ラスコ - みる会図書館


検索対象: 罪と罰 上巻
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1. 罪と罰 上巻

子をかぶっていたが、手には昨日の通り。 ( ラソルを持っていた。部屋の中が思いがけなく人でい ? ばいなのを見て、彼女はまごっいたというよりも、すっかり度を失い、まるで小さい子供みたいに おどおどしながら、すぐ引っ返そうとするような素振りさえ見せた。 「ああ : : : あなたですかー ラスコーリニコフはなみなみならぬ驚きのさまでこう言ったが、 急に自分でもまごまごしてしまった。 彼はすぐその時、母や妹がルージンの手紙によって、『いかがわしき生業を営む娘』の存在を、多 ひぼう 少なりとも知っているはすだということを、ふと思い浮かべた。彼はたった今ルージンの誹謗を反 駁して、その娘は初めて見たばかりたと言ったのに、突然その当人がはいって来たのである。それ から彼はまた、『いかがわしき生業を営む女』ということばに対しては、少しも抗弁しなかったこと を思い出した。こうしたすべてのことカ ; 、はっきりとではなかったが、瞬間的に彼の頭にひらめい た。けれど、なおよく注意して見ると、娘が卑しめはすかしめられた哀れな存在である一、とに、急一 かわいそう に気がついた。それはまったく可哀想なほど小さくなっていじけていた。彼女が恐怖のあまり逃げ 出しそうな素振りを見せた時、・彼は自分の内部で何か引っくり返ったような気がした。 「あなたがいらっしやろうとは、思いもかけなかった」と、目で彼なを引き止めながら、ラスコ ーリニコフはせきこんで言った。「どうそおかけくたさい。きっとカチェリーナ・イヴァ 1 ノヴナ のお使いでしよう。どうそ、そこじゃない、こちらへお掛けください : ラスコーリニコフの三つしかない椅子の一つに腰をかけ、戸口のすぐ儚に座を占めていたラズ 1 ミヒンは、ソーニヤがはいって来ると一緒に、彼女に道を与えるために席を立った。初めラスコ リニコフは、ゾシーモフの掛けていた長椅子の一隅をすすめようとしたが、ふとそれではあまり慣 .

2. 罪と罰 上巻

391 罪と罰上巻 よ : : : 去年も、ほとんど手がかりのなくなった殺人事件を、みごとに捜し当てたぜ ! 君とは非常 に、非常に近づきになりたがってるよー 「なんだってまた非常にたい ? 「つまり、別に何も : ・ : ・実はね、近ごろ病気になってから、僕が話のついでによく君のことをし ゃべったもんだから、先生も聞いてたわけさ : : : それにあの男はね、君が法科にいたけれど、事情 があって卒業できないでいるのを知って、なんという気の毒なことだ、などと言ったこともあるよ。 で、僕は結論したんだ : : : つまり、こんなことがみんな原因になってるんで、これ一つだけじゃな 、、ヨートフが : : : ねえ、ロージャ、僕は昨日君を家へ送りながら、酔ったまぎれに ・ : 昨日もザ、 何かしゃべったろう : : : で、僕はね、君が大仰に考えやしないかと、心配しているんだよ。実は : 「それはなんだい ? 皆が僕を気ちがい扱いにしてるってことかい ? なに、本当かもしれない 彼は緊張したような薄笑いを漏らした。 : まあつまり、僕の言ったことは ・なに、ばかな、そんなことじゃないー 「そ、そうなんだ : みんな : ・ ・ ( あの時言ったほかの事もひっくるめて ) あれは皆でたらめだ、酒の上のことた」 とラスコ 「何を君はそんなに言いわけしてるんだい ! 僕そんなことにはもうあきあきしたー 1 リニコフは大げさにいらだたしげな顔をして叫んだ。 もっとも、多少は芝居でもあった。 「いいよ、しし 、よ、わかったよ、ロにするも恥かしいくらいだ : さ

3. 罪と罰 上巻

がめた 「ロージャ」と彼女は席を立ちながら言った。「わたしたちはむろんあとで一緒に、ご飯をいた だくことになってるんたよ。ドウーネチカ、帰りましようよ : : : ねえ・ロージャ、お前少し散歩し・ てね、それからしばらく横になって休むがいし 。その上でなるべく早く来ておくれ : : : でないと、 わたしたちはお前を波れさせたようで、気がかりだからね : 「ええ、ええ、行きますとも。と彼は立ち上がりながら、気ぜわしげに答えた。「しかし、僕は . 用事があるから : ニコフ . いったい君たちはみな別々に食事をするつもりなのかい ? 」びつくりしてラスコ を見ながら、ラズ ーミヒンは叫んだ。「君それは何を言うんだ ? 」 「ああ、ああ、行くとも、むろん : : : だが、君はちょっと残ってくれないか。お母さん、この男 はいま入り用しゃないでしよう ? それとも、僕が横取りするようになりますかしら ? 」 え、そんなことありやしないよ ! じゃ、ドミートリイ・フロコーフィッチ、どうそあな たも食事にいらしてくださいまし、ねフ 「どうそぜひいらしてくださいましな」とドウーニヤも一緒に頼んだ。 巻 上 ラスーミヒンはおじぎをして、満面えみ輝いた。ちょっとの間、急に誰もがなんとなく妙にきま 罰 りの悪い思いをした。 と 「ではさようなら、ロージャ。、 しえ、そうじゃない、また後ほどね。わたし『さようなら』と言 9 うのが嫌いでね。さようなら、ナスターシャ : : : あら、また『さようなら』なんて言ってしまったー

4. 罪と罰 上巻

力いに体を並べながら、無言のまま歩いて行った。 「あなたは僕をお尋ねになったんですね : : : 庭番のところで ? 、とうとうラスコーリニコフはロ を切・つたが、なぜかばかに小さい声だった。 町人はなんの返事もしなければ、ふり返ろうともしない。二人はまた黙りこんでしまった。 「あなたはいったいどうしたというんです : : : 人を尋ねて来ながら : : : 黙ってるなんて : たいなんてことです ? ラスコーリニコフの声はとぎれ勝ちで、ことばはどうしたものか、はっきり発音されたがらない ような感じだった。 町人も今度は目を上けて、気味のわるい陰鬱なまなざしで、じろりとラスコーリニコフを見やっ 「人殺し」とふいに男は、低いけれど明瞭な、しつかりした声で言った。 ラスコーリニコフは男のかたわらを歩いていた。彼の足は急に恐ろしくカ抜けがし、背中がそう っと寒くなった。心臓は一瞬間、まるでかけてあった鉤がはすれたように、いきなりどきんとした。 巻こうして二人はまた百歩ばかり、全く無一言のまま並んで行った。 上 町人は彼を見もしない。 「何を一言うんです : : : 何を : : : 誰が人殺しなんです ? 」やっと聞きとれるほどの声で、ラスコー と リニコフはつぶやいた。 「お前が人殺しだ」男は一そうはっきり句を切りながら、腹の底までしみ込むような声で言った。 それは憎々しげな勝利の微笑を帯びているような風たった。そして、またしてもラスコーリニコフ

5. 罪と罰 上巻

「あなたはカベルナウモフのところにお住まいですかい ! 」と彼はソーニヤを見て笑顔で言った。 「昨日わたしはあの男に、チョッキを直してもらいましたよ。わたしはついお隣のマダム・レスリ ゲルトル 1 ダ・カールロヴナのところに下宿してるんですよ。妙な事があればあるもので すなあ ! 」 ソーニヤはじっと注意深く彼を見つめた。 「お隣同士ですな」と彼は何かかくべっ愉快らしく話し続けた。「わたしはペテルプルグへ来て からやっと三日めなんです。では、またお目にかかりましよう ソーニヤは答えなかった。ドアが開くと、彼女は自分の部屋へすべり込んだ。なぜか恥かしくな り、なんとなくおじ気づいたような風情だった : ラスーミヒンは、十ルフィーリイのところへ案内する道みち、かくべっ興奮したような気分にな っていた。 僕もうれしい 「いや、君、じつによかったよ」と彼は幾度もくりかえした。「僕もうれしい 『いったい何がそんなにうれしいんだ ? 』とラスコ 1 リニコフは腹の中で考えた。 巻 上 「だって僕は、君もあの婆さんのところに質を置いてたなんて、まるで知らなかったよ。で : しで : : : それはよほど前かね ? つまり、もうだいぶ前にあすこへ行ったのかね ? 」 『ちょっ、なんて頭の単純な馬鹿だ ! 』 とラスコーリニコフは考えながら立ち止まった。「そう、殺された三日ばか 「いつって ? ・ り前に行ったかなあ。しかし、僕はいま代物を受け出しに行ってるんじゃないよーと彼は妙にせき

6. 罪と罰 上巻

399 罪と罰上巻 「それはどちらでも同じことです」とポルフィーリイは、財政に関する彼の説明を冷やかに聞き 流して、そう答えた。「もっとも、なんなら、直接わたしに書面をお出しくださってもよろしい やはり同じ意味のね。つまり、かくかくの事件を聞いて、これこれの品が自分のものだということ を届け出るととも、かくかくのお願いがあ : 「それは普通の用紙でいいんでしようね ? 」またしてもふところの方を気にしながら、ラスコー リニコフは急いでさえぎった。 「ええ、ほんとうのありふれた紙でけっこうです ! 」 リイよ、 いかにも人を小馬鹿にしたような様子で目を細め、。ほちり こう一言ってふいにポルフィー と瞬きでもするように彼を見やった。もっとも、それはほんの一瞬間のことであったから、ただラ スコーリニコフの気のせいだったかもしれない。が、少なくともいくらかそんな風のところがあっ た。ラスコーリニコフは、なんのためかはしらないが確かにポルフィーリイは自分に瞬きしたに 相違ないと、神明に誓っても主張することができた。 『知ってやがる ! 』こういう考えが電光のように、彼の頭にひらめいた。 「どうかごめんください、こんなくたらないことでお手数をかけまして」と彼はいくらかへども どしながら、ことばを続けた。「僕の品物というのは、金にすればわすか五ループリくらいのもの ですが、僕にとっては、それをくれた人の記念として、かくべっ貴重なんです。で、白状しますと、 その話を聞いたとき、全くぎよっとしてしまいました : ーリイが入質人を調べてるって、うつかり口をすべ 「道理で、僕が昨日ゾシーモフに、ポルフィ ーミヒンが口を入 らしたとき君があんなにぎくっとしたんだな ! 」いかにも思わくありげに、ラズ

7. 罪と罰 上巻

ぎ出して、僕を壁へ押しつけたんです : : : が、ペンキ屋は、い や、そんなものがいたような覚えは ありません : : : それに、あけ放したアパートなんてものは、どこにもなかったようです。そうです、 ありませんでした : 「おい、君は何を言ってるんだ」ラズ ーミヒンはわれに返って、事情を考え合せたという風に、 いきなりこう叫んだ。「だって、ペンキ屋が塗っていたのは、殺人の当日じゃないか ? ところが、 この男の行ったのは三日前たぜ。君は何をきいてるんた ? 「ふう ! すっかりごっちゃにしてしまった ! ーポルフィーリイは額をたたいた。「いまいまし い、僕はこの事件で頭の調子が狂ってしまったよ ! 」と彼は謝罪でもするように、ラスコーリニコ フの方へふり向いた。「わたしはただもう誰かあのアパ トで、七時過ぎに二人を見た者はないか と、そればかり一生懸命に考えてるもんだから、あなたにきいたらわかりやしないかと、ついそん な気がしたようなわけで : : : すっかりごっちゃにしてしまったー 「そんなら、もっと気をつけなくちゃだめだよ」ラズ ーミヒンは気むすかしげに注意した。 最後の会話は、もう控室で交わされたのであった。ポルフィ ーイはいたって愛想よく、彼らを 巻戸口まで見送った。二人は陰鬱な気むすかしい顔をして通りへ出、幾足かの間一言も口をきかなか 上った。ラスコーリ = コフはほっと深く息をついた : 罰 ーミヒノよ、 「 : : : 僕は信しない ! 信じられない ! 」すっかりどぎもを抜かれてしまったラズ 一生懸命にラスコ 1 リニコフの推理をくつがえそうと努めながら、こうくり返すのであった。

8. 罪と罰 上巻

いなけりや、なんの気もありやしない、何もかも蜃気楼さ ! 「ほら、でたらめだ ! 服はその前にこしらえたんだよ。新調の服ができたについて、君らをか ついでやろうという考えが起こったのさ」 「実際あなたは、そんなに白っぱくれる名人なんですか ? 」とラスコ 1 リ = コフは無造作に尋ね . 「あなたはそうじゃないと思ったんですか ? 待ってらっしゃい、今にあなたも一杯くわしてあ いや、なんですよ、あなたにすっかり本当の事を言ってしまいまし げますからーーーは、は、はー 題こ関連して、今ふと思い出したんで よう。犯罪とか、環境とか、女の子とか、すべてそういうⅢ冫 いや、今までもずっと興味を持っていたんですが、あなたの書かれたちょっとした論文な んです。犯罪に就いて : : : とかなんとかいいましたね、題はよく記憶しませんが、二月ばかり前に べリオジーチェスカヤ・レーチ 『定期新聞』で拝見の栄を得ました」 「僕の論文 ? 『定期新聞』で ? 、とラス「ーリ = 「フは驚いて問い返した。「僕はじ「さい半年 ばかり前、大学をよす時に、ある本のことで論文を一つ書きましたが、そのとき君はそれを『週 ジェーリナヤ・レーチ 巻刊新聞』に持 0 て行ったんで、『定期新聞』じゃありません、 べリオジーチェスカヤ・レーチ 上 「ところが、『定期新聞』にのったんですよー リナヤ・レーチ エジェネジェー 新 「ああ、全く『週刊新聞』が廃刊したので、そのとき掲載されなかったんです : : : 」 罪 「それはそうに違いありませんが、『週刊新聞』は廃刊すると同時に、『定期新聞』と合併したので、 あなたの論文も二月前に『定期新聞』に、のったわけです。いったいご存じなかったんですか ? 」 ラスコーリニコフは事実少しも知らなかった。

9. 罪と罰 上巻

「わかってるよ、わかってるよ。お気分はいかがですな、え ? 」と、じっとラスコーリニコフの 顔に見人りながら、ゾシーモフは彼の方へふり向いた。そして、彼の長椅子に腰をおろし、病人の 足の辺に尻を落ち着けると、すぐさまできるだけ体をくつろげた。 ーミヒンはことばを続けた。「今シャッ 「始終ヒボコンデリイばかり起こしてるんだよ」とラズ を取りかえてやったんだが、もう泣き出さないばかりさ」 「それは無理もないことだ。当人が望まなければ、シャツなんかあとでもよかったんだ : : : 脈は 上等。頭痛はまだいくらかしますか、え ? 」 「僕は健康です、僕は全く健康体です ! 」ふいに長椅子の上に身を起こして、目をぎらぎら光ら せながら、強情ないらいらした調子でラスコ 1 リニコフはそう言ったが、すぐに枕の上へどうと倒 れ、壁の方へ向いてしまった。 ゾシーモフはじっと彼を注視していた。 : 何もかも順調にいってます」と彼はだるそうに言った。「何かあがりま 「たいへんけつ、こう : したかね ? ラスーミヒンは様子を話して、何をやったらいいか尋ねた。 巻 上 「なに、もう何を食べさせてもいいさ : : : スープ、茶 : : : きのこやきゅうりなんかはむろんいけ いや、この際なにもぐずぐす言うこ しないがね。それからと、牛肉もやつばりいけない。そして : ーミヒンと目くばせした。「水薬はいらない、なんにもいらない。あす僕が とはない ! 」彼はラズ いや、まあ : ・ 見るから : : : もっとも、今日だっていいんだが : ーミヒンは一人で決めてしまった。 「明日の晩は、僕この男を散歩に連れて行くぜ ! 」とラズ

10. 罪と罰 上巻

184 の事務所へ参っておりますので , と男は直接ラスコ 1 リニコフに向かって言い出した。「で、あな たが物のわきまえがつくようになられたら、三十五ルー・フリお渡しするはずになっておりますので。 つまり、おふくろさんが為替を振り出しなさったことにつきまして、セミョーン・セミョーヌイチ がアファナーシイ・イヴァーヌイチの手から、前々どおりの方法で通知を受け取られたのでござい ます。ご承知でいらっしゃいますか ? 」 「そう : : : 覚えてる : : : ヴァフルーシン : : 」とラスコーリニコフは考え深そうに言った。 「どうです、この男は商人のヴァフルーシンを知っていますよ ! 」とラズ ーミヒンは叫んだ。「こ れがどうして正気がないんだ ? もっとも今になって気がついたが、君もやはりものわかりのいし 人間た。いや、どうも ! 賢い人の話というものは聞いていても気持がいいですよ」 「つまりその方なんで、ヴァフルーシンさん、アファナーシイ・イヴァーヌイチなんでございま す。この人があなたのおふくろさんご依頼で、前にも一度同じようなあんばい式で、こちらへ送金 なさいましたが、今度もいなやをおっしやらないで、一両日前あちらからセミョーン・セミョ そうそうとんしゅ イチのところへ、三十五ルーブリの金をあなたに渡してくれ、匆々頓首と、こういう通知があった のでございます , うんぬん 「いや、『匇々頓首』は一番の傑作だ。『あなたのおふくろさん』云々も悪くなかった。ところで、 君のご意見はどんなもんでしよう、この人はすっかり正気に返ってるでしようか、それとも返って いないでしようかーー・・え ? 」 「わっしなんかどうでもかまいませんよ。ただ受取りさえきちんとしてればけっこうなんで」 「どうにかこうにか書くたろう ! 君の方しゃなんですかね、帳簿にでもなってる ? 」