ら出た。見回せば、荒涼とした古墳である。仰天すると同時に、この古墳のなかの人々の恩義 を有り難く思ったので、もらった黄金を出して新たに盛り土をし、木を植えてから立ち去った。 翌年、またそこを通りかかり、墓前に諞でてから行きかけたところ、はるかに施老人を見か けた。老人はにこやかに時候の挨拶をし、熱心に誘った。幽鬼とは承知していたが、夫人の様 子も聞いてみたかったので、ついに一緒に村に入り、酒屋で酒を酌み交わすうちに日が暮れて きた。老人が立って酒代を払った。 「屋敷は近所ですし、妹もちょうど里帰りしているので、ぜひお立ち寄り下され。わたしの厄 払いもお願いしたいので」 しばらく行くと、集落に入った。門を開かせて入り、灯りをはさんで向かいあった。そこへ、 蒋夫人がはいってきた。面と向かって見るのは始めてだったが、四十ばかりの美人だった。一 礼して、 「落ちぶれて、祭る者もいなくなった家の枯れ朽ちた骨にまでお心を掛けていただいたご恩に は、お礼のしようもございません」 と言うと、はらはらと落涙した。そのあと愛奴を呼んで、 「これはわたくしが可愛がっている娘ですが、差し上げますので、お出先でのお話し相手にな さってくださいませ。お入り用の物がある時は、この娘が言われなくても承知しているはずで
62 悍婦 121 止められたが、そのうち薬の効き目が薄れてくると、元の木阿弥、茫然自失のありさまにもど ったので、馬は、 「しつかりしなさい。夫の権利を取り戻すのは、今をおいてありませんぞ。そもそも、人が何 かを恐れるのは一朝一タに始まるものではなく、長い積み重なりのうえにできあがるもの。今 のあなたはいったん死んだうえで生き返ったようなもの、これを機に生まれ変わって気分を一 新すべきです。もしまた今までのようにうじうじしていたら、一一度と立ち直ることはできませ んよ」 と言い聞かせて、様子を探りに行かせたところ、尹氏はわなわなと震え、小間使に助けられ ながら膝行して万石の前に謝りに出ようとし、万石に「もうよい」と言われてようやくやめた。 ーとま 万石は出てきてこれを馬に話し、父親と手を取り合って喜んだ。これを見て馬が暇を告げたの で、万石父子はこもごも引き留めたが、馬は言った。 「わたしは東海へ行く途中、ちょっと立ち寄ったのです。帰りにまたお会いできるでしよう」 尹氏はそれから一月あまりして起きられるようになり、客に仕えるようにまめまめしく夫に 仕えたが、しばらくするうち万石が旧態依然であることに気が付き、次第に馬鹿にして罵るよ 、つになり、間もなくすっかり元通りになってしまった。 老父は耐えきれずに夜逃げして河南へおもむき、道士になったが、万石は後を追おうとはし
254 と頼むと、そのまま立ち去り、ついに二度と現れなかった。 ( 巻八の二十八 ) (l) 監生ここでの原文は例監。監生は明・清代の国子監生の総称。正規の生員を貢監 ( 生 ) と呼んだの に対し、官僚の子弟の資格で生員待遇を受ける者を蔭監、規定の上納金を納めて生員待遇を受ける者 を例監と呼び、かならずしも国子監には属させなかった。
88 竜宮の恋 409 ば、骨の節々をつなげ新しい肌をつけることもできたのですが、今となって手遅れですわ」 阿端が夜光珠を売りに出すと、ベルシャの商人が百万金を出したので、家はにわかに豊かに なった。老母の誕生日には夫婦が歌い舞って母親に祝いの酒を献じたが、このことが淮王府に 聞こえたので、王は晩霞を取り上げようとした。阿端は恐れてみずから王の御前へ出頭し、 「わたくしどもは二人とも幽鬼なのでございます」 と申し出た。王は確かめてみて影が映らなかったので、阿端の言を信じて晩霞を取り上げる ことを諦めた。ただ、晩霞に別院で宮女たちにその技芸を伝授するよう命じた。晩霞は亀の尿 で顔を膿みくずしてから王に謁見し、三月すると、その技のすべてを伝えることなく立ち去っ , 」 0 ( 巻十一の八 )
と床から出て立ち去った。 翌日もまたやってきて、向かい合って坐り、冗談を言いあったりしたが、そのありさまはま るで年来の夫婦同士のようであった。明かりを消して床にはいると、生きている人と変わらな かったが、起きたあとの布団には、その迹がくつきりと残り、滲みこんでいた。 ある夜、冴えわたる月の光の下で庭を歩きながら、聞いてみた。 「あの世にも町があるのかい」 「同じです。あの世の町はここにではなく、三、四里離れたところにあります。違うところと 言えば、この世の夜を昼としていることだけです」 「生きている者でも見ることができるかな」 「できます」 とのことで、王が行ってみたいというと、秋月は承知した。二人は月明かりの中を出掛けた が、秋月の足は風のように速く、追いついて行くのがやっとだった。たちまち一つの場所に着 「もうすぐですよ」 と言われ、見回したが何も見えない。すると秋月が唾を両方の瞼に塗ってくれた。目を開く と、日頃の倍も明るく見え、夜も白昼と変わらなかった。霞のなかに城壁が現れ、まるで市の
十一娘は承知して、ともに部屋に帰り、寝台に上がって思いのたけを語り合った。 病も次第によくなり、姉妹の誓いを固め、着る物履く物もたがいに交換して着たり履いたり とばり した。人が来ると、二重の帷のあいだに隠れるなどしていたが、五、六カ月もするうち、両親 の知るところとなり、ある日、一一人が碁を囲んでいるところに夫人が踏み込んだ。よくよく見 て、 「これこそ娘のお友達ですー と驚き、十一娘に言った。 「あなたによいお友達ができることは、わたしたち大歓迎ですよ。どうして早く言ってくれな かったのです」 十一娘がそこで三娘の気持ちを伝えると、夫人は三娘を見て言った。 「娘のお友達になってくださるとは、本当に有り難いことです。ご遠慮には及びませんのよ」 三娘は頬を染めて、帯をいじっているばかりだった。夫人が立ち去ると、帰ると言い出した が、十一娘に強く引き留められて、思いとどまった。 ある日の暮れ方、外から走り込んできて、泣き泣き言った。 「早く帰らなければと言っていましたが、とうとうとんでもない目に遭ってしまいました」 驚いてどうしたのかと聞くと、
178 男は驚いて席を立ち、霍桓の手を取って挨拶し、 「よいところに来られた。しばらく逗留なさるかよい」 霍桓が母親が待っているので、長くはいられないと言うと、 「それは分かっております。しかし、四、五日くらいはかまわんでしよう」 父親は酒肴を出してすすめるとともに、小間使に命じて西棟に寝所を用意させた。 寝所に引き取った霍桓は、青娥を引き留めて夜をともにしようとしたが、言下にはねつけら れた。 「いけません、ここをどこだとお思いです」 それでも手を離さすにいると、窓の外で小間使の笑い声がした。青娥はますます恥ずかしが り、押し問答になったとき、父親が入ってきた。 「俗物め、わが仙界を汚しおって。出て失せろ」 霍桓は生来負けず嫌いだったので、このように辱められては黙っていられず、満面に怒気を あらわして、 「男女の情は誰しも免れぬところ、お指図はご無用です。立ち去れと言われるならすぐにも出 て行きますが、お宅のお嬢さまにも一緒に行ってもらいます」 父親は無言のまま、手真似で青娥について行かせ、裏口まで霍を見送ったが、霍が一歩外に
肥だ。どうも反対のようなので、 「こちらはお名前もお家も世間に通ったお方で、お嬢さまにわるさをした訳でもありません。 いっそ黙ってお帰しし、もう一度仲人を立てて申し入れてもらったらいかがでしよう。奥さま には夜が明けてから、泥棒騒ぎがあったとご報告しておけばよろしいのではございませんか」 と言ってみたが、青娥がなお黙っているので、霍桓に早く立ち去るよう促すと、 「鑿を返して」 と言ったので、 「まあまあ、この期に及んでも刃物を忘れないとは」 と笑った。 かんざし 霍桓は枕元に鳳凰の釵があるのを見て、そっと袖の中に忍ばせた。小間使がそれを見て青娥 に一一口いつけたか、 青娥は何も言わず、怒りもしなかった。一人の老女が、霍桓の頷をほんと叩 「子供だからと馬鹿にはできませんわ。なかなかちゃっかりしていらっしやるのだから」 と、手を引いて元の穴から出してやった。 家に帰っても、母親に本当のことを話すことはできなかったが、もう一度申し込んでくれと 頼んだ。母親はあからさまに駄目だとも言えずに、あちこちの仲人に頼んでよそに良縁を探し
まもなく娘は立って石階をおりた。腰元が、 「公主さま、今日はお疲れですが、鞦韆にお乗りになりますか」 もすそ と言うと、公主が笑って乗ると言ったので、肩を貸すやら、腕を支えるやら、裳をかかげる やら、靴を持つやらで、鞦韆に助けあげた。公主は雪のような腕を伸ばし、尖った靴を踏みし め、燕のように軽やかに、空高く舞い上がった。ひとしきりして終わると、みなで公主を助け 下ろし、口々に、 「公主さまはほんとうに天女さまですわ」 と言い、賑やかに談笑しながら立ち去った。 陳はうっとりと眺めてしたが、 、 ' 人声がすっかり聞こえなくなってから、鞦韆の下に出て行っ て美しい面影を思い出しながら歩きまわるうち、生け垣のしたに赤い絹の手拭きが落ちている のを見つけた。 腰元たちの落とし物だと喜んで袖に収め、四阿に登ってみると机のうえに文具が置いてあっ たので、さっきの絹に一首書きつけた。 雅戯何人か半仙に擬う、 けいじよきんれん 分明なり瓊女金蓮を散ず。 なぞら
268 老女から「実はこれこれしかじか」と聞かされて、 「女だけの家に、どうしてそんな身元も知れない人間をいれたのです」 と眉をしかめ、 「その人はどこにいるのです」 と言った。これは大変なことになったと、這い出して階下にひれ伏し、聞かれるままに氏素 性を名乗ると、ようやく怒気を解いて、 「学問をなさるお方と分かってほっとしましたわ。 ) 」遠慮なくお泊まりくださいませ。この人 ったらわたしに黙って、こんな失礼なことをするなんて、本当に申し訳ないことをいたしまし と言うと、老女に命じて室内に案内させた。間もなく酒や肴が並べられたが、いずれもなか なか凝ったものだった。その間に美しい褥が用意された。有り難いことと思ったので、そっと 姓名を尋ねてみると、老女が言った。 「当家は施家と申しまして、旦那さまと奥さまはすでに他界され、三人のお嬢さまがたが暮し ていらっしやるのです。さきほどご覧になったのは、一番上のお嬢さまの舜華さまでございま なんかけい 老女が立ち去ったあと、机の上に『南華経註』 ( 『荘子』の注釈書 ) が置いてあるのを見て、枕元 しゅんか