思い - みる会図書館


検索対象: 白痴(下)
396件見つかりました。

1. 白痴(下)

こうしてあなたさまにお手紙をさしあげていることを、ちゃんと承知しているのでございます』 このようなうわごとが、このほかにもまだまだたくさんこの手紙のなかには書かれていた。そ びんせん のなかの一通、二番目の手紙などは、大型の便箋二枚に細かい字でびっしり書かれてあった。 公爵はついにきのうと同じように、長いあいださまよい歩いたすえ、暗い公園から外へ出た。 明るい透き通るような夜は、いつもよりいっそう明るいように思われた。《まだこんなに早いの だろうか ? 》と彼は考えた ( 時計を持ってくるのを忘れたのである ) 。どこか遠くで音楽のひび きが聞えるような気がした。〈きっと停車場だろう〉と彼はまた考えた。《でもむろん、きようは 痴あの人たちも、あすこへは出かけなかったろう》彼はこんなことをあれこれ考えているうちに、 自分がその人たちの別荘のすぐそばに立っているのに気がついた。いずれはここへやってこなけ ればならないのだと承知していたので、彼は胸のしびれるような思いでテラスへ足を踏みいれた。 が、誰ひとり出迎える者もなく、テラスはがらんとしていた。彼はしばらく待ってから、玄関へ 白通ずるドアをあけた。《このドアはいつもしめてあったことがないのに〉という考えがちらとひ らめいたが、広間もやはりがらんとしていた。そこは真っ暗と言ってもいいほどであった。彼は けげんそうな面持で、部屋の真ん中に突ったっていた。と、いきなりドアがあいて、アレクサン しよくだい ドラ・イワーノヴナが燭台を手にしてはいってきた。彼女は公爵の姿を見るとびつくりして、不 審そうにその前に立ちどまった。どうやら、彼女はただ一方のドアからもう一つのドアへと、こ の部屋を通りぬけようとしたばかりで、こんなところで誰かに会おうとは、思いもかけなかった らしかった。 「まあ、ど - フしてこんなところにいらっしゃいますの ? 」彼女はようやく口をきった。

2. 白痴(下)

見ると、あざけるように笑顔をみせ、もうそれつきり彼をふりかえろうとはしなかった。 ようやく別荘のすぐそばで、ついいましがたペテル・フルグから帰ってきたばかりのイワン・フ ーヴロヴィチのことを ードロヴィチに行き会った。彼はすぐさま第一番に、エヴゲーニイ・ たすねた。しかし、夫人は返事をしないばかりか、夫には眼もくれずに、きつい顔をしてそばを あらし 通りぬけてしまった。娘たちゃ坦公爵の眼つきから、彼はすぐ家庭に嵐が襲ってきたことをさと った。しかし、それでなくても、彼自身の顔にも何かしら並々ならぬ不安の色が浮んでいた。彼 はさっそく出公爵の手を取って、家の入口のところでひきとめ、ほとんどささやくような声で、 編ふたことみこと言葉を交わした。やがて、テラスへあがって、リザヴェ 1 タ夫人のところへ行っ たときの二人の気がかりそうな様子から察して、何か尋常でないニ = ースを耳にしたことが想像 三された。しだいにみんなが、二階のリザヴェ 1 タ夫人のところへ集まっていったので、ついにテ かたすみ ラスに取りのこされたのは公爵ひとりだけになってしまった。彼は何かを心待ちするように片隅 第に腰かけていた。そのじつ、自分でもなんのためやらわからないでいた。家庭の中がごたついて いるのを見ながら、彼は帰ろうという気にはすこしもならなかった。どうやら、彼はいまや全宇 宙を忘れ去ってしまって、たとえどこにすわらされようと、そのまま二年でもずっとすわってい そうな様子であった。二階からは、ときどき心配そうな話し声が聞えてきた。彼はそこにどれく らいすわっていたか、自分でも気づかなかったであろう。時間はもうかなりおそいらしく、あた りはすっかり暗くなっていた。突然、アグラ 1 ヤがテラスへ姿をみせた。見たところ、彼女はい くぶん蒼い顔をしていたが、きわめて落ちつきはらっていた。アグラーヤは、こんな片隅に公爵 が椅子にかけていようとは明らかに思いもよらなかったので、けげんそうな面持で微笑した。 あお

3. 白痴(下)

なたがたも、この私も、世間の人たちも ! ほらこのとおり、私が面とむかって、あなたがたは 滑稽ですと一一 = ロっても、あなたがたは腹をおたてにならないじゃありませんか。そうしてみると、 つまり、みなさんはその生きた素材ということではないでしようか ? ところで、私の考えでは、 滑稽な人間に見えるということは、ときにはけっこうなことですよ、いや、むしろいいくらいで すよ。なぜなら、そのほうがおたがいに早くゆるしあって、早く仲なおりができますからね・な にしろ、一度に何もかも理解することはできませんし、またいきなり完全なものからはじめるわ けにもいきませんからね ! 完全なものに到達するためには、まず多くのものを理解しないとい 編うことが必要なのです ! あまり早く理解しすぎると、ひょっとして間違った理解をしないとも かぎりませんからね。私がこんなことを言うのは、みなさんがじつに多くのものを理解され、ま 四た : : : 理解されていないからなのです。私はもうあなたがたのことを心配してはおりません。あ なたがたは、こんな青二才がこんなことを言ったからといって、まさか腹なんかおたてにならな 第いでしようね ? もちろん、そんなことはありませんね ! ああ、あなたがたはご自分を侮辱し た者も、またすこしも侮辱しなかった者をも、忘れ去ってゆるすことができるのです。いや、何 よりもむずかしいことは、すこしも侮辱しなかった者をゆるすということです。なぜなら、彼ら は侮辱しなかったのですから、あなたがたの彼らにたいする不満は、根拠のないものだからです。 私が上流のかたがたに期待したのはじつにこのことなのです。私はこちらへ来てからも、それを 言おうと思ってあせったのですが、どういうふうに言っていいかわからなかったのです : : : あな たは笑 0 ていら 0 しゃいますね、イワン・ベトローヴィチ ? あなたは私があの連 ( 訳注庶 ) ことを心配し、あの連中の弁護者で、デモクラートで、人間平等のアジテーターだとお思いなの

4. 白痴(下)

うです。すると、伯爵はいきなりあの人を抱きしめて、そこですぐさまニ 1 ナ・アレクサンドロ ヴナとの結婚が成立したんだそうですよ。ところが翌日になって、紛失した金のはいった小箱が、 焼け跡から見つかったんですな。それは鉄製の英国式の小箱で、秘密錠がかかっていたそうです が、どうした拍子か床下へ落ちたのに、誰も気づかずにいて、やっと火事騒ぎで見つかったとい うそ うわけなんですね。なに、真っ赤な嘘ですとも。それでも、ニーナ・アレクサンドロヴナのこと を言いだしたときには、しくしく泣きだす始末でしたよ。ニ 1 ナ・アレクサンドロヴナはじつに ごりつばな奥さまでございますね。もっとも、このわたしにたいしては、腹をたてておいでにな 編りますけれど」 「知合いじゃないんですか ? 」 一 = 「まあ、ないと言ってもいいくらいですな。しかし、心の底から、お近づきになりたいと思って おります。せめてあのかたの前で、身の証しをたてたいと存じましてね。ニーナ・アレクサンド 第ロヴナはわたしがご主人をそそのかして酒飲みにしているように、思っていらっしやるんですか ら。ところが、わたしはそそのかすどころじゃない、どちらかといえば、なだめているくらいで すからねえ。ことによったら、わたしはあの人を道楽仲間から、遠ざけてあげているのかもしれ ませんよ。おまけに、あの人はわたしにとっては親友ですからね。正直のところ、わたしももう あの人を決して見殺しにはいたしませんよ。つまり、あの人の行くところへはわたしもついてい く、というぐあいでしてね。なにしろ、あの人をとらえておくには相手を感激させるよりほかに 手がありませんからな。最近はもうあの大尉夫人のところへも、ちっとも出かけないくらいです 知からね。もっとも心の中では、行きたくてうずうすしているようですがね。どうかすると、あの あか

5. 白痴(下)

第 「いや、あの女のことはうっちゃっておおきなさい、お願いです ! 」公爵は叫んだ。「あんな気 ちがいをあなたにどうすることができるでしょ - つ。私はあの女がも、つこれ以上あなたに手紙なん かよこさないように、全力をつくしますよ」 「もしそんなことをなさったら、あなたは心のない冷たいかたということになりますわね ! 」ア ひと グラ 1 ヤは叫んだ。「あの女が恋いこがれているのは決してあたくしなんかじゃなくて、あなた だってことが、あの女はあなたひとりを愛しているってことが、ほんとにおわかりにならないん ですの ! あの女のことなら何もかもすっかり。 , 、存じだというのに。これだけにはお気づきにな 編りませんでしたの ? これがいったいどんなことだか、この手紙がどんな意味をもっているのか、 しっと ・こ あなたはご存じですの ? これは嫉妬ですよ。いえ、嫉妬以上のものですよ ! あの女は・ 三の手紙に書いてあるように、ほんとにあの女はロゴージンのところへお嫁にいくとでもお思いで すか ? あの女はあたくしたちが式を挙げたら最後、その翌日に自殺するに決ってますよ ! 」 公爵はぎくりと身を震わせた。心臓が凍てつく思いであった。しかし、彼はびつくりしながら もアグラーヤの顔を見つめていた。この小娘がもうとうに一人前の女になっていたことに気づい て、妙な気持がした。 「ねえ、アグラーヤ、誓って言いますが、私はあの女が安らぎを取りもどして、幸福になれるも のなら、自分の命を投げだしてもいいと思っています。しかし : : : 私はもうあの女を愛すること はできません。あの女もそれを承知しています ! 」 「それじゃ、ご自分を犠牲になさるがいいわ、それがあなたにお似合いのことじゃありません 幻か ! だって、あなたはとても偉い慈善家なんですものねえ。それから、あたくしのことを『ア ひと ひと ひと ひと ひと ひと

6. 白痴(下)

いた。 「散歩にまいりましよう、散歩にまいりましよう ! ーアデライーダが叫んだ。「みんなごいっし ょに、公爵もぜひあたくしどもとごいっしよしてくださらなくてはいけませんわ。お帰りになる なんて法はありませんわ。とてもいいかたなんですもの ! ねえ、アグラーヤ、なんていいかた なんでしようね ! ねえ、そうじゃありません、ママ ! それに、あたくしはぜひともぜひとも このかたを接吻して、抱いてあげなくちゃなりませんわ : : : だって : : : いまアグラーヤに説明し てくださったお礼に。ママ、ねえ、あたくしこのかたに接吻してもよくって ? アグラーヤ、ね てんば 痴え、あんたの公爵に接吻させてちょうだい ! 」とお転婆娘らしく叫ぶと、ほんとうに公爵のほう へ駆けよって、その額に接吻した。こちらは相手の手を取って、きつく握りしめたので、アデラ ィーダはあやうく叫び声をあげるところだった。公爵は限りない歓喜の色を浮べて相手を見つめ くちびる ていたが、ふいにその片手をすばやく唇へ持っていって、三度その手に接吻した。 白「さあ、まいりましよう ! 」アグラーヤは呼んだ。「公爵、あたくしの手を取ってくださいな。 ママ、かまわないでしよう、あたくしを断わった花婿さんですもの ? だって、あなたは永久に あたくしを拒絶なさったんでしよう、公爵 2 いいえ、そうじゃだめ。そんなふうに婦人に腕を 貸すものじゃありませんわ。まあ、婦人の手をどういうふうに取るかもご存じないんですのフ ええ、それでけっこう、まいりましよう。みんなの先頭になろうじゃありませんか、先頭になる のはおいや、 téte téte 二人 0 ) では ? 」 彼女は相変らずときどき突発的に笑いながら、ひっきりなしにしゃべりつづけた。 「やれやれ ! よかったこと ! 」自分でも何を喜んでいるのかわからぬままに、リザヴェータ夫 せつぶん

7. 白痴(下)

まったくむずかしい問題であった。《公爵はいい人なのか悪い人なのか ? こうしたことはいい ことなのか悪いことなのか ? かりに悪いとすれば ( それも疑いもないことであるが ) 、どうい うところが悪いのか ? またかりに、、、 ししとしたら ( これまたありうることであるが ) 、いった いどういうところがいいのだろうか ? 》当の家庭のあるじたるイワン・フヨードロヴィチは、も ちろん何よりもまず面くらってしまったが、しばらくして突然こんなことを白状したのである。 『いやじつは、わたしも何かそんなふうなことがいつも頭の中にちらちらしておったよ。いやい や、そんなことは断じてないと思うのだが、何かの拍子でまたふと心に浮んでくるのさ ! 』彼は 痴妻の恐ろしい視線を浴びて、すぐ口をつぐんでしまった。ところが、ロをつぐんだのは朝だけで、 晩になってまた妻とさしむかいになり、またしても口をきらねばならなくなったとき、彼はいき なり一種特別な勇気をふるいおこしたように、思いもかけぬ考えをいくつか口に出した。『それ にしても、実際のところどうなんだろうね ? ・ ・ ( 沈黙 ) 。もしほんとうだとすれば、こりやお 白かしな話だ。わたしはなにも異存はないがね、ただ : : : ( ふたたび沈黙 ) ただ、かりに別な面か らこの件を直視すればだね、公爵は、実際、いまどき珍しい若者じゃよ、 力しか、それに : : : それに、 それに いや、その、名前だがね、うちの家名のことだがね、そうなると、目下零落しておる、 ていさ「 いわばその家名を維持するという体裁にもなることだし : : : つまり、世間にたいしてだね、いや、 そういう見地から見ると、いや、つまりその : : : もちろん、世間がだね、そりや世間は世間さ。 だが、それにしても、公爵だってまんざら財産がないというわけでもないし : いや、それもた いしたことじゃないにしてもだよ。ただあの男には、その : : : その : : : その』 ( 長い沈黙のすえ、 かんしくだま とうとう言葉につまってしまう ) リザヴータ夫人は夫の言葉を聞き終ると、とうとう癇癪玉を 350

8. 白痴(下)

「ぼくは行きます ! 」ようやく彼はしやがれた声で、やっとの思いで言った。 「なんなら、送っていきましようか」公爵は席を立ちあがりながら言ったが、外へ出てはいけな いというさきほどの言いつけを思いだして、ちょっと言葉をつまらした。 イボリートは笑いだした。 「あなたのところから帰ると言ったんじゃありませんよ」彼はたえず息を切らしたり咳きこんだ りしながら一一一一口葉をつづけた。「それどころか、ぼくは必要があってこちらへ伺ったんですよ、用 事がありましてね : : : でなかったら、なにもお騒がせしなかったでしようよ。ぼくはあの世へ行 痴くんですよ。それに今度こそまじめな話らしいですよ。一巻の終りですよ ! しかし、なにも同 情してもらいたいために一一一口うんじゃありませんよ、いいですか : : : じつはぼくその時がくるまで は、もう起きないつもりで、きようは十時から床についたんですが、ふと考えなおして、あなた のところへ来るためにまた起きだしたんですよ : : : つまり、その必要があったのですよ」 白「きみを見ていると、気の毒になってきますね。自分でむりして来られるよりも、ちょっと私を 呼んでくれたらよかったのに」 「いや、もうけっこうですよ。ご同情くださいましたね。つまり、もう社交上の礼儀はすんだわ けですね : : : あっ、忘れていました、そういうあなたのご健康はいかがです ? 」 「私は元気ですよ。昨晩はちょっと : : : でも、たいしたことありません」 「聞きました、聞きましたよ。中国製の花瓶こそいい災難でしたね。居あわせなかったのが残念 ですよ ! ところで用事なんですがね。まず第一に、ぼくはきようガヴリーラ・アルダリオノヴ イチがアグラーヤ・イワー / ヴナと緑色のべンチで逢いびきしているところを拝見する光栄を得

9. 白痴(下)

肥かったのですがね ) 。そして、私の結婚申込みにたいしては、わたしは人を見下したような同情 も、援助も、あるいは〈自分と同じ高さまで引きあげてやろうという親切心》なども決して恵ん でもらおうとは思いません、ってはっきり一一 = ロうんですよ。ゅうべあの女をごらんになりましたね、・ いったいあれがあの女の まさかあんな仲間といっしょにいて、幸福になれるとお思いですか ? ひと つきあう仲間たちと言えるでしようか ? あなたはご存じありませんが、あの女はとても頭がよ くて、なんでも理解できるんですよ ! ときにはこの私もびつくりさせられることがあるくらい ですからねえ ! 」 痴「あちらでもやはりこんな : : : お説教をあの女になさいましたの ? 「いや、とんでもない」公爵は、その質問の調子にも気づかずに、考えぶかそうに答えた。「私 はほとんどいつも黙ってばかりいました。私はよく何かしゃべりたいと思ったんですが、正直の ところ、なんと言っていいかわからなかったのです。ねえ、それに、なんにも口をきかないほう 白がいいような場合もありますからね。ああ、私はあの女を愛していました。とても愛していまし た : : : でも、あとになって : : : あとになって : : : あとになってあの女はすっかりさとってしまっ たのですー 「何をさとってしまったんですの ? 」 「私はただあの女をあわれんでいるだけで、もう : : : あの女を愛してはいないってことをです」 「でも、ひょっとしたらあの女は、いっかいっしょに逃げだした : : : あの地主に、ほんとはほれ ていたのかもしれないじゃありませんか」 ひと 「いや、私は何もかも知っているんです。あの女はその男のことを嘲笑していただけなんですか ひと ひと ひと びと ちょうしよう

10. 白痴(下)

すよ ! ぼくは誓ってもいいです、あなたはこの話をほんとうにしていないようですね ! 」 は . んな ~ 、 公爵は反駁する気になれなかった。 「ぼくはときどき、もう一度あなたのところへ引っ越そうかな、なんて思うんですよ。イボリー トはざっくばらんな調子でつけくわえた。「そうすると、あなたはあの連中のことを、ぜひとも できるだけ早く死んでくれるようにという条件つきで、他人を引きとるようなことのできない人 たちだ、とお思いなんですね ? 」 「あの人たちがきみを招いたのは、何かほかに思惑があってのことだと思ってましたがね」 編「ほう ! あなたはなかなかどうして、人の言うように無邪気なかたじゃないようですね ! い まはまだその時期じゃないんですが、例のガーネチカのことだの、あの男の思惑のことだのを、 四ちょっとあなたにお知らせしたいと思っているんですよ。公爵、あなたは落し穴を掘られていま すよ、恐ろしい落し穴を : : : そんなに落ちつきはらっていらっしやるのが、い っそお気の毒なく 第らいですよ。でも、なんともなりませんね : : : あなたってかたは、それよりほかの態度はとれな いんですからねえー 「いやはや、とんでもないことを心配してくれましたね ! 」公爵は笑いだした。「それじゃ、な んですか、きみの考えでは、私がもっと心配そうにしていたら、もっと幸福だろうと言うんです 「幸福でいて : : : ばかみたいに暮しているよりも、不幸であっても知っているほうがましですよ。 あなたはご自分に競争者がいるってことをまったく信じていらっしやらないようですね ? しか もそれは : : : あの方角からですよ」