦那は《物乞い》が一団のなかにはい って以来、自分が侮辱されたようにすら感じていたが、生れつき無ロなので、ただときおり熊の ようにうなり声をあげて、《物乞い》がおべつかを使ったり、ふざけまわったりするのを、ふか けいべつまなざ 2 い軽蔑の眼差しをもってながめていた。ところが、少尉はどうやら世なれた政略家らしく、腕カ ひと
を迎えに、トーツキイ氏の領地の隣人 ( もっともこれは別の遠い県のことであったが ) である、 一人の女地主がやってきて、トーツキイの指図と委任とによって、ナースチャを連れていってし まった。このあまり大きくない領地にも、そう大きなものではなかったが、建ったばかりの木造 の家があり、その家はとりわけしゃれた飾りつけがしてあった。それに、この小さな村は、まる セリツオー・オトラードノエ でわざとそう名づけたもののように、「慰めの村 , と呼ばれていた。女地主はナースチャを まっすぐこの静かな家へ連れていった。子供のない未亡人である彼女は、わずか一キロあまりの ところに住んでいたので、ナースチャといっしょにそこへ移り住むことにした。ナースチャの身 痴のまわりには、年寄りの女中頭とよく気のつく若い小間使が姿をあらわした。その家にはさまざ まな楽器、少女むきのすばらしい図書室、絵画、銅版画、鉛筆、絵筆、絵具がそろっており、す 。それ以来、彼はな トーツキイも姿を見せた : てきな猟大までがいた。二週間もすると、当の ひとけ ぜかこの人気のないステッ。フの村がすっかり気に入ってしまい、夏ごとに訪れては、二カ月も、 白いや、ときには三カ月も滞在していくのであった。こうして、かなり長い時間が、四年あまりの 歳月が、何事もなく幸福に、優雅な趣のうちに、流れていったのである。 オトラートノ亠 あるときこんなことがおこった。それは冬のはじめのことで、トーツキイの夏の「慰めの村 , 訪間 ( もっとも、そのときはわずか二週間しか滞在しなかったが ) があってから四カ月ばかりた ってからのことであるが、トーツキイがペテルプルグで富も家柄もある美貌の女と結婚しようと うトさ している、つまり、ひとことでいえば、りつばな華々しい縁組をしようとしているという噂が、 ナスターシャ・フィリポヴナのところに伝わってきたのであった。いや、ふとしたことから耳に はいったといったほうがいいかもしれない。この噂はあとになって全部が全部正しいものではな がしら
上何を望むことがあろう ? しかしながら、事態は依然として手探りのような有様で進行していった。トーツキイと将軍の あいだでは、おたがいに親友としての気安さで、一定の時が来るまでは、あとから取返しのつか ぬような形式的なことは何ひとつやめようという約束ができていた。そのため将軍夫妻もまだ娘 たちとざっくはらんに話をすることができなかった。なんとなく一種の破調が感じられてきた。 家庭の母たるエ。ハンチン将軍夫人も、なぜかとても不機嫌になってきたが、これはきわめて重要 なことであった。というのは、ここにいっさいを妨げる一つの事情が生じたからである。それが 痴もとで、何もかもめちやめちゃになるかもしれないという、厄介このうえもない偶然の出来事が 生じたのである。 この厄介このうえもない《偶然の出来事〉 ( これはトーツキイ自身の表現であるが ) は、もう かなり以前に、かれこれ十八年も前にはじまったのである。中部地方にあるトーツキイのゆたか 白な領地の隣に、所有地の少ないきわめて貧しい地主が貧乏暮しをしていた。それはたえず人の笑 いぐさになるような失敗をつづけているので有名な男であったが、かっては由緒ある貴族の出身 で、その点ではかえってトーツキイなどよりも家柄の、 しいフィリツ。フ・アレクサンドロヴィチ・ ハラシ = コフという退役士官であった。彼は借金のかぎりを尽し、ありったけの物を抵当に入れ つくした末、幾年か百姓同様のおそろしく辛い労働をつづけ、ようやくそのささやかな財政をど うにか建てなおすことができた。このごくわずかな成功にも彼はとても元気づけられた。すっか り元気づいて希望にあふれた彼は、そのおもだった債権者の一人と会って、できれば最後の話を つけてしまうつもりで、四、五日の予定で郡役所のある町へ出かけていった。彼が町へ着いて三
グラーヤの運命は決して単なる運命ではなく、実現可能な、この地上の楽園の理想として、最も すばらしいお手本として、姉妹たちのあいだで考えられていたのである。アグラーヤの未来の夫 は、富についてはもちろん、ありとあらゆる完全と成功をそなえている者でなくてはならなかっ た。二人の姉は、ことさら余計な口出しはしなかったけれど、もし必要とあれは、アグラーヤの けた ために自分の身を犠牲にしてもいい 、と決心していた。アグラーヤの持参金には桁はずれに莫大 な額が割りあてられていた。両親もこの二人の姉たちの気持を知っていたので、トーツキイから 相談を求められたとき、二人のうちのどちらかは両親の希望をむなしくすることはあるまいと、 編ほとんど少しも疑わなかった。ましてトーツキイは持参金のことであれこれ言うはずがなかった からなおさらであった。ほかならぬトーツキイのこの結婚申込みは、将軍自身も彼一流の処世観 によって、きわめて高く評価した。ところが、トーツキイ自身はある特別な事情のために、いま のところ一歩一歩きわめて用心ぶかく探りを入れているので、将軍夫妻もまだとてもかけはなれ 第た想像のような形でしか、娘たちに相談できなかった。これにたいする娘たちの返事も、やはり はくぜん 漠然としたものではあったが、長女のアレクサンドラが、おそらくいやとは言わないだろうとい う、少なくとも親たちを安心させるだけの意向をもらした。彼女はなかなかしつかりした性格の 娘であったが、気だてがよく、分別があって、しかも並みはずれて素直であったから、トーツキ イのところへも喜んで嫁ぎそうであった。いや、いったん約束したからにはりつばに約束を守る にちがいなかった。彼女はあまり派手なことはきらいで、厄介なことを持ちだしたり、急に気が 変ったりする心配もなく、むしろ与えられた生活を楽しく穏やかなものにすることができた。顔 かたちもとくに印象的とは一言えなかったが、きわめて美しかった。ト 1 ッキイにとってはこれ以 とっ
ので、とても自分で自分を制することができないからである。ところで、いま自分は結婚したい と思っているが、このきわめて世間体のいい上流社会の結婚の運命は、一にかかって彼女の手の 中に握られている、ひとことでいえば、自分は彼女の高潔なる心に、すべての望みをかけている のだと、トーツキイは包み隠さずに申しのべたのである。つぎに、エ。ハンチン将軍が父親の資格 トーツキイの運命を左右す で説きはじめた。彼は理路整然と、感情的な一一一一口葉をさけ、ただ彼女が る権利をもっていることを全面的に承認したうえ、自分の娘の運命も、ことによったら、あと二 けんそん トこまのめかして、たくみに謙遜ぶ 人の娘の運命も、彼女の決心ひとつにかかっているのだと言タ冫ー 編りを示したのであった。『それで、このあたくしにどうしろとおっしやるのですか ? 』というナ スターシャの問いにたいして、トーツキイは前と同じくざっくばらんな調子で、自分は五年前に 一ひどくおどかされているので、ナスターシャ自身が誰かに嫁ぐまではいまでもとても安心できな い、と告白してから、もしこんな頼みは何かそれについて確かな根拠がなかったならば、しつに 第滑稽なことにちがいないが、とつけくわえ、つぎのようなことを物語った。りつばな家柄をもち、 現在も尊敬すべき家族といっしょに暮している青年、というのは彼女も承知しているばかりでな く、自分の家へ出入りをゆるしているガヴリーラ・アルダリオノヴィチ・イヴォルギンのことで あるが、その彼がずっと以前からあらゆる情熱を傾けてナスタ 1 シャを愛しており、彼女の好意 が得られるという希望があれば、命を半分投げだしても惜しくないと思っていることを自分はよ く承知している。これはずっと以前にガヴリーラ自身がみずからこのト 1 ッキイに、けがれない 青年の純情さから告白したことで、この青年に目をかけてやっているエ。 ( ンチン将軍も、もうず っと前から承知していることである。また、このトーツキイの観察に誤りがなければ、青年の愛
い気まぐれを主張してやまなかった。トーツキイはひどく苦しんでいた。それに、エ。 ( ンチン将 軍までが彼を激怒させた。将軍は平気な顔をしてシャン。ハンを飲んでいるはかりか、ひょっとす ると、順番がきたら、何か話すつもりらしくさえ見うけられたからである。 「機知がないんですよ、ナスターシャ・フィリポヴナ、だからむだロばかりたたくんですよ」フ 編 = ルディシチンコは自分の物語をはじめながら叫んだ。「もしこのぼくにトーツキイさんやエ ( ンチン将軍と同じくらいの機知があったら、ぼくはトーツキイさんやエ。 ( ンチン将軍と同じよ 一うに、きようはずっと黙りこくってすわってたでしようよ。公爵、ちょっと伺いますが、あなた はどうお考えですか、ぼくは、この世に泥棒のほうが泥棒でない者よりずっと多いし、生涯に一 第度も盗みを働いたことのないような、そんな正直な人はひとりもいないと思われてならないんで すがね。これがぼくの考えですが、それだからといって、この世は泥棒だらけだと結論するつも りはありません。もっともときには、こう結論したくてたまらなくなることもありますがね、あ なたはどうお考えですか ? 」 「まあ、なんてばかなことをおっしやるんでしよう」元気のいい奥さんの、ダリヤ・アレクセー エヴナが口をはさんだ。「でたらめばっかり言って ! みんな誰でも何かしら盗むなんて、そん なばかなことがあってたまりますか ? わたしなんか決して一度も何も盗んだことありませんか らね」
日目に、頬を焼けただらし、ひげを黒く焦がした管理人が、村から馬を飛ばして駆けつけてきた。 そして、きのうのちょうどお昼ごろ『お屋敷が焼けてしまって』、その際『奥さまも焼け死にな さいましたが、お子さまたちは無事でした』という報告をもたらした。この思いがけない出来事 むち ばかりは、さすがに残酷な〈運命の笞》にならされてきた。ハラシュコフも耐えしのぶことができ なかった。彼は気が狂って、一カ月後には熱病で死んでしまった。焼けた領地は、路頭に迷った 百姓たちもろとも、借財の返済にあてられてしまった。、、 ( ラシ = コフの六つと七つになる二人の ぎきようしん 女の子は、トーツキイが持前の義快心から、手もとにひきとって養育することになった。孤児た 編ちはトーツキイ家の支配人である大家族持ちの退職官吏のドイツ人の子供たちといっしょに育て ぜぎな られるようになった。まもなく幼いほうの子が百日咳で亡くなったので、ナースチャという娘一 一人になった。一方、 トーツキイは外国で暮していたので、二人の女の子のことなどすっかり忘れ てしまっていた。五年ばかりすぎたあるとき、彼は通りすがりにふと自分の領地をのぞいてみよ 第うと思いたった。そして思いがけず村の屋敷のドイツ人の支配人の家族の中に一人の美しい女の かつばっ 子がいるのに気づいた。それは年のころ十二ばかりの、活で愛くるし、 し、利ロそうな、大きく なったらさぞ美しくなるであろうと思われる女の子であった。この道にかけてはトーツキイは決 くろうと して眼に狂いのない玄人であった。そのとき彼は領地に四、五日しか滞在しなかったが、すべて をきちんと処理していった。この少女の教育に著しい変化が生れた。年頃の娘の高等教育に経験 のある、フランス語のほかに一般学科を教えるりつばな教養あるスイス婦人が家庭教師として招 かれた。彼女は田舎の屋敷へ移り住み、小さなナスターシャの教育はきわめて充実したものとな った。ちょうど四年後にこの教育は終り、家庭教師の婦人は立ちさった。ところが、ナースチャ
「フェルディシチェンコは一杯食わされましたよー いや、まったく一杯食わされました ! こ 、や、はさまね れではもう一杯食わされたとしか言えませんとも ! 」もうロをはさんでもいいし ばならぬとさとって、フェルディシチェンコは泣くような声でどなった。 「あなたはどうしてそうものわかりが悪いんです ? すこしは賢い人を見習いなさいよ ! 」ほと トーツキイの古くからの忠実な友だち んど勝ち誇ったような口調でダリヤ・アレクセーエヴナ ( でもあり、同類でもあった ) がきつばりと言った。 「トーツキイさん、あなたのおっしやったとおりでしたわ。ほんとに退屈な。フチジョーですわ、 編早く切りあげてしまいましよう」ナスターシャ・フィリポヴナが投げやりな調子で言いだした。 「さっきお約束したことを、あたしお話ししますわ。それからみんなでトラン。フでもして遊びま 一しようよ」 「では、何よりもまずお約束のアネクドートを ! 」将軍は熱心に賛成した。 第「公爵」ふいにナスターシャ・フィリポヴナが鋭く公爵に話しかけた。「ねえ、ここにおいでの 将軍とト 1 ッキイさんは、あたしの古くからのお友だちですが、あたしを嫁にやりたくてしよう がないんですのよ。ねえ、あなたはどうお考えですの、あたしは嫁にいったものでしようか、ど うでしようか。あたし、あなたのおっしやるとおりにいたしますわー あお トーツキイはさっと蒼ざめ、将軍は棒立ちになった。一同は眼をすえて、首を前へ突きだした。 ガーニヤはその場にかたくなってすわっていた。 「だ : : : だれのところへ ? 」公爵はいまにも消えいりそうな声で、たずねた。 「ガヴリーラ・アルダリオノヴィチ・イヴォルギンのところへ」ナスターシャ・フィリポヴナは 289
襲したのであった。ナスターシャ・フィリポヴナはその贅沢を拒まず、むしろそれを好んだくら いであったが、不思議なことに、決してそれに溺れようとはしなかった。いつでもそんなことが なくてもやっていけるかのように、トーツキイに不快なおどろきをいだかせるようなことを、幾 度もわざと口外しようとさえっとめたほどであった。もっとも、トーツキイにこの不快なおどろ き ( のちには侮辱にまで発展したが ) をいだかせるような点が、ナスターシャ・フィリポヴナに はずいぶんたくさんあったのである。彼女がときどき身辺に近づけた人たち、したがって今後も 近づける傾向をもっている人たちの不粋なことはもちろんであるが、そのほかにもまだじつに奇 編妙な好みが彼女のなかに顔をのぞかしていた。それはつねに相反する二つの好みが、一種野蛮な 混合をなしているうえ、上品に優雅に育ってきた者にとっては、その存在さえゆるしがたいよう 一な事物や手段を黙認して、それに満足するというところがあった。実際、もしナスターシャ・フ ィリポヴナが、ふいに何かしら無邪気で上品な無知、たとえば、百姓女は自分の着ているような チスト はだ芋 第精麻布の肌着をつけてはいけない、といったふうの無知を言ったとしたら、そのときはトーツキ イも大いに満足したにちがいない トーツキイはこのような結果に導くように、はじめからナス ターシャ・フィリポヴナの教育を行なってきたのであった。なにしろ、彼はこうしたことにかけ てはなかなか精通した男だったからである。ところが、残念ながら、その結果はきわめて奇妙な ものであることが判明した。しかし、それにもかかわらす、ナスターシャ・フィリポヴナのなか には何かあるものが残っていて、それがときおり並みはずれて魅惑的な、一種風変りな力となっ て、 ト 1 ッキイ自身をさえ感動させ、ナスタ 1 シャ・フィリポヴナにたいする彼の以前の期待が まったく失われてしまった今日でさえ、ときには彼を魅了するのであった。 255 おば
: : ほかならぬこの点を予告したので ナスターシャ・フィリポヴナはロにこそまだ出していなしカ はなかろうか。彼女は相手の人物を完全に理解し研究しているので、したがって相手のいかなる 弱点を突くべきか承知していることをトーツキイは知っていた。で、結婚のほうは実際のところ 単に計画にすぎなかったので、トーツキイはナスターシャ・フィリポヴナと和解して譲歩したの であった。 彼がこう決心したについてもう一つ別の事情があった。新しいナスターシャ・フィリポヴナが よ・つほ・つ 容貌の点において昔の彼女に比べて、どれくらい似ても似つかぬものになったかは想像もできな 編いほどであった。以前はただもうとてもかわいいというだけであったが、いまはどうだろう : トーツキイは自分で四年間もながめていながら、ついにその真相を見抜けなかった自分を、長い ことゆるすことができなかった。たしかに、この変化が双方の側から内面的に、突如として生れ たということは、なかなか意味深長なものがあった。もっとも彼は、以前にもときどき、この二 ひとみ 第つの瞳をながめているうちに、何かしら奇怪な考えの浮ぶ瞬間があった。まるでこの瞳の中に底 すなさ 知れぬ神秘的な闇が予感されたようなぐあいであった。その眼差しはまるで謎でもかけるように 見つめるのだった。この二年間というもの、彼はナスターシャ・フィリ。ホヴナの顔色の変化にた あおじろ えずおどろかされてきた。ときには恐ろしいほど蒼白くなったがー・ー・不思議なことに、そのため にかえって一段と美しくなるのであった。若いころに道楽をした紳士たちの例にもれず、 キイもはじめのうちは、この無垢の魂を、どんなに安い値段で手に入れたかと、侮蔑の念をもっ てながめていた。しかし、最近ではいくらか自分の見解に疑いをはさむようになった。いずれに しても、彼は去年の春ごろから一つ決心を固めていた。それはほかでもない。近いうちにナスタ なそ