十一娘の消息を聞いて、まだ希望があるとひとりで思っていた。ところへ彼女の嫁ぎ先が決ま ったとの話を聞き、胸中怒りの火が渦巻き、万事休すと諦めたが、間もなく、彼女の訃報を聞 いて麗人とともに死ねなかったことを悲しんだ。その夕暮れ、闇に乗じて十一娘の墓に詣でよ うと外に出ると、突然、誰かが近づいてきた。見れば封三娘である。 「おめでとうございます。いよいよご縁組みがまとまりますわね」 言われて、はらはらと涙を流し、 「君は十一娘が亡くなったことを知らないのか」 「わたしがご縁組みがまとまると言ったのは、お亡くなりになったからこそです。急いでお宅 の人を呼んで墓をあばかせてください。わたしが生き返らすことのできる妙薬を持っています から」 孟はこれに従って墓をあばいて棺桶から死体を取り出し、墓を埋めもどした。みずから死体 とき を背負って三娘とともに家に帰り、寝台に寝かせて薬を飲ませると、一刻ばかりして息を吹き 返した。三娘を見て、 「ここはどこ」 と一言うので、三娘が孟を指さして、 「この方が孟安仁さまよ」
258 「下男はいないのかね」 と聞いてみたが、笑っただけで何も言わず、夜具を敷きのべると出て行ってしまった。次の 夜もまた来たので、冗談半分に誘ってみると、笑っただけで拒む風もなかったので、ついに床 をともにしたが、後で言った。 「お屋敷には男がいないので、外向きのことはすべて大旦那さまにお願いしているのです。わ たくしは奴と申します。奥さまは先生を尊敬していらっしやるので、ほかの小間使たちでは 失礼と、わたくしを寄越されたのです。今のことは、本当にここだけのことにして下さいませ。 もし誰かに知られたら、お互い皆さまに会わせる顔がなくなりますから」 ある夜、つい寝過ごして夜が明けたのも気がっかず、少年に見られてしまった。恥じ入ると ともに困ったことになったと思っていると、夕方、愛奴がきて、 「奥さまがあなたさまを大切に思っていらっしやるので助かりました。さもなくば、なにもか もおしまいになっていたところでした。若さまが奥さまに申し上げかけたとき、奥さまは急い で若さまのロを塞いでしまわれたのです。あなたさまのお耳にはいってはとお気に掛けられた ようでした。ただ、わたくしには書斎に長居してはいけないとお言いつけでした」 と言って、出て行った。 徐は夫人の心遣いに心から感謝していた。それにしても少年の方は一向に勉強しなかった。
その言葉も終わらないうち、下僕がさっと扉を排して躍りこんできたが、女に語気鋭く、 「棒をお棄て。ご主人とお別れをするのだから、すぐ酒の用意をしなさい」 と言われると、まるで誰かにもぎ取られたように、自ら棒を投げ出した。劉はますます恐ろ しくなったが、 それを抑えて酒肴の用意をすると、女はいつもと変わらずに談笑しながら、劉 を指さした。 「あなたの気持ちがよく分かったので、できるだけのことをしてあげようと思っているのに、 待ち伏せとはご挨拶ね。わたしは確かに阿繍ではないけど、かといって阿繍に及ばないなどと は思ってもいないわ。ど、つ、昔の阿繍と同じではないこと」 劉は肌に粟を生ずる思いで、何も言えずにいた。女は三更の太鼓の音を聞くと、酒をぐいと 飲みほして立ち上がり、 「わたしはひとまず帰るけど、ご婚礼がすんだら、奥さまとどちらがきれいか、また比べにく 繍るわー の と言って身をひるがえしたかと思うと、早くも見えなくなっていた。 人 劉は狐の言ったことを信じ、急いで蓋州へ帰った。叔父が自分を騙したことを恨んでいたの で、その家には泊まらず、姚氏の店の近くに家を借りた。仲人婆を通じて自ら申し入れるとと もに、大金を贈ると、姚の妻が言った。
428 と一一一一〕うだけなので、腕をとってしやにむに庭に連れだし、牡丹の前に来て、株を指さしなが 「君はこれかい」 と尋ねたが、 絳雪は口元をおおって笑うばかりだった。 その年の暮れ、黄は年越しのために家に帰ったが、二月に入ったある日、絳雪が突然、悄然 と夢枕に立った。 「大変なことになりました。急いでおいでいただければお会いすることができますが、遅れた ら間に合いませんわ」 目が覚めて不思議なことと田 5 . い、急いで下男に馬の支度を命じ、夜を日についで駆けつけて たいとう みると、道士が建物を建てているところで、一株の耐冬が邪魔になっていた。大工が切り倒そ うとしてしていたのを、急いでやめさせた。その夜、絳雪が礼を言いに来たので、笑って言っ てやった。 「前に言ってくれれば、こんなことにはならなかったのに。これで君の正体を知ったからは、 君が来ないときは、お灸をすえてやるからね」 「あなたがこんな方と知っていたので、お教えしなかったのですわ」 しばらく話してから、黄が言った。 ら、
知県はこの間に高官に莫大な献金をしたので、生員たちは徒党を組んだとして逮捕され、文案 ほうしよう 起草者も指名手配された。張は恐れて逃亡し、鳳翔 ( 陝西省 ) の県境まで逃げたところで、路用 も底をついてしまった。 日も暮れかけてきたのに、荒れ果てた野原に泊まるところもなく途方に暮れていたところ、 ふと小さな集落が見えたので、急いで行ってみた。ちょうど、一人の老女が門の扉を閉ざしに 出てきて張を見かけ、何をしているのかと言った。張が実情を訴えると、老女は言った。 「本来ならお泊めすることくらい何でもないのですが、当家には男がいないもので、お泊めす 一三ーーし力ないのですよ」 ぜいたくは申しません。ただ、門内に置いていただいて、虎や狼から逃げることができれば 結構なのです」 すると老女は中に入れてくれて、門を閉ざし、筵をくれた。 妻「あなたがお気の毒なので、一存で門内に泊めて差し上げるのですから、夜が明けたらすぐに 狐 と出て行ってくださいね。お嬢さまに聞こえでもしたら、わたしが叱られますからね」 賢 老女が立ち去ったあと、張は壁にもたれてうとうとしていたが、とっぜん提灯の明かりが見 え、老女が一人の令嬢を先導して出てきた。荒てて物陰にかくれ、そっとうかがって見ている と、二十ばかりの麗人だったが、門の前まで来て筵を見つけて、老女に「これは何です」と一言
66 仙女 たので、そっと履を脱いで静かに寝台に登った。相手が目を覚ませば追い払われるに違いない と、蒲団の裾のところに縮こまって、ほのかに流れてくる彼女の息の香りをかいで満足してい るうち、真夜中の活躍に疲れ切っていたため、瞼を合わせたかと思うと、たちまち眠りこんで しまった。 ふと目を覚ました青娥は、すうすうという鼻息が聞こえるので、目を開けば、穴から外の明 かりが差し込んでいる。ぎよっとして急いで起きだし、闇の中で戸口の閂を抜いて外に出ると、 小間使の部屋の窓を叩いて呼び起こした。皆で松明をともし、棍棒をもって行ってみると、ま あげまき だ総角の書生が蒲団の上でぐっすりと寝入っている。よくよく見てみれば霍桓であった。揺り 、別に恐れる風でもな 起こすと、やっと気が付いて慌てて起きあがった。目をきらきら輝かせ かったが、恥ずかしそうに黙りこくっている。皆が泥棒だと思って、口々に怒鳴ると、はじめ て涙を流して言った。 「わたしは泥棒ではありません。お嬢さんが好きになってしまったので、お側にいたいと思っ ただけです」 皆が二重の塀に穴をあけてはいるなど、子供の仕業ではあるまいと疑ったので、霍桓は鑿を 出してその不思議な能力を説明した。皆は試してみてびつくり仰天、神さまから授かったので 川はないかと言った。皆が奥さまのもとへ知らせに行こうとすると、青娥がうなだれて考えこん
220 知した。 年を越えて宰相が罷免された。たまたま王公宛の宰相の私信を、使いの者が誤って給事中王 なにがしの屋敷に届けてしまった。喜んだ王なにがしは、まず王公と親しい者を介して王公に 一万両の借用を申し入れた。王公が断ると、自ら王公を訪ねた。王公は接客用の頭巾や長衣を 着ようとしたが、。 とうしても見つからない。王なにがしはさんざ待たされ、わざと粗略に扱わ りようほう れたと憤慨、席を蹴って帰ろうとしたところ、元豊が龍袍に平天冠 ( 皇帝の衣冠 ) といういでた ちで、一人の女に押されて出てきた。あっと驚いたが、すぐまた笑顔になって撫でてやり、脱 ひたたれ がせた冠や袍を持って帰った。王公が急いで出てきたときは、王なにがしはとうに帰ったあと だったが、 事の次第を聞いて、驚きのあまり真っ青になって、わっと泣き声をあげ、 わざわい 「あれは禍のもとだ。わが一門は近々のうちに皆殺しとなるだろう」 と言うと、夫人とともに棍棒を持って離れへ行った。小翠は前もってそれを知っていて、固 く扉を閉ざし、王公たちの罵るにまかせていたが、怒った王公が斧で扉を叩き壊そうとすると、 中から「ほほほ」とい、つ笑い亠とともに、 とう 「お舅さま、お待ち下さいませ。わたくしがおります限り、どのような刑罰もすべてわたくし か引き受け、ご両親さまには決してご迷惑をおかけしません。いまお舅さまがわたくしを殺し てしまわれようとするのは、ご一門の破滅を招くものでございますよ」
会牡丹の姉妹ーー葛巾 じようたいよう ばたん 常大用は洛陽の人である。無類の牡丹好きで、かねがね曹州府 ( 山東省荷沢県 ) の牡丹は山東 第一と聞き伝え、折があったら行ってみたいものと思っていた。たまたま用ができて曹州に出 かけたので、同地の物持ちの屋敷の離れを借りて住んだ。おりから二月のこととて、牡丹の花 か開くにはまだ間があった。やむなく庭をぶらぶらしながら若い蕾を眺め、それが開いたとき のことを思いながら、牡丹を偲ぶ絶句百首を作った。そのうち、蕾もようやくふくらんできた が、旅費が底をついてきたので、春着を質に入れ、帰ることも忘れていつづけていた。 ある日の朝早く、花を見に行くと、ひとりの娘が老女を従えて立っているのを見かけた。家 妹主の家族だろうと思ったので、急いでその場から引き返した。夕方、また出掛けたところ、ま 姉 のたいたので、そっと物陰に隠れて覗いてみると、宮女もかくやの衣装をまとい、その艶やかな ことはこれまで見たこともないほどだった。茫然としてしまったが、ふと思った。 「これは仙人だ、この世にこんな美しい人がいるはずがないー そこで急いで取って返し、その姿を求めて小走りに築山を回って行くと、老女に出会った。 361 かっきん
102 と一一一口、つと、秋月は、 「これも運命です。わたくしはこの月が過ぎれば生き返ることができることになっていたので すが、こうなったからは待ってはいられません。さっそくわたくしを掘り出して連れ帰り、毎 日わたくしの名を呼んで下さい。三日すれば生き返ることができます。ただ日数が足りないの で、骨は柔らかく足は弱く、あなたのお食事のお世話などはできないのです」 と嘆息し、急いで出て行きかけて、また引き返してきた。 「冥土の追手のことを忘れていました。生きていたとき、わたくしは父から、三十年後夫婦で 身につけているようと言われて、呪文を教わっていたのです」 と、筆をもとめて二枚の護符を書いた。 「 ' 一枚はあなたが身につけ、一枚はわたくしの背に貼り付けてください」 秋月を送って出、彼女の姿が消えたところにしるしを着けておいて、一尺ばかり掘り下げる と、朽ち果てた棺が出てきた。傍らに小さな石碑があって、秋月の言ったとおりの文言が刻ま れていた。棺を開いてみると、秋月の顔は生けるがごとくであった。抱きかかえて部屋に運ぶ あいだに着ている物は灰になって消えていた。背に護符を貼り付け、布団でしつかりくるんで Ⅱ岸まで背負って行くと、岸に舟をもやっていた船頭を呼び、妹が急病にかかったので急いで 家に連れ帰るのだと言いつくろった。
422 「いえ、結構です。あの人もそれほどしつこくする訳でもありませんから。それより、この場 を借りて風流なお方と忍び逢いを重ねるというのも、また乙なことではありませんこと」 「あの赤い衣を着ていたのは」 こうせつ 「絳雪さんですわ。姉です」 二人、床をともにし、目が覚めたときはもう空が明るくなっていた。香玉は急いで起きだし、 「夢中になっていて夜が明けたのも気がっきませんでしたわ」 と言いながら、身づくろえをすませた。そして、 「お返しに一首できました。お笑いにならないでくださいましね」 と一首吟じた。 良夜更に尽き易く、 ちょうとん 朝暾已に窓に上る。 願わくは梁上の燕の如く、 棲む処自すから双を成さんことを。 ( 楽しみの夜明けやすく、日差し早くも窓に差す。 なれるものなら燕となって、梁上の巣でつがっていたい )