254 と頼むと、そのまま立ち去り、ついに二度と現れなかった。 ( 巻八の二十八 ) (l) 監生ここでの原文は例監。監生は明・清代の国子監生の総称。正規の生員を貢監 ( 生 ) と呼んだの に対し、官僚の子弟の資格で生員待遇を受ける者を蔭監、規定の上納金を納めて生員待遇を受ける者 を例監と呼び、かならずしも国子監には属させなかった。
(ll) 撲満陶器の貯金壺。銭を人れるロだけあって取り出し口がないので、満杯になると撲き割って銭 を取り出す。 ( 三 ) 銀台通政使の別称。上奏文や弾劾文の収受を司る官署の長官。 ( 四 ) 提学使学政ともいう。清代の提督学政の略称。一省の童試 ( 科挙受験資格者を選抜する試験。合 格者は生員、通称秀才 ) 、生員に対する歳試 ( 生員の学習状況を審査する試験。成績不良の者は生員資 格を剥奪される ) ・科試 ( 郷試のための予備試験 ) を主宰する。 たた
ちょうこうぜん 七五賢妻と狐妻ーー張鴻漸 えいへい 張鴻漸は永平府 ( 河北省盧竜県 ) の人である。十八歳ですでに名を郡内で知られていた。時の ろりよう ちょう はん 盧竜の知県趙なにがしは貪欲・横暴をきわめ、県民の悩みの種になっていた。范という生員が じゅんぶ 杖罪で打ち殺される事件があり、義憤に駆られた同期及第の生員たちが話し合って巡撫に直訴 することにし、張に訴状を起草してもらおうと、仲間入りを誘った。張はそれを承知した。妻 の方氏は美しく、そのうえ賢かったので、その企てを聞いて、張を諫めた。 「生員の皆さまのなさることは得てして、うまく行けばいいのですが、失敗したときは酷いこ とになるものです。たとえうまく行ったところで、その時はてんでに功績を独り占めしたがる 妻し、失敗すればとたんに散り散りになってしまいます。今は長い物には巻かれろの世の中で、 狐 レ」 理屈が通る世の中ではありません。あなたには後ろ盾になる方もいらっしやらないのに、万一、 賢 事がうまく運ばなかったら、一体誰がカになってくれるのですか」 張はそれもそうだと、承知したことを後海し、友人たちに婉曲に断って、文案を作るだけで 勘弁してもらった。巡撫は当事者双方を呼んで審問したが、なかなか判決を下さなかった。趙 265
六七月下老人 しゅう りゅう 生員の周なにがしは順天府に出仕していた者の子孫で、生員の柳なにがしと親しかった。柳 そうじゅっ は異人から伝授された相術 ( 人相占い ) に通じていて、あるとき、 「あなたは官界での前途には縁がありませんが、巨万の富には人の縁で恵まれています。ただ、 奥方は薄命の相なので、それまであなたのお手伝いをするわけにはいかんでしよう」 と言ったものだったが、それから間もなく、はたして妻が死んだ。家じゅう火が消えたよう になり、寂しさに耐えかねて柳を訪ねた。良縁を占ってもらおうとしたのである。客間で長い 間待たされた。柳は奧に引っ込んだきり、いつまで待っても出てこない。再三声を掛けたとこ ろ、ようやく出てきた。そして言、つのに、 人 老「ここのところ、毎日、あなたのために似合いの人を捜していたのですが、今し方やっと見つ 月けることができました。それで、今も奧でちょっと法術を使って月下老人に赤い紐をつなげて もら、つよう頼んできたところです」 とのことだったので、喜んでその相手というのを聞くと、 183 りゆ・つせい
いがった。妻の和氏は子供ができなかったので、いつも漢産に会いたがっていた。魚客がこの ことを竹青に話すと、竹青は旅支度をさせ、三カ月の期限を切って父親に従って帰らせた。帰 ると、和氏はわが子以上にかわいがり、十月あまりしても帰そうとしなかった。するとある日、 漢産は急病にかかって死んだ。和氏は死なんばかりに嘆き悲しんだ。魚客はこれを知らせるた めに漢水へ出掛けたが、家にはいると漢産が靴下もはかずに寝台に寝ていたので、喜んで尋ね ると、 「あなたはいつまでも約束を守ってくださらないし、わたくしはこの子がかわいいので、呼び 戻したのです」 とのことだったので、和氏がかわいがっていることを話すと、 「下の子ができたら、漢産をお返しします」 かんせい ぎよくは、 と言った。また一年余りして竹青は男女の双子を生んだ。男を漢生、女を玉珮と名づけた。 魚客はそこで漢産を連れて帰ったが、年に三、四回も行き来するのは面倒なので、家を漢陽 妻 のに移した。 漢 漢産は十一一歳で府学の生員になった。竹青はこの世にはよい娘かいないからと漢産をともな しじよう って帰り、嫁を娶ってやってから、二人を送り返してきた。嫁の名は巵娘といし やはり神女 の子だった。後に和氏が死ぬと、漢生と玉珮が弔問にきた。葬儀が終わると漢生はそのまま残 417 か
66 仙女 行ったまま帰っていない、とのこと。訳が分からぬまま、嘆息するばかりだった。 孟仙の文名はすこぶる高かったが、試験運が悪く、四十になっても及第できなかった。後、 じゅんてん 抜貢生の資格を得て順天府 ( 北京 ) での郷試に参加した。同じ号舎 ( 受験棟 ) に十七、八の爽やかな りんせい 風采の青年がいて親しくなったが、その答案用紙に順天の廩生 ( 給費生員 ) 霍仲仙とあったので、 仰天して自ら名乗った。仲仙も驚いて出身地や本籍を尋ねてきたので、孟仙が詳しく話すと、 「わたしは今回上京するとき、父から試験場で山西の霍という人がいたら、一族だから仲良く するようと言われてきましたが、その通りになりました。それにしても名前まで同じとは」 孟仙がそこで先祖から祖父・両親の姓名を尋ねてみて、 「それではわたしの両親だ」 と驚くと、仲仙がそれにしては年令が違いすぎるのではと首をひねったので、 「わたしの両親は仙人なのだ。見たところだけで年を決めることはできないよ」 と言って、以前あったことを話すと、仲仙もはじめて信じた。 試験が済むと、休む間もなく、一一人一緒に車を雇って仲仙の家に帰ったが、家に着くと、下 僕が迎えに出て、昨夜から大旦那さまと大奥さまのお姿が見えなくなりましたとのことで、大 いに驚いた。仲仙か奥に入って妻に聞くと、 かあ 「昨夜はご一緒にお酒をいただいたのですが、お姑さまが、『あなたたち夫婦はまだ若くて世
よちだいおう 六五すつほん大王ーー癶大王 りんと・つ 臨溌 ( 甘蕭省 ) の生員馮なにがしは、貴族の末裔だったが、今は落ちぶれていた。すつほんを 捕るのを業としている男に金を貸してあったが、男は金を返せないので、すつほんが捕れるた びに持ってきた。 ある日も大きなすつほんを届けてきたが、額に白い点があったので、不思議に思って放して やった。 こうが 後日、婿の家を訪ねての帰り恒河のほとりを歩いていると、一人の酔漢に出会った。二、三 の供を連れて千鳥足で歩いてきたが、馮を見かけて声をかけてきた。 大「貴様、何者だ」 ん ほ「通りがかりの者だ」 す何気なく答えて通り過ぎようとすると、酔漢が怒鳴った。 「貴様、名がないのか。通りがかりの者とは失礼だぞ」 馮は先を急いでいたので、相手にならずに行き過ぎようとした。酔漢はますます怒り、行か 159
七三金持ち狐ーーー醜狐 生員の穆は長沙の人である。貧しくて冬の綿入れもなかった。ある日の暮れ方、つくねんと 坐っていると、ひとりの女がはいってきた。目もあやな服を着ていたが、顔の方は色黒で醜か った。 「寒そうですわね」 と笑いかけられ、驚いて、誰かときくと、 「わたしは狐仙 ( 仙籍に入った狐 ) です。あなたが寂しそうなので、一緒に冷たい寝台を温めて差 し上げようと思ってきたのですよ」 とのこと、取り付かれたら大変と思うと同時に、「いくら何でもこんなぶすでは」と思った げんほう ちので、大声をあげた。すると、女は元宝 ( 五十両相当の銀塊 ) を机上に置いた。 金「仲良くしてくれたら、これを差し上げてよ」 穆は喜んで言うことを聞くことにしたが、布団もなかったので、女は自分の長上着を掛けて 済ませた。夜が明けると、起きて、 しゅ・つこ
281 てんきゅう 七六天上の宮ーーー天宮 かく 生員の郭なにがしは、都の人である。年は二十あまりの美丈夫だった。ある日の暮れ方、一 人の老婆が一甕の酒を届けてきた。こんなものを貰ういわれはないと一言うと、 「ほほ、そんなことはどうでもよろしいではございませんか。黙ってお召し上がりになれば、 よいことかごさいますから」 と言って行ってしまった。とにかく匂いをかいでみようかと甕の蓋をあけたとたん、よい香 りがばっとあたりに広がった。これはと、飲んでみたところ、たちまち酔いがまわって、その まま何もわからなくなった。 気がつくと、誰かが枕を並べて寝ているので、そっと撫でてみると、しっとりとしたなめら のかな肌で、えも言われぬ香りを漂わせた、間違いようもない女であった。「誰」と、尋ねたが、 天 答えがない。無言のまま、交わった。済んでから、部屋の壁を撫でてみると、すべて石で、じ っとりと冷たい空気は、まるで墓穴のなかのようである。 ぞっとして、幽鬼に取り付かれたのではないかと思った。
りよ / 、いじよ 六一緑衣の人ーー・緑衣女 しようそうえきと れいせん 于璟、字は小宋、益都県 ( 山東省 ) の生員である。醴泉寺に一室を借りて受験勉強をしていた が、ある夜も書物をひろげて音読していると、窓の外で、 「于さま、お勉強ですこと」 という女の声がした。こんな山深いところに女がいるはずがないのにと、屋訝に田 5 っている ところへ、一人の女が扉を排して笑いながら入ってきた。 「お勉強ですわね」 驚いて席を立ち、まじまじと見てみれば、足もとまでの長い緑の衣をまとった、この世に二 人とないような美人だった。 人 の この世のものではないと思ったので、住まいはどこかと厳しく問い詰めたが、 衣 緑「わたくしがあなたを取って食うような者ではないことはご存じのくせに、そんな意地悪はお やめになって」 と言われて、憎からず思い、寝台に誘った。下に着た物をとると、その腰は左右の掌で囲ん 105 う け