万物の母・ : つ」 万物は陰を負い陽を抱き : ・ 万物はこれを恃みて生ず : ・ 万物は並び作こるも : まさおのずか 万物は将に自ら化せんとす・ 万物は将に自ら賓せんとす : ゅう 万物は有より生じ : 万物を衣養するも : ・ 万物を以て芻狗と為す : ・ びみようげんつう 微妙玄通す : 微明・ : 悲哀を以てこれを泣き : かがや 光あるも而も燿かさず : ・ 挧 ( 引 ) くに敵無し : 美言は信ならず : ・ 美言は以て尊を市うべく : 美と悪と相い去ること : 美の美たるを知るも : すうく たの 人に勝つ者はカ有り : 人の生まるるや柔弱 : ・ 人の教うる所 : ・ 人の畏るる所 : ・ 人の道は則ち然らず : ・ のっと 人は地に法り : 人を治め天に事うるは : 人を殺すを楽しむ : ・ 人を知る者は智なり : : 人を棄つること無し : 百姓の心を以て : 百姓は皆我れは自然と : すうく 百姓を以て芻狗と為す : ・ ひょうふう 飄風は朝を終えず : ・ ひろ 博き者は知らず : ・ ひん 牝は常に静を以て牡に勝っ : ひんぼ 牝牡の合を知らず : ・ 富貴にして驕るは : 深くして識るべからず : ・ ひやくせい おご 福は禍いの伏す所・ : 不言の教 : ・ ふしよう 不肖に似たり : 不争の徳 : 不道は早く已む : ・ : 面復帰 : ・ 冬に川を渉るが若く : 文足らずと為す : ・ 兵は強ければ勝たず・ : ふしようき 兵は不祥の器 : ・ 兵を抗げて相い如けば : 兵を用うるに言えること有り・ : 跚 兵を用うれば右を貴ぶ : 兵を以て天下に強いず : ・ へんしようぐん 偏将軍は左に居り : ・ ほうたいきだ 蜂螢蛇も螫さず・ : しかさ 方なるも而も割かず : ・ ますますあき 法令滋彰らかにして : 57 38 171 188 241 87 わた ごと ・ 5 四 53 105 57 62 171 208 206 143 180
愚民政治を説くあからさまなことば。とくに「民の治めがたきは、その智の多き以なり」 というのは、いかにも封建君主のかってな独善的せりふとも聞こえる。この章がそうした意 味で読まれてきたことも、事実であろう。しかし、たいせつなことは、これがさかしらの知 恵の害を知ったもののことばだということである。知恵は欲をひきおこし、欲はまた知恵に みが 磨きをかける。人間はそれによって文化を築きあげてきたのだが、さてそれで幸福だけがひ ろがってきたであろうか。文化の恩恵のかげに重なっている新しい困難、大きな不幸が、深 どうくっ い洞窟のロをあけているではないか。なまじいの知恵は棄てるべきである。知恵をいうな ら、それは世俗をこえた真実の明知でなければならない。「民を愚直にする」とは、実はこ おうひっ の明知に近づけることである。王弼の注はいう、「愚とは無知のこと、真を守って自然に従 たいぎ うことである」と。知の害を説くことばは「智慧出でて大偽ありー ( 第十八章 ) 、「聖を絶ち 智を棄つれば、民の利は百倍」 ( 第十九章 ) のほか、これまでに多くみられた。世俗の知恵 篇 下を棄てるところに真実の「道」があらわれてくる。そして、天地自然のおのずからなはたら 軽きと合致した「大順」の立場にゆきつけるのである。知恵を貴ばない政治、それは「道」に 近従う政治であり、天地自然の法則に従う政治であった。 けいしき こ げんとく 老◎「稽式」は二字とも法則の意味。「是れを玄徳と謂う」の句は、第十章・第五十一章にもみ えるが、「生じて有とせず , などのことばを受けていて、こことは意味内容が違う。ここと おろ 囲関係が深いのは『荘子』天地篇の第八節であって、天地とびったり合一して、愚かなるがご そうじ ため
みずか 道の天下に在ける : 欲する可 ( 所 ) を見さざれば : カ自ら勝つ者は強し : 道の尊きと徳の貴きは : 自ら生ぜざるを以て : ・ 欲せざるを欲し : ・ あら 道の道とすべきは : 自ら知りて自ら見わさず : ・ 骨は弱く筋は柔かく : こう 道の物たる惟れ恍惟れ惚・ : 自ら知る者は明なり : 骨を強くす : 道は一を生じ : ・ 自ら是とする者は : ま行 : 材道は隠れて名なし : 自ら是とせず : ・ のっと まえよ 道は自然に法る : 自ら大と為らざるを以て : 前に処るも民は害とせず : なお ・ : 材道は乃ち久し : ・ : 自ら伐 ( 矜 ) らず : ・ 枉がれば則ち直し : 道は大 : ・ 自ら伐 ( 矜 ) る者は : 益して損ず : ・ ひさ また 自ら矜る者は長しからず : ・ : : : 肥道は常に無為にして : 跨ぐ者は行かず・ : 道は常に無名なり : : 制見ずして名 ( 明 ) かに : 全くしてこれを帰す : ・ まど うっしみやす 嫺道は沖しきも : 営える魄を載んじ・ : 道を失いて後に徳あり : 道これを生じ : ・ 学ばざるを学ぶ : まじわり 道を貴ぶ所以の者は : 道と為すに足らず : ・ 与には仁を善しとし・ 道を為せば日、ゝに損ず : 道なる者は万物の奥なり : たす 道を以て人主を佐く : ・ 道に従事する者は : 水は善く万物を利して : のぞ ちか 索 道を以て天下に莅めば : 道に幾し : 水より柔弱なるは莫し : 盈つるを欲せず : ・ : 道に同ずる者 : 自ら見わさず : ・ 身と貨と孰れか多れる : ・ 道の言に出だすは : 2 自ら見わす者は : あら と - 」ろ しめ あきら 118 87 たっと すなわ むな お まさ こっ 145 57 186 104 153 191 127 26 Ⅲ 123 62 135 141 78 15 燗 111
うしな 多く蔵すれば厚く亡う : 多ければ則ち惑う : 教えの父と為さん : 愛めば大いに費え : 推すを楽しんで厭わず : ・ 同じきに出でて : おのずかひと 自ら均し : 重きは軽きの根たり : せば 居る所を狎める無く : 居れば左を貴び : おろ 愚かにせんとす : つつし 終わりを慎むこと : 音と声と相い和し : か行 かえ 反る者は道の動 : かえ 還るを好む : がく 学を絶てば憂い無し : ひびま 学を為せば日、ゝに益し : たっと こん 重ねて徳を積めば : : 材化して作らんと : やす はか 難きを其の易きに図り : 果 ( 勝 ) ちて強いる勿し : 果ちて矜ること勿く : 勝ちて美ならず・ : たまいだ かっき 褐を被て玉を懐く : ・ かとく 下徳は徳を失わざらんとす : ・ かな 哀しむ者勝っ : 必ず固らくこれを張れ : かみお : 上に処るも民は重しとせず : 彼れを去てて此れを取る : ・ 8 もと かろ 軽ければ本を失い かんけん 関揵なくして : がんとく 含徳の厚き : ・ 官の長と為す・ : 希言は自然なり : ・ : 奇を為す者・ : おこ : 奇を以て兵を用い : 気を専らにし柔を致し : 聴くも聞くに足らず : 聴けども聞こえず : 器これを成す : ・ 揣えてこれを鋭くするは : たっと 吉事は左を尚び : ・ 木は強ければ折る : 義を失いて後に礼あり : るいど 九層の台も累土より起こり : きようじ 凶事は右を尚ぶ : しもよ 強大なるは下に処り : きようりようしゃ 強梁者は其の死を得ず : ・ 曲なれば則ち全し : ・ 居には地を善しとし : : 四虚を致すこと極まり : どう : 金玉堂に満つるは : 愚人の心 : くにあか ・ : 国の垢 ( 不祥 ) を受く : きた きょ もつば 36 材 141 227 108 197 127 227 108 38 燗 53 118 40 177 232 75
じようこう とが 上公本や古本などと合うから、いまそれに従った。「咎 . の句の「惜」の字も、もとは「大」 いたましいこ とあるが、帛書と古本に従って改めた。「僣ーは惨と同意で、むごたらしく、 はずか と。◎「常に足る , 永遠の満足は、第四十四章の「足るを知れば辱しめられず」 ( 一四五ペー ジ ) とも参看する必要がある。 貯戸を出でずして ( 足もとを見よ ) 戸口から一歩も出ないでいて、世界のすべてのことが知られ、窓から外をのぞき もしないでいて、自然界の法則がよくわかる。外に出かけることが遠ければ遠いほ ど、知ることはますます少なくなっていくものだ。それゆえ「道」と一体になった 聖人は出歩かないでいてすべてを知り、見ないでいてすべてをはっきりとわきまえ、 下何もしないでいてすべてを成しとげる。 いよいよ ま′」、つかが 戸を出でずして天下を知り、膈を閥わずして天道を見る。其の出ずること弥遠 ここもっ ければ、其の知ること弥 : 少なし。是を以て聖人は、行かずして知り、見ずして あきら 名 ( 明 ) かにし、為さずして成す。
つかりしたものを攻撃するとなると、それに勝るものはない。水の性質を変えさせ るものがほかにはないからである。 カオ 弱々しいものがかえって強いものに勝ち、柔らかなものがかえって剛いものに勝 っということは、世界じゅうだれもが知っていることだが、それを自分で実行でき くつじよく るものはいない。それゆえ聖人は、「国家の屈辱を甘んじてその身に受ける人、それ わざわい あるじ しやしよく 、国家の災害を甘んじてその身に受ける人、それを世界の を社稷 ( 国 ) の主といし 王という」と言っている。ほんとうの正しいことばは、ふつうとは反対のように聞 こえるものだ。 けんきよう じゅうじゃく てんか 天下水より柔弱なるは莫し。而も堅強を攻むる者、これに能く勝る莫し。其の以 てこれを易うるもの無きを以てなり。 じゃくきよう 弱の強に勝ち、柔の剛に勝つは、天下知らざる莫きも、能く行なう莫し。是を以 ふしよう しやしよくしゅ あか て聖人は云う、国の垢を受く、是れを社稷の主と謂い、国の不祥を受く、是れを ごと おう 天下の王と謂う、と。正言は反するが若し。 天下莫柔弱於水。而攻堅強者、莫之能勝。以其無以易之。 弱之勝強、柔之勝剛、天下莫不知、莫能行。是以聖人云、受国之垢、是謂社稷主、 しか まさ まさ ここ もっ
ぜいこう おうひっ いぼこぶ ◎「贅行」の「行」を形と通用するとして、「よけいな形」、つまり王弼の注にいう肬や贅に けい′一、つ 当てる説 ( 奚伺 ) もあって、一説として認められるが、「行」のままでも通じる。◎「物或い ちょうしようじよきしん は」の「物」は、人をふくむ万物をさす。張松如は鬼神のこととして、『易』にいう「鬼神 は盈つるを害して謙に福す、の主旨ではないかという。一説である。なおこの句は第三十一 章にもみえる。◎「有道者 , は第七十七章にもみえる。「聖人、と近いが、「道を為し、 ( 第四 十八章 ) て、それを身につけた人。 きよく 曲なれば則ち全し ( 旧第一一十二章 ) ( 不争の徳② ) まっと しやく 「曲がりくねった樹のように役たたずでおれば、身を全うできる。尺とり虫のよう くぼち に身をかがめておれば、真っ直ぐにのびられる。窪地のようにへこんでおれば、い 篇つばいにたまってくる。古着のようにばろばろでおれば、新しくなれる」 まこと、そのように、万事をひかえめにしてつつしんでおれば目的は達せられる が、多くをむさばると迷うことになる。それゆえ聖人は、多くのことには目もくれ 子ず、唯一の「道」をしつかりと守って、世界じゅうの模範となっているのだ。 自分で自分を見せびらかそうとしたりはしない、だからかえってその才能がはっ きりする。自分で自分を正しいとしたりはしない、だからかえってその正しさがあ ゆいいっ まった
180 政治がゆきとどいてはっきりしたものであると、その人民はずる賢くなるものだ。 わざわい さいわい わざわい 災禍があればそこに幸運もよりそっており、幸運があればそこに災禍もかくれて じゅんかん いる。この循環のゆきつく果てはだれにもわからない。そもそもまともな規準はな いのであろうか。まともなことがひっくりかえって型ゃぶりに変わり、りつばなこ あや とがひっくりかえって妖しげなことに変わる。実はそこに真相があるのだが、人び とがそれに気づかないで迷いつづけていることは、もう古いむかしからのことだ。 おおらかなばんやりした政治のよいことは、これでわかるだろう。 それゆえ、「道」を体得した聖人は、方正とはいってもそれによって人をさばいた れんけっ りはせず、廉潔とはいってもそれによって人を傷つけたりはせず、真っ直ぐとはい ってもどこまでも押しとおすことはせず、知識の光をもっとはいっても人目をひく ような輝きは外に出さないのである。 そまつりごともんもん じゅんじゅん さっさっ 其の政悶悶たれば、其の民は淳淳たり。其の政察察たれば、其の民は欠欠た わざわ きよく 禍いは福の倚る所、福は禍いの伏す所。孰れか其の極 ( 法 ) を知らん。其れ正 よう もと きか。正は復た奇と為り、善は復た妖と為る。人の迷えるや、其の日固より久し。 しかさ そこな ちよく 是を以て聖人は、方なるも而も割かず、廉なるも而も劃 ( 傷 ) わず、直なるも而 ここ れん けつけっ
たいえん 大怨を和すれば : きせい 大音は希声・ : たいかん 大患を貴ぶこと身の若く : たいき ばんせい 大器は晩成し : ・ たいぐん 大軍の後は必ず凶年・ : たいこうった 大巧は拙なきが若く : 大国は下流なり : 大国を治むるは : 大順に至る : たいしよう けず 大匠に代わりて斷る : たいしよう 大象は形無し : 大象を執れば天下往く 大上は下これ有るを知る : 大丈夫・ : 大成は欠くるが若く : さ 大制は割かず : ・ 索 大直は屈するが若く : たいはくじよく 大白は辱なるが若く・ とっ 大弁は訥なるが若し : たいじようしも だいじようふ たいせい たいちよく 大道廃れて仁義有り・ : 大道は甚だ夷らか : 大道氾として : 大なるも不肖に似たり : たいほうかど 大方は隅無し : ・ 大なる者宜しく下る : ・ : 多易は必ず難多し : ・ しばしば 多言は数、、窮す : ・ ・ : 嫺泰を去る : 高きは下きを以て : おさ 高き者はこれを抑え : たくやく 稾籥のごときか : た ななめ 唯だ施なるを畏れん : た 惟だ道に是れ従う : たっと 貴きは賤しきを以て : たに 谷は盈つること無くんば : たみ おそ 民威を畏れざれば : おのずか 民自ら化し : たか すた はん み ひく おそ 民死を畏れざれば : 民に利器多く 民の饑うるは : 民の治め難きは : 民の心をして乱れざらしむ : : 民の事に従うは : 民は径を好む : ・ 民を愛し国を治め : ・ 民を明らかにするに非ず : 民をして争わざらしむ : ・ かた 民をして死を重んじて : ・ : 四足らざるを補う : : 黼足るを知らざるより : 足るを知るの足るは : 足るを知る者は富む : ・ 足るを知れば辱かしめられず : ・ 誰の子なるかを知らず : ・ 淡乎として味わい無し : ・ 智慧出でて大偽あり・ : たんこ おそ 68 118 26 145 113 剏 150 230 237 23 2 圓 40 166 197 23 225 225 177 223
たいせい あの泰西の神話にも象徴的に示されている。われわれは自分の持ちものをかなぐり つ」す 棄てる必要がある。世間の常識に満たされた、この多くの知識をである。「道」のこ とはあとで述べるとして、ともかく「道」を修めるとそれが可能になるという。ど んどん減らして無知になって、やがて無為になる。無為はことさらなしわざをしな いことで、それでこそ万事がうまく成しとげられるのだという。 したい、人間の常識ほど当てにならないものはない。 「美しいものを美しいとして知っているが、果たして本当に美しいのか、実は醜い ものだ。善いことを善いこととして知っているが、果たして本当に善いことなのか、 実は善くないことだ」 人びとはその時その時の現象をつかまえて、かってな判断をしているだけである。 だから世界の真相をわきまえた聖人は「無為の事におり、不言の教えを行なう」の だという ( 第二章 ) 。現象に動かされるだけの世間知は「智ーとよばれる。それをこ えた聖人の英知は「明ーといわれる。「他人のことを知るのは智であるが、自分のこ とを知るのが明である」という ( 第三十三章 ) 。外に走る知ではなく、内に沈潜する どうさっ しんち 洞察こそが、すべてを見ぬく真知だというのである。 無為は一切なにごともしないというのではない。それと同じように、無知もまた 一切の知的なはたらきをやめよというのではない。聖人の明知は模範とすべきであ ちんせん